残り数話となりましたが完結へ向けまた進みます。
「………………?」
詩音が放った銃弾は本来狙った位置からは大きく逸れ天井へとめり込んだ。
再度秋月の方を見ると、薙刀で身を守る姿が目に入り銃弾が弾かれたのだと認識した。
「すごい反射神経。まるで春陽みたい」
その技術に詩音も感心する。
「
スッと立ち上がり階段の下にいるかつての義姉を見る。
「久しぶり。詩音」
優しい顔つきが戻り春陽は秋月から強制的に体の支配権を奪い取ったのだ。
普段は春陽が譲るか、メガネを壊す、取られることがトリガーとなっていたのだが、自ら入れ替わったのは初めてのことだった。
春陽の中にいる秋月は未だ呆然とした様子で俯く。
「しばらく休んでなよ。ここはボクがなんとかする」
『………悪い』
彼を慰めるように宥め、再度詩音と向き合う春陽。
「は〜るひ〜♪」
階段をひとっ飛びで超え、ぎゅっと春陽に抱きつく詩音。
これまでの緊張感が漂う顔つきから一転、満面の笑みを浮かべている。
「ちょっ、詩音!?」
唐突の行動に春陽は驚く。
「元気にしてた?」
「う、うん。してたけど…………」
「前よりもっと筋肉ついたね。背も高くなってもうすっかり男の子になったね。私は嬉しいよ」
「ちょっと、やめてよ」
気恥ずかしいからか、無理にでも引き剥がそうとするが詩音の力はそれ以上で離れようとしない。
春陽は未だ、目の前にいるのが詩音なのか疑問を浮かべているのだ。
「ねえ詩音」
「なあに?」
「なんで、生きてること黙ってたの?」
「……………」
春陽を抱く力が弱くなり、パッと離れる詩音。
「向こうで、話そうか」
詩音に手を握られ階段を上がりしばらく歩くと周囲を大きなガラスが覆う展望台へと到着する。
「………私も、会いたかった」
パッと手を離しポツリポツリと経緯を話す。
「あの時、確かに私はテロリストに撃たれて死んだ。けど生かされた。アラン機関の人間にね」
「アラン機関に!?」
それはかつて二人が支援を受けた組織で、春陽を実験動物扱いしたことに怒りを覚えた詩音が逃げ出したところでもあった。
不本意という形ではあった、と詩音は話すが未だ春陽には疑問が残る。
「詩音が生きてくれていたのは嬉しい。でも、なんでDAに戻ったの?それも虎杖司令の元になんて……」
「戻らざるを得なかった感じかな。ほらっ、私に戻るところなんてないから」
「それでも………!!」
何故、自分にはそのことを伝えてくれなかったのか疑問に思う春陽。
「でも、もう関係ないよ。私はこうやって蘇って春陽と再会できたんだから。細かいことなんて気にしない気にしない♪」
「う、うん。そうだね」
未だ気持ちの整理はつかないが、詩音は生きている。
その事実さえあればいいと考えたが、それも全て詩音の行動でかき消されることとなる。
「じゃあ、邪魔者は全員殺すね」
「………え?」
詩音は和かな表情でそう告げてリコリス達の後を追おうと足を進める。
「ちょっ、ちょっと!!」
春陽はその行動の意図が汲み取れず腕を掴む。
「なに?」
「なにって、まさか………リコリスが邪魔者だとでもいうつもり!?」
「ええ。そうよ」
まるで、当然だと言わんばかりに言い切る。
「テロリストの襲撃を食い止めきれず、挙句の果てに世間にその姿を晒した。彼女たちはもう用済み。リコリスでは、平穏な世界を守ることはできない」
淡々と語る詩音に一切の感情はない。
全ては任務、と言わんばかりの言動はまるでロボットのようだ。
いや、本当にそうロボットなのかもしれない。
あの時彼女は確かに銃で撃たれ命を落とした故人。本来ならこの世にいない存在だ。
