ウマ娘 ブラックドーン   作:一億年間ソロプレイ

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書きたいとこだったのですんなりいけました
やったね


お前に私のトレーナーになる権利をやろう

 

 クアドランスから聞いた情報を頼りにヤツのいるトレーナー室前に立つ。

 

(……高遠という名前なのか。……ん?)

 

 高遠。何やら聞き覚えのある名字だと思いつつ、丁寧に……それはもう丁寧にノックをしてやった。

 「入ってくれ」という言葉に従ってやって扉を開ける。

 トレーナー室の内装は本人の趣向がよく入る。とはいえ、ホワイトボード、資料が置いてある本棚にテレビ、といったものは共通らしい。

 この男のトレーナー室は意外にも落ち着いた内装だった。古材調のローテーブル、事務机にぼんやりとした明かり……と、ややレトロさを感じさせる。後ろ手で扉を閉めつつ、すん、と鼻が嗅ぎ取ったのは……妙に嗅ぎ慣れた匂い。

 

「ヤニ臭いねぇ……」

「たまに喫煙するからな」

 

 そう、何処かで嗅いだようなヤニの臭いだ。タバコには銘柄があるが、流石にどの銘柄かまでは分からない。それでも、部屋から微かに感じるタバコの臭いは、よくノザワや楠木が吸っていたらしい臭いではある。

 ――おっと。昔を懐かしむよりも、今は不名誉な話の解決だ。部屋を見回すのを止め、事務机を前に脚を組む男へと目線を移した。自然と目線に力が籠る。

 

「手っ取り早く本題に入るけどさぁ……、一体誰の許しを得て私の担当トレーナーを名乗ってるんだい?」

 

 男は握っていた手に更に力を込める。そうして、相手も負けじと私を見つめ返した。

 

「これは交渉だ。――俺とトレーナー契約を結べ」

 

「交渉ゥ? 勝手に噂を流布しておいて何が交渉かね。それは脅しというものじゃないのか?」

 

 何がおかしいのか。男は口角を上げた。

 

「お前の、トレーナーの間での評価を一部教えてやる。『性根に掴み所が無い』『怖い』『契約しても言うことを聞かなさそう』『勝手にサボりそう』『手に負えない』……、他にもあるが似たようなフレーズのものばかりだ。これが何を示しているのか、分かるか?」

「……」

「お前は例え、何度も選抜レースで一着を取ろうがスカウトは来ない。とんだ『癖ウマ』として認識されている現状だ」

 

 へぇ……。癖馬とかいう概念、こっちにもあるんだ。

 

「俺たちトレーナーはウマ娘をレースに出し、勝たせる為に働く。だがな、最低限度の意思表明である『走りたい』という気持ちの無いウマ娘を担当したいと思うトレーナーはいない。例え、能力の無いウマ娘だろうと、トレーナーは『走りたい』と思うウマ娘をスカウトする」

「ふぅん。『力』はあっても『意志』が無きゃスカウトは来ない。それで、何が言いたい?」

 

 延々と引き延ばすよな言い草にイラっとくる。結局未だに『お前がスカウトされない』としか言われていない。

 私の苛立ちを他所に、男はゆっくりと足を組み直した。あぁ、耳が絞る形になっている気がする。

 

「お前は選抜レースに出たが、わざと勝ちはしなかった。最終直線に入る前の第四コーナー、お前は僅かに()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……よく見ているもんだねぇ。少し感心したよ」

「それは良いことだな。相互理解への一歩と言ったところか」

チッ

「今舌打ちしただろ」

「してない」

 

 軽く咳払いした男がまた口を開く。

 

「勝ちはしないが選抜レースには出る。最終直線前に出ようとする――。それは少なくともお前にウマ娘が持つ闘争心と、勝ちたいという意志があることを意味している。でもお前は頑なまでに勝ちはしない、()()()()()()()()()()()()()()()()()。およそ、最初から地方トレセン学園に入ったウマ娘とは思えない精神構造だ」

