ウマ娘 ブラックドーン   作:一億年間ソロプレイ

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書くことないのであけおめです


明かり無き街灯の下で

 

『シンボリルドルフ、圧巻のデビュー!』

 

 机に置かれた、目の前の新聞に眉を顰めた。

 写真に写るのは鹿毛の凛々しい馬ではなく、白い流星が特徴的な茶髪の女性が凛として立っている。

 

「これが今世のシンボリルドルフ。やっぱり、ヤツとは同期世代に当たるのか……」

 

 ぐいーっと背を倒して天井を見る。ぽつぽつ思い浮かぶのは前世での評判だった。

 馬の身であったとしても、周囲の厩務員の口からよく聞く名前で、――なにより初めて出走した芝のGⅠ、ジャパンカップで打ち倒した名馬である。シンザンの記録を塗り替えた()()()とか、そう呼ばれていたことも思い出す。

 シンザン以来の皐月賞・東京優駿・菊花賞からなる三冠を成し遂げた馬。しかも無敗というオプション付き。

 皇帝とまで呼ばれていた、その時のホースマンの誰もが一目を置いていた馬。唯一シンザンを越した馬。

 

「……」

 

 誰もが夢を懸けた馬を倒した後は酷かった。

 私は勝ったにも関わらず、皇帝の冠を阻止した()()として有名になった。

 冷徹で、極悪で、血も涙もないなんて書かれてたこともあった。本馬からレース後に「話したいことがある」って言われたから来たら、後に煽りだなんだの言われたこともあったか。

 それからヤツとは話す機会も会う機会もなく、アメリカで繋靭帯炎を発症して引退。そして後にトウカイテイオーを差し向けてきた。

 別に狙ったことではないだろうが、シンボリルドルフに関連した記憶はあまり思い出したくも無い。個人的に苦い思い出しかない。お前のボンボンにこっちは泣かれたことだってあるんだよ……。

 

「ジャパンカップ、か……」

 

 今年の年始、URAはジャパンカップに地方ウマ娘の参加権を与えると発表。参加権の付与をされるのは東京記念を勝ったウマ娘に限る。

 中央・地方競馬交流競走以外に、地方ウマ娘が移籍せずとも中央のトゥインクル・シリーズに参加できる唯一のGⅠ競争が生まれた訳だ。

 確か、今年の東京記念を勝っていたのはカネデントーシヨー。出走するとは表明していたが……。

 

(でもその前に……)

 

 ぼんやりと尾花栗毛の姿が映る。四足歩行の馬から少女になったアイツ。

 掻き消すように新聞を頭に乗せた。寝よう。

 

 目を閉じた瞬間、扉の開く音がした。

 

「おい反省文書いた――って寝るな―――ッ!」

「寝てない。寝ようとしただけさ」

「それもするなーッ! お前の獅子舞ライブに関しての反省文は書いたのか!?」

「書いた。ほら」

 

 新聞の下から現れた反省文の紙飛行機を声のする方に投げた。

 

「折ってんじゃねーよ!」

「だってそれ、公式的な反省文じゃないだろう。君が個人的に書けっていったヤツだし、適当でいいだろ」

「俺への反省の意を表せ少しは! まったく……」

 

 紙飛行機を受け取ったと思われる高遠は、手際よくと折り紙の形を解いていく。

 

「……おい。これは一体どういうことだ」

「次走の目標」

「何度も一般競争に出走して入着し、獲得した勝利点ポイントの合計でBランクに上がれるまで稼ぎつつ、『全日本ジュニア優駿』出走が確定できるラインまで賞金を稼ぐ……だと?」

「それが今季の目標さね」

「――――スゥ……。落ち着け、落ち着け高遠。反省文書いていないことにはスルーしろ。……最終的には全日本ジュニア優駿を目指すんだな?」

「あぁ」

「だがこの()()ってのはどういうことだァ――!?」

「キャラ変わってるぞ高遠。文字通り入着さ。掲示板入りして、()()()()()()の出走」

 

 私の当面の目標はクアドランスを青雲賞までに叩き潰すことだった。

 でも、――でもだ。何度か深夜トレーニングをしていて分かったことだが、その時期までには圧倒的な力での勝ちは難しいと判断した。まだだ、何十バ身もの差をつけての大差勝ちが難しい。

 たったの三バ身差程度での勝ちはクアドランスの闘志に火をつけるだけ。余計にアイツは走りに真剣になる。

 私がジャパンカップの時のように()()()()()()程の力を出すには、まだ遠い。

 

「話は聞かせてもらったよセンちゃん!」

「僕もです!」

「お前らっ、トレーニングは終わったのか?」

「「はいっ!」」

 

 また扉の開く音がした。今度は二人分。声からお分かりの通り、クアドランスとそのトレーナーの星だ。

 

「センちゃんがわざわざ名前を出してるってことは、そこでなら戦ってくれるんだよね?」

「……」

 

 どう返事したことか。どうすれば良かったのか。迷った末に出た答えだった。全日本ジュニア優駿で雌雄を決する方針は……。

 本当は青雲賞までに仕上げたかったのだが、気付くのが遅すぎてこのザマだ。

 

 私は一人のウマ娘の夢を微塵に潰す。彼女の人生に少なからず影響を及ぼさせるであろう出来事を起こしてやるのだ。――その行動を正当化していいのか?

