リリベルの異端児   作:山本イツキ

27 / 27
今回で最終回。リコリコは個人的にすごく好きな作品だったので最後まで執筆できて嬉しく思います。

前置きはここまでに、お楽しみください。


第二十七輪 Beginning of the End

 関西を発ち沖縄へとやってきた春陽。

 検査でも特に引っかかることなく、むしろ心配になる程スムーズにことが運び本土から遠く離れた初めての地に足を踏み入れる。

 太陽が眩しく晴天の空の下、素肌の上に白黒のアロハシャツを羽織りしたは短パンとサンダル姿という現地に馴染んだ格好で空港を出た。

 

 

 「さて、まずは………」

 

 

 荷物をコインロッカーに預け海を見に海岸へと向かう。

 そこは喫茶リコリコの面々と初めて遊びに行った場所。春陽にとっても非常に思い出があり、記憶に深く刻まれている。

 人っこいないビーチに一人腰を下ろす。

 ギラギラと輝く太陽の光が肌を焼き、サァッと波打つ音が実に心地よい。

 

 

 「…………」

 

 

 綺麗な景色を目の当たりにしても尚、彼のモヤモヤとした気持ちが晴れることはなかった。

 それはいくつかの事柄が起因する。

 この数ヶ月で全国各地を渡り歩き、リリベルを壊滅した。指示通り動く兵隊もいなければそれを指導する人間ももはや存在しない。

 かつてリリベルの司令官だった虎杖も忽然と姿を消しその行方は誰も知らない。

 春陽を恐れ海外へ逃亡したか、或いは自ら命を断ったか。いずれにせよまともな結末を迎えていないことは明らかだ。

 リコリスもいずれ彼の前に立ちはだかるだろうが、彼女たちの働きがこの日本を平和な国として維持できている要因でもある。

 向こうからコンタクトがない限り春陽から手を出すことは決してないだろう。

 

 それに伴って、これから生きる意味を彼は見出せずにいた。

 彼にとって詩音の次に大切だって喫茶リコリコの仲間たちとはあれ以来顔を合わせていない。

 今更再開してどんな話をすればいいかもわからない上に、大量殺人犯として全国的に指名手配されてる自分はもう不要とされてるに違いと考えてのことだ。

 千束は待ち望み、たきなは怒り、クルミは悲しみ、ミズキは哀れみ、ミカは呆れていることだろう。

 それにここにいればかつての仲間たちと遭遇する子も決してない。

 姿を暗まさずとも堂々と街を歩くことができる。

 

 

 「あれ………?」

 

 

 後方で何やらこちらの存在に気づきパタパタとビーチサンダルの音を鳴らしながら近づく足音を耳にする。

 刺客か?そう考えた春陽だが、生憎なことに薙刀は分解してコインロッカーの中であり使える武器は懐の鉄球のみ。

 それを数個手に取りいつでも弾けるよう構えたその瞬間、一気に距離を詰めた足音の主は肩をポンっと叩き、振り返ると麦わら帽子を被る少女が慣れた様子で話しかけてきた。

 

 

 「…………千束、ちゃん」

 

 「よっ。指名手配犯」

 

 

 皮肉が込められた挨拶に春陽は苦笑いする。返す言葉がない、といった様子だ。

 

 

 「冗談だよ。久しぶり、春陽」

 

 

 ニッと白い歯を見せる千束。

 そんな彼女は手を離し春陽に並んで腰を下ろした。

 ヒューっと浜風が吹き麦わら帽子を揺らす。

 

 

 「噂は耳にしてるよ。派手に暴れ回ったらしいじゃん」

 

 「…………うん」

 

 「ここへは何をしにきたの?DAの支部なんてないはずだけど」

 

 「特別なことは、なにも…………」

 

 

 彼女の質問に春陽は俯きながら答える。

 彼は蹲るように小さくまとまる。

 

 

 「みんな心配してたよ。特にクルミなんか全国の監視カメラをハッキングしてあんたを探そうとしたぐらいなんだから」

 

