次で確実デビューするんで堪忍してくだしあ……
※それから形式を短編から連載に移行しました。これだけ更新してれば……ネ?
※(追加)一話目とこの話の競馬ルールで話していた内容に間違いが発生してたので修正しました。申し訳ないです……。
日が滔々と過ぎて今は年末を控えた十二月。秋にあった修学旅行にファン交流も兼ねた学園祭も過ぎ、選抜レースの時期も終わって一通り来年度にデビューするウマ娘も決定した。
クアドランスとキングハイセイコーは確定。無論私も。
然るべき日の為、私はこれまで通りに勝たないウマ娘をやって不評を集め、二人は(浦和の)期待の星として噂されるほどに実力を伸ばしている。事は順調だ。クアドランスに至っては故障の兆しも無く、健やかなままだ。
ここから半年後、六月から始まる新バ戦に勝つことでようやくデビューとなる。
……どうやら私ら当時の仕様の新馬戦のように一回限りの物ではなく、少し後の「勝つまで新馬戦」方針のようだ。
新バ戦に勝ったらABCで格付けされるラインになる。新バ戦を勝てなかったら未勝利があり、それに勝つことで格付けラインになれる。
格付けっていうのは、中央で言う一勝とか三勝クラスにあたる。前世では賞金額によってA1だのB3だのと振り分けられたが、NUAにおいてはレースに勝利・入着した際に得られる『勝利点』と呼ばれるポイントの総数で振り分けられる。
一般競争のレースで勝てば3点、入着で1点、重賞などはレースによるが歴史の深い東京大賞典で勝てば15点、という風に分けられる。現役年数によって勝利点によるランクの昇格ラインが変わり、降格したり昇格したりを繰り返すのも、中央のルールとの大きな違いだろう。
『横一線、綺麗なスタートです』
「相変わらず有馬記念はバケモンぞろいだな……」
煙草をふかしながら高遠が呟く。
高遠のトレーナー室に設置されているテレビには年末の大イベントとまで競馬関係者以外からも認知されている『有マ記念』が映っている。
前年度有マ記念王者のアンバーシャダイに、前走の天皇賞秋でレコード勝ちをしたメジロティターン、それから大井から移籍したての重賞で一着を勝ち取ったヒカリデユール。他にも菊花賞ウマ娘のミナガワマンナ、天皇賞春・宝塚記念を勝ったモンテプリンスなど。様々なレースで皆に選ばれたウマ娘たちが覇を競い合っている。
「そういう君は誰に投票したんだか」
「ミナガワマンナだな。だってあのシンザンの娘だぞ? 応援したくもなるわ」
「……なんだって?」
思わず画面の中で走るミナガワマンナを見る。緑地の和服を改造したような勝負服の――鹿毛の少女。
記憶の中で幼い頃に見たシンザンの有馬記念の時も似たような和装の勝負服を着ていた。偉大な母の真似、ということか?
「……はん、なるほどね」
『第一コーナー曲がり、白いリボンのモンテプリンスが先頭です』
「おお! 頑張れモンテプリンス! いやミナガワマンナも頑張ってくれ! 鉈の切れ味!」
バ群を率いながら逃げていた白いリボンの彼女は第四コーナーを曲がった辺りで後続に揉まれていった。
『モンテプリンス頑張った、モンテプリンス頑張った。内をついてアンバーシャダイ!』
コーナーで膨らんだ隙を突いて全年度王者のアンバーシャダイが先頭に立つ。残り400mを切れば、熾烈なスパートの掛け合いが始まる。
グンっと伸びてきたキョウエイプロミスとヒカリデユールだったが、ヒカリデユールが更に加速してアンバーシャダイを追い抜かした。そのままゴール板を通り抜けて――有マ記念が終わった。
勝者はヒカリデユール。その姿はかつてダートを走っていた者だと微塵にも思われないぐらい、中央らしい輝きに溢れていた。
「っあー、ミナガワマンナ惜しかった……」
「どこがだい。十二着じゃないか」
「まぁそうなんだが……」
テレビの端で息を切らした鹿毛の少女が悔し涙を流している。その反面、勝者たるヒカリデユールはスタンドに向かって満面の笑みを返していた。勝てば負ける者あり。それが勝負の世界。
「シンザンの娘ねぇ……」
「お前でも流石に興味はあるのか」
「さぁどうだろう。来年ぐらいにデビューするもう一人のシンザンの娘がいて、ソイツが二冠引っ提げてテレビでご対面するかもしれない予感はしてるよ」
その名前は
言い出したらなんかいそうな気がする。
「は!? どこの情報だソレっ!?」
「適当こいただけ」
「なんだと……」
高遠が身を乗り出したが茶化せば一気に肩を落とした。
「冗談かよ、もう……」と、帽子を被り直してソファにどっかりと背を預けた。
「なんにせよ、有マも終わったか」
「トレーナーになるとクリスマスより、東京大賞典や有マの方が終わると年の暮れを感じるのかねぇ」
「そうだな……。今はもう来年の担当のレースをどうしようか頭を悩ませているよ俺は」
「大変だねぇ」
「お前のことだよ……。で、希望のデビュー時期はあるのか」
ぐいぐいと煙草を灰皿に押し付けると、高遠は見上げてくる。
希望のデビュー時期か……。
そんなの一択だろう。デビュー時期なんて遅れさせても良いものではない。デビューを遅れさせる原因に多い脚部不安なんてモノすら無いのだから。
「六月。さっさとデビューを済ませてクラシック級に向けて賞金でも貯めるさね」
