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今回はいよいよ初実践、その前編です。
薙刀での訓練を始めてしばらく経ったある日、喫茶店以外での仕事が初めて舞い込んだ。
「はいはい、みなさんちゅうも〜く!」
千束が腕を大きく振り、全員を集める。
手には何かの資料を手にしており、これからその仕事内容を話すのだろう。
「それで、要件はなんですか?」
「これから話すから焦らない焦らない♪」
「初めてだね。喫茶店以外での仕事は」
「春陽が来る前まではそれなりにあったんだけどな。地下鉄脱線事故(笑)から事件が頻繁に起こり始めてる」
「ああ、DA本部も絡んでるって噂の」
「千束、もったいぶらず早く話しなさい」
「はーい」
ミカさんに宥められ、千束は紙に書かれたことを朗読する。
「依頼主は
「ヘェ、"マイマイ" か」
「知ってるんですか?春陽」
「今じゃ飛ぶ鳥を落とす勢いのある有名なアイドルだよ。ほらっ」
春陽はそう言い、携帯の画面を見せるとそこには依頼主の記事が掲載されていて、その凄さがよくわかる。
曲を出せばオリコンランキング上位に必ず食い込み、テレビに出ればその番組の視聴率が跳ね上がるまさに超人気者。
一昔前までは全く認知されない存在だったのだが、ネットを通じ曲を出すことで一躍有名に。
今や時の人として引っ張りだこの人物だ。
「そんなアイドルがなぜ私たちに依頼を?」
「なんか事務所に脅迫状が届いたらしくて、心配になって警察に相談したらしいんだけど相手にしてくれなかったんだってさ」
「確かに難しいかもしれないね。事が起きてからだと遅いとはいうけど、全てを相手にしていたらキリがない」
「そんな有名人の依頼となると、相当金を積まれたんじゃないか?ミズキ」
「ニヒッ、もちろん♪」
ミズキは白い歯を見せ嬉しそうにピースする。
「お金をもらったからにはちゃんと仕事をしないといけないね。千束ちゃん、日取りはいつ?」
「今日の18時決行です!その前に、そのアイドルと直接お話しする機会がありまーす!」
「よかったな、アイドルと会えるぞ?」
クルミが悪戯な笑みを浮かべ肘でハルヒの脇腹をつく。
「はははっ、ボクはそんな熱狂的なファンじゃないですよ」
春陽は笑って返した。
リコリコを出るまでは各自自由時間となったところで春陽は訓練に励もうと地下にある訓練所へと向かう。
ちょうどその後ろにたきなの姿もあった。
そんな彼女に声をかける。
「たきなちゃんも訓練?」
「はい」
「ちょうどよかった。たきなちゃんの射撃技術を見てみたかったからさ」
「そうなんですか」
「うん。千束ちゃんは?」
「千束は……………またゲームだと思います」
「はははっ。好きだねぇ」
「もはや、やりすぎの域に入ってますよ」
たきなは呆れた様にため息をつく。
「夢中になるものがっていいんじゃないかな。たきなちゃんはそういうものはないの?」
「ありません。今はただ、本部に復帰することしか頭にないので」
「そっか」
たきなは真面目な子だ。
命令に忠実で、些細なミスの一つも起こさない優秀なリコリス。
今、射撃の訓練をしている姿を後ろでただ見ている春陽はそれをひしひしと感じている。
的の穴は一箇所に集中し、確実に急所を射抜く正確性がある上に撃つスピードが異様に早い。
リリベルにだってこれほどの射撃技術のある人はそうはいない。
そんな優秀な人材をたった一回の命令違反で転属させるDAは鬼と言える。
「あの、見てるだけでいいんですか?」
顔だけを春陽に向け、そう問いかけるたきな。
「うん。なんだか見惚れちゃって」
「なんですかそれ」
「構わず続けて。邪魔するつもりはないから」
「わかりました」
たきなは再び窓に視線を移し、銃を撃つ。
これなら万が一が起きても、たきな一人で解決できるだろう。
春陽はそんなことを思い、出発までの時間をたきなの射撃訓練を見て過ごした。
……………………
…………
外は夕方を迎え、日が沈む様子を眺めながら車移動の時間を潰す。
「春陽くんはキンチョーしてるのかな〜?」
隣に座る千束は覗き込むように彼を見る。
「そりゃもちろん。訓練はしてきたつもりだけど、本番は始めてだからどうなるかわからないからね」
「大丈夫大丈夫!この千束さんに任せておけば万事解決よ!」
千束は胸を張り豪快に笑って見せる。
春陽は普段の生活でしか彼女のことを知らないため、一抹の不安があった。
「あっ、旧電波塔」
夕陽に照らされた電波塔は朝見た時とは違う、別の美しさをか持ち出していた。
その光景を見て彼は思い出す。
