リリベルの異端児   作:山本イツキ

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今回で事件は閉幕。
事後の話も含めて全てお話しします。


第二十六話 Bloodcurdling incident

 夕陽が沈みかかり夜を迎えようとしていた頃。

 春陽は息絶えた詩音を抱え下へ降りようとエレベーターのある場所に向かっていた。

 血に濡れた薙刀はバラバラに分解し懐にしまっている。

 その道中、とある男の姿を目撃した。

 ボロボロの様子の真島だ。

 男は春陽を目にし、ゆっくりと近づく。

 

 

 「よぉ。生きてたか」

 

 

 軽快な様子でそう話し始めた。

 

 

 「あっ?そいつは………」

 

 

 綺麗な死顔を浮かべる詩音を見て真島は何か思い出したかのように驚いた様子を見せる。

 

 

 「確か関西の時の………へぇ。オマエら、俺たちを犯罪者と罵る割にはエグいことしてるじゃねぇか」

 

 

 全てを察した真島。DAの闇は深い、そう感じたのだろう。

 

 

 「………どけっ」

 

 「ハッ。どうやらぶっ壊れちまったみたいだなぁ。今のテメェのツラ、ちゃんと確認したか?」

 

 

 返り血を浴び真っ赤に濡れる身体。ハイライトの灯らない闇を彷彿とさせる瞳。表情はなんの感情もなく廃人同然。

 かつての心優しい彼はもういない。

 真島の目の前にいるのは人殺しと化した、ただの狂人だ。

 

 

 「…………キサマモ、殺スゾ………」

 

 

 真島の言葉に目が血走り、殺意のオーラを纏い威嚇する。

 普通の人間なら怖気付いて逃げ出すほどの迫力。しかし、男からすればさほど脅威に感じることはなく淡々と会話を続ける。

 

 

 「おいおい。今俺を殺したところでテメェには害しか残らないぞ?」

 

 

 真島は指を折るようにしてこれから起こるであろうアクシデントを数えていく。

 

 

 「まずはリコリスやリリベル(じゃまもの)の存在だ。あれだけの大人数ともなれば一人ではどうすることもできねぇ。俺の仲間は全員死んだわけだしな。次に逃走経路。俺たちのアジトは知られてるだろうし、逃げようにも移動手段もねぇ。どうだ?もうしばらくは互いの目的のために行動を共にするのもいいだろ?」

 

 

 最もな理屈を並べる真島。

 いずれも正しいのだが、今の春陽にとってそれらは全てなんら障害になり得ないからだ。

 行手を阻む人間は全て切り裂き、自分達を殺そうと考える人間たちはその建物ごと破壊すればいい。

 逃げるつもりは毛頭ない。むしろ、こちらから攻撃を仕掛けてやろう。

 

 

 「………勝手ニシロ………」

 

 真島を横切りエレベーターへと向かう春陽。

 奴は詩音の仇ではあるがまだ殺さない。

 それに奴自身怪我を追い満身創痍といった様子だ。

 自ら手を下さなくとも勝手に死ぬ。

 それより今はDAを壊滅させることが先だ。

 それ以上互いに言葉を交わすことはなくエレベーターに乗り込み下へと降りる。

 以降、千束やたきなといったリコリスたちがどうなったか。クルミたち喫茶リコリコ組はどうなったのか、それら全てを知る術はない。

 今はただ己が欲望のために行動する。

 

 

 「…………」

 

 

 綺麗な死顔を浮かべ春陽の腕の中で永遠の眠りにつく詩音を見て彼は思う。

 彼女は必ず安らかな場所で埋葬してあげなければならない、と。

 エレベーターで1階へと降り延空朴を出ようとすると百人ほどのリリベルが武装し春陽を待ち構えいた。

 

 

 「篠原 春陽だな?」

 

 

 ファーストの服を身に纏うリリベルにそう問いかける。

 春陽を殺しにきたのか、そう判断した彼は戦闘態勢を取ろうとするが向こうは別の目的があってやってきたようだった。

 

 

 「抱いているその女を渡してもらおう。そうすれば貴様を殺さず生かしておいてやる」

 

 

 奴らに用があるのは死んだ詩音らしい。

 どうして彼女を?疑問を浮かべながらも渡す気がさらさらない春陽は彼女を安全な場所にそっと寝かせ薙刀を速攻組み立て、構える。

 

 

 「渡す気は………ないようだな」

 

 

 リリベルたちは春陽と敵対することを察し銃を向ける。

 この時、春陽の心の中で悪魔が囁く。

 

 

 

 邪魔スル者ハ全テ────皆殺シダ!!

