リリベルの異端児   作:山本イツキ

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第七話 Sad Past

 喫茶リコリコについた一同は、各々が傷の応急処置を行う。

 幸い、全員軽傷で済んだようだ。

 

 

 「みんな、災難だったな」

 

 「元はと言えばアンタのせいでしょうがっ!」

 

 「うえっ」

 

 

 一人床に正座させられるクルミにミヅキはそばに置いてあったお盆で頭を叩く。

 

 

 「店長。春陽の様子はどうですか?」

 

 「ぐっすり眠っているよ」

 

 

 眠りについた春陽は未だ目覚める様子はなく、畳の床に寝かせる。

 

 

 「春陽は問題なさそうだな。次は千束の番だ」

 

 「はーい」

 

 

 千束はミカの隣に座り、左腕に包帯を巻く。

 

 

 「それにしても驚いたなー。春陽にあんな一面があったとは」

 

 「ほんとほんと。ドラマとかに出てくる殺人鬼といい勝負してたわ」

 

 「拘束用銃がなければ捕らえるのは難しかったでしょうね」

 

 「そんなに凄かったのか?」

 

 「すごいのなんの、敵をみーんな斬っちゃうんだから」

 

 「味方としては心強いですが、あの様子だとこっちにも矛先が向きそうです」

 

 「おいおい勘弁してくれよ。僕は電脳戦専門だから生身だとひとたまりもないぞ」

 

 「そのことなんだが……………」

 

 

 女性陣の会話にミカが割って入った。

 

 

 「みんなに、話しておかなければならないことがある」

 

 「話って春陽についてですか?」

 

 「そうだ。私が知ってることを全て話そう」

 

 

 ミカは神妙な面持ちで語り始めた。

 春陽の過去。

 銃を撃てなくなった訳。

 伊達メガネをかけている理由。

 DA本部から聞いたことと、春陽本人から聞いたことを全てリコリコ一同に話した。

 

 全てを聴き終わると、全員が真剣な顔つきでそれぞれの思いを述べる。

 

 

 「春陽にそんな過去が…………」

 

 「重いなぁ、私には重すぎるよ」

 

 「優しい顔して結構えぐい経験してんのね」

 

 「普段の様子を見る限り信じられないな。ミカ、なぜ話さなかった?」

 

 「春陽から話さなくていいと言われていたからな。私から他言するわけにはいかなかった」

 

 

 優しい彼らしい理由だ。

 そう全員が共感した。

 

 

 「とりあえずメガネが制御装置ってわけ?」

 

 「そんな人をロボットみたいに言わなくても」

 

 「日常生活でもメガネを外すようなイタズラは無しな」

 

 「そんなしょーもないことすんのはアンタか千束だけでしょうがっ!」

 

 「しなくてよかったわ〜ホントッ」

 

 「やめてくださいね」

 

 「約束は守る。春陽のためにもな」

 

 「今日はもう遅いからみんなゆっくり休むといい。明日からまた仕事があるからな」

 

 『はーい』

 

 

 傷の処置を終えた全員がそれぞれ帰路に着く。

 ミカは眠りにつく春陽に布団をかけ、自室へと戻っていった。

 

 

 一方その頃、ハッカーことロボ太宅にて。

 彼のいる部屋の扉を蹴飛ばして開け、驚かせる。

 

 

 「おいっ!もっと静かに開けろよ!」

 

 

 頭のランプが赤く光るロボ太のそんなツッコミなどいざ知らず、真島とその部下たちは無言のままヅカヅカと部屋に入り、挙句の果てには彼から椅子を取り上げそこに腰を下ろす。

 必然的にロボ太は床に座り、皆から見下ろされる形で正座することとなった。

 

 

 「な、何の用、ですか?」

 

 「……………………」

 

 

 いつもは饒舌に話す真島が黙りだと周囲に緊張が走る。

 ロボ太もそれを肌で感じているだろう。

 

 

 「あ、あの〜………………」

 

 「よう、ハッカー」

 

 「はい〜っ!」

 

 

 ようやく口を開いた真島は、ロボ太に顔を近づけ白い葉を見せ笑って語り始めた。

 

 

 「面白い奴らを見つけたな」

 

 「へ?」

 

 「アランリコリスにイかれたリリベル…………アイツらじゃなきゃ俺とはバランスが取れねぇ!」

 

 「一体何を…………うぐっ!」

 

 

 困惑するロボ太の胸ぐらを掴み、真島は楽しそうに話を続ける。

 

 

 「アイツらは一体何者だハッカー!?面白れぇ…………今は最高の気分だ!!」

 

 「り、リコリスはともかく、リリベルってどういうことだ?」

 

 「何だよ知らねぇのかよ。ったく」

 

 

 真島は落ち着きを取り戻したかの様に再び椅子に腰を下ろした。

 ロボ太も必然的にその場に正座する。

 

 

 「アラン機関の援助を受けたリコリスと対峙した。そいつは人を殺せない弾で俺の仲間を何人も始末しやがった」

 

 「そいつが今回のターゲットだったんだろ?」

 

