ウマ娘 ブラックドーン   作:一億年間ソロプレイ

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ひぃぃん、これは不定期更新の作品です(タテマエ)


あなたと合同(トレーニングが)したい

 

 高遠がついてからは本格的なトレーニングが始まるようになった。現時点での私のスペック・技術を確認させても、「本気で走ってみろ」というモノに対しては一切本気を出さなかった。走りたくない・蹄鉄割れる、で良いことが無いのでね。

 何度か攻防を繰り返してなんとか諦めさせることが出来た。しかし、心の奥底ではまだ諦めてはいないだろう。トレーニングの合間、悔し気な視線を寄越すこともある。

 最初は高圧的な態度が目に付いたが、意外とトレーナー業には熱心な様子が伺える。恐らく圧のある態度は()()だな。根がマジメなタイプのヤツだ。

 

 だが妙なことに、この高遠という男には悪評がある。

 私たちデビュー前の学年よりも、現在のクラシック級を走っている学年以上の生徒たちがよく高遠を見てはヒソヒソ話をしている。万能な耳から入った情報では、高遠は『ウマ娘を使い潰すタイプのトレーナー』『セクハラしてくる』『じろじろとイヤらしい目で見てくる』などなど。中には「言いがかりじゃない?」と言いたくなるレベルのものまで様々。

 

 『使い潰す』はまだ分からない。トレーニングの負荷もそう強いものではなく、一応デビュー前のウマ娘の耐久力を考えて組まれていると思われる。

 『セクハラしてくる』は……、誰にだ? 担当しているウマ娘か、それとも他のウマ娘かで変わってくると思うんだが……。そもそも、この噂が本当ならば流石に浦和トレセンがトレーナーライセンスを一時停止にするだろう。高遠と浦和トレセンがグルという可能性も無くは無いが……、精々数パーセントぐらいのレベルで存在してると思うね。

 『じろじろとイヤらしい目で見てくる』。流石にこれはもう、な。同じ電車に乗っていたら突然「痴漢です!」って通報されるぐらいに理不尽度があるぞ。でも、トレーナー業は男の方が多いように見える。女性もいなくはないが、中央・地方含めた有名なトレーナーを挙げたら大方は男性トレーナーだ。この噂を流したヤツは担当トレーナーが女性のヤツか?

 

「お、おい、流石にもう止まれ……。10kmの走り込みを、するとは、言ったが、20km、まで、やれとは、言ってない……!」

「自転車使ってそのザマかい。体力無いねぇ……」

「お前に、比べれば、誰だって、低いわ……!」

 

 ここ最近のトレーニング内容は走り込みだ。まだまだデビュー前ということで、体を作る目的で走り込み。

 ペースを落とさず、かといって上げ過ぎず、一定の速度で走り込みをする。自分の中でのペース感覚と体力の上限を知るには持ってこい。そして私の得意なトレーニングだ。

 だって適度に走ってりゃすぐ終わるものだ。一々使用許可を取らなきゃいけないジムを使用したトレーニングよりまだマシ。走ってる最中は通行人や車に気を付けながらゆっくりと考え事も出来るからねぇ……。

 

 そして、走り込みをしていると隣で高遠が自転車漕いで距離を教えてくる。余裕こいた顔は10kmまで、それ以降は疲労によって顔を崩しながらも必死こいて付いてくる。

 

「別に門限前に帰りはするんだから、一々来なくていいんだが」

「おれの、ポリシーに、反するっ!」

「ポリシーねぇ……」

 

 止まって振り返れば、自転車を支えたままでポーズを決める高遠の姿。決め終わったらすごすごと自転車を押して隣までやってