するめ〆   作:星塵《》

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フェスは道具でした。
トリカラ全然遭遇出来なかったので今度は楽しみたいです。


夜の温もりに包まれて

 だらだらしながらひなたぼっこしたり、ナワバトラーというカードゲームに興じたりと意外と暇を感じることがない毎日だったが新しいオモチャを今か今かと待つ気分は今日まで収まらなかった。

 私は意外にもポジティブ思考だ。完全に選手生命を絶たれるまでは笑っていられる位には。

 

「すまん、遅くなったな。処分されていないブキの中でもそのブキはさらに見つかりにくい物なんだ」

 

 教官は探すのに時間がかかったと感慨深く言った。

 新ブキとして当初は触ってみようかと使ってみる者もいたが、使い勝手の悪さや今までとは違った立ち回りを構築しなければいけない面倒から多くのプレイヤーに広まることがなかったそのブキの名は、

 

「ドライブワイパーだ」

 

「なにそれ」

 

 教官がごそごそと後ろのロッカーから取り出したのは私の身長以上にデカいブキだ。教官が私からある程度離れてブキを軽々と振ると風を切る音が聞こえてくる。

 もちろんインクは出していないので性能はよくわからないけれど、戦い方は基本あんな感じなのだろう。

 

「格好良いだろう?」

「それなりに」

「辛口だな。シンプルでスマート。何よりインクの斬撃を飛ばせるんだ」

「へえ、なら教官はワイパーを愛用しているんですか?」

「いや、まったく使ってない。これ使うくらいならローラーぶん回すほうが良い」

「なら私もろーらーにして下さいよ。絶対そっちの方が使い勝手良いじゃないですか!」

「わざわざこれを用意するのにどれだけ手間をかけたと思ってるんだ!」

 

 なんと新ブキとして登場してはや数年らしい。時代に取り残されたものをわざわざ掘り起こして寄越すなんて教官は私をいじめるおつもりか。

 

「お前、言ったよな。どんなブキでも良いって。なら使いこなしてみろ。使い勝手が良くないって言ってもこれをメインブキにブイブイ言わしていた奴もいるんだ。お前もやればできる!」

「……きょ、教官。ですよねー! 私、やれば出来る子なんで!」

 

 やってみせますとも。なんかこのブキでやっていける気がしてきたよ。もしかするともしかしなくとも私にはお似合いのブキなのでは?

 教官の笑みが深まっている理由もわからず、私はやる気に満ちていたのだ。

 

 ***

 

 公共施設内、ドデカいロビーの奥にあるロッカーの一つを借りた私は相棒を押し込むと帰路につく事になった。

 この日はもう解散だと教官は手を叩いて帰宅を促したからだ。外は暗くなり始めているのがトップライトから見える。なるほど、私が思っていた以上に時間が経っていたようで、教官はあくびをかみ殺しながら手を振ってそそくさと帰って行った。

 

 夜の街は昼間とは顔が変わる。

 ネオンが煌びやかに発光し、オラついたイカと目を合わせたらバトルでも仕掛けられるんじゃないかなんて考えたりしてみるも「ないよね」と考え直す。

 

「どうしようか」

 

 ナワバリバトルで不可欠な『ギア』なるものが込められた装飾のお店にはまだまだイカしてないと追い出される始末だし。都市情報雑誌を基にぶらつけるほどの元気もないので夕飯を買って帰ることにした。

 

 最近顔なじみとなった店員さんと軽く雑談してサラダをパンに挟んだヘルシーなサンドイッチと昔から好きなメロン風味のジュースを購入し見慣れてしまった玄関の鍵を開けた筈だった。

 

「あれ? 閉め忘れたのかな」 

 

 開けた筈がロックが掛かったということは開いていたということだ。私はそこらのイカよりも賢いのでそれくらいわかる。

 再度鍵を差し込んでひねるとカチャリと開く音が聞こえた。

 

「ただいまー」 

 

 誰も返答はない筈。何の気なしに口にした言葉に、

 

 

「……おかえり」

 

 

 ――!#$%!?

 

 言葉にならない奇声を上げながら私は尻餅をついた。

 

 「……?」

 

 薄暗い部屋の奥。闇が広がる先にもぞもぞと動く軟体がいる。次第に夜闇に慣れた瞳と雲間から顔を除かせた夜空の明かりからシルエットが浮かんだ。

 

 イカだ。紛うことなきイカの女の子。ヒトになって私の状況に首を傾げると「あ」と呟いて、

「……待っていたわ。鍵忘れていたから……誰か入ってこないように」

 

 いや、もう入ってるから! とは突っ込めるわけもなく、私は静かに「そっかあ」と頷いた。この手のマイペースさに付き合えば付き合うほど相手の術中にはまるのだ。私のお母さんもどこか自分の世界観を持っていたからよくわかる。

「わたし……隣だから」

 ゆったりとした動きで右隣を指さした。聞くにどうやら部屋を間違えたっぽい。そして開いているからと家主が帰宅するまで座って待っていたとか。

 たぶん良い奴だ。

 

「……ねえ」

 

 心地の良い声をした娘。綺麗な言葉、海沿いの少し訛りのある私と違ってイカした街の言葉だと少ない単語でもそう感じた。

 

「あのブキ、イイネ。大事に使われていた後が沢山ある。特にグリップの擦れ具合から色々と垣間見えるものがあってずっと眺めていても飽きないわ。あなたもそう思うでしょ?」

 

 

 あの、いきなり早口になるの止めてもらって良いですか。

 

 

 




ワイパーとか使いこなせる自信がないです。
でもなんであんなに格好いいんだろうか。
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