リリベルの異端児   作:山本イツキ

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評価、お気に入り登録ありがとうございます。


そろそろ戦闘シーンも執筆していくので、乞うご期待。


第三話 Challenge

 喫茶リコリコに勤務してから数週間が経過した。

 ミカから支給された黒色基調の和服もすっかり板につき、春陽自身も店に馴染んできた。

 お客さんとの会話もかなり慣れ、常連さん達も好んで春陽の作ったスイーツを食べてくれている。

 厨房スタッフとしてこれほど嬉しいことはないだろう。

 そして今日はリコリコの定休日。

 千束はクルミとVRのテレビゲームをして遊び、ミヅキはどこかへ外出。

 たきなは会計処理をしてミカと春陽はそれらを見守るように見ていた。

 横に並んで立つミカに話しかける。

 

 

 「そういえばたきなちゃんも本部にいたんですね」

 

 「そうだな。成績も優秀だったんだが、ある問題行動が原因で転属となった」

 

 「なるほど。一より全を重んじる本部からすれば組織からはみ出す人間は不要、と言っても過言じゃありませんね」

 

 「キミもそのうちの一人と聞いているが?」

 

 「ボクは決して優秀なんかじゃないですよ。優秀どころか並以下。銃もろくすっぽ撃てない、ただの足手まといなんですから」

 

 「足手まといなんかこの世にいない。キミも私たちにとって大切な家族だ」

 

 

 ミカはそう優しく春陽に言い、頭を撫でる。

 まだここに来てから日は浅いが、春陽にとってミカは父のような存在になりつつあった。

 そんな和やかな雰囲気の端で、千束は一人騒ぐ。

 

 

 「んぐぅ〜!!コイツ〜!!」

 

 「ゲーム如きでムキになりすぎだ」

 

 「そうだぞ千束。少しは静かに…………」

 

 「だってコイツ名前が……………むぐぐ…………」

 

 

 歯軋りを立て、何かに怒る千束。

 そこへたきながゆっくりと近づく。

 

 

 「何してるんですか?」

 

 「たきなっ!いいところに!……………ほいっ」

 

 

 千束はたきなにVRゴーグルをつけゲームコントローラーを渡す。

 ボクたちが見えるテレビには今たきなが見てる映像が映し出されていて、猫のようなキャラがこちらを撃ってきている。

 たきなはそれを縦横無尽に駆けて回避し攻撃を躱す。

 素晴らしい身のこなしだ。

 その場で一回転したところで千束は何かを見たようで叫び声を上げた。

 たきなの動きが止まると、ゲーム画面には "Winner!!" の文字が表示され、対戦相手に勝った通知を受ける。

 

 

 「流石はたきなちゃんだ。動きが軽やかだね」

 

 

 一連の動きに拍手すると、たきなはVRゴーグルを外し更衣室へと向かった。

 一方、頬を膨らませムスッとした表情を浮かべるのは千束だ。

 

 

 「ちょっと確認してくる」

 

 

 彼女はそう言い、たきなのいる更衣室へと入る。

 ミカと春陽は互いに顔を合わせて首を傾げると、すぐさま千束はたきなを連れて更衣室から出てきて、カウンターを勢いよく叩いてミカに詰め寄った。

 

 

 「聞かせてもらいましょうか!?」

 

 「何をだ」

 

 「たきなが男物のパンツを履いてる、り・ゆ・う!!」

 

 

 千束の発言に春陽は理解が追いつかず頭の上にはずっとクエスチョンマークが浮かび上がっている。

 

 

 「店の服は支給するから下着は持参してくれと言ったはずだが」

 

 「ボクも同じことをミカさんから聞きましたよ?」

 

 「だからってなんでトランクスなのよ」

 

 「店長の好みを聞いたらトランクス(これ)だというので」

 

 「アホか!!」

 

 

 つまり、たきなはどの下着を履いたらいいかわからずこの店のトップであるミカに聞いた結果このような事態を招いたらしい。

 履いてる本人が気にしてないから別に構わないと思うのだが、千束が誰よりも怒ってるのは甚だ謎である。

 

 

 「たきな、今から駅前行くよ」

 

 「仕事ですか?」

 

