クルミからの要望だったスイカスイーツの評判が良く、今日はいつも以上に大忙しだ。
中でもスイカのジェラートは絶品でSNSでも広く知れ渡ることとなり、評判に拍車をかけた。
そんな最中、リコリコに電話が入る。
「はい、カフェリコリコ」
ミカがその電話を出る。
数秒の沈黙の後、春陽を呼び出した。
「春陽〜!電話だー!」
調理を一度止め、電話に出る。
「お電話変わりました。篠原 春陽です」
『私だ』
顔はわからずとも、その渋い声で誰かすぐに把握した。
DAの上層部、虎杖だ。
『どうだ?ミカくんに迷惑はかけていないかね?』
「さあ、どうでしょうか」
『まあどうでもいいことだ。お前に通達がある。今日これからライセンス更新に来てほしい』
「随分と急ですね」
『こちらの手違いで伝え忘れていた。何せ本部にいないリリベルはお前だけだからな』
皮肉で言ってるのだろうが、春陽は怒りや憎しみなど感情を向けることなく淡々と話を続ける。
「わかりました。すぐそちらに伺います」
『受付に書類は渡しておく』
「了解しました」
春陽はすぐに電話を切り、ミカにこのことを伝える。
「すみません、ミカさん」
「気にするな。空いた穴はクルミに手伝ってもらう」
「しかし……………」
「リリベルを続けるためには必要なことだ。そんなに心配なら早く行って早く帰ってこればいい」
「わかりました。すぐに戻ります」
すぐさま用意を済ませ、店のそばに置いてあったバイクにまたがり急いで発進する。
春陽が不安に思っていたのは店のどうこうというより、クルミ本人にあったのだ。
ずっと押入れの中にいたクルミはミカに呼ばれ店の手伝いを始めたのだが、すぐさまトラブルを引き起こした。
「おわっ!」
お盆に載せていたティーカップを滑らせ落としたのだ。
もちろんわざとではないが、電脳戦以外の彼女はただのポンコツに近い。
割れたコーヒーカップをミズキとたきなが急いで片付ける。
『早く帰ってきてくれ!春陽!』と皆が心の中で叫び仕事に励む。
片や店の現状を知らない春陽は本部に着くとすぐに受付を済ませ、医療棟へと向かい歩いていると久方ぶりに見る顔と出会う。
「おぉ、春陽じゃねぇか」
春陽がリコリコに転属する日に駐輪場で出会ったセカンドリリベルだ。
手を軽くあげ近づく。
「どうも」
「おいおいつれねぇなぁ、俺たち友達だろ?」
「そう思ってくれてたんだ。意外だね」
「お前今から体力測定だろ?俺もそうなんだ。一緒に行こうぜ」
春陽は無言で頷き、二人並んで医療棟へと向かう。
その道中、セカンドリリベルは一人楽しそうに話を続ける。
「調子はどうよ」
「いつも通りだよ」
「いつも通り、ねぇ」
セカンドリリベルは笑みを浮かべながらも不服そうな様子を見せ、春陽の肩に腕を回すと耳打ちする様な声量で話す。
「あんま調子に乗るんじゃねぇぞ。同じセカンドでも俺とお前とじゃあ天と地の差があるんだ。その空っぽの脳によーーく焼き付きておけ」
自分の言いたいことを言い終わると肩を突き、一人スタスタと先を歩く。
結局彼は春陽を見下したかったがために近いてたんだろう。
実に小さい男だ。
春陽は特に言い返すことも、彼の歩行速度に追いつこうともせず一人で医療棟へと向かう。
…………………
…………
場面は変わり喫茶リコリコへ。
休憩時間に入った、千束、たきなは追い出されたクルミと共にとある一室で話をしていた。
「ホントッ、クルミはネット以外だとダメダメだね〜」
「うっ」
「せめてお皿を割るのはやめてください。タダじゃないんですから」
「は、反省してる」
側から見れば、末っ子に説教している二人の姉という図なのだが実際に1番の歳上は正座させられ怒られているクルミなのだ。
歳が違えど得意不得意がある。
実にわかりやすい関係性だ。
「春陽、帰ってこないな」
「結構時間かかるからね〜。帰ってくるとしたら夕方とかじゃない?」
「その時間だとピークはもう過ぎてますね」
「誰かさんがもう少し使えたら話は別だけど」
「善処はする…………」