「はぁ……、およそスカウトするウマ娘に対して人格否定かい? 私もだが、お前さんも大概好まれないやり方をしていると思うんだが」

「悪名が広まろうと構わない。もう守るべき矜持も無いからな」

「……へぇ。なるほどなるほど。およそ褒められたウマ娘の扱いをしていないと」

 

 中央がどうだかは知らないが、地方のトレーナーの質はピンキリだという。

 アイミスユーのトレーナーは見たところマトモにトレーナー業に励み、ウマ娘を支えているようだったが、中には『名義貸し』のみでまったくトレーニングに付き合わないものや、()()()()()に連続でレースに出走させる者もいる。後者は露見すれば重い罰則はあるものの、『名義貸し』への罰則は連続出走よりも低いものだ。

 この二つ以外に、――単純にウマ娘の扱いが酷い者。苛酷なトレーニング、連続出走による疲弊も構い無しにウマ娘を消費する扱い。これはこの世界の昔よりも改善されたようだが、無い訳ではない。

 

 さて、この男はどちらなのか。名義貸しならまだしも、消耗品扱いのタイプなら断りたくもあるが……。

 

「お前は前提としてトレーナーが欲しい。口煩いことを言わない――、名義のみを貸してくれるトレーナーが」

 

「!」

 

「だが負けることに固執しているウマ娘に、――誘いはない」

 

 男はゆっくりと足を元の位置に直し、立ち上がる。

 

 

 

「言ってやるよ。そんなトレーナーの元じゃ、お前は一生()()()()()()()()ままだ」

 

「俺はお前の意志など構わず、お前に南関東三冠の称号を取らせてやる」

 

「東京大賞典にだって出走させて勝たせてやる」

 

「お前には名誉と金が入り、俺にも賞金と南関東三冠バ・ダートチャンピオンウマ娘を育成できるトレーナーという箔がつく」

 

 そのまま私の前まで歩き、険しく眉を寄せた真剣な形相をしたまま、赤茶色の目が私を射抜く。

 

 

 

 

 

「これはお互い、フェアな契約だと思わないか? センニンギリ」

 

 

 

 

 

 ――私はその目をよく知っている。

 

 ……よく知っているのに、もう()()()()()()()()彼らがしていたんだ。

 そうしてゴール板を、私を、人を見つめていた。顔が覚えていなくても、その目だけは鮮やかに焼き付いている。

 

 ……落ち着け。目を閉じて視線を遮断する。――それでも尚、感じる。

 

 落ち着け、落ち着け。私が走る理由を思い出せ。

 

 金の為だ、走ることを楽しむ為だ、将来の貯金を貯めておく為だ。そんな動機で一着を取れるほどの力を私は持っている。

 別にダートの状況なんて改善しなくても蹂躙だけすればいいのだ。金を好きなだけ取って、好きなだけ好きに走って、真剣な奴らを嗤えばいいだけの仕事だ。

 そうさ、真剣な顔で走っている奴等の挫けた顔を見るのが好きなのさ。

 だから私は力を抜いて走って負けつつ、大舞台でまぬけな顔をさせてやる為にいるんだ。……本当に。

 

 …………なんとか落ち着いた。

 

 さて、男が言う通り、私が『癖ウマ』とされていれば選抜レースでアピールしてもスカウトされる確率は少ない。こちらが望む名義貸し系トレーナーからのスカウトも来ないだろう。奴等こそが上昇志向の高いウマ娘を欲しがるものだ。

 下手な意地を張っていても求める条件のトレーナーはいない。……と、なれば条件を緩めて妥協案にするしかない。

 

 ……あまり納得はいかないが。いきたくもないが!