 「そうだ。それに加えてあの男…………顔も名前も知らねえが囲っていた仲間数十人を一瞬で致命傷を与えた。みろ」

 

 

 真島はシャツを捲ると、そこには春陽に食らった蹴りの跡が痛々しく、くっきりと残っていた。

 

 

 「たった1発でこれだ。おかげで何本かはポッキリ折れただろうよ」

 

 「リリベルは極端に情報が少ないから何とも…………それに、リコリスとリリベルが手を組むなんてまずあり得ないだろ」

 

 「そんなこと俺が知るかよ。現に俺の目の前に現れやがったんだ」

 

 「と、とにかくこれで関心は奴らに向けられ……………うっ!」

 

 

 真島は三度立ち上がり、ロボ太とわずか数十センチまで顔を近づけこう告げる。

 

 

 「これから忙しくなるぞ?奴らのことをもっと調べて俺に教えろ!!」

 

 「えっええ〜〜!!」

 

 

 思わぬ形でロボ太の願いが叶った。

 

 

 

…………………

 

 

…………

 

 

 

 車の中で意識を失ってから、春陽は夢を見ていた。

 銃声が鳴り響き土煙が立ち上る戦場。

 そうだ、いつも見る悪夢だ。

 しかし今日はいつもと違い、犯人の顔が鮮明に浮かんできた。

 ボサボサの緑髪で白の目隠しをした男。

 

 そう、コイツだ。

 

 

 コイツが──────を!!

 

 

 「……………………」

 

 

 男は春陽に対して何か話しているが聞き取れない。

 懸命に耳を研ぎ澄ますも、再度男が口を開くことはなく掴み上げていたリコリスの脳幹を撃ち抜いた。

 

 

 それと同時に春陽は勢いよく目を覚ます。

 乱れた呼吸を整え、自然と流れていた涙を指で拭う。

 

 

 「また、あの夢か………………」

 

 

 キーンッと頭痛が響く頭を片手で抑え、ある人物の名を呟いた。

 

 

 「………………ごめんね、詩音(しおん)……………」

 

 

 拭ったそばから涙が再び流れる。

 その様子をミカはカウンターからそっと見守っていた。

 その視線に、春陽は気づいた。

 

 

 「おはようございます。ミカさん」

 

 「ああ、おはよう」

 

 

 何事もなかったかのように挨拶を交わすミカ。

 春陽は布団を畳み、立ち上がった。

 

 

 「昨日はご迷惑おかけしてすみませんでした」

 

 

 深々と頭を下げ謝罪する春陽に、ミカは声を荒げることも手を上げることもせずただただその頭を撫でた。

 

 

 「むしろこっちが迷惑をかけた。心労をかけてすまなかったな」

 

 「い、いえ……………ミカさんが謝るようなことは、なにも……………」

 

 「今日は休みなさい。まだ疲れているだろう」

 

 「……………お気遣い感謝します。しかしみなさんの、いや、自分自身のために今日も働かせてください。お願いします」

 

 「そうか、わかった。まずは体を洗ってきなさい」

 

 「はい!」

 

 

 ミカからバスタオルなどを受け取りシャワー室へと向かう。

 所々見える傷も、昨日ついたのもだろうと春陽は考えているが、彼自身真島と交戦した記憶はない。

 いや、正確に言えばメガネを壊された瞬間からと言える。

 その時から完全な人格が入れ替わり、別の春陽が体を乗っ取ったのだ。

 

 服を洗濯機に入れ、シャワーを浴びながら昨日のことを思い出す。

 ……………やはり、覚えているのは車を破壊したところまでのようだ。

 そこから先は真っ白。

 どうやら思い出せそうにないらしい。

 

 

 (あの男………………どこかで……………)

 

 

 遠目ではっきりとしなかったが、見覚えのあるシルエット。

 それが無くなった記憶の鍵になりそうだと春陽は考えた。

 

 

 「とにかく、今からは仕事に集中しなくちゃ!」

 

 

 頬を数回叩き気合いを入れたところで、シャワー室の扉をガラッと開ける。

 そこには常人より一回り小さい影がポツンと立っていた。

 

 

 「あっ…………………」

 

 「…………………………えっ?」

 

 

 二人して目が合う。

 

 

 「その……………目覚めたんだな」

 

 「ご、ご迷惑………………おかけしてます……………」

 

 「す、すまん。すぐに出る!」

 

 

 その小さい影は顔を真っ赤にし勢いよく扉を開け、部屋を出た。

 扉の向こうでミカにやいやい言ってる声が聞こえてくるが、春陽にもミカにも非はない。

 たまたま、本当にたまたまそこに居合わせた、不慮の事故だ。

 自分より年上とは言え女性は女性。

 見せてはいけないものを見せてしまったと後悔の念に見舞われる。

 

 

 「はぁ、また謝ることが増えちゃったなぁ…………」

 

 

 洗濯機、そして乾燥機が服をキレイにするまでシャワー室で一人寂しく待ち続けた。




今更知ったんですけど、リコリスのランクってファーストからサードまであるんですね。

見返すまで知らなかった…………。


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