 「………ここにキミがいるのは、たまたまだとでも?」

 

 「そうだよ。私もつい先日たきなに捕まったところ。ああ、安心して。あの子はここへは絶対来ないから。ずっと寝ずに探したたみたいだから今はベッドの上でぐっすり眠ってるよ」

 

 「そっか」

 

 

 春陽は過去、任務のためとはいえたきなに手を挙げあまつさえ暴言も吐いたことがある。

 およそ1年ほど仕事を共にしてきた間柄とはいえ度が過ぎていたことを彼は悔いていた。

 直接謝ろうにも機会はなく、会ったところで許してもらえないだろうと考え今に至る。

 

 

 「ボクをDAに差し出したら、懸賞金でしばらくは遊んで暮らせると思うよ」

 

 「一体いくらになったのよ」

 

 「以前調べた時は10億円だった。dead or alive。生死問わずさ」

 

 「10!?」

 

 

 途方もない金額に千束は絶句する。

 

 

 「僕をDAに引き渡すことができたらキミはリコリスとしての地位をより確実に、たきなちゃんはファーストにだってなれるかもしれないよ」

 

 

 二人の未来を照らすようにメリットをちらつかせる。ここで千束に見つかったのも運の尽き。

 どうせ捕まるなら二人のために………。

 春陽はそんなことを思っているのだろう。

 

 

 「残念。私は今リコリスとして何もしてないよ」

 

 「たきなちゃんは?」

 

 「たきなは相変わらずだけど、仲間を売るようなマネはしない子だよ」

 

 「…………」

 

 

 仲間。その一言が異様に引っかかる。

 なんの連絡もよこさず、自分は殺戮行為を繰り返し悪名を轟かせた。

 事件の時だって二人には酷いことをした。そんな自分は仲間と呼ばれる筋合いもその資格もない。

 

 

 「どうする?ここで私を殺して隠蔽する?」

 

 「そんなことしないよ。信じてもらえないだろうけど」

 

 「信じるよ。だって春陽だもん」

 

 「薄い根拠だね」

 

 「それだけで十分♪」

 

 

 信じて疑わないといった様子の千束は歯を見せて笑う。

 そんな最中、春陽の心の中で悪魔が囁く。

 

 

 

 コノ女ヲ…………殺セ………!!!

 

 

 

 まるで命令するかのように言葉を発する悪魔。奴は春陽の心の中でしか存在できない上、ある一定の時以外では秋月のように無理やり体を支配することはできない。

 秋月自身、悪魔が顕現してから一度も春陽と人格を入れ替えたことはなくずっと止まったまま。

 リリベルを殺しまくったのも春陽個人の意思であり悪魔はあくまで『そうしたらいい』と口を開いてるだけだった。

 

 

 「僕が怖くないの?」

 

 

 悪魔の言葉をよそに、千束にそう問いかける。

 

 

 「ぜんっぜん!」

 

 「何千人もの命を奪い去った、稀代の大量殺人鬼なんだよ?」

 

 

 脅しともとれる言葉で千束を威嚇する春陽。

 しかし彼のことをよく知る千束には全く効果がないようで………。

 

 

 「何か目的があったんでしょ?」

 

 

 彼の頭を撫でながらそう問いかける千束。

 全てを察しているかのように慈愛の女神の如く優しく彼を抱擁する。

 

 

 「…………全く、キミには敵わないね」

 

 

 千束に続き春陽も彼女の背中に手を回し抱き寄せる。

 闇に包まれ渇ききった彼の心に染み渡るような温もり。それは闇そのものである悪魔にとっては不快なようで春陽の心で暴れ回る。

 

 

 

 何故ダ…………何故!!奴ヲ殺サナイ!?

 

 

 

 理解不能。悪魔は困惑し怒り狂う。

 

 

 『当たり前だろ。バーカ』

 

 

 悪魔の神経を逆撫でするようにひょこっと姿を現す秋月。実に数ヶ月ぶりの登場だ。

 

 

 

 キサマ………モウ一人ノ………!!