 

 ――この男の誘いは、私が条件を絞った結果だ。僅かにでもあったトレーナーの誘いを妥協せず蹴ってきたが故に、面倒くさそうな案件が残ったのだ。

 最早、私がデビューするには()()()()()()()()という瀬戸際。

 ……もし、苛酷なトレーニングをさせられるとしても適当に力を抜いてサボっておけばいい。いざとなればこっちが脅せばいい。対処法はある。

 

 方針も決まったところで……。

 まず最初に、胸に溜まった息を吐かせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長~く思案した分だけ残っていた淀んだ空気を吐く。

 

「……いいよ。交渉成立だ。お前に私のトレーナーになる権利をやろう」

 

 それから目の前の――、高遠に手を差し伸べてやる。

 呆気に取られた表情をした後、子供みたいな笑顔で手を握り返す。

 

「これからよろしくな」

「……ほどほどに」

 

 こうして、頭を悩ませていたトレーナー問題が解決した。

 

 

 

 

 高遠は先程までの雰囲気から一転して、よく見るチャランポランの浮かれた空気を出しながらトレーナー契約に関する書類を差し出した。

 トレーナー契約に関する旨と解消条件が述べられた後、トレーナー・担当ウマ娘の名前を書き、両者の判子を押して学園――ひいてはNAUに提出されれば契約完了。見事、高遠と私はトレーナーと担当、という関係にはなるのだが。

 

「一つ言っていいかい」

「なんだ? トレーニング方針についてか? これから走るレースについてか?」

「違う。まだ正式契約していないのに、正式契約したとか……誤った情報を周囲に流すのは止めてくれないかね。いくら契約したいとはいえね」

 

 差し出された契約書には、もうとっくに高遠の名前と判子が押してあるのだ。そして担当ウマ娘の名前を書く欄にはうっすらとセンニンギリと、鉛筆で書いて消した跡がある。どれだけ契約したかったんだという話さ。

 

「あぁそれか? あの話はクアドランスにしか話してないぞ」

「は?」

「お前とクアドランスには並々ならぬ縁があるようだし……、まぁ何よりもお前の友人関係の中で一番根深そうなものを持っているヤツだ。こちらから協力して欲しいと呼び掛けたら二つ返事で了承したぞ。『あのままじゃセンちゃんトレーナーつかなさそうだし』とのことだ」

「はぁぁ……?」

 

 つまり、私は高遠とクアドランスに踊らされていた……ッてコト!?

 ムカつく。

 

「いやぁ、デビュー前からあのポテンシャルを持つクアドランスにライバル認定されているのは良いことだ。お互い、励むんだな! はっはっはっ……アヅゥッ!!!

「…………」

 

 高遠は傍のマグカップを持って勢いよく飲んだはいいものの、淹れたコーヒーの熱さに舌を火傷させた。しかもその後から「苦い」とか言って砂糖とミルクを足した。カッコつけてブラックコーヒーを飲むなよ……。

 

「……それからもう一つ」

ひぃーッ……。ん、なんだなんだ」

「私の何処を見てスカウトする気になったのさ」

 

 こんな……、クアドランスにまで手を回してまで欲しがる人材か? まぁ勝ち星は取れるけど。

 それでもこの男は他のトレーナーのように『手に負えない』とか何とか言って手を引けば良かっただろうに。明らかに何か、明確な目的があるように思える。……どれでもいい、っていうんならそこら辺のウマ娘を捕まえりゃいいだけだし。

 じーっと見つめればドキリとしたように高遠は肩を跳ねさせた後……。

 

「男にも秘密っていうもんはあるのさ」

 

 帽子を目深に下げて流し目で言った。これ、お決まりのポーズとやらなんだろうか。

 

「秘密主義は後々の関係構築に支障をきたすと思いますが、どう思われますか高遠トレーナー」

「うわ敬語似合わな……ウソウソ何でもないです」

「何もしようとしてないのに怖がるのは止めてくれないかね」

 

 ただちょーっと頭を掴もうとしただけじゃないか。その後手が滑って握り潰しそうになるかもだけど。

 

「まぁ答えられなくていい。一つの区切りとして契約を承諾するだけにしとくさ」

 

 相手も私をスカウトする理由を話さない。

 こちらも負けに拘ることを話さない。

 

 今はそれでいい。判子を押した書類を高遠に返した。

 

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