クルミは苦い表情を浮かべそう宣言する、
「そう言えば、春陽って身体能力的にはどうなんですか?」
「え?さあ………………」
「僕も知らないな」
春陽とは数ヶ月共に過ごしているが、彼のことを全て知っているといるとそれは間違いだ。
任務も度々こなすが、走って、跳んでといった動作は殆ど見たことがない。
基本はリコリスの二人が射撃で制圧し、撃ち漏らした敵を春陽が片づけるといった戦術ばかりな為、本気を出した彼の動きは未知数とも言える。
「足は速そうに見えるんですけど、正直謎な部分が多いんですよね」
「そうそう!実は、ああ見えて結構筋肉ついてるしね。腕を捲った時に確認した!」
「目がいいとやはりどうでもいいものを見てしまうんだな」
「どうでもよくないですよ。春陽は薙刀を使うんですから」
「確かに」
「でもDAからは不要な存在として認定されていたんだろ?アイツ自身そう言っていたことだし」
「それは射撃ができないからだけでは?」
「情報が少なすぎて何とも言えないねえ」
『うーーーん……………』
謎が再び謎を呼ぶ。
そして、ミカに呼び出され休憩が終わると二人は店に戻り、クルミは押し入れに戻りDAの情報を覗く。
「何か見つかるといいんだが」
そんな期待を胸にモニターを見る。
場面は再び変わり本部へ。
医療棟に着いた春陽は着替えを済ませて、嫌味を言ってきたセカンドリリベルと共に体力測定に臨む。
ニヤニヤと得意げな男に対し春陽は落ち着いた様子。
春陽はわかっているのだ。
こんなことをしても、自分にとって利益になることは決してないと。
まずはスタミナ測定。
ランニングマシンの上を二人並んで走るが、セカンドリリベルは30分ほどでダウンし、春陽はその倍以上走り続けた。
反射測定において春陽は、どのリリベルよりも高い数値を記録し、俊敏測定の反復横跳びでも同様だ。
「はぁ、はぁ……………テメェ!」
膝に手をつき息が乱れたままセカンドリリベルは横目でキッと睨んでいた。
そんな男を春陽は何食わぬ顔で見ていた。
「もうバテたの?」
「うるせえ!テメェと違ってこっちはここ最近任務任務で忙しかったんだよ!」
見苦しい言い訳ばかり並べる男に春陽は呆れる様にため息をつく。
その後も測定は続きいよいよ大詰め。
それまで全て春陽が数値で圧勝していたが次の測定は男が最も得意としてるものだった。
それが短距離走。
100メートルを何秒で走れるかという単純なものだが、男は瞬発力に相当自信がありそれだけはファーストクラスにも引けを取らない実力を誇っていた。
(これなら奴に勝てる……………!)
今まで屈辱的な気分を味わっていたが、これで圧倒し見返すことができる。
男はそう確信していた。
一方、春陽は他の測定同様、平常心で臨む。
二人並んでスターティングブロックに足をかけ、合図を待つ。
『On your marks──────Set』
ピストルの合図と共に二人してスタートを切る。
勢いよくスタートダッシュを切った二人だったが序盤にして勝敗は喫していた。
「な…………………なにぃ!?」
どれだけ腕を振ろうとも、どんなに足を上げようとも春陽との差は縮まるどころかむしろ広がり続けた。
トップスピードに乗った春陽は更に加速しあっという間にゴールへと辿り着く。
記録、9.17。
かつて世界記録を樹立したジャマイカの陸上選手ですら9.58であるから、その記録の異常さが見て取れる。
対してセカンドリリベルは11.49。
17歳にしては十分と言えるほど速いが、比べる相手が違いすぎる。
「はぁ、はぁ……………この、俺が……………こんな、役立たずに……………!!!」
怒りで目が血走るセカンドリリベル。
息切れ一つ起こしていない春陽は、最後の測定に臨むべく次の場所へと向かう。
その直前、顔だけを男に向けこう言い捨てる。
「人を見下すのは、ファーストになってからにしたらどうかな。同じセカンドリリベルなんだから」
「くっ………………!」
座り込む男の手に力が入る。