 

 

 

 『そう。本来は別の肉体で生まれるはずだったコイツの片割れだ』

 

 

 コツコツと悪魔の元へ近寄り、薙刀の穂を突き立てる。

 

 

 『残念だがテメェはここで消えてもらう』

 

 

 消エル?何ヲバカナコトヲ…………

 

 

 『戯言だとでも言う気か?』

 

 

 ソノ通リ…………コノ男ハ、悪魔ニ魂ヲ売ッタ暴君………既ニ我ガ手中ニアル…………

 

 

 『ハッ。バカも休み休み言えよ』

 

 

 ナンダト………?

 

 

 『今テメェの手中にあるのなら、ここで錦木 千束を殺してみろ』

 

 

 フ、フンッ………!言ワレンデモソウスル………!オイッ小僧!!イイ加減ニ────

 

 

 

 『ククッ。クハハハハハッ!!』

 

 

 必死に訴えかける悪魔に対し秋月は盛大に笑ってみせた。

 

 

 『手中どころか認識すらされてねェじゃねん。ククッ、どんだけ叫んでも反応しちゃいねェ』

 

 

 キサマ……………!!

 

 

 『テメェにできるのは憎悪や怒りといった負の感情によるドーピングだ。単体だと何の効力も発揮しねェんだよ』

 

 

 ………構ワン。コイツガ寝テイル間ニ、イクラデモチャンスハアル。

 

 

 ある一定の時とはまさにこのこと。

 春陽が夢の中にいる間は悪魔の自由なのだ。だが、それが困難なことは悪魔自身理解している。

 何故なら、それを目の前にいる男が何度も邪魔しているからだ。

 

 

 『オレ様がそんなことを許すとでも?』

 

 

 

 フンッ…………キサマ如キ簡単ニ捻リ潰シテクレル………!!

 

 

 

 悪魔が身構えたその瞬間、秋月は目にも止まらぬスピードで薙刀を振るい悪魔を一刀両断した。

 スッと斜めにずれ落ちる悪魔は何が起きたか理解できない表情を浮かべ秋月を見る。

 

 

 『リリベルは全滅した。テメェの役目はもう終わり。とっとと消え失せろ』

 

 

 そう吐き捨てる秋月は悪魔が完全に消滅するのを見届け、再び春陽たちの様子を見守るように見つめる。

 

 

 『ったく。せっかくの再会に水を差すなよな…………さてっ』

 

 

 秋月は手にした薙刀の矛先を自らの心臓に向け最後の言葉を述べる。

 

 

 『俺も同じ、もう不要な存在だ。潔く死なせてもらうぜ………まあ、これからは大事なものを手放すなよな。あばよっ、春陽』

 

 

 別れの挨拶を告げ勢いよく心臓を貫く。

 最強の男の弱点を突き派手に血をぶちまける。やはり痛みなどない。待っているのは死だけだ。 

 秋月が自害したことを春陽が知るのはもう少し後のことだろう。

 今はただかつての仲間との再会に喜びを感じてほしい。

 何者にも見送られることもなく、秋月はその生涯に幕を下ろした。

 

 

 

 

 場面は変わり春陽と千束へ。

 抱き合った二人は体を離し陽の光を反射し輝く海を眺める。

 

 

 「少しは休まった?」

 

 「うん。ありがとう」

 

 「いいってことよ♪」

 

 

 さぁーっと波が押しては返す音が心地よく響き和ませる。

 

 

 「ボクは────」

 

 

 俯きながらそう話を切り出す春陽。

 

 

 「ボクは、上層部の考えが間違っているって、ずっと考えてた…………汚いものには蓋をする、っていうのかな………?自らの手を汚さずに処分するという、やり方に………」

 

 「それは私も同じ気持ちだよ」

 

