永遠に続けばなぁと思ってしまう今日この頃なのでした。
「─────そうですか。わかりました」
ガチャっと、固定電話を切る褐色肌の男性、ミカの周りには従業員たちが熱い視線を送っていた。
「先生先生!もしかしてもしかすると…………?」
「ああ。新しい子がうちに来る」
「やったあぁぁぁ!」
ミカのその言葉に自称リコリコ看板娘の錦木 千束が短い髪を上下に揺らし大はしゃぎする。
「この時期に転属とは珍しいですね」
「あー、たきなは春に来たもんね〜」
「梅雨に入ったこのタイミングで転属とは、一体どんな人が来るんですかね」
千束とは対照的に落ち着いた反応を見せるのはつい最近DAからここへ転属になった井ノ上 たきなだ。
「問題を起こしたからうちに来たって決めつけるのはやめたらどうだ?たきなじゃあるまいし……………いてっ」
見た目の幼さとは裏腹に大人な喋り方をするのはクルミ。
そのクルミに対して、たきなは手にしていたオボンでクルミの頭を叩いた。
「はははっ。でも、どうやら問題を起こしたのは事実らしい」
「やっぱり」
「それでそれで、どんな子がうちに来るの?」
千束は誰よりも前屈みになりミカに詰め寄る。
実際、たきながリコリコに来る時もこんな感じだったそう。
「残念だがお前が期待しているような子は来ない。何せ、その子はリコリスじゃないからな」
「じゃあ誰だっていうの」
「ふっ、男の子だ」
「なにっ男!?」
その単語にいち早く反応したのは今年27歳になる元DA情報部員の中原ミズキだ。
歳のせいか結婚を急いでいる節があり、なかなかそれが身を結ぶことはないアラサーまっしぐらの女だ。
「男と言ったがミズキに合う男じゃない。歳は17。千束と同じ歳の子だ」
「なーんだ」
「でもたきなに続いて同年代の子が来てくれるのは嬉しいなぁ♪」
「店長、その人は一体どこの所属だったんですか?情報部?それとも司令部?」
「……………
ミカのその言葉に全員が固まる。
千束は苦笑いし、たきなとクルミは頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、ミズキはつまらなさそうにしている。
「リリベルってなんですか?」
「超簡単にいうと、男の子版リコリス」
「ヘェ、DAはそんな組織もあるのか」
「と言っても、粗暴な子ではないらしいから安心してくれ」
「まっ、万が一変なのが来ても私が死なない程度に撃っちゃうからね〜」
「同感です」
「僕は二人に守ってもらおう。ミズキはババアだし、襲われないだろ………………ぐえっ」
「ババアちゃうわ!まだピチピチの20代ですっ!!てか、こんなガキンチョを襲うロリコンが来た時点で速攻クビにするわ」
「……………おっと、来たようだぞ」
全員が耳を澄ますと、バイクの排気音が外で鳴る音が聞こえやがて止まる。
扉の前に立つシルエットを見て、千束は息を呑む。
ガラッと扉を開け現れたのは細身の若い男の子だった。
「えっと、喫茶リコリコはここであってますか?」
年頃の男子にしては高めの声で、サファイアブルーの短髪が特徴的で目も丸みがあった。
メガネをかけたその姿はどこか女子っぽさをかもちだすその男の子は皆の視線を釘付けにした。
「えっと……………その………………」
おどおどと戸惑うその男の子こそ、今日からDAから配属となった篠原 春陽その人だった。
「よ、ようこそ〜〜!リコリコへ〜〜!」
開口一番、千束がポケットからクラッカーを取り出し1発放つ。
それに続いてたきなやクルミもクラッカーを鳴らし春陽を出迎えた。
「はじめまして」
「警戒して損したな」
「ふーん、可愛い子じゃん」
反応は人それぞれである。
「え、えーっと」
「君が篠原 春陽くんだね」
「そうです」
「よろしく。私がここの店長、ミカだ」
ミカは和かな表情で手を差し出す。
春陽はそれに応じる。
「お世話になります」
そう言い深々と頭を下げる。
「なーんだ、リリベルから来るっていうからもっとゴツいの想像しちゃった〜」
「そうなんですか?」
「いや、コイツが特殊なだけじゃないか?」
「甘く見たらダメよアンタたち。この年頃の男はね、皆オオカミさんなの。気を抜いたら、バクッといかれるわよ!!」
「あらまーお盛んなことで〜」
「一体なんのことやら」
「こらこら。変なことを教えるなミヅキ」
(歓迎されてる、のかな?)
