不定期更新かつ更新は多くない方ですが頑張ってます。
決してゲームに現を抜かしてませんよ。
ほんとですよ()
「この場所を凍らせたのはどっち?」
女は表情を変えずに問う。
嫌な汗が頬を伝う。
駅は凍っているのに、あの女の周りだけは氷が溶けている。
それは遠藤さんの氷があの女の炎との格付けが完了したことの証明だった。
「まあいっか、この規模で能力を使えるんならどうせ素人じゃないし」
炎が漂い、氷は溶け、水は蒸発する。
女が腕を前に向けると、炎の激流が放たれた。
避けられない、身体が反応しても遅すぎる。
燃え盛る悪魔の口が迫り来る。
「はっ!!」
しかし、ソレが俺を喰らう事は無かった。
氷が俺と遠藤さんを守るかのように形成されて炎を防ぐ壁となった。
「稲光くん、今のうちに逃げよう!」
ダメだ。
「逃がすわけ無いでしょ」
氷の壁がビームソードで切り伏せられ、炎を身体に纏わせながら女が迫る。
「くっ!!」
遠藤さんは氷を礫のようにして放つが、女に当たるどころかあらぬ方向に氷は飛んでいき、命中する軌道に乗った氷は纏っている炎や漂っている炎で霧散していく。
閉じ込めても、氷柱を刺そうとしても、尽くを炎が溶かし尽くす。
相性が悪すぎる。
経験が違いすぎる。
「能力は凄いのに扱いは素人…不思議な人だねアンタ」
余裕そうな様子の女に対して、遠藤さんは辛そうだ。
俺は呆然とそれを見るのをやめた。
ここから生き残るためにはどうすればいいかを思考する。
俺も戦う。
否、こんなアニメみたいな戦いに俺はついて行けない。
もう一度壁を作ってもらって逃げる。
否、あの女に氷の壁はあって無いような物。
否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否
生き残る方法を思案していく内に、電流でも流されているような感覚に襲われた。
その瞬間、自分が何をできるのか漠然と理解する。
俺は彼女たちと同類だ。
理性は勘違いしている。勝ち目がないと。
本能は分かっている。状況を打破する術を。
身体は持っている。戦うための能力を。
女に接近して殴るイメージ、身体をそのイメージとリンクさせる。
女を的に例えると、俺は銃弾だ。
足に力を込めると、床がヒビ割れた。
俺の能力は恐らく身体能力を強化する物だろう。
彼女達の氷や炎に比べたら地味だが、だからこそシンプルで使いやすい。
「……っ!!」
駆け出した。
人では到底出せない雷の如き速さで女に接近すると、何が起きたか認識できていない様子の表情が見て取れた。
漂っていた炎に身体の表面を焼かれる。
この女の周囲は思った通り灼熱地獄だった。
「そこっ!」
そんな熱さを無視して腹に渾身の強化パンチを右手でお見舞する。
何かを抉り、何かが砕け、何かが折れる。
こいつの身体にダメージが入ったことを確信する。
衝撃で勢い良く吹っ飛んだ女は駅の柱に衝突した。
「カハッ!?」
女の口から吐かれた血が床を汚す。
血で汚れた口周りを拭いながら女はこちらを見る。
「ははっ、そっちも持ってたか……」
手がヒリヒリと痛い、どうやら火傷を負ったらしい。
先程までは普通に握れた拳は火傷のせいか指を少しでも動かそうとすると激痛が走る。
だが…
「まだもう一本ある、向かってくるのなら容赦しない」
左手はまだ使える。
もし左手を使って倒せなくてもまだ足がある。
チャンスはあと二回、その二回の内に倒せなければ俺の負けだ。
「はは、容赦無いね……来て、アモス!」
女がそう叫ぶと、駅が揺れた。
天井が崩れ光が差し込む。
光と共に流れてきた砂の中心、そこに立っている三メートル程の砂人形こそが女がアモスと呼んだ者だろう。
「手酷くやられましたね、フローガ」
「いやー、何もして来なかったから無能力者かと思っちゃって」
「油断するなといつも言っているはずですが」
フローガと呼ばれた女は砂人形に抱えられる。
それに安心したのか、まるで親に抱えられた子供のように意識を手放したようだ。
「……そこの二人」
「っ!」