 「ボクはリリベルだったから、みんなが嫌々仕事してるのも知ってる。たくさん、仲間を見殺しにしてきた………」

 

 「それで、なんであんな凶悪事件を引き起こしたの?」

 

 「楽にしてあげようって………それに、彼らを失えば、上層部も出てくるとおもって………あの時は、リコリスを助けるって名目もあったけど」

 

 

 実に身勝手だ、と千束は思う。

 別に殺さなくても良いのではないか?それに、そのような理由で殺されたリリベルたちは報われないのでは?と思考がよぎるが千束は表情を変えず春陽の話を聞く。

 

 

 「そっか。春陽も、大変だったんだね」

 

 「殺してしまったリリベルには、悪いことをしたと、思ってる」

 

 「本当に全員殺しちゃったの?」

 

 「うん」

 

 

 春陽の言葉通りもうこの世にリリベルは存在していない。

 かつてその指揮をとっていた虎杖も今は行方不明で跡を継ぐものもおらず今はもうリコリスのみの状態だ。

 いずれはリリベルに似た組織は生まれるのだろうが春陽の存在が邪魔して現時点では発足を見送っているのだろう。

 それほど春陽の力は強大だということ。上層部は春陽に屈したと考えてもいい。

 

 

 「私知ってるよ。リリベルの死体の秘密」

 

 「え…………?」

 

 「発見されたリリベルは全員首を刎ねられ死亡。綺麗に真横に裂かれていたってクルミから聞いたの」

 

 「さすが、だね」

 

 「首を斬ったのはなんで?」

 

 「………楽に、死ねるから…………」

 

 「鬼○の刃かよ」

 

 

 とある漫画に例えた千束だが、それに出てくる流派によって斬られ心地が変わるという。

 春陽からすれば申し訳ないという謝罪の念を込め斬ったのだろうが、実際首を刎ねられどのような感情を抱いたのかはわからない。

 

 

 「…………おっと、失礼〜」

 

 

 突如千束の携帯がなりその電話に出る。

 少しだけ話した後その携帯を差し出され、それを手にし発信者と会話を試みる。

 

 

 「…………もしもし」

 

 『春陽…………!!春陽なのか!?』

 

 

 電話の相手はミカ。かなり驚いた様子で声を張り上げていた。

 

 

 「ご迷惑、おかけしてます…………」

 

 『気にしなくていい。お前が無事ならそれで………』

 

 「あの………」

 

 『おいっ!春陽!!』

 

 

 突如幼い声が割って入る。その声の主が誰か春陽はすぐわかった。

 

 

 「クルミさん、お久しぶりです………」

 

 『お前…‥散々探したんだぞ!!」

 

 「すみません………」

 

 『………まあいい。次会ったら1発殴らせろ』

 

 「ははっ………わかり、ました」

 

 『は〜〜るひ〜〜〜』

 

 

 酔っ払った様子で春陽の名を呼んだのはミズキだ。

 

 

 「ミズキさん………」

 

 『あんたが作るスイーツが恋しくて恋しくて仕方ないの〜。おっさんのじゃどうも若さというか、みずみずしさがが足りなくてさ〜………」

 

 『おいっ』

 

 『無理にとは言わないから、いつでも帰ってきなさいよ』

 

 「はい…………」

 

 『千束!春陽を逃すんじゃないぞ!!』

 

 「へいへい」

 

 「逃げませんよ」

 

 『気持ちの整理がついたらいつでも帰ってきなさい』

 

 「ミカさん………わかりました………」

 

 「それじゃあ私たちはしばらく沖縄で満喫する予定だから。そゆことで〜」

 

 

 千束は電話を切りそれをポケットにしまう。

 

 

 「随分心配させてたみたいだね」

 

 「申し訳ないとは、思ってる」

 

 「ねぇ春陽」

 

 

 おちゃらけな彼女は突如立ち上がり、真剣な眼差しで春陽を見る。

 

 

 「もしかして、死ぬつもりだった?」

 

 