 「ちゃうわ!パンツ買いに行くの!!」

 

 

 千束はたきなの手を引き店を出る。

 春陽はそれを手を振って見送った。

 

 

 「ボクに聞かれなくてよかったです」

 

 「春陽お前、ノーパン派か?」

 

 「違うよ!」

 

 「アイツらは当分帰ってこなさそうだな。それじゃあ、春陽。地下に行こうか」

 

 「地下、ですか?」

 

 「ああ。そこに射撃場がある。少し練習してみないか?」

 

 「僕もいく。見ておいて損はないだろう」

 

 「………………わかりました。せっかくのミカさんの提案ですし」

 

 

 春陽は渋々と言った感じでその案にのった。

 キッチンを越え、幾多の和室をくぐり抜けた後に地下へと続く階段を降りると、そこにはDAの訓練場で見慣れた景色がそこにはあった。

 人型の的、区切られた射撃スペース。

 嫌というほど見てきたあの光景だ。

 

 

 「どうした?顔色が悪いな」

 

 「少し、嫌な思い出があるんです」

 

 「射撃成績が悪かったとかだろ?安心しろ。ミカに教われば誰でも上手くなる」

 

 

 そうじゃない、と春陽は顔で否定する。

 

 

 「………………まずは、話を聞くことからスタートだな。場所を変えるか?」

 

 「いえ、ここで大丈夫です……………」

 

 「僕は上からお茶を持ってこよう」

 

 「ああ。頼む」

 

 

 クルミはこの場を離れ、射撃スペースの後ろにある丸椅子に二人で腰を下ろす。

 

 

 「それで、射撃できない理由はなんなんだ?」

 

 「……………昔は、こうではありませんでした」

 

 

 リリベルにとって射撃は必須。

 もちろん春陽も人並みには射撃技術はあった。

 しかし、とある事件で経験した弾詰まりのせいで救えるはずの命を救えたかった。

 それも、自分にとって大切な人を。

 その経験が足枷となり、春陽は引き金を引くことができなくなってしまった。

 また、あの時と同じことが起きてしまったら───────。

 そのようなネガティヴなことが思考をよぎり指を硬直させるのだ。

 

 

 「そのようなことが…………」

 

 「おーい。お茶が入ったぞー」

 

 

 クルミは熱い紅茶をそれぞれに手渡す。

 彼女も春陽の隣に座り耳を傾ける。

 

 

 「それで、銃の点検は誰がしていたんだ?」

 

 「普通はDAの整備班がするんだよ、クルミ()()()

 

 「おいおい、ちゃん付けはよせ。こう見えてお前より年上だぞ?」

 

 「えっ!?」

 

 

 思わずと言った感じでミカに視線を送るが、苦い表情を浮かべそのことが事実だと伝えられた。

 

 

 「てっきり小学生くらいの子供かと……………」

 

 「口を慎めよガキんちょ。僕は天下のスーパーハッカー、"ウォールナット"なんだからな!」

 

 

 丸椅子の上に立ち、堂々と胸を張る。

 

 

 「クルミ!」

 

 「………………あっ」

 

 

 しまった!と言わんばかりに大きく口を開け胸を張ったまま目だけを春陽に向ける。

 もちろん春陽もウォールナットという名前には聞き覚えがあった。

 年齢不詳で世界一とも名高い正体不明のハッカー。

 DAの情報では既に死んだと言われていたが、まさかクルミが?

 リコリコに来てから春陽は首を傾げっぱなしだ。

 

 

 「おーい、春陽ー?」

 

 「ああ。ごめんなさい。ちょっと脳の処理が追いつかなくて」

 

 「このことは他言無用で頼む。DAも今、血眼で探してる存在だから」

 

 「わかりました」

 

 「まあ、僕が公に出たところで信用される可能性はゼロに等しいだろうけどな」

 

 「ちなみにクルミさんは今おいくつなんですか?」

 

 「秘密だ」

 

 

 クルミはそう言い視線を外す。

 話し方や知識、その落ち着きっぷりはミカとタメを張るものがある。

 良いように言えば『見た目の割に大人っぽい』。

 悪く言えば『ロリババァ』と言った感じだろう。

 