「そう身構えないでください、あなた達を今ここでどうこうするつもりはわたしにはありません」
そんな言葉を信用できるわけもなく、いつでも能力を使って殴れるように警戒する。
砂人形はそんな事を気にする素振りも見せなかった。
「この子の無礼を謝罪します。申し訳ありませんでした」
そう言い残してこの場を去ろうとする砂人形を遠藤さんが呼び止めた。
「待って!」
「…他に何かありましたか?」
「聞かせてください、能力って何なんですか?あなた達は何なんですか?なんでその人は私達を殺そうとしたんですか!?」
質問を畳み掛け、いつの間にか俺の前に立ち、庇うようにしている。
「稲光くんは怪我もしてるんです。そのくらい答えてください」
遠藤さんの足が震えている。
そんな様子に溜息をつきながら砂人形は説明をし始めた。
「……あなた達は能力者、わたし達はストレンジレイスと呼んでいます。発生原因は極度のストレスや能力者の両親を持つ事、稀に無能力者が親でも発生する事があります。
あなた達の場合は先程の虫の能力者との遭遇が原因でしょう」
虫の能力者。
先程焼き殺された男だろう。
凍っている肉塊、人だった物を見て惨劇を思い出す。
ぞわりと冷や汗が頬をつたい、恐怖が蘇る。
それを気にしないように、ただ必死に恐怖を飲み込んだ。
「そしてわたし達もその能力者です。とある組織に所属して能力者による犯罪を世間に漏らさないため能力者の抹殺、保護等の活動をしています」
いよいよアニメの様な展開になった事に苦笑いしつつも、視界は目の前で起きた現実を無慈悲に叩きつけてくる。
「そしてこの子があなた達に危害を加えた理由ですが、その理由はあなたですよ」
砂人形は遠藤さんを指さす。
「能力者は目覚めた当初はそこまで強い力を持っていません、私も最初はここまで大量の砂を操作できませんでした。彼女の炎だって以前はここまで強い物ではありませんでしたしね」
しかし、と砂人形は続ける。
「あなたはこの駅を丸々凍らせている。能力に目覚めたばかりとはとても思えない規模で能力を行使している事から虫の能力者の仲間だと思い、一緒に抹殺しようとしたのでしょうね」
「じゃあ、なんで稲光くんにも攻撃したんですか?」
「さあ?知りません」
面倒くさくなってきたのか対応が適当になってきた。
「さあ?って…」
温度が急激に下がったのを感じる。
遠藤さんの足元から氷が広がっていく。
遠藤さんの表情は怒りに染まっていた。
それに呼応するかのように氷が生成される。
「やめた方がいいですよ。あなたではわたしに勝てない」
「やってみる?」
手に氷の爪を作り構えるその様子を見て咄嗟に身体が動いた。
「遠藤さん落ち着いて!」
これ以上二人を一緒にしておくのは危険だと判断して睨み合う二人の間に割って入る。
「稲光くん退い…」
「退かない。えーっと…アモスさん、呼び止めてすまなかった。もう行ってもらって大丈夫」
それを聞き取ると、砂人形は何も言わずに去っていく。
凍った駅の中に残ったのは俺と、凄く不服そうな遠藤さんだけだ。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「良かったの?殺さなくて」
砂人形に抱えられている私はそんな疑問をアモスに投げかける。
「わたしはあなたのように短絡的ではありません。仮に殺すとしても、わたし達を奴らの根元に運んでもらってから殺します」
「えぇ…でもそれだとあちらさんある程度成長しちゃうよ?」
「今より強くなっても問題ありませんよ。わたし達のコンビで誰かを倒せなかった事ありました?」
確かにアモスと私が一緒に戦って倒せなかった敵はいない。
今回私を一撃でダウンさせたあの男も例外では無いだろう。
「……やっぱりあの男、まだ何か持ってる気がするんだよなぁ」
腹を殴られた時、ただの鈍い痛みだけじゃなくて、針を何本も刺されたような痛みが体を迸るような感覚に陥った。
腹を見ても変な傷は無かったから私の気のせいだという結論でもいいだろう。