 確信をついたような表情の千束。そんな彼女に目を合わすことなく春陽はこくり、と頷いた。

 リリベルを全て排除し生きる意味を失った今、春陽に残されたのは "大量殺人犯" という汚名だけ。

 こんなの、喫茶リコリコの面々に合わせる顔がない。かつてみんなで遊んだ海を眺めてから自らの死場所を探そうとしていたところ、千束と遭遇したということだ。

 どうせ死ぬならみんなのために──────。

 千束と出会いそう感じたのも事実。

 自分は大量殺人犯と共に賞金首。捕えられれば莫大な金が手に入る。

 これでお店を新しくするもよし、好きなものを購入するもよし。何億という大金だ。なんだってできる。

 ここで元同僚と出会えたことも巡り合わせ。

 二人に殺されるなら本望だ。

 そんなことを考えている春陽に対し、千束は彼の頬に手を添える。

 

 

 「バカなこと言わないで!!」

 

 

 珍しく声を荒げ叱責する千束。

 

 

 「命を軽く扱う人は嫌い!たとえそれが春陽であってもね!!」

 

 

 ここで春陽はハッと思い出す。そもそも千束は心臓に重い病を抱えていて間もなくして死亡するはずだった。

 『命大事に』という姿勢はその経験があったからだろう。そんな彼女だからこそこの言葉には非常に重みがある。

 

 

 「そんなつもりはなかったんだけどなぁ」

 

 

 俯きながらも弁明する。

 

 

 「別に私たちは春陽の懸賞金で一生暮らしたいとか考えてないし!第一!あの組織からそんな大金もらいたくないしね」

 

 「全く、千束ちゃんには敵わないな……」

 

 

 小さく笑みを浮かべたその時だった。

 

 

 「…………えっ?」

 

 

 艶やかな長い黒髪を浜風に靡かせながら、眠っていたはずのたきなが一瞬驚きすぐさま戦闘モードへと表情を切り替える。

 

 

 「千束!動かないでください!」

 

 

 キッと春陽を睨み銃口を向ける。その瞳は完全に敵を見るような鋭い目つきだ。少しでも動けば彼女の弾丸が春陽を貫くだろう。

 

 

 「ちょちょっ!落ち着いてってば!」

 

 

 あたふたとする千束をよそに春陽はその場にスッと立ち上がり、たきなと向かい合いながら両手を上げ降参の意を示す。

 

 

 「春陽…………」

 

 

 心配そうに困った表情を浮かべる千束。対したきなは銃口を向けたままゆっくりと春陽の元へ歩み寄る。

 

 

 「ここで何してたんですか」

 

 「何も」

 

 「まさかこんなところで再開するなんて………千束をどうする気ですか」

 

 「何も」

 

 「くっ!ちゃんと答えてください!!」

 

 

 いつもとは違い荒々しい言葉を浴びせるたきな。彼女自身、以前は春陽の心身の強さを尊敬していたのだが今は違う。

 千束や自身にとっての敵。かつて強突された腹部がズキズキと痛む。

 

 

 「たまたまここで彼女と再会しただけだよ。それに僕は抵抗しない。殺したければ殺せばいい」

 

 

 決意のこもった瞳でかつての仲間を見る春陽。それは自殺といった類ではない。

 たきなには恨まれて当然のことをした。その罪滅ぼしができるのであれば、この命を差し出そうと本気で考えているのだ。

 

 

 「わかりました」

 

 

 そう呟き中のセーフティーを解除するたきな。

 

 

 「わかってると思いますがコレには実弾が入ってます。あなたといえど脳を貫けば死ぬでしょう」

 

 「ああそうだ。早くしなよ」

 

 「………何か、言い残す言葉はありますか?」

 

 

 本気で春陽を殺す気でいるたきなの元へ千束は駆け寄り頬を叩いた。

 パァンっ!と音が響きたきなの頬を真っ赤に腫らす。それはかつてDAの作戦で暴走行為を行った彼女に対しフキが行ったように。

 ただ、唯一の優しさとして残るのがグーではなくパーだったこと。それでも千束の怒りは本気だ。

 

