おかげさまで山本イツキは今日も執筆できてます。
物語もクライマックスへ。
必見です。
真島と接触した翌日。
今回ばかりは観念して定期検診に行った千束だったが、担当した看護師が敵の回し者だったらしく、彼女の唯一無二の人工心臓を破壊してしまった。
余命残り二ヶ月。
それが千束に残されたわずかな時間だ。
死が間近に迫っているにも関わらず、彼女はいつも通りに振る舞い店を盛り立てている。
そんな最中、千束と春陽はDAから呼び出しを受けそれぞれの上官の待つ部屋へと向かった。
二人の上官、楠木と虎杖は隣同士で座り、二人もまた対面に二人して腰を下ろす。
「時期死ぬにしては元気そうだな。千束」
無表情で、淡々と楠木は言葉をかける。
「流石情報が早いですねぇ」
「それで、ボクたちに一体何のようなんですか?」
「端的に言う。お前たち二人にはDAに戻って、真島討伐作戦に参加してもらいたい」
「ゴホッ、ゴホッ!もう死ぬんで勘弁してください〜」
わざとらしく咳き込む千束に対し、春陽は眉間に皺を寄せながらも冷静に返す。
「ボクもお断りします。それに、千束ちゃんを招集するなんて考えられません。彼女の容体をわかってるんですよね?」
「無論だ。医師の診断も踏まえてこちらで判断した」
「身勝手なことを……………!」
「はーるひ、気にしないで」
千束の代わりに怒る春陽を彼女は頭を撫でて宥める。
「私は戻る気なんてないよ。戻ったところでやりたいこともないしね〜。でも、春陽は戻してあげて」
「なっ!?」
「ほう」
千束の唐突な提案に三者三様の反応を見せる。
「理由を訊かせてもらうか」
「もうミズキや先生には話したんだけど、リコリコは閉店するつもり。だから、春陽の為にも居場所が必要なわけ」
「千束ちゃん!それはあまりにも唐突すぎると思うんだけど!?」
「真島は本当に危険。討伐作戦で何人ものリコリスやリリベルが犠牲になるのかわからない。だから、春陽が守ってあげて欲しいの」
「千束ちゃん………………」
上官二人からしたら願ってもない展開。
春陽の心境は揺れ動いていた。
「……………わかった」
「私の身勝手に付き合わせちゃってごめんね」
「気にしないで」
「決まりだな」
「では改めて作戦の内容を─────」
「その前に、ボクからいくつか話しておきたいことがあります」
虎杖の言葉を遮り、春陽がその場の主導権を握る。
「司令。以前あなたが言っていたことを覚えていますか?」
「キミの願いを二つ叶えるということかね?」
「その通りです。破棄するとは言いましたが、その権利を今ここで使っても構いませんね?
「ああ。何なりと言いたまえ」
「一つ、千束ちゃんはこの作戦に参加させないこと。そしてもう一つは─────たきなちゃんも本部に復帰させること」
「ほう」
「アイツをか?」
たきなの名前が出たことで、意外だ、とでも言わんばかりの反応を見せる二人。
「彼女は誰よりも本部への復帰を望んでる。射撃の腕に関してはファーストクラスでもトップレベルだと思いますし、決して見劣りはしません。店が閉店するのであれば、彼女の能力を活かせる場所を作ってあげたい」
たきなは不当な理由で本部から追い出された過去がある。
復帰が認められて当然だろう。
「……………わかった。井ノ上 たきなのことは私に任せてもらう」
「よろしくね。楠木さん」
話す前に手渡されたカメラを手に、千束は部屋を出る。
それに続き春陽も部屋を出た。
「それにしても、すごい展開になってきたよね〜」
「…………………」
「春陽?」
「……………えっ?」
「どしたの?そんな思い詰めたような顔して」
「大丈夫、何でもないよ。それより、体の調子はどう?」
「余裕よ!よ・ゆ・う!トライアスロンだってへっちゃらよ!」
「あはは」
千束の元気な様子を見て一安心する春陽。
その一方で、安寧の地から離れることへの不安や寂しさと言った負の感情が春陽を襲う。
店が閉店するということは、もうリコリコのみんなとは会えなくなるということ。
また、ひとりぼっちの生活に逆戻りだ。
「まだもう少しみんなと一緒にいられるんだから、楽しも?ねっ?」
どこまでも前向きな千束は、春陽の背中をバンバンと叩き励ます。
「そうだね。ありがと、千束ちゃん」
「いいってことよ!」
二人揃ってみんなの待つ喫茶リコリコに帰還する。
……………………
…………
外はどんよりとした曇り空。
今にも雨が降ってきそうな鼠色の分厚い雲が東京を、いや、日本中を覆う。
その天候と同じく、今日オープンして5時間ほど過ぎた喫茶リコリコは久方ぶりの来店数ゼロを記録していた。
二人ほど本部から店に訪れたが、たきなの人事異動に関する書類を渡すだけですぐに帰ってしまった。
