リリカルにエロいことしたいんですが、かまいませんね!! 作:He Ike
あの日から三日経った。今日は土曜日だ。世間一般の小学校では休日だろうが、聖祥では隔週で第一と第三土曜日の午前中にのみ授業を行っている。
そして今日は第三土曜日。つまり登校日だ。
まあ、もう終わったところなんだが。
あれから高町さんには一切手を出していない。エキストラなんてどうだっていい、と思っているオリ主君に踏み台君も露骨に高町さんに迫り出せば、黙ってはいないだろう。
それは俺の望むところではないため、ほとぼりが冷めるまで待つつもりだ。もっとも、他にも狙いはあるのだが。
「帰るぞ嫁よ」
「なのは、今日は桃子さんが早く帰れって言っていたぞ」
「え、ちょっと。ごめんね、アリサちゃん、すずかちゃん。わー、引っ張らないでよう」
慌ただしく、例の三人が帰ったところで、バレないように観察を始める。
「まったく、あいつらは! なのはもなのはよ。今日は一緒に帰るって約束だったじゃない」
長い金髪をツーサイドにして、激しく怒っているのがアリサ・バニングス。
「お、落ち着いてアリサちゃん」
紫紺のウェーブがかった髪を白いカチューシャで止め、アリサを制しているのが月村すずか。
この二人が、いや、高町さんも含めて三人が暫くの攻略対象……さすがに失礼か。これじゃあ相手を人として見ていない。では、訂正して調教対象である。
目標は本編が始まるまでに、性癖を知ることと性感帯の開発かな。三人とも将来性のある美少女だから実に頑張りがいがある。
中等部に行って、男女で校舎が別れても関係をやめないくらいの仲にはなりたいものだ。
おっと、いけない。二人が帰る準備をし始めてしまった。行動に移らないと。
「あ、あのバニングスさん」
「何か用?」
非常に素っ気ない態度だが月村さんとの会話を打ち切り、こちらを見てくれる。これがオリ主君や踏み台君が高町さんと話している時だったら一区切り着くまで話し続けるんだからひどいものだ。
「先生がクラス長二人で運んでほしい荷物があるって……」
後半から声を小さくしていき、オリ主君の席を見る。彼は我がクラスのクラス長なのである。なんで高町さん以外に興味がなさそうな彼がクラス長をやっているかと言えば、きっと高町さんに格好いいところを見せたいとかじゃないですかね。
そしてバニングスさんにこの話をしているということは、つまりそういうことで。彼女は女子の方のクラス長なのである。
「はぁ!? ちょっと聞いてないんだけど!」
「ご、ごめん。僕も先生に言われてすぐ来たんだけど……」
ウソです。オリ主君が帰るのを見計らってきました。ごめんね。
それにしても今日のバニングスさんは機嫌が悪いな。まあ、さっきの流れを見ていれば理由は明白なんだが。
「まったく、あいつもさっさと帰っちゃうし……」
「えっと、僕も手伝うから」
「いいわよ。あんたが悪いわけじゃないんだし」
怒っていながらも俺がおっかなびっくりを演じながら提案を出せば、きちっと断る。そういう人なのだ、バニングスさんは。
ツンデレだけど当たり散らかさない。多少、感情のコントロールは下手だが相手を思いやることができる人だ。だが、今回は断られると困るため、俺も食い下がる。
「けど、結構たくさんあったよ?」
「小分けにして往復するから」
「時間がかかっちゃうと月村さんも退屈だろうし」
経験則から言って、月村さんは十中八九バニングスさんを待つだろう。確かこの時間は急ぎの用事が無かったはずだ。そしてバニングスさんの性格からして、理由もないのに他人に仕事を押し付けるようなことはしない。仮に月村さんが手伝うと言ったところで絶対にさせないだろう。
「ぬ、ぬぅ。けど、あんたに頼む理由もないわよ」
さて、ここまで俺の予想通りだ。だから俺はこう答えよう。
「理由ならあるよ」
「は?」
「前に、助けてくれたからね。その恩返しがしたいんだ」
一瞬、何のことかと考え込むバニングスさんだが、すぐに思い当たったようでバカらしそうに俺を見る。
「まさかとは思うけど始業式のこと?」
「それ以外はないよ」
始業式のことというのは、俺がまだ俺として自意識を戻してから間もなかった頃だ。
まあ、簡単に言えば踏み台君に絡まれていた俺を助けてくれたのだ。あの頃の踏み台君はまだ今よりもピリピリしており、エキストラが相手だろうがなんだろうが好き勝手やっていたのだ。
今思えば、あの頃の踏み台君はオリ主君ともっと仲が悪かった気がする。つまり、自分以外の転生者が気に入らなくて八つ当たりしてたのかな?