 

 「なんで二人は、そうなの………」

 

 「千束………?」

 

 

 大粒の涙を流す千束を不思議そうに見つめるたきな。

 

 

 「二人とも、今でも仲間じゃないの!?」

 

 「違います。春陽はもう─────」

 

 「違くない!!」

 

 

 今日一の怒号が飛ぶ。それも、一番の相棒に対して。

 

 

 「春陽は今でも喫茶リコリコの大切な従業員で私たちの仲間。あの日から時間は止まったけど、決して変わらない。春陽は………私たちの家族だよ」

 

 

 慈愛の女神のような懐の深さに春陽自身驚きを隠せずにいた。超大量殺人犯を前にしても表情ひとつ変えずいつも通りに接してくれたことも、優しく笑顔を振りまいてくれたことも。

 

 

 「それは春陽が以前のままだったらの話です」

 

 

 それでもなお自分の考えを曲げようとしないたきな。

 

 

 「今の春陽は危険すぎます。いつ私たちの命が狙われるか溜まったものではありません。それに、彼を狙った暗殺者に店長たちを巻き込むことになります。受け入れるにはあまりにデメリットが多すぎる」

 

 

 最もな意見だ。春陽自身先ほどの電話だけで満足したほどこれ以上喫茶リコリコの面々と関わってしまうと戻りたくてたまらなくなるのを恐れていた。

 意見が真っ二つに分かれるたきなと千束。

 その運命は────

 

 

 「…………わかりました」

 

 

 折れたのはたきなだった。

 

 

 「千束の意見も一理あります。しかし、今度何かしでかすようなら今度こそ殺します。春陽もそれでいいですね?」

 

 「………あぁ」

 

 

 距離は遠いが平和協定がここに結ばれた。よーしっと千束が仕切り直し再び電話をかける。

 

 

 「それじゃあこっちも準備しなくちゃねっ!これから忙しくなるぞ〜!」

 

 

 張り切る様子の千束に続きたきなと春陽もその手伝いを行う。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 そこから数日、千束の働きによって喫茶リコリコの面々がここへくる手筈が整った。

 久々の仲間との再会。しかし春陽の気分は上がることがない。

 

 

 「まーた暗い顔してぇ」

 

 

 仕方ない、といった様子でカフェテラスで腰を下ろす春陽に声をかける千束。

 

 

 「みんなと会うのがそんなに嫌?」

 

 「………嫌、ではないよ」

 

 

 そう断りを入れつつも本心を語る。

 

 

 「僕なんかが本当に会っていいのかなって」

 

 「もぉ〜そんなこと気にすんなって!」

 

 

 丸まった春陽の背中をバンバンと叩きながら千束は励ます。彼女の底抜けな明るさにはここのところ助けられてばかりだ。

 現にたきなと一触即発な空気にならないのは千束が緩衝材となってくれていることが大きい。

 

 

 「あっ、たきな〜!」

 

 

 浜辺を歩くたきなにブンブンと手を振るも一瞥するだけでスルーする。どうやら春陽がそばにいることが原因のようだ。

 

 

 「………ねぇ、千束ちゃん」

 

 「なに?」

 

 「ちょっと行ってくるよ」

 

 「………!あいよ」

 

 

 春陽の考えを察した千束は笑顔で彼を見送る。

 

 

 

 「はぁ………」

 

 

 陽が沈んできたサンセットビーチで一人足を進めるたきなはずっと考えていた。

 何故あんなにも優しかった春陽がリリベル大虐殺なんて犯罪に手を染めたのだろうかと。

 実際、たきな自身リコリスに好印象を持っているわけじゃない。不当な評価を経て喫茶リコリコに来たわけだが、上層部に不信感を抱いているのは確かだ。それでも上の人間を巻き込み、ましてや仲間をも皆殺しにしようだなんて考えたことすらない。