いつもは店のピークと重なる時間帯だが、今この場には春陽とクルミしかいない。
特に示し合わせるようなことはせず、隣同士で腰を下ろし互いに別に視線を向けたまま会話が始まる。
「春陽はよかったのか?DAに戻ることになって」
「それが千束ちゃんの願いですから」
「はぁ、今は周りに誰もいないぞ。正直になれ」
春陽を思ってのその一言。
しんと静まった部屋で、胸の内に秘めた思いを告げる。
「………………やっぱり、寂しいですね」
千束やたきな、ミカやミズキの前ではいつも和かな笑顔を浮かべ話す春陽だが、クルミに対しては異なる。
どこか話しやすく、大人っぽい独特の雰囲気をかもちだす彼女だからこそ心を開いたのだろう。
理由はそれだけではないのだろうが。
「結局のところ、ボクの根本はリリベル。DAのエージェントですから」
「変に律儀だな。嫌いなんだろ?DAが」
「まあ、そうですね。でも、あそこだからこそできる仕事もあるんです」
「人殺しか」
「流石、正解です」
世の中には、いい人間もいれば悪い人間もいる。
後者を秘密裏に消し去り、排除することが許されるリリベルは春陽にとってはうってつけ。
大切なリコリコのみんなを守るためには、自らの手を汚してでも闇を削除しなければならない時が必ずくる。
殺人が許可されているリリベルを辞めるわけにはいかない。
「私たちは春陽や千束、たきなに守られなければならないほど貧弱か?」
「今後、真島のような危険な犯罪者が大勢現れたら命の保障はできません。だからこそ皆さんには平和で安全なところにいてほしいんです」
敵は殺されることなんてお構いなしに暴れ回る。
そんな連中に、自分の知らないところでまた大切な人を失ってしまったらどうなるのか、春陽自身わからない。
失ってからでは手遅れだ。
自ら手の届くところで守り続けたいというのが春陽の考えである。
そんな中、クルミはずっと抱えていた思いを吐露する。
「春陽にとって私たちは─────
俯き、霞むような声で発したその言葉に春陽は真っ向から否定する。
「そんなこと………………!!」
「春陽はこれまで何度も私たちを助けてくれた。感謝してもしきれない恩がある。だがな、私たちも守られてばかりではいられないんだ。春陽の負担になんて、なりたくない」
「誤解してますよ……………負担だなんて、そんなこと一度も思ったことはありません!!」
涙ながら力強く語る春陽。
「………………やはりお前はいい奴だな」
小さく笑みを浮かべ、隣に座る春陽の頭を優しく撫でる。
母性あふれるその姿は、死んだ詩音を彷彿とさせる。
普段は身長差のある二人だが、今この瞬間は二人に差など決して存在しない。
「辛い時は辛いってちゃんと口にしろ。二人だけの時は、わたしが全部受け止めてやる」
「………………すみません」
春陽は頭をクルミの肩に預ける。
彼女も嫌がる素振りなどは一切見せず、クルミのそばでポロポロと涙を流す春陽。
それからは互いに口を開くこともなく、時間だけが過ぎていった。
ただ一定のリズムでそっと頭を撫でること。
春陽にとってそれはこれ以上ない癒しの時間となった。
それからしばらくして本格的に雨が降り始め、もうお客は来ないと判断したミカは店を早々に閉めた。
店には千束以外の従業員が集まり今後の相談を行う。
内容はもちろん、千束の今後についてだ。
「アラン機関、吉松シンジ──────彼らに関する情報は僕を持ってしても掴めなかった。あの人工心臓をもう一度手に入れれば理想なんだが……………」
「あると思いますか?」
「間違いなくある。断言していいだろう」
「奪い取るしか方法はないんですね」
そうなると、吉松及びアラン機関との全面戦争は避けられない。
今後のことを考えると得策とは言えないだろう。
「けど、なんで千束を狙うの?せっかく支援したのに無駄になるだけじゃない」
「使命を果たさないから、処分する気なんだろう」
「それならあの看護師が殺してるはずです」
「千束ちゃんをあえて生かし、人工心臓だけを破壊したもの合点がいきますね」
「あの日武器を受け取った真島とも繋がっている可能性が高い。動きが派手な奴を追えば自ずと吉松に辿り着けるだろう」
「ボクと」
「私が」
「「作戦に参加します!!」」
二人して目を合わせる。
千束がこれからも生きられるようにするためだ。
断る理由なんて微塵もない。
「千束のためだ。僕も裏からサポートする」
「私も協力するわよ」
「もちろん俺もだ」
全員の思いは一つ。
千束を助けること、ただそれだけだ。
今回は原作だと9話あたりです。
ここから二人はDAへ戻り真島討伐作戦に参加します。