あと100回くらいフロに対面負けしたら死ぬかもしれない。
ハッと気がつけば朝。どうやら寝落ちしていたようで、今日ロッカーに置いておく予定の物が床に散乱している。
あの後なんのこっちゃと言わんばかりに語り出し、喋り疲れて隣の部屋に戻っていた件の少女は「……今度は私の所に来て」と去り際に言った。
昨日の夜に飲むのも忘れてぬるくなったジュースを冷蔵庫に突っ込んで、朝ご飯になったサンドイッチを食べて昨日の出来事をぼんやり思い出しながら今日の準備をする。
今日から本格的に練習をするつもりだ。
日が昇ったばかりの早朝。私はそよ風に吹かれながら足早に自分専用のロッカーへ向かった。相棒になる予定のブキだけが待っていたぞと存在感を出している。
というのも私のロッカーは他のロッカーと比べるとだいぶ小さい。ワイパー君を入れるとそれだけで少しきついなあと思う程度には。
ワイパー君を取り出して必要な荷物以外は押し込んだ後、そのままドーム状のすっごく大きなロビーの片隅で振ってみることにした。
ここは教官達に基礎を教えてもらった場所。あの日もそうだったが今日も沢山のイカやらタコが作戦を練ったり射撃訓練を行っていた。
私はそんな景色を横目で見て同じワイパー君使いを探すもいないことにがっかりする。もし使っているヒトがいるなら変な型を覚える前に聞こうかと思ったがそうそう美味い話はないみたいだ。
教官は今日から連日試合で忙しいみたいだし、いつまでもおんぶに抱っこはあまり関心出来ないだろう。独学でガンバロー!
「えっと、確か……」
柄を握り、手元の小さなスポンジにインクを浸していく。それだけで重心が偏って私は蹌踉ける。
教官がわざわざこの子にした訳が少しわかった。私にローラーは無理だ。まず何度も持ち上げたり振り上げたりなんてマネ出来やしないや。ドライブワイパーは軽量だ。それでもインクを吸っただけでこれだけ重いんだ。
それにしても、
「インクの操作が意外にも難しいんだけど!」
緩慢な動きで横振りすればダラダラと液漏れして本来必要のないインク量まで零れていく。
こんなお漏らしちゃんでバトルなんてすれば笑いものだよ!
頑張ろうとすればするほど止まらないんだけど。足下がインクでダラッダラになってやっと背中のインクも空になったのか止まった。
シューターなんかと比べものにならないほど難しい。
「ねえ、そろそろ場所変わってくんない?」
「うわぇ!? あーごめん! 集中しすぎて気づかなかった」
そういえばと、時間を見ると貸出時間を大幅に過ぎているようだ。
インク塗れの私に話しかけてきたイカちゃんはパンクでファンキーだ。つり目がさらに威圧感を感じる。これが混沌の街パワー。普段なら絶対に話しかけない堂々一位の見た目だ。
「……なに?」
「いや、あの、ブキなに使うのかなって思っただけ」
インクから滲むように出てきたのは・・・・・・ってそれどうやんの!? ねえ、格好いい!
「アンタ見た目に反して結構うっさい」
「あっはい」
「見たからに初心者ならどこかと組むのが普通だろ?」
こういう小技は先輩に教えてもらうのがセオリーらしい。講習会で仲良くなったヒトと簡易的にチームを組んだりして覚えていくらしいが生憎私は病院直行コースだったのでぼっちだ。
「……あーわかった。なにも言うな。アンタがカワイソーな奴だって理解したから」
「あ! 口にした! それ言っちゃいけないやつ! こうなったらもうこれしかありませんね!」
懐の広い私でも流石に堪忍袋の緒が切れそうだ。
「ナワバトラーで勝負だ!」
「えぇ、そこは1オン1で勝負だ! じゃないんだ……」
「勝てないからです!」
「潔いんだか悪いんだかわかんねえよ!?」
暇をもして作り上げられた数々のデッキで私は闘う意思を見せる。今の私ならロッカーに入れたカードデッキをその場に召喚出来る気がするよ!
「なんかアンタと話してたら疲れるんだけど。もう放っておいてよ……アタシの負けで良いから」
「ダメです!」
「何でだよ!?」
「私わかるんです。あなた良いイカだって。だから私とちょっとお茶しません?」
私の渾身のナンパはそれから数十分に渡る激闘の末、友達を作り出せたようだ。
「わかったよぉ、好きにしろよ。はぁ、変なのに絡まれるしサイアクだぁ」
「なんでそんなに泣きそうなんです?」
アンタの所為だと涙目の彼女をなだめながら私は外へ連れ出した。思った以上に今日は良い日かもしれない。
そう思った。