 カスみたいに残っている良心がやけに刺さって苦しくさせる。

 

 わたしは、本当は……。

 違う。消えろ。人は普通に生きてたってなにかしら、誰かの人生を踏みにじるものだ。

 

 迷いを落ち着かせ被っていた新聞を取ると、キラキラとした眼差しで見つめるクアドランスがいる。どう返すのか見守るトレーナー連中の視線を感じる。

 新聞をゆっくりと元の形に折りたたむ。

 

「そこで君の夢を消し去ってあげよう。――見たかった私の本気を見せてあげるよ」

「――ッ! そう、そうなんだ、そうなんだね!」

 

 ピーンと尾を立てて興奮した様子のクアドランスが突っ込んできた。ぐえ、と潰れた声が思わず出る。

 喜ばし気に抱き着く茶色い頭から生える耳がひっきりなしに動いてる。

 もうこの頭を撫でることも無いのだと思えば、手が自然と動いていた。

 

「だから、それまでは……。私以外のヤツに負けてくれるなよ」

「ふふ、何言ってるの。本気のセンちゃんに勝って、わたしは憧れのダービーに行くんだから!」

 

 何も返せず、静かに撫でた。

 

 

 

 

「ということだから、ビシバシと鍛えてくれて構わないよ」

「それは良いんだが……。聞きたいことがある」

 

 トレーニング用のジャージを着用してトレーナー室に来た。了承を得られたが、高遠の聞きたいこととは何だろうか。

 

「お前は何の為に走っているんだ?」

「意気込みでも語れって?」

「それでも構わないが、……お前が何故走るのか聞きたい。俺は俺の目的の為にお前をスカウトしたが、担当の目的も知っておくことは必要だからな」

 

 いつになく高遠は真剣な目をしている。ここでいう目的というのはレースの出走目標のことではなくて、走る理由自体のことだろう。

 

「賞金の為」

 

 金の為、そして公には言えないが絶望させる為。到底夢を乗せられる背中じゃない。

 

「嘘だな。賞金の為だったならわざわざ()()せずに、一着を取る為に頑張る筈だ。フッ、事前に告げたお前の出走目標が仇となったな……。――それで? 本当はなんだ?」

チッ

「今舌打ちしたか?」

「してない」

 

 見え透いた嘘は見破られた。仕方なく、ぼんやりと浦和トレセン学園に入学する前のことを思い出してみる。それらしい理由が思いつかないだろうか。

 

 

『わ~……! お姉ちゃん、やっぱりすっごく速い! ねぇねぇ、トレセンには行かないの? 私と同じ共学の学校に行っちゃうの? ヤ~ダ~! お姉ちゃんが勝負服着て走ってるところが見たいよ~!』

『だったら君が行きなよ。私は走らないって。私こそ、君の晴れ姿を見たいんだから』

『それはヤダ~! もう神社の方でたくさん走ってるから私はいいの! なにかと理由を付けて走らないんだからいいじゃん!』

『えぇ……、ヤダ』

『父さんも母さんも入学してくれたら喜ぶでしょ~。それに、()()()さんだって……』

『今、ソイツの話をする必要ある……?』

『あ、お姉ちゃんササノさん嫌いだったっけ』

『嫌いだよ、あんな意気揚々と信子さんを期待させておいて一冠も持って来ず帰ってきたヤツなんて。自分の力不足の癖に天候のせいだダートのせいだなんだの言い訳がましくったらありゃしない。酒に酔ってその自慢話聞かされる身にもなってほしいねぇッ……!』

『あ、火ぃ付いちゃった』

 

 

 

『おい()()、アカリから聞いたと。なーに遠慮してんさ。こっちゃ構わずトレセンに行っていいさ』

『父さん。……いいんだって、どうせ走れる訳無いんだから』

『そうけ? たしか、信子んとこの従妹にデビューしたササノがおったろ。そうじゃなくても別に、血でとべん訳じゃねぇ。むしろおまんらに流れとる血は()()()()()。……金の心配なんかしんでいい。思いっきりとびゃあいい』

『走ったって意味ないし。そーいうスポ根必須みたいな世界にいられる訳ないってば』

『ふぅむ……困ったもんと。んじゃ、中央より安い地方のトレセンはどざ? そこで一旦走って、おまんの中にある心の声を聞いてみろし』

『……そんなんで変わる訳ないだろ』

 

 

 

『セツちゃん、お家には余裕があります。アカリちゃんと一緒に入学したって大丈夫なくらい、貴方達には力もあるし。名前は考えなきゃいけないけど……』

『信子さん。私はいいんですよ、これで』

『そうかしら? 七歳の時は「走りたい~!」って喜んで走ってたじゃない』

『それは七歳の時でしょ。今はもう違うから』

『…………もしかして、嫌なことでも言われたの? 身長や、走りのことで意地悪されちゃった?』

『違う。ただ、走りたくなくなっただけ』

『その理由は? ……お母さんでも話せない?』

『…………』

『私は好きよ。セツちゃんの楽しくて仕方ないって伝わってくる走りが。アカリちゃんと一緒に走ってたコマ比べに流鏑メだって凄かったじゃない』

『……走ったってさぁ』

 

 

 

『『それで、いつまで迷っているつもりだ?』』

 

 

 

「おーい? 黙っちまったか……。おい、何も言えないことなら言わなくていいぞ。それが確認できただけで良しとする」

はしりたくない……

「――はっ?」

 

 今、なんて言った? ()()()……。

 

「すまん、よく聞こえなかった」

「……走って人の嫌がる顔が見たいからデース」

「そうかそうか。そういうことにしておいてやる。それじゃさっさとマラソン行くぞ!」

 

 恰好つけながら高遠が自転車に乗る。その背をあっという間に追い越してマラソンに没頭することにした。

 あぁ、鬱陶しい……。

 

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