リリベルの異端児   作:山本イツキ

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第九話 Cowardly Conduct

 

 模擬戦が始まる直前、春陽は喫茶リコリコに電話をかけていた。

 

 

 『はい、カフェリコリコ』

 

 

 声の主はミカだった。

 

 

 「もしもし、営業中にすみません。ボクです」

 

 『おお。春陽か!』

 

 「今から模擬戦を始めることになったので今日は営業時間までに帰れそうにありません。すみませんが、みんなによろしく伝えてください」

 

 『わかった。頑張ってきなさい。こっちももうピークはすぎたからのんびりしているよ』

 

 「…………………」

 

 『春陽?』

 

 

 突如無口になる春陽にミカは首を傾げる。

 

 

 「ああ、すみません」

 

 『なんだ緊張してるのか?』

 

 「ええ、まあ」

 

 

 もしこの模擬戦で春陽が敗北すれば、虎杖の指示の元処分される。

 もちろんそんなことを口にすることはできなかった。

 ただ、最後になるかもしれないこの時間を、お世話になったリコリコのひとたちと話したくなったのだ。

 しかし、春陽の目に涙はない。

 必ず結果を残してリコリコに帰る。

 今の彼の頭にはそれしかない。

 

 

 『春陽なら大丈夫だ。いつも通りの動きをすればそう簡単にやられはしない』

 

 「ミカさんにそう言ってくれるのが一番嬉しいです。……………すみません。もう時間なので、行ってきます」

 

 『ああ。みんなで待ってるよ』

 

 

 春陽は携帯の電源を切り、カバンにしまっていた薙刀を組み立て模擬戦の会場へと向かう。

 もちろん実戦ではないため穂はつけず、両側を石突に組み立てた。

 彼の生死に関わるためか、ギャラリーが多くガラスの向こう側は人で溢れていた。

 

 

 「よお、逃げずにきたんだなあ」

 

 

 銃を片手に、腕を広げながら近づく小田巻。

 

 

 「逃げたところでボクは本部に処分されるからね」

 

 「後悔すんじゃねぇぞ」

 

 「全てを出し切るよ」

 

 

 互いに背を向け歩き出す。

 

 

 『()()、実戦だと思い臨むように。それでは─────始め』

 

 

 虎杖の合図で模擬戦が始まった。

 早速と言わんばかりに、小田巻は銃口を春陽に向けペイント弾を発射する。

 無情にも弾は春陽に命中することはなく、ぴちゃっぴちゃっ、と壁に付着する音だけが響いた。

 横へスライドして全てを躱したのだ。

 

 

 「この弾の速さなら余裕で見切れるよ」

 

 「くそっ!」

 

 

 視線を春陽に向けたまま小田巻はリロードし再度銃口を向けるも、彼はその一瞬をつき姿を眩ました。

 

 

 「はあっ!?ど、どこいった!!」

 

 

 周囲を見渡し春陽を探すも、その姿を捉えることはできない。

 彼は音を一切立てずに走り回っているのだ。

 そして背後に回った春陽は視覚から石突で小田巻の背中を突こうとしたその時だった。

 

 

 パンッパンッパンッ!!

 

 

 「…………………!!」

 

 

 ありえない方角から銃声が聞こえたと同時に実弾が春陽を襲った。

 間一髪でそれらを振り向きざまに薙刀で振り払い、その方角を見る。

 物陰に隠れていた数人のリリベルが姿を現す。

 しかも、彼らが撃ったのはペイント弾ではなく実弾。

 春陽を殺す気で撃ったのだ。

 先ほど、虎杖が『全員』といったのはこのリリベルたちも含んだ言い方だったんだろう。

 

 

 「クククッ、悪運の強いやつだ」

 

 

 彼の背後で、小田巻は不敵な笑みを浮かべ銃口を向ける。

 この状況を知っているような口振りだ。

 

 

 「随分と卑怯な手を使うんだね。これも司令の指示?」

 

 「いいや違う。俺が司令に提案したんだ。『処分するなら早い方がいい』ってな」

 

 「それを司令が受け入れたのか。あの人もとことん最低だ」

 

 「関係ねぇよ。それにお前がいくら泣き喚いたところでもう遅い。今ここで処分するんだからな!!」

 

 

 不敵な笑みを浮かべたまま腕を振りかぶり、振り下ろす。

 それを片手で受け止め、防御する。

 

 

 「キミは悔しくないのかい?こんな手段でしかボクに勝てないって自白してるようなものだけど」

 