 

 「話が少しずれてしまったな。そろそろ再開するとしよう」

 

 

 仕切り直すようにミカはそう言い、射撃スペースにある拳銃を一つ手にして春陽に差し出す。

 

 

 「怖いか?」

 

 「…………………はい」

 

 「不発する可能性はない、と言っても信じてはもらえないだろうな。ならいっそ、拳銃で戦うスタイルを捨てよう」

 

 「スタイルを、捨てる?」

 

 

 ミカの提案は驚くべきものだった。

 本来リコリスやリリベルたちは銃を用いて敵を殲滅する部隊だ。

 隠密に、かつ素早く任務を遂行しなければならない。

 そのためには銃を使用するのが一番手っ取り早く、効率がいい。

 何せ、引き金を引いてしまえば敵は死ぬのだから。

 ミカは武器庫へと向かうと、長方形の木箱を持ってきて足元に置く。

 

 

 「開けてみてくれ」

 

 

 春陽にそう告げ、箱を開けるとそこには1.8メートル近くもある薙刀が収納されていた。

 楕円形の柄は綺麗な青色で、穂にも傷ひとつなく切れ味も申し分なさそうだ。

 穂の反対側、石突を地につけ持ち上げる。

 

 

 「ミカさん、コレは?」

 

 「知り合いに譲ってもらったものだ。どうだ?実際に持ってみて」

 

 「桁違いに重いですね。これだと撃たれて死ぬのが目に見えています」

 

 「それはどうかな。実際にやってみたほうが早い」

 

 

 ミカは壁についていたボタンを押すと、射撃スペースが機械音と共に下へと収納され、巨大なモニターが正面に現れ、下から白の正方形の小さい台と共にVRゴーグルと1メートルほどの鉄棒が出てきた。

 

 

 「それは千束がゲームで使っていたものと同じものだ。VRといえど持っている質量はさっきの薙刀と変わらない」

 

 「あっ、ほんとだ」

 

 「なるほどな。この狭いスペースをふんだんに使えるようにしたわけか。一体いくらかかったんだか」

 

 「いい仕事をするには日々の研鑽が必要不可欠だ。キミたちのためならいくらでも支援しよう」

 

 「ありがとうございます。ミカさん」

 

 「さあ、敵は目の前だ。倒して見せなさい」

 

 

 モニターには春陽が今見ている映像が映し出されている。

 敵は銃を手にし、どこかの廃工場で向かい合い剣先を向けている。

 実際には春陽は鉄棒を持っているのだがモニターにはさっきと同じ薙刀が表示されている。

 今春陽が手にしているのは薙刀同然のものだ。

 敵は銃を向け発砲する。

 しかし、春陽はそれを避けることができずHPが大幅に削られてしまった。

 

 

 「くっ……………」

 

 「焦る必要はない。敵の射撃タイミングを見切ってその薙刀を振るうんだ」

 

 「タイミングを、見切る」

 

 

 再び、敵は銃を発泡する。

 春陽は間一髪半身になってかわし、一気に距離を詰め薙刀を振り下ろした。

 たきなとは違って身軽さや軽快さといったものは決してないが抜群の反射神経で弾を回避し敵に致命傷を与えた。

 ド派手に血飛沫を上げる敵は地面に倒れ、モニターには "Winner!!" と表示され、春陽はゴーグルを外す。

 

 

 「これ、死んじゃってないですか?」

 

 

 あまりのリアルな映像に春陽が少し引いている。

 

 

 「峰打ちを覚えなさい。そうすれば深い傷を負おうとも、死ぬことはない」

 

 「時間がかかりそうですね」

 

 「実際には敵と一対一で向かい合うことなんでまずない。不特定多数の敵と交戦できるように精進しよう」

 

 「はい!」

 

 

 それからも訓練は続き、終える頃には夜を迎え千束たちが帰還した。

 いずれ彼女たちと共に戦うこともあるだろう。

 せめて足だけは引っ張らないように力をつけようと、春陽は心の中で決心する。




決してとある漫画の化物ジジイをモデルにしたわけではございません。

あくまでスピードを活かした戦闘スタイルなので、あんなパワーは彼に備わっていません。
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