いまだに本人なのか信じ難い気持ちが春陽には宿っている。
しかし姿形や仕草、声質までもが当時の詩音そのもの。掴んだ腕は実際に人肌に触れているようで、コピーするにはあまりに
アラン機関ならあるいは………あらゆる考えが脳内で暴れ回り、目の前の現象を整理するにはこの状況下では到底できない。
「リコリスはこれまでかず多くの事件を解決し、防いできた。その実績も考慮せずに処分する気なの?」
春陽の言葉にうーんっ、と考えるそぶりを見せる詩音。
自身も元はリコリスだった身。
今までの苦労や経験が沢山あり返答に悩んでいるのだろう。
そう考えていたが詩音は即答する。
「うん。それでもダメ。やっぱり処分すべきだよ」
詩音の答えは変わらず。
何故かと問う前にさらに話を続ける。
「一つ。たった一つのミスが私たちの安全で幸せな暮らしを壊すきっかけになる。優秀なリコリスはいるんだろうけど関係ない。連帯責任、というやつね」
「虎杖司令の指示に従うの?」
「あの人も関係ないよ。これは私個人の意思。少なくともリリベルの方がマシと判断した結果彼らについてるだけ」
どうやら詩音の意思は堅いようだ。
このまま掴んだ腕を離せばすぐさま殺しに出向くだろう。
たきなやその他のリコリス、そして心臓に病を抱える千束でさえも…………。
今の春陽にとって生きがいとも言い切れる大切な仲間を、義理の姉に殺させるわけにはいかない。
掴んだ腕にギュッと力を込める。
「…………行かせない」
ポツリとそう告げる。
「千束ちゃんたちの元へは、行かせない!!」
相手がたとえ義理の姉だろうと。
自分が今最も大切だと思う存在を傷つけさせるわけにはいかない。
春陽は強い意志を持って詩音を目を見る。
「………そっか」
怒るかと思いきやどこか嬉しそうな表情を浮かべる詩音。
「反抗期かな。春陽が私に口ごたえするなんて、初めてだからお姉ちゃん嬉しいよ」
よかった。これでリコリスたちを助けることができた。
そう安心したのも束の間、詩音は掴まれた腕を強引に引き剥がし、春陽の手首を握る。
「それでもダメ。いくら春陽のお願いでもね」
「くっ………!」
まるで屈強な男に掴まれているような握力に苦痛し、眉間に皺を寄せる。
「悪い子にはお仕置きが必要だね」
詩音のパッチリとした瞳から光が消え春陽の手首を掴んでいるのとは逆の手をグッと握り春陽の頬に向けてストレートを放つ。
春陽はそれを一歩後ろに引いてかわし、背中を弓形にそらせ空中で1回転し詩音の顎を蹴り上げる。
ゴッ、という鈍い音をたて掴まれていた手は離され詩音の体が宙に舞う。
これでノックアウトかと思われたが詩音はクルクルと回り綺麗に着地する。
普通なら脳震盪を起こすであろう一撃であったが全く堪える様子を見せず詩音は笑って口を開いた。
「あの体勢からこれほどの蹴りができるなんてすごい!私じゃなかったら全員倒れてただろうね〜♪」
手放しに褒める彼女だが攻撃を繰り出した張本人からしたら煽られていると感じるが自然だろう。
ムッとした表情を浮かべ構える。
「次は私の番かな。いくよ───」
詩音はカバンの中から二丁のハンドガンを出し春陽に向けて跳弾を4回発砲するが手にしていた薙刀を振い二つの弾をぶった斬った。
「これも当たらないか〜。動体視力も反射神経もやっぱりすごいものを持ってるよね、春陽は」
「手加減するのはよしなよ。詩音ならもっと複雑で軌道すら読ませないほどのテクニックがあるはずだ」
事実、弾をかわすのは容易だった。
それは先ほど遭遇したリコリスと同じで放物線があまりに綺麗すぎるからだ。
この程度ならたきなちゃんでも余裕で回避できるだろう。