まあ、踏み台君の話なんてどうだっていい。大事なのはそれから助けてくれた相手がバニングスさんだったというところだ。
「はぁ、あんたね。あんなのは助けたなんて言わないの。あたしにとって邪魔だからどうにかしただけ。あんたは関係ないの」
「関係はあるよ。僕の為でなくとも結果的に助けられた形になるのなら感謝するべきだ」
ここまで言ってようやく、バニングスさんは言葉につまる。彼女は中々に頑固だが、素直な人でもあるので、こちらの主張に間違いがなく、正論であるなら反論する言葉が出てこないのだ。
そして、ここで今まで事の顛末を見守っていた月村さんに視線を送る。
聡い彼女は、その意味にすぐに気が付いてくれたようで、行動に移す。
「アリサちゃん。江口君もこう言ってるわけだし。お願いしたら?」
「もうっ! 分かったわよ。なのはみたいに頑固なんだから。頼んだわよ江口」
「うん、任せて」
月村さんの一言ですんなりと陥落してしまう、バニングスさん。高町さんみたい、というのは褒め言葉として受け取っておこう。
月村さんに目線でお礼を送ってから彼女について少し考察する。月村さんは緩衝材だ。あのグループの中で決定的な仲違いが起こっていないのは彼女の功績だろう。自分の意見は殺し、衝突し合う両者の妥協点を提案する役目にいる。
ゆえに月村すずかは、グループの中でかかせない存在であり、俺にとって厄介な相手でもある。まあ、手がないわけではないのだが。
とりあえず今はバニングスさんだ。同時に二人を相手に事を始めるには、俺のスキルが足らなければ信頼も足りない。まずは一歩一歩着実に行こうか。
「うわ、本当にたくさんあるわね」
「だから言ったでしょ」
「ふんっ」
俺がそう言えば、少しへそを曲げたように荷物を持って先に目的の資料室まで向かってしまう。
おっと、いけない。ご機嫌を散り直さねば。
「ま、待ってよ。バニングスさん」
「何よ……」
「いや、せっかく二人でやってるんだから一緒に行こうよ」
「あたしは早く終わらせたいんだけど」
「うん、バニングスさんのペースに合わせるからさ」
などと、まるで人畜無害な好青年のようなセリフを吐けばバニングスさんは、呆れたようにペースを少し落としてくれた。よっ、ツンデレ!
それからまずは、ジャブとして授業の話題で会話を進めていく。
最近、算数が難しいね。
あんた、当てられたところはきちんと答えてるじゃないの。
訂正。面倒だね。
そういう素直さは褒めるべきなのか悩むわね。
さて、会話が温まったところでこれが最後の荷物だ。そろそろ特殊能力も踏まえて本題に行こうか。
「ふぅ、やっと次で最後だね」
「お疲れ様。悪いわね最後まで付き合ってもらって」
ちょっと照れたようにお礼を言うバニングスさん。さすがにまだこの年だと仲が良くなるのはあっと言う間だ。まったくツンデレ可愛いな。
「いや、僕が彼が帰る前に伝えられれば良かったんだけど……」
「ど、どうしたのよ」
あからさまに何かありますよー、という雰囲気にバニングスさんが心配してくれる。
「いやね、実は僕、クラス長のことが苦手で」
「赤のことを?」
そういえばバニングスさんや月村さんもオリ主君のことを赤と呼んでいたな。まあ、高町さんと仲が良いってことは、必然的にオリ主君にも一年の頃から関わっているということだから当然なのかもしれない。
もっとも付き合いが長いからといって、仲が良いとは限らないのだが。
「なんだか、こう……陰口みたいになっちゃうけど、相手に興味がないように見えるというか」
「……」
バニングスさんは黙って聞いている。だが、その顔は陰口を叩く俺を非難するような目ではなく、核心をついている、ということに対する驚きのような視線な気がする。
よし、考察通り。このままの方向性で行ってみようか。
「その、極端に言うと高町さんにしか興味がないんじゃないかなって……思って」
「あんた良く見てるわね。いや、ただのクラスメイトにさえそう思われるあいつが異常なだけかしらね」
そこからポツポツとバニングスさんからオリ主君について語られる。
曰く、昔から高町さんに付きっきりで、高町さんと遊ぶ時には大体付いて来ること。
曰く、一年の最初の頃はもっと仲が良かったはずなのだが急に素っ気なくなったこと。
などなど。オリ主君に対する不満が少しずつだが語られ始めた。
彼女にしては珍しく要領を得ない話し方だったが、それも仕方ないだろう。
これが俺の二つ目の特殊能力、本音を引き出す力だ。もっとも催眠術とかとは違い、話術によって相手の心の警戒を解き、誘導するだけの力なのだ。
だから相手から本音が聞きたければ、それ相応の信頼が、つまりこいつになら話してもいいという仲にならなければいけないのだ。
今回はまだ、当然ながら信頼というレベルに達しているわけがない。だが、オリ主君について不満を漏らした。つまりは、バニングスさんにとってオリ主君の存在はその程度だというわけだ。
