次回は多分、二話連続更新になると思います。
それから冒頭の話でクアドランスの特徴に齟齬があったので訂正しておきました。
姿としては頭:金髪 尾:根本は栗毛、毛先が金色 という感じです。自分でもこんがらがってたなんてとんでもねぇぜ。
リュックを背負った黒髪に右側に白い流星の目立つウマ娘があちこちをキラキラとした眼差しで見つめている。白毛交じりの黒い尾はひっきりなしに揺れて、蔦の耳飾りを右耳につけた耳がピクピクと辺りを見回すかのように動く。
「……えへへ、迷っちゃったぁ!」
彼女の名は土谷
迷った、となればすぐに携帯で同行者に現状を連絡し迎えに来てもらう……が、時間が掛かるようなので最寄りのコンビニに入ることにした。
専ら目的は新聞コーナー。有馬記念に向けて賑わうトゥインクル・シリーズ関連の新聞の隣に、地方競バ新聞『ケイシュウニュース*1』を手に取った。
「……あ、やっぱりいる。お姉ちゃんめ、わざと伝えなかったなぁ~」
地方版の有馬記念ともいえる東京大賞典――ではなく、ジュニア級ウマ娘たちが出走する全日本ジュニア優駿の欄に姉の写真と名前があった。
(十番人気……)
『これまでのレースでも快走と呼べるものはなく、勝率は低いものと思われる』
(お姉ちゃん、凄いのになぁ……)
明るい笑顔から一転した、しわしわと元気のない顔で明里は新聞を購入した。付近のベンチで新聞を広げて読む。
改めて見た姉、センニンギリの顔は相変わらずの表情筋だった。
「なんて顔して写真撮ってるのもう」
写真には笑みも闘志の一つも見せない無表情のセンニンギリが写っているが、明里の目からすれば、次の昼飯なににしようかなー、という顔をしていた。繊細なのか図太いのか分からないこの姿、姉らしくて微笑ましい。自然としわしわな顔は笑顔に変わる。
「十二月の二十三日……。ぐぬぬ、ギリギリ学校ある日じゃん! 見に行けない!」
地方競バをインターネット経由で見られるようになったのは今年に入ってからの事だった。幸いにもセンニンギリが正式にデビューするのが今年のことだったので、危うく姉の活躍を見逃すという事態は免れた。
とはいえど、実際に見た方が一層盛り上がれるし姉のライブでペンライト振れるしの一石二鳥なので、遠隔よりは現地に行って見たい気持ちの方が大きい。
(……やっぱ書き方がムカつくんだけど)
『未勝利バがどこまで力を発揮できるかが見物である』
ケッ、と唇を尖らせて記者に念を飛ばしていると、彼女に近寄る影が現れた。
「あー、いました。明里ちゃん発見しましたー」
「よくやった
「さくちゃん、ササノさん! お姉ちゃんが出るみたいなんですよ!」
明里がベンチから飛び跳ねて二人のウマ娘の元へやってくる。
あらまぁと落ち着いた様子を見せる黒鹿毛の少女、桜子は目を見開いた。
「明里ちゃんのお姉さまが、ですか?」
「そう! 連絡も無いなんて酷いよね!」
「ちなみにどのレースだ?」
もう一人のウマ娘、上背のあるスレンダーな体系をした大人の女性――ササノが明里から新聞を受け取って広げる。
「全日本ジュニア優駿だって!」
「あー、なるほどな。ジュニア級の地方ダートじゃ一番格の高い重賞じゃないか」
「ホント!?」
「やはり、お姉さまはお強いですね。いつか再戦いただけたらいいのですが……」
桜子がしゅんとした様子を見せる。
幼い頃にだが、明里と共にセンニンギリと走ったことがある。そして負けた。桜子にとっては初めての敗北で、今なお勝てていない。
「大丈夫だよ、多分いつかしてくれる……ハズ!」
「どーかな、かなり時間が必要なんじゃないか? 今思春期真っ盛りだろうし、捻くれてるし」
「思春期……かなぁ?」