「ところで……………名前、なんていうんだっけ?」
「小田巻………………
「そっか。キミにお似合いな名前だね」
オダマキ、その花言葉は "愚か" 。
人を見下し、あたかも自分の方が優秀だと勘違いしている男に対し、まさにピッタリな名前だ。
彼のプライドはズタズタに引き裂かれたことだろう。
その後行われた最後の測定、射撃測定においては春陽は『No Date』つまり放棄した。
この結果がなくてはリリベルにおいての存在価値を数値化できず、春陽は本部に戻ることはできない。
しかし、彼はそれでも構わないと思っている。
本部にいた頃よりも、喫茶リコリコにいる今の方が遥かに居心地がいいからだ。
健康診断も難なく終わり、リコリコへ戻ろうとしたその時、小田巻が突如春陽の肩を掴んだ。
「待てコラァ!」
顔だけを彼に向けるがその表情は怒りに満ち溢れ、真っ赤に染まっていた。
「テメェ、ふざけたマネしてんじゃねぇぞ!!」
小田巻の怒号がフロント内に響き渡る。
このフロアは今、二人の瞳孔に視線が向けられていた。
「ふざけてるもなにも、これがボクなんだけど」
「俺は納得しない!だから、今から俺と模擬戦をしろ!!」
小田巻の自分勝手な考えが理解できず、春陽は首を傾げる。
「何故?」
「決まってる。俺がお前をぶちのめしたいからだ」
「喫茶リコリコのみんなが待ってるんだ。申し訳ないけど、その提案には乗れない」
「ハッ、逃げるのか?どうせ銃が撃てないから怖いんだろ?ああっ!?」
「そんな安い挑発には乗らないよ。キミはボクに勝ってるから本部にいる。それで十分じゃないか」
「いや、そうとは言い切れないな」
二人の間に、側から見ていた虎杖が割って入った。
それを見て小田巻は深々と頭を下げるが、春陽は何食わぬ顔で虎杖と言葉を交わす。
「虎杖司令。先ほどの言葉の説明を願います」
「文字通りの意味だ。測定された数値はきちんと記録に残され、上層部に提出される。それを見てリリベルのランクを決定つけるのだ」
「それでも使えないと判断したからボクは転属になったんでしょう?」
「その通りだ。リリベルにおいて最も必要な項目をお前は放棄した。これは他のリリベルに、そして我々上層部に対して侮辱してることに等しい」
「侮辱ですか。そちらがどう思ってようが知りませんが、ボクはあなた方を必要としていません。ミカさんが、あの場所があれば」
「こっちだって射撃のできないリリベルは必要ないし、本部に戻すきも毛頭ない」
淡々と二人は話しを続ける。
「では、ボクが彼の申し出を受ける必要はありませんよね」
「じつは、上層部からある通達を受けた。『身体能力だけ良いリリベルにライセンスを渡して良いのか?』と」
「解雇したところでなんの利益も生まずゴミ同然となりうる人間を手放せないと言ったのはあなたです」
「上はそう考えなかったらしい。使えないのであれば処分する。これは決定事項だ」
なんとも雑な考えだ。
処分、つまり結果を残せないのであれば春陽は殺され存在を無かったことにされる。
春陽が申し出を受けるには十分すぎる内容だった。
「なるほど、彼との模擬戦でボクの存在価値を示せと」
「その通りだ。ちなみに拒否をするのであれば今ここで君を処分するつもりだ」
虎杖のそばにいたサングラスの男たちは春陽に銃口を向ける。
「……………わかりました。お受けいたします」
「開始は30分後、1500にて行う。直ちに準備を始めろ」
「「了解」」
虎杖は伝えることを全て話し、この場を去る。
小田巻も機会を与えられたことで嬉しさに満ち溢れている様子だ。
「手加減はしねぇ。ぶち殺してやるよ」
「ふふっ、実弾は使えないよ?」
揶揄うように話す春陽に背を向け小田巻は歩き出す。
白い歯を見せたそのニヤついた顔は、何か企んでいるかのような不気味さをか持ち出していた。
使えないと判断されている春陽がなぜセカンドなのか。
次回はそこを追求します。
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