 

 

 

 千束が名付けた秋月とは別のナニカ。

 片言で悪意の詰まった低い声で彼を惑わし操っている。

 春陽の心の中にいる秋月もその存在に圧倒され顔を出せずにいた。

 

 

 「一つ、だけ…………教えて………ください………」

 

 

 ギリギリ保っていた自我を振り絞り男に問う。

 

 

 「彼女を………どうする、つもりですか………?」

 

 

 邪悪な存在に全てを支配されそうになる最中彼にあったのは死んだ詩音の安否。

 彼女には指一本触れさせまいと薙刀を構え、戦闘の意思を示す。

 

 

 「俺は何も聞かされていないがこれは上層部からのお達しだ。その女をよこせ」

 

 

 男は命令するように語尾を強める。

 これ以上の会話は無駄と踏み切り、ハルヒの心の中で渦巻く悪意が暴走する。

 

 

 「そう、ですか………なら…………」

 

 

 

 全員、血祭リダ!!

 

 

 

 カポッと口を開き、獣のような形相で猛然と突進し薙刀を振るう。

 間一髪で交わしたファーストリリベルの頭上で空を切りその余波が突風として現れあたりのリリベルたちを吹き飛ばす。

 今の一撃をまともに受けていたら体が真っ二つになるだけでは済まされない。

 体は木っ端微塵となり骨すらも残らなかっただろう。

 心に潜む悪魔に身体能力を限界以上に引き上げられ120%もの力を出すとこれほどまでの出力が出せるのか。

 リリベルたちは自らが劣等生と蔑んできたセカンドリリベルに戦慄する。

 

 

 

 外シタ…………次ハ、確実ニ殺ス…………

 

 

 

 ゴキっ、と首を鳴らし恐怖で倒れたまま体が竦んで動けなくなるリリベルたち。

 本部で徹底されたカリキュラムをこなし肉体的にもそして精神的にも逞しいエージェントである彼らでさえも彼の殺意の前では足掻くことすらできない。

 今一歩でも動けば確実に殺される。

 その事実だけが彼らの行動を縛っていた。

 

 

 「…………あっ」

 

 

 春陽はその場で一回転し薙刀をグルッと回すと、リリベルの一人がそう声をあげた。

 彼の放った斬撃は、かまいたちとなり周囲の人間たちの首を刈り続け数秒の経過の後大量の血飛沫を上げながら生首が宙に舞う。

 さながらそれは血の噴水。

 彼らが死を実感する頃にはすでに頭と体は別れを告げていて絶命している。

 理不尽で残忍な死に様だ。

 これほどの人間、いや、怪物を前に武装した百人程度の人数でかなうはずがない。

 彼一人を殺すのに一国の軍隊をかけても到底足りないだろう。

 頭や心臓がなくなれば絶命すると言う条件は同じなのだがそれ以外のスペックがあまりに違いすぎる。

 痛みを感じず、人の域を超えた身体能力+武器を持たせてしまえば反則という他ない。

 これらの光景もまた、本部で高みの見物をしている虎杖にもしっかりと届けられる。

 

 

 「クッ…………!!」

 

 

 握る拳に力が入る。周辺で暴動の鎮圧に当たっていたリリベル全員をけしかけたはいいもののあっさり返り討ちにあい、戦力が大幅に減少した。

 使えるのはもう、残りわずか。

 その戦力で彼を食い止めることなどできやしないだろう。

 

 

 「あれが篠原 春陽ですか」

 

 

 虎杖の後ろで凄惨な光景を目の当たりにした楠木は表情を変えることなく話を始める。

 

 

 「彼がセカンドだったとは驚きです。これもあなたの決定ですか?」

 

 

 まるで虎杖を軽蔑するかのような一言。

 それに反論する余地はない。

 

 

 「飼い犬に噛みつかれる、とはよく言ったものです。相手の力量を測ることもせず突き放したことで、あの男は、主人であるあなたに反旗を翻した。もちろん、責任を取るおつもりですよね?」

 

 

 現場の指揮権を剥奪されたことへの怒りか。はたまた無能な指揮官を叱責してるつもりなのか。

 いずれにせよ楠木は何一つ間違ったことは言っていない。

 それ故、虎杖は様々な怒りの感情を蓄積させていく。

 

 

 「………私が、直接手を下す」

 

 「あなたが?どうやって?」

 

 「奴には弱点がある。いざとなれば錦木千束他数名を人質に────」

 

 

 虎杖がそう言い切る前に楠木は彼の肩をギュッと掴み激しい口調で怒る。

 

 

 「そんなこと許すはずがない!!あなたの尻拭いのためだけにリコリスが………千束が存在しているわけじゃない!!」

 

 

 彼女自身思うところがあったのだろう。

 心臓に爆弾を抱えている千束を戦場へ呼び、あまつさえ暴言を吐いたこともある。

 遅すぎる後悔。その償いを今ここで果たそうとしているのだ。

 

 

 「………あとのことは全て任せる」

 

 