しかし、もしあの男の能力がただ身体能力を強化してるモノでは無かった場合、私達はその認識の齟齬から負けてしまうかもしれない。
一度そう考えると、様々な可能性が頭に浮かび不安になってくる。
そんな思考を振り払おうとしても、ソレはしつこく纒わり付く。
────今日は少しだけ薬を増やした方がいいかもしれない。
私は砂人形の腕の中で、再び眠りについた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
俺と遠藤さんは駅から少し離れたところにある喫茶店に来ていた。
「………」
「………」
既に一言も会話が無いまま五分は経っている。
能力についてこれからどうするのかを話し合ったり等を考えていたのだが、このままだとただカフェオレを飲みに来ただけになってしまう。
「あの」
沈黙を破ったのは遠藤さんだった。
駅で見せた不服そうな顔は既に消え失せている。
「さっきはありがとう。助けてくれて」
そう言われた瞬間、照れくさくなって目を逸らす。
「どういたしまして、別に大したことはしてないよ」
「ううん、私を置いて逃げる事も出来たのにこんな怪我をして……あれ?」
遠藤さんが俺の右手に視線をやると、そこにある物を信じられないとでも言いたげな様子で右手に触れる。
「さっきの火傷は…」
「もう治ったよ。多分これも俺の能力だと思う」
自身の身体能力の飛躍的な向上、超人的な再生能力。
自分の能力がどういう物なのかよく分からなくなったが、今のところは何の問題も無く使えているので良しとしよう。
遠藤さんは良かったという安堵の表情を浮かべるが、少しすると一変して暗い表情に顔を染めた。
「……稲光くんはさ、自分の能力についてどう思ってる?」
能力について。
自身の能力をよく認識できていない俺は言葉に詰まる。
「───────」
「私、怖いんだ。もし
確かに、能力を人に打ち明ければ、その人との今後の関係性が変わってしまう可能性は十分ある。
普段非日常に憧れる友太でさえ、能力を目の当たりにしたら気持ち悪いと言い拒絶するかもしれない。
「凄い」「かっこいい」と言って受け入れてくれる程人間は強くない。
俺が能力を持たない人の立場なら、快く受け入れる自信は皆無に等しい。
現に俺は炎の能力者、虫の能力者を見た時恐怖を覚えた。
「砂の人形に対して怒った時、能力をちゃんとコントロールできなかった。こんな奴消しちゃえって一回思ったら、それが頭の中でいっぱいになって…あんな……」
今の遠藤さんからは考えられない好戦的な様子だったのはそういう事だったのだろう。
能力という物は精神面にも影響を与えるのかもしれない。
「ごめんなさい。こんな事話してもどうにもできないのは分かってるんだ。でも聞いてくれてありがとう、少しだけ楽になった気がする」
「────俺は」
能力についてどう思っているか。
その結論は思っていたよりも早く出た。
「俺はこの能力を使えるようになって良かったって思ってる。この能力が無かったら二人ともあそこで死んでただろうしね。
遠藤さんが心配してるみたいに能力を暴発させてしまったらどうしようとか、考えてないわけじゃないけど、それは今心配しても仕方ないよ」
それに
「もし君が力に呑まれるなんて事があったら俺が止める。約束だ」
そう言うと、遠藤さんは憑き物が落ちたかのように雰囲気が軽くなった。
「そっか…じゃあ、私も貴方が力に呑まれそうになったら全力で止めるね」
遠藤さんが小指を立ててこちらに向ける。
「……?」
「指切りだよ」
そう言われ、こちらも同じ手を出し、小指を絡める。
「「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます。指切った!」」
他の客からは微笑ましいと伝わってくる視線が向けられて恥ずかしい。
しかしそれ以上に、彼女の指が冷たかったことに気を取られた。
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