 春陽とリリベル、そして上層部に何があったのか。机上の空論を脳内で並べ続けている。

 

 

 「…………!!」

 

 

 殺気を感じ勢いよく振り返るとそこにはかつての仲間、そして現在の大虐殺犯がそこにいた。

 ボーッとしていたとはいえこれほどまで間合いを詰められるなんて、と自らの行動を咎めながらも警戒を続ける。

 

 

 「…………なんですか」

 

 

 怒気をはらんだその声に優しさなど微塵もない。リコリスの制服は着用していないが銃は常に持ち歩いているたきなは、それをしまっている腰付近に指をかける。

 何か動きがあればすぐさま発砲できる体勢だ。手ぶらな春陽はなす術もなく殺されてしまうだろう。

 

 

 「誤解を解こうと思ってね」

 

 「誤解?」

 

 「ああ」

 

 

 未だ警戒を続けるたきなから視線を外し波が寄せては返す方を向き話を始める。

 

 

 「たきなちゃんや千束ちゃん、他のリコリスにもだけどボクは危害を加えるつもりはない。それは信じて欲しくてね」

 

 「無理です」

 

 「だろうね」

 

 「そもそも何故リリベルを殲滅するような愚行に及んだんですか」

 

 

 たきながずっと考えていた春陽の悪行。それが今、彼の口から真実が語られる。

 リリベルに戻ってからの出来事、これまで彼が受けてきた批難、不条理、そして裏切り。それら全てを受け入れるには、たきなですら苦痛に感じるほど重く辛いものばかりだ。

 春陽の話を聞き自然と銃は下ろされただ彼の言葉に耳を傾けるようになっていた。

 

 

 「ここまでが今日までの出来事だよ。全てフィクションだと疑うかい?」

 

 「いえ………」

 

 

 何一つ確証はない。けれど春陽の話す表情は決して嘘など感じられず、たきな自身上層部の闇の一面を知るからこそ信じるに値すると判断した。

 

 

 「あの時キミを殴り飛ばしてしまって本当にごめん」

 

 「あの時のあなたは正常ではなかった。それも、春陽の話を聞いて納得したので大丈夫です」

 

 「千束ちゃんといいたきなちゃんといい、優しすぎるよ」

 

 「千束のがうつったからですかね」

 

 

 彼女の底抜けの明るさは周りにも伝染する。

 険悪だった二人がここに真の仲直りを果たす。その直後たきなの携帯に着信が入る。

 

 

 「はい」

 

 『やっほーお二人さん!仲直りできたみたいだねぇ♪』

 

 

 カフェテラスの方へ顔を向けると携帯を片耳に当てながらこちらを覗く千束を姿を捉える。

 どうやら全て筒抜けだったようだ。

 

 

 「趣味悪いですよ」

 

 『仲直りできたならそれでいいもーん♪』

 

 「はははっ………」

 

 『あっ、そうそう。先生たち、もう沖縄(こっち)に向かってるらしいからスタンバイよろしく〜』

 

 「わかりました」

 

 

 いよいよだ。久しぶりの対面が間近に迫り、春陽の表情も暗くなる。

 

 

 「…………えいっ!」

 

 

 俯く彼の背中をドンと叩くたきな。

 

 

 「そんな情けない姿だとクルミたちにも怒られちゃいますよ」

 

 

 励ますような彼女の行動に驚きつつも勇気をもらった。

 

 

 

 陽が完全に沈んだ夜。辺りに人は完全にいなくなり、千束、春陽、たきなの3人は喫茶リコリコの到着を浜辺で待つ。

 

 

 「吹っ切れたみたいだね♪」

 

 「緊張はしるけどね」

 

 

 春陽の瞳に不安はあれど迷いはない。

 波の音しかしない浜辺に砂をかけ分けるような足音が響き3人はその方向を向く。

 側から見れば旅行に来た老男とその娘二人。しかしその3人は春陽たちからすれば大切な家族。

 ミカは安堵するように、ミズキは浮かれたような様子で、クルミはムッとした表情で姿を現した。

 