ササノの発言を受け、明里の脳内に「お前ら全員雑魚」「走ってもつまらん」「明里が走ってきな」などなど、姉の発していた発言リストが浮かぶ。
「???」
「パンクしてる……。明里ちゃん、気をしっかり」
「ハッ……! ササノさん、多分お姉ちゃんは思春期じゃないです!」
「どうかなー? 私だってあの時期は思春期だったからなー。ま、それで怪我して引退だけどな!」
ササノはからからと笑い飛ばした。
「笑えないよそれ!」
「今はフリースタイル・レースなどに出ては負け無しとお聞きしていますが……」
「まーね。あの一時……、クラシックとかシニア一年目の時に足を酷使してたら治る怪我も治らないってだけで、何年も掛けて治せばたまに走れるぐらいにはなるさ。――でも絶対しない方がいいから気をつけなよ?」
「「はーい/はい」」
「元気な返事でよろしい。さ、東京レース場行くぞ」
「そうだった……!」
それでも尾を満足そうに振りながら明里たちが歩き出した。新聞は丁寧にしまいつつ……。
△
昼近くとなって人も多くなってきた食堂の中、大盛り人参ハンバーグ定食を運ぶキングハイセイコーは見知った顔を見つけた。
「相席いいかしら?」
「どうぞ!」
窓辺から入る光を受けて輝く金髪のウマ娘、クアドランスだった。彼女も同じく人参ハンバーグ定食を頼んでいたようで、ハンバーグに突き刺さった人参の半分が食されていた。
「聞いたよキングちゃん、調子良いみたいだね~」
「貴方の方こそ絶好調って聞いたわよ。ね、『期待の星』さん?」
「え~? キングちゃんもそうやって揶揄ってくるぅ? なんか恥ずかしいや」
照れ照れとした様子を見せるクアドランス。外見の可愛さとは裏腹に、その身で積み上げてきた戦績は可愛げが無い。
どのレースでも二番手と五バ身程度離しての逃げ切り勝利。最近では青雲賞を勝利して、その時のインタビューで次走は全日本ジュニア優駿――、地方ダートのジュニア級ウマ娘の中でも最高峰の重賞に出走すると宣言した。
対するキングハイセイコーは成長期の最中にある体に無理をさせない範囲で、浦和競馬で開催されている普通・特別競走を主戦場として地道に戦績を積み上げていた。成長期が無事に終われば重賞にも挑戦する予定ではあるが、些かクアドランスの戦績が羨ましかった。
――青雲賞はキングハイセイコーの母、ハイセイコーが出走したレースである。
そしてレコードを出して、今なおその記録は破られていないというもの。
母の出した記録を破りたくもあったが、トレーナーからの忠告もあって重賞ではなく若駒特別という、特別競走に出走することとなった。現在は仲冬特別に向けて調整を進めているが……。
(……センニンも出るのに、私は出られないのね)
全日本ジュニア優駿にはなんと、同室のセンニンギリも出走するという。
彼女はこれまで出走するレースこそ同期の中では並外れた数だが、そのどれもが入着止まりで終わっている。
(私には分かるわ。本気を出していないのね)
――一目見て、感じた。
――この人は強い。いつか自身をも破るウマ娘だ、と。
見た目? 体格の大きさ? それもある。センニンギリは長身の女性といっても、かなり上の部類に入るほど背丈が大きい。女子の平均身長はあるキングハイセイコーも接していて、自分が小人になったかのような感覚がある。
でも、そういうことではない。彼女の奥にいる
「でも正直言うとね、キングちゃんのあの末脚だと迫られそうで怖いよ」
「そうかしら? そこまで認めてもらえているなんて、嬉しいわね」
「うん。だからね、羽田盃が楽しみ!」
「もう来年の話? 気が早いのね。……でも、私も楽しみよ」