 「なんとでも言え。今から死ぬやつの言葉なんて全く耳にはいらねぇよ!」

 

 

 とことん卑劣で汚いやり方を実行する小田巻に、心優しい春陽もついに堪忍袋の尾が切れた。

 

 

 「……………指令は言った。『実戦だと思い臨むように』と。ボクは、その言葉に従うよ」

 

 

 春陽は服の内側に隠してあった穂を片側の石突と取り替え、その矛先をリリベルたちに向けた。

 

 

 「多少痛い思いはするけど、我慢してね。小田巻くん、キミは最後だ」

 

 「はあ?テメェ、何言って──────」

 

 

 小田巻が言い終わる前に春陽は物陰に潜むリリベルたちに向かって一直線に駆け出した。

 彼らもそれに対抗し発砲するものの、春陽は全ての弾を弾き返し、振りかぶった薙刀を大きく振り下ろす。

 隠れていたリリベルたちはド派手な血飛沫をあげてその場に全員が倒れ込んだ。

 薙刀を扱い始めた当初とは違い、狙って斬りつけた。

 彼の怒りは、本物だ。

 

 

 「テメェ、よくも!!」

 

 

 小田巻も発砲するも、春陽は意にも介さず全てを躱す。

 その異常さに小田巻の冷や汗が止まらない。

 

 

 「な、何故だ………………何故、アイツに当たらない……………!?」

 

 

 春陽は冷たい目で敵を見る。

 

 

 「くっ、やむを得ない………………おいっ!お前らぁぁぁぁ!!」

 

 

 そう声を上げると、さらに潜んでいたリリベルが数人、数十人と姿を現した。

 数による優位。

 小田巻は最も安直な手に出た。

 

 

 「この人数相手に果たして生き残れるか!?全員、実弾持ちだぜ!!」

 

 

 一斉に春陽へと銃口を向けるが、動じることもなく彼はポケットに手を入れ何かを取り出す。

 両手にはスーパーボール程度の大きさの球が握られていて、それを指の力でリリベルたちに弾き飛ばした。

 それに当たったリリベルたちは軒並み意識を失う。

 球の素材は鉄であるため、当たれば当然痛い。

 銃弾とは違って貫通力は皆無だが、気絶させる程度なら十分な威力を誇る。

 

 

 「銃なんて必要ありません。指鉄砲(これ)さえあれば」

 

 

 これも、ミカとの訓練によって身につけた技術だ。

 予めミカには春陽の体力測定の数値は手渡されており、その能力の高さを知った彼は銃を撃てない代わりに何か遠距離での攻撃方法はないかと考えたところこのやり方に行き着いた。

 こんな無茶苦茶な先方ができるのは春陽を置いて他にない。

 超優秀なリコリスであるたきなも、幼い頃からファーストリコリスで活動する千束ですらこれは真似できないだろう。

 

 唯一無二の身体能力の高さ。

 

 それをたった数ヶ月で磨き上げたのだ。

 

 

 「10…………13………………15ってとこか。これで全員だね?」

 

 「うるせえ!!俺らでテメェを蜂の巣にしてやるよ!!」

 

 

 再び春陽に向かって全員が発砲する。

 トップスピードに乗って縦横無尽に駆け回る彼には一発たりとも当たることはなく、一人、また一人と血を吹き倒れていく。

 長い時計の針が一度動いたときには全てのリリベルが戦闘不能に陥り、小田巻だけが焦った表情で直立していた。

 

 

 「こ、こんなことが……………!?」

 

 

 もちろん、驚いているのは彼だけではない。

 安全地帯で見守る虎杖も同様だ。

 

 

 「あれほど使えなかったリリベルをここまで育て上げるか、ミカ」

 

 

 「安心しなよ。死ぬほど痛むけど死ぬことはないから。ここまで汚いやり方をしたんだから、ただで済むとは考えていないよね?」

 

 

 静かに、だがうちに怒りをメラメラと燃やしながらゆっくりと近づく。

 

 

 「クソッ……………クソオォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 小田巻はペイント弾の入った銃を捨て、倒れているリリベルから小銃を奪い取る。

 

 

 「うるせえうるせえうるせえうるせえうるせえうるせええええええ!!」

 

 

 発砲しようとしたその先に春陽の姿はなく、既に背後へ回り込んでいた。

 

 

 「チェックメイトだ」

 

 

 薙刀を振りかぶり、右肩から左腿までを一閃し深く斬りつけた。

 