 

 「みんな〜!久しぶり〜!」

 

 

 歓迎するかのように大きく手を振る千束。

 彼女たちの元へゆっくりと3人が近づく。

 

 

 「元気にしてたかい?」

 

 「もちのろんよ♪」

 

 「たきなもありがとね。千束を見つけてくれて」

 

 「いえ。私は何も…………」

 

 

 最下位を喜び合う4人。しかし、残りの二人は向かい合ったまま言葉を交わすことなく互いの顔を見ていた。

 

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 

 沈黙がこの場を包む。

 

 

 「…………ん」

 

 

 小さな背丈の年長者が春陽の胸に顔を埋める。そして、ポコっと弱々しく拳を当てうっすらと涙目になりながら愚痴をこぼす。

 

 

 「心配、したんだからな…………」

 

 「ご迷惑、おかけしました」

 

 

 絵面としてはやはり異質だ。クルミが年相応に程遠い見た目をしていることもあるが、千束たちから見たらまた違ったように見えるようで。

 

 

 「おやおや〜?クルミさん、春陽の事が好きなのかな〜?」

 

 

 茶化すようなその言葉にクルミは反論する事なく口を閉ざす。予想外の反応に全員が驚いた。

 

 

 「えっ、おい、ガキンチョ…………」

 

 「うそっ!?マジ!?」

 

 「そうだったんですか」

 

 「いいんじゃないか」

 

 

 寛容な店員たちは全てを受け入れるようだ(ミズキを除いてではあるが)。

 

 

 「もう、どこにも行きません」

 

 「絶対……絶対だからな!!」

 

 「約束します。この命にかえても」

 

 

 さらさらとした金髪を撫でそう誓う春陽。

 

 

 「ですが、その前に………」

 

 

 クルミから離れた春陽は千束、たきなに近づくと二人もそれを察して銃口を向けた。

 

 

 「おいっ、オマエら!!」

 

 

 状況についていけず焦るクルミ。そんな彼女を春陽は腕を広げ静止させる。

 

 

 「安心してください」

 

 

 その一言でクルミは理解したのか、ミカやミズキの元へ駆け寄りことの顛末を見守る。

 

 

 「それじゃあ、春陽」

 

 「準備はいいですね?」

 

 

 リコリスである二人がそう問いかける。無言で頷き覚悟を決めた春陽に向かい銃弾を放った。

 一つは眉間に、一つは心臓にヒットし命中した箇所から赤い粉が舞い上がる。そう、二人が放ったのは非殺傷弾。決して彼を殺すつもりはなく、しかしある意味では彼を殺す目的で放たれた一発だ。

 痛みはないが、その衝撃で後退りした春陽はすぐさま顔を上げ弾丸を放った二人を見る。

 

 

 「これで "大量殺人犯 篠原春陽" は死にました」

 

 「今日からあなたはただの "喫茶リコリコ店員 篠原春陽" ね!」

 

 

 「………あぁ。二人とも、ありがとう!」

 

 

 生きている限り罪が消えることはない。けれど、それが原因で彼なら距離を置こうなどと彼女たちは考えなかった。

 せめてもの手向けとして生まれ変わらせるために放った弾丸は春陽から不安を全て消し去った。

 これでようやく真の仲間になれる。

 彼にはあまりに残酷な十字架を背負っている。一人で抱えることなど不可能。

 しかし、彼のそばには何人もの仲間がいる。もう、独りなのではない。

 

 仲間がいれば、それでいい。

 

 

 後に日本を飛び出し、とある国にて喫茶リコリコは再開するのだがそれはまた別のお話。




最後まで読んでいただきありがとうございました!

非常に拙く、設定も適当だったとは思いますが評価、感想していただけですごく嬉しかったです。
他にも多数の作品があるのでそちらも読んでいただけると幸いです。

それでは、またどこかの作品で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。