 虎杖は立ち上がり司令室から姿を消す。

 失意の底に沈んだ彼がこれから何をするのか楠木はわからない。

 ただ、非人道的とも言える先ほどの作戦を決行することはなさそうだと確信している。

 

 

 「さて、ここもあの男の手によって堕とされるのだろうか………」

 

 

 椅子に腰を下ろし、これからのことを考え頭を悩ませる。

 

 

 

…………………

 

 

…………

 

 

 

 延空朴襲撃、そして旧電波塔での事件後リコリスたちは後始末に追われていた。

 リリベルはというと先の数々の大事件によって、全員が一人の男の手によってその命を踏み躙られた。

 処分対象者リストNo.0 篠原 春陽。

 セカンドリリベルだった彼がことの主犯だったのだ。

 No.1の真島との関係性は不明だが共に日本各地で犯罪を起こし続けていた。

 

 

 まずは真島。

 彼は多くの仲間を失ってからも一人奔走し続けていた。

 行方しれずとなった銃を抱き、それを各地に悪意の火種としてばら撒き今も尚犯罪に手を染める輩は少なくない。

 戦争屋として活躍した一方、今はブローカーとして暗躍している。

 

 次に春陽。

 彼は一般人を巻き込むようなことはなく、狙いはDA支部のみを標的にし暴挙の限りを尽くした。

 彼が訪れた建物は必ず跡形も残らぬほど粉々になり、死者の数も数千人にも及んでいる。

 文字通りの殺人鬼。日本の犯罪史において彼は最も恐れられる人物としてその名を刻んだ。

 

 

 「報告します。処分対象者リストNo.0 篠原 春陽が関西で目撃されたという情報が入りました」

 

 

 陥落した本部を離れDAは地下で新しく建設した極秘の施設にて未だその力を保有している。

 リコリスの指揮官は変わらず楠木が執っており、リリベルがいなくなった今彼女たちの抱える仕事は尋常でないほど多い。

 春陽の行動は結果的に、救ったはずのリコリスを苦しめるものとなっていた。

 

 

 「ただちに周辺市民に非難を呼びかけろ。一般人に手を出さないとはいえ、危険なことに変わりない。引き続き観察すると共に隙を見て捉えろ」

 

 「かしこまりました」

 

 

 楠木の助手はそう返事を返し、ホッチキス留めされた資料をめくる。

 

 

 「そして、千束のことなんですが………」

 

 

 助手がそう口にすると、楠木は唇を噛んだ。

 

 

 「奴のことは気にするな。居場所もわかってる」

 

 

 犯罪者たちに加え千束自身姿をくらました。

 アレから人工心臓の手術が施され無事に一命を取り留めたのだが、一人病室を抜け出し行方しれずとなってしまっていたのだ。

 だが、さすがは本部の情報網。

 彼女は簡単に発見され今は楠木たちの掌の上で転がされているような状態だ。

 先の事件の功労とし、休暇を与える形で放っているのだろう。

 

 

 「今尚、平和なこの国を脅かそうとする輩は存在する。必ず根絶やしにするよう再度通知しておけ」

 

 「はい」

 

 

 二人だけの会議はそれで終了し、場面は大阪へ。

 とある墓の前に男が立ち、開放され風が靡くその場所で花を添える後ろ姿。

 "青星家之墓" と記された場所に眠る二人の姉に手を合わせ目を瞑る。

 これまでの報告とこれからについて心の中で語り、スッと目を開ける。

 

 

 「詩音………二人をここで眠らせることができて、本当に良かった」

 

 

 犯罪者と成り果てた春陽は安堵し、そう吐露する。

 様々な支部が壊落する中で、詩音が眠るこの場所だけは手を付けず中にいる人間だけを抹殺した。

 延空朴で死亡したもう1人の詩音も、彼女と同じ墓に入れ今も深い眠りについている。

 

 

 「今日、ここを発とうと思う。…………もちろん海外じゃないよ。沖縄さ。海が綺麗ですごくいいところだって聞いたことがある。しばらく、そこで先の人生について考えようと思う」

 

 

 春陽は自らの手を覗く。

 日に焼けた健康的な肌ではあるが彼には別のものが映っている。

 血に塗れた真っ赤な手のひら。残虐の限りを尽くし殺戮してきたこの手にはすっかり他人の血が染み込まれてしまっていた。

 今でも夢の中で殺してきた人間たちが自分を呪う夢を見る。

 そんなことをされても仕方がない、と春陽は割り切りその悪夢と付き合い続けているのだ。

 

 

 「じゃあ………行くよ。今度会う時、またいろんな話持ってくるからね」

 

 

 二人の姉に別れを告げリコリスたちの墓場を後にする春陽。

 そして近くの飛行場へ赴き空の旅に出た。




次回最終回。
本当に終わる気あるのか?コレッ。
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