春陽はそう疑問に思い首を傾げる。
「あの、ミカさん」
「なんだ」
「ボクはここで一体何をすれば?」
店長であるミカにそう尋ねたのだが、二人の間に割って入ったのは千束だった。
「私が説明しよう!春陽って呼んでいいかな?あっ、私は千束でOK!」
「構いませんよ。じゃあボクは千束ちゃんで」
「よろしい!ここ喫茶リコリコでは、お客さまに快適な時間を過ごしてもらうために、常にスマイルでいること!」
「なるほど」
「ここの仕事以外でもリコリスとして活動することもあるけど、それはその時にまた説明するね〜」
「つまり、基本的には喫茶店の仕事がメインだと?」
「その通り!春陽って料理は得意?」
「人並みにはできる…………と言っても口ではどうとでも言えますよね。キッチンをお借りしてもいいですか?」
「ああ。好きに使ってくれ」
店長の許可をもらい、カバンに入れていたエプロンを身につける調理台に立つ。
「それじゃあ千束ちゃん、ご要望は?」
「そうだな〜……………じゃあ、プリンでいってみようか!」
「かしこまりました」
オーダーをもらい、作れるかどうか冷蔵庫を見る。
卵、牛乳、砂糖……………などなど、ちゃんと材料は揃っている。
作れると確信した春陽はボウルやフライパンなどを手早く準備し始めた。
「千束はプリン作れるのか?」
「作れるかどうかよりも今私が食べたいもので決めました!」
「勝手だな」
「プリンって難しいんですか?」
「私も作ったことないからわかんない。でも、料理のできる男はモテるわよ」
「そこはどうだっていい」
女性陣がペラペラと話す間に、春陽は材料を全てボウルに入れかき混ぜはじめた。
その手際の良さは、さながら経験者のよう。
無駄のない動きの一つ一つに全員が驚きを隠せずにいた。
30分もすれば全員分が完成し、完成したプリンとスプーンを手渡す。
「お待たせしました。どうぞ召し上がれ」
春陽の勧めに従い全員一口食べる。
真っ先に反応を示したのは千束だった。
「美味しい〜♪」
そう言いながらもう一口食べ、頬を緩ます。
「うまっ!!」
「ホントだ、美味しい」
「やるなこの男」
「ああ。これなら厨房を任せられそうだ」
全員の笑顔を見て春陽は小さく笑った。
そんな中、彼にはある感情が芽生えていた。
それは、誰かに褒められて喜びを感じるというごく普通の気持ち。
誰もが感じるであろうその感情は、春陽にとってはとても新鮮なものだったのだ。
DAにいた頃は誰しもから罵倒される毎日で褒められることなんて一切なかった。
いつしかそれに慣れ、それが当たり前だと思っていた。
しかしそれは間違いだった。
誰かに褒められるというのは普通のことで、嬉しい感情。
彼は今心の中でそれを噛み締めている。
「皆さんに喜んでいただけて何よりです」
「よっしゃあ!春陽のリコリコ入店を祝して乾杯だー!」
千束を中心にした和やかな空気に春陽は自然と笑みが溢れた。
徐々に春陽の過去を明かしていきます。
戦闘シーンとかはまだ先かも。
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