この電波塔を救ったというリコリスの話を。
「もしかして電波塔を救ったリコリスっていうのは、たきなちゃんのことなのかな?」
「違いますよ」
助手席に座るたきながキッパリと否定する。
「じゃあ一体誰が……………」
「そこにいるでしょうが。ほらっ」
車を運転するミズキが指差す方、それは千束を示していた。
「えっ?本当に?」
「本当のほんと」
「Really?」
「Really、Really」
「これは……………驚いたな」
灯台下暗しとはよく言ったものだ。
噂に聞いていた歴代最強のリコリスは自称リコリコ看板娘を名乗るゲーマーだったとは。
驚愕し、ポカンと口を開ける。
「どう?びっくりした?」
「いまだに信じられないよ」
「実際みればわかります。千束がいかにすごいかを」
「たきなちゃんが褒めるぐらいだから間違いないだろうね。楽しみにしてるよ」
まあそんな状況が起きてはいけないのだが。
事務所届いたと言われている脅迫状が本物かどうかはライブが始まったらわかること。
4人は勢いよくライブ会場へと向かう。
都内で最も広大な敷地を持つドーム。
そこが、今日の依頼主がライブをする会場だ。
中に入るにはチケットの確認をするスタッフ、手荷物検査と金属探知を行うスタッフとで三重の構えを誇る。
万が一が起きてもドーム内には何人もの警備スタッフが常に巡回していてネズミ1匹まともに動くことはできないだろう。
これで犯人が依頼主に近づこうもんなら、もうこれは犯人が一枚上手…………なんて言い訳はできない。
やれることをやり、確実に事を起こさせないように尽力しなければならないのだ。
「はーい、みなさんこちらですよー」
千束に連れられドームの中を歩く。
通路から観客席へと降り、ステージへと上がる。
そのまま袖舞台へ向かうと、黒い大カーテンが降りたところをくぐり抜け細い廊下に出た。
そこにはいくつもの楽屋があり、その一室に彼らの依頼主の名札がついた部屋が目に入った。
こんこんっと、数回ノックし部屋の中から声が聞こえたのを確認し中へ入る。
「失礼しまーす」
千束が一番に入り、他の3人もゾロゾロと入室する。
「お待ちしてました!喫茶リコリコの皆さん!」
元気いっぱいの笑顔で出迎えてくれたのは、依頼主、白山 真依奈だ。
下ろした薄いピンクのロングヘアにはいくつもの装飾品が付けられ、フリフリとした可愛らしいドレスはまさにアイドルそのものだった。
「あらまっ可愛い〜!」
「えへへ、ありがとうございます!」
「すごい衣装ですね」
「私はこの歳では着れないな〜」
「冗談は口だけにしろ酔っぱらい」
「んだとコラ!」
「あ、あはは」
3人が話す中、春陽は一人距離をおき通信用で手渡されたインカムをクルミ個人に繋げる。
彼女は今、喫茶リコリコで電脳戦専門と称してミカと共に彼らをバックアップしている。
「クルミさん」
『なんだ?』
「ドーム周辺、内部の監視カメラ映像はハッキングできましたか?」
『当然だ。過去のログもあらっているが不審な人物はいないな』
「わかりました。引き続きサポートお願いします」
そう言い残しインカムを切る。
「あれ?あなたは見かけない顔ですね」
3人から離れ、真依奈は春陽に近づいた。
「初めまして。喫茶リコリコの新人アルバイト、篠原 春陽です。以後、お見知り置きを」
「アルバイトさんなんですね!改めまして、白山 真依奈です!」
「あっ、春陽〜。言ってなかったけど真依奈さんはうちの常連だから丁重に接してね〜」
「なるほど。通りで仲がいいわけだ」
「最近は忙しくてお店に行けてないんですけどね。たきなちゃんともまだ一回しか会った事ないからわかんなかったかな?」
「はい、すみません」
「またいつでもおいで」
「はい!もちろん!」
輝くような笑顔が眩しい依頼人。
人当たりもいいし人気が出る理由もよくわかった。
しかし気掛かりなのは、そんな人物に脅迫状が届いたという事だ。
春陽は携帯を開き、保存されたその内容を見る。
『此度行われるライブを中止にしなければ、ステージ上にて白山 真依奈は狙撃され死ぬ事になる。お前は邪魔な存在だ。これ以上目立つ必要はない』
というものだ。
一方的な逆恨みとも取れる文章だが、シンプル故に犯人像が見えない。
真依奈の知り合い?
このライブの関係者?
はたまた第三者の存在?
誰が相手だろうと彼らは必ずこのライブを完遂させなければならない。
白山 真依奈のこれからの人生のために、そして自分たちの価値を見出すために。
次回はこの後編を執筆します。
とうとうアイツも登場するかも?
乞うご期待ください。