「了解。……普通に勝つつもりなんだな」
「そりゃデビューしてさっさとBクラスぐらいには上がってないとクラシックは歩めないだろうに」
「それはそうだが……。なんだこの不完全燃焼感は……ぐぬぬ……」
まぁ走る気になったらいいんだと言いながら、真新しいスケジュール帳に素早く書いていく。その切り替えの早さは美徳だと思うよ。
「そういや実家に帰らないのか。確か山梨の方だろ?」
「まだ何も起こしてないのに帰るつもりは無いよ」
「そうか。んじゃ、ちょっと初詣に付き合え」
「寝正月を送る予定だからお断りするねぇ」
「若いモンが新年から早々に寝てんじゃねーよ! 行くぞ初詣!」
「なーぜ神に詣でなきゃならんのさ。寝過ごしの正月こそ至高だと思うんだよ私は」
家に帰れば絶対おと……、妹に引っ張られながら神社へ連れていかれること必須。かといって、今の状況も妹から高遠に変わるだけで、強制的に外へ引っ張られそうな気配がする。さてはてどうしたものか。言葉を返した後、考え込む様子を見せた高遠は帽子を目深に被る。これは……。
「知らないのか、……初詣を済ませておくと勝率が1%変わるんだぞ?」
「はァ? 誤差の範囲じゃないのかい。気のせいってやつさね、気・の・せ・い」
言い返したにも関わらず、嫌味な笑みを浮かべて「一月一日、九時にここ集合」と言い付けられた。
あまりにもうんざりとしたので、速攻部屋を出て行くことにした。「あ、おいっ」なんて声が聞こえるが知らない振りをして扉を勢いよく閉めた。
△
この時期になると帰省する者多けりと思えば、意外にも中等部三年や高等部生たちは残っている。
分からんでもない。親の反対を振り切って来たヤツも多いだろうし、何より高等部生の方には中央からのドロップアウト勢も多いだろう。
地方へ移籍するにしても大井を選ぶことがメジャーらしいが……、わざわざ浦和を選んでやってきたのは浦和競馬場のコースが肌に合っていたとか、同じくドロップアウト勢でも自分を知らない人間がいる所が良いと思ってやってきたとか、そんな理由だろう。
相変わらず、ウマ娘がレースへ懸ける思いは尋常ではないらしい。「人間には三大欲求があるが、ウマ娘には四大欲求がある」とさえ言われるぐらいだ。地方へ移籍してもなお走りたいなんて思うなんざ、筋金入りだねぇ。
さぁて、どこに行くか。クアドランスもそのトレーナーも、クアドランスの帰省に引っ付いて帰ったおかげで、久々に一人の時間が増えている。だが図書室は年始年末が近づいて閉まっているし、好きな様に時間を潰すには不自由になった。
――だから高遠のトレーナー室にあるトレーニング教本も読み漁りもしたが、今は何かとついて話してくるだろうから無し。
残るは携帯――スマートフォン。今まで連絡用にしか使ってなかったけど、これを機に何かアプリでも入れてみるかねぇ? なんだかんだで前世よりもノートに何かしら書いてる時間の方が多い気がするけど……。
一旦部屋に戻ろうか、なんて考えていたところで向かい側の廊下から曲がってくる集団が見えた。三人のウマ娘と、地方トレーナーの証であるバッチを付けた男性一人。どこかのチームだろうか。
「ひとまず資金は入った。これで来年は合宿が出来る。有望な一年だって鍛えられんだろ」
「でもな……。あそこでトラストホークにもっとマークを仕掛けていれば結果が違ったかもしれないと思ってな……」
「ゆーて、姉さんだってすごく頑張ったじゃないですか! そんなにウジウジ悩んでんじゃねーですよトレーナー!」
「そーだそーだ! 祝いとして焼肉連れてけ!」
「お前そっちのが本心だろ……。ま、俺も焼肉は賛成だけど? 暫く足を休める為に休養するから食事制限もナシ、だろ?」
「……仕方ないな。
「「「やりぃ!/やった!」」」
その傍を通り過ぎようとした時、二人のウマ娘が囲むウマ娘と目が合う。赤茶色に見える鹿毛に、イヤーカバーと右耳に丸い飾りを付けたウマ娘――サンドオクルスと。
そのままそっと逸らされる。ウマ娘とトレーナーを交えた楽し気な会話に溶け込んでいく。
記憶の中にあった姿とは違うのは……、
それもそうか。ただ同じ浦和トレセン学園に所属しているだけで、彼女と同じ厩舎でもチームに属している訳ではない。
――ただの面識すらない別人。
すっと、腑に落ちる解答が降りてきた。他人、なんだ。
アイミスユー先輩の件があったから、サンドオクルスさんにも何かしら言われると思ったが、そうではない。
……じゃあ、それでは。――伊那や楠木、ノザワとは後者になるのか?
今なお姿すら見えない、あの……、かつて私を支えに支えた陣営の面々は?
別に彼らがこの世界にいると決まった訳では無いけど……、私をウマ娘というゲームに実装するのならば彼らの話やインタビューは必須だ。彼らの話を聞いて、そうして少しずつ“
……彼らは一体どこにいるんだろう。ショーイチも信子さんも、おと……妹もいるなら彼らだっている筈なのに。
――少しでも、名を馳せれば彼らに会えるのだろうか?
だってこのままじゃ、私は高遠をトレーナーとしてデビューすることになるんだけど、いいのか?
それでいいのか、伊那?
「自分以外を背を乗せて欲しくない」なんて言ってくれたのに、私が
……なんて考えても、現実は変わらない。
――そんな気がする。