まるで殺す気のない行為に春陽は疑問を浮かべる。
「詩音!キミは一体何がしたいんだ!?そこまでしてリコリスを殺したいならボクをさっさと処分すべきだろう!?」
うちに秘めていた怒りをぶつける。
詩音ほどの腕前があれば今の春陽を一瞬で殺すことだって可能だ。
だが、彼女はそれをしない。
気持ちの悪い疑問が春陽の心を締め付けているのだ。
「春陽は殺さないよ。処分対象はリコリスだけ」
「それはボクが許さない!」
「司令は春陽も処分対象にしていたみたいだけど、私はそれを望まない。それを拒否してリコリスのみを殺すという条件の元、私はここにいる」
「………ボクからすればリリベルの方が信用ならない」
「知ってるよ。でも、リリベルは忠実に任務をこなしてる。今も尚テロリストによってばら撒かれた銃を回収しまわってるの」
「いずれ必ず問題は起きる」
「その時がくればリリベルも処分したらいい。あっ、もちろん春陽は別でね♪」
なんとも無茶苦茶な理論だ。
自分がいればそれでいいと言わんばかりの傲慢な考え。だがそれを否定することもできない。
その言葉が事実なのだから。
「だからお願い、春陽。私を止めないで」
「………それでもダメだ。ボクだって譲れないものがある!!」
今の詩音は明らかに昔とは違う。
己の欲望のために悪事に手を染めようとしている。
アラン機関がどのような手段で生き返らせ、そしてDAがどのような方法で詩音を従わせているかもわからない。
少なくともこれだけは言える。
今の詩音は、詩音じゃない。
「………わかった」
残念そうに吐露し銃口を向ける。
「力づくでも私はやるね」
そう呟くと二丁の拳銃から雨のように非殺傷の弾丸が放たれそれらを全て薙刀の穂で切り裂いていく。
壁や天井を縦横無尽に跳ね春陽に襲いかかるもなんとかそれに対応する。
一連の動きに驚くことも怒りを覚えることもなく引き金を引き続ける詩音は、争う義理の弟の片目に向け真っ直ぐ弾丸を放つ。
当然、苦にすることなく対処する春陽だったがその直後同軌道上の弾が向かってくると1ミリたりとも動くことができず眼球に見事命中する。
圧倒的経験値+射撃のセンス。
詩音の持てる技術を導引させ無敵を誇る反射神経を持つ春陽の視界を奪った。
「ゲームオーバー。こればかりは大ぶりになる薙刀では防ぎきれなかったかな。でも、誇っていいよ。ここまで防ぎ切ったのは春陽が初めてだよ」
痛春陽が受けたのは跳弾ではなく催涙弾。
主にデモなどの鎮圧で用いられるもので、痛みを感じない春陽にとってはある意味天敵。涙がとめどなく流れる。
眩む視界の中捉えたのは詩音が指にかける3丁目の拳銃。
跳弾の入ったハンドガンを宙に放り、隠してあったもう一つの銃が春陽を襲ったのだ。
「くっ………!」
「無駄だよ。しばらくは目を開けられないほどの効果があるのは実証済みだから」
コツコツ、とローファーの歩く音が春陽に近づく。
「これで自慢の運動能力は半減。まだ抗うならこのまま眠らせてもいいかもしれないね」
弾をリロードし春陽を見下ろす形で銃を構える。
「それでも………ボクは………!!」
「ふふっ。やっぱり春陽は───」
言葉を言い切る直前、詩音はありったけの殺意を向ける男の姿を目の端で捉えた。
全く予想だにしていなかったこと。
春陽の鉄球で気を失っていたはずの男が狂気の表情を浮かべ叫んだ。
「死ねェェェ!!春陽ィィィィ!!!」
男の凶弾が二人を襲う。
二人の運命やいかに!?
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