トレーナーには三冠路線を走ると言ってある。快く承諾され、必ずサポートするとも言われた。
――今は走れなくても、来年には嫌でも戦うことになる。
やや下降気味だったテンションも、そのことを思えば上向きとなる。
冷めないうちにご飯を口に運ぶ。柔らかく炊かれた白米をしっかりと咀嚼してから嚥下する。
「ふふふ、二番手の位置で踊ることを覚悟しておくように」
「それはキングちゃんじゃないの~?」
ふふふ、あはは。
いつの間にか二人して獰猛な笑みが浮かんでいた。
「はわわ……、キング様とクア様の笑顔よ……」
「うわ、こわ……。近寄らんとこ……」「デカいヤツおるやん。混ぜたれよ」
「あの笑顔……キュゥ」「あ、キノコちゃん倒れちゃった……」
「ウィッチさんなんとかしてくださる?」
「はーい、せいやっ」「オッフ、マイスウィートキノコのパルファムが!」
本日も浦和トレセン学園の食堂は騒がしい。
ほけほけとした顔でおばあさんがそっと二人の机にデザートを寄越した。
「おばちゃんありがとー!」「ありがとうございます」という声を背に受けて満足げな顔をして去っていった。ちなみに給仕でも食堂で働いているおばあさんではなかった。
その背後でUターンをしようとしたセンニンギリの姿が、クアドランスの目に留まった。ピーンと耳が立つのが可愛らしい。
「――あっ! センちゃん発見! 一緒に食べよーよ!」
「げぇっ、クアドランスとキングハイセイコー」
「なんでそんな声上げるのよ。さっさと座りなさい」
あからさまに嫌な顔をしてきた同室を急かすように告げれば、渋々とやってきた。そんなセンニンギリが持ってきたメニューは白身フライ定食だった。
「いつも魚ばっかりね。たまには肉食いなさい、肉を」
「これでも言われて摂るようにはしてるさね。魚を」
じとっとした目で見るのはハンバーグに直立した人参が突っ込まれている定食。何故かセンニンギリは人参ハンバーグを食べたがらない。美味しいのに……。
その目がふっと逸らされ――。
「……ところで、そこのフルーツもらっていいかね」
センニンギリは見知らぬおばさんが置いていったカットされたフルーツの盛り合わせに視線がいっていた。
桃、いちじく、柿、梨、リンゴ、パイナップル、イチゴ、ブドウと種類も多い。
「まだ主食に手をつけてないのに!?」
「予約ってヤツさ」
「別にいいよ~! わたし、こっちのパイナップルもらうね~」
リンゴの隣にあったパイナップルをひょい、と食べて「すっぱ!」という顔をする。
何食わぬ顔をしてセンニンギリはイチゴとブドウを皿に取り寄せていた。
「……私の桃、残しておいて」
「気が向いたらね」「分かった!」
キングハイセイコーは隣に座ったセンニンギリの横腹を尾で叩いた。
センニンギリの双子の妹。ウマ。同時に生まれたが若干明里の方が発育が遅かったため、姉とは一年違いになっている。中学校一年生。姉は左側に流星があるが、妹は右側)に流星がある。地元じゃ姉以外で負けたことがない。
明里と幼馴染で同じ中学に入っている一年生。ウマ。お淑やかな大和撫子で神社の娘さん。負けてもきっちり返すのが流儀なので、お姉さまにそろそろ挑戦状を受け取って欲しい。
ササノ
二十歳半ばのキャリアウーマン。スレンダー系美女ウマ娘。元々トゥインクル・シリーズで走っていたが、重度の骨折をして引退。もう何年も前のことで骨折も完璧に治ったのでよくフリースタイル・レースに出走している。
見知らぬおばさん
「おばさんだーれー!? おばさん誰なの!? ねぇ一体誰なの!?」
と通報されて拘束されて家に戻された。ただの一般徘徊クアドランス&キングハイセイコーファンおばあちゃんだった。フルーツ盛り合わせも差し入れのつもり。