 

 「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 痛みに絶叫する小田巻。

 春陽も他のリリベルたちとは違い本気で斬りつけたからおそらく、傷が完治することはないだろう。

 これを戒めに生きてほしいと強く願う。

 

 ドサッとその場に倒れ会場は春陽一人だけが立っている。

 

 

 『………………終了。篠原 春陽、今日はもう下がっていい』

 

 

 虎杖に顔を向けることなく、春陽は会場から去る。

 本部を出て、バイクにまたがりエンジンをかけ出発しようとしたところで進路を虎杖が塞いだ。

 

 

 「何か用でも?」

 

 「……………………」

 

 

 手を後ろに組み沈黙する虎杖。

 

 

 「………………何故、撃てなくなった」

 

 「それを訊きますか」

 

 

 春陽はエンジンを切り、バイクから降りた。

 

 

 「(アレ)のせいで大切な人を救えなかった。それだけですよ」

 

 「君が "役立たず" と揶揄される前の実力を知っている。"()()()()()()()()()()()()()()()" 。君はそう呼ばれていたね」

 

 「随分、昔の話をするんですね」

 

 「高い身体能力を活かし、戦場を縦横無尽に駆け回り敵を制圧する優秀なリリベル。それが君、篠原 春陽だった。ドローン映像でその姿を見たことがあるが、実に正しい評価だと思った」

 

 

 その言葉通り、春陽は千束やたきなに負けず劣らずの優秀なリリベルだった。

 自分からコミュニケーションを取るような人物ではなかったが、仲間からの信頼は厚く、傷ひとつ負わされたことがないと言う噂まで存在する。

 それが、たった一度のミスで全てが潰えた。

 常人なら立ち直れず腐り果てるだろう。

 

 

 「だとしたら、司令や上層部の人を見る目がないだけですよ」

 

 「悪いことは言わん。もう一度本部で働いてみる気はないか?小田巻が気に食わないのであれば、処分も検討する」

 

 

 なんとも自分勝手。

 そんな男に対して発する言葉は決まっている。

 

 

 「あれほど汚い作戦を実行させる指揮官に、従う気はありません。彼も、あなたも、加担した全てのリリベルも、僕は一生許しません」

 

 

 優しさのかけらもない辛辣な言葉。

 反論する余地はどこにもない。

 

 

 「まあいい。これからも精進したまえ」

 

 

 虎杖はそう言い残し姿を消した。

 春陽もまた、こんな場所から一刻も離れようとエンジンを再びかけ、発進させた。

 

 

……………………

 

 

…………

 

 

 

 本部から急いで出て、喫茶リコリコに戻る頃には時計は20時を迎えていた。

 これでは完全に閉店時間だ。

 ミカにだけは挨拶しておこうと店を訪れたが、中から楽しそうな声が聞こえた。

 バイクを停め、店へと入る。

 

 

 「すみません。ただ今戻りました」

 

 

 店にはリコリコの従業員全員がいて、なにやらスイーツを作っている様子だった。

 カウンター席に座るクルミが軽く手をあげ出迎える。

 

 

 「よお、遅かったな」

 

 「クルミさん!一体これは……………」

 

 「普段春陽にはお世話になってるので、そのお返しをしようと」

 

 「実はこれね、クルミが提案したんだよ〜」

 

 「余計なことを言うな千束!」

 

 「まあ言い出しっぺは何もできないから、ただここで座ってるだけなんだけどねえ」

 

 「酔っ払いは黙ってろよ」

 

 「っんだとガキンチョッ!」

 

 

 さっきまで濃い時間を過ごしたからか、なんだかこのアットホームな雰囲気が懐かしく思え春陽から自然と笑みが溢れていた。

 

 

 「みなさん、ありがとうございます」

 

 

 彼は、所属する場所を間違えていたのだ。

 リリベルになって数年たち、ようやく彼に合う場所と巡り会えた。

 そういう意味では虎杖には感謝しても仕切れない。

 

 

 「春陽に負けないぐらい美味しくできたはずです。どうぞ味わってください」

 

 「うん。いただきます」

 

 

 たきなから手渡されたチョコスイーツを美味しそうに頬張った。




もう訂正はしましたが、以前投稿した内容に『50メートル走で9秒は速い』といった表現がありましたが、ただしくは『100メートル走で9秒は速い』です。
誤解を生んでしまい申し訳ございませんでした。

度々こういった間違いがあるので、ご指摘していただけると幸いです。
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