しっかし、なるほどねー。どうにもオリ主君と踏み台君は転生者にしては珍しく、バニングスさんと月村さんの両名を蔑ろにすることが多かったのだ。いや、踏み台君は少し気にしてたかな。
これは俺のただの想像……どちらかというと妄想レベルのものだが、オリ主君たちはもしかしたらバニングスさんと月村さんを切り捨てたのかもしれない。
前に言ったが、恐らくオリ主君たちはニコポを持っていない。それで彼らはハーレムを築くのを諦めて高町さん一人を狙いに行ったか、魔法関係者にのみ的を絞ったのではないだろうか。
バニングスさんたちは一期、二期でこそ、主人公の親友ポジで出たが三期ではぞんざいな扱いであった。
先の話から察するに彼も最初はバニングスさんたちにフラグを立てようとした。だがしかし独占欲の強い幼少期に三人の好感度を維持するのは難しい。むしろ大本命、物語の主役である高町さんに嫌われてしまえば本末転倒である。そんな事情から彼女たちを切り捨てたというわけだ。
完全、俺の妄想ではあるがまるっきりバカにできるものでもないのではないだろうか。
それに、だ。彼女たちのフラグを立てるのに絶好の時期がある。二期の後半。彼女たちは結界の中に迷い込み、敵の攻撃を受けかける。
原作ではそれを防ぐのは高町さんとその黒い親友なのだが、その役を奪ってしまえば……。
一気に乙女のピンチに駆けつけるヒーローの図が完成である。マイナスだった好感度が爆上がりするのではないだろうか。それに高町さんたちの好感度が上がることも間違いないだろう。
「はぁ……あたし、何を言ってるんだろ」
仮にも幼なじみである人物の陰口を言ってしまって、自己嫌悪してしまうバニングスさん。
おっと、ちゃんとフォローはするさ。
「不満が出るのも多少は仕方ないと思うよ」
「でも……」
「別に彼のことが嫌いとかいうわけじゃないんでしょ?」
「まあ、そりゃあ」
不満を感じるのは人間である以上、仕方ない。そう仕方ないのだ。
俺が狙っているのはグループ内での不仲ではないのだ。むしろ仲良くしてくれていた方が愉悦が増すというものだ。
「ほら、溜まってるものを吐き出してごらん。僕の口は中々堅いよ」
「う……」
いいぞ。いい感じに揺らいでる。後は俺が余計なことをする必要はないだろう。
最後の一線は自発的に超えるからこそたまらないのだ。少なくとも俺は、高町さん相手にこのことをよーく理解した。
「……」
「あ、あたしだってなのは友達なのよ!」
まだだろう。その時々に感じている不満をぶちまけていても、根本的な不満を言ったことはないんじゃあないのか?
「なのにあいつは、いっつもなのはに付いて来るし! なのはも何も言わないし! もっと三人だけで遊びたいのに。勉強会がしたいのに。お昼が一緒に食べたいのにッ!!」
溜めていたものが一度こぼれ出てしまえば、後はすぐだった。
「なのはもあいつもバカーッ!!」
全て言い終えてしまってからバニングスさんは、ハッとした顔でこちらを見ると、手を宙でさまよわせあたふたとする。なにそれ、バニングスさんもそんなことするんだ。可愛いね。
おっと、せめてこれだけは言っておかないと。意地悪なことを言うのはやめて、できる限り優しい口調に気を付ける。
「うん、友達と一緒にいたいって思う。当たり前だよね」
「な、ななな……あ、あんたもバカー!」
あらら、行っちゃった。こりゃあ資料室に荷物を置いたら、違う道で月村さんのところにまで戻るかな。まあ、今日はこれで上出来だろう。
溜め込んだ愚痴を何も言わず聞いてくれる相手も、自身の後ろ暗い部分を肯定してくれる相手も、とても得難く、一度でも得てしまえば失いたくない相手である。
さて、これで三人娘全て登場である。一人の尺が短かったけどまだこれからだからね。
口調や設定は一応調べたり見直したりしていますが、どこか変な場所があればご指摘下さるとありがたいです。こちらでも確認はしていますが。
あと出て来ていない設定は勝手に補完しています。仕方ないよね、本編とは全然別のことやるからさ。
・ゴッドハンド(仮)
エロ系主人公に欲しい能力。気になるあの子をエロエロにする他、性感帯開発までできる優れもの。なお、催眠効果などはないため本気で嫌がる相手に使うとひどいことになる。
悔しい。けど感じちゃう、にはなってもそこから先に進めるにはかなりの好感度が必要。なのはちゃんが餌食になったのは、それを嫌悪するべきことと分からないままに快楽に身を委ねてしまったからである。
・ポイズントーク(仮)
相手に本音を喋らせるだけの能力。催眠などの効果はないため、頑張って好感度をかせがないといけない。利点は話す気がなくてもそれを話せるくらいに信頼していれば、使用者のトーク力次第で聞き出せる。相手的には不快感はないため、本音で話せる人物なんだな、と誤評価される。
こんな設定があったりするけど、別に覚えてなくても大丈夫。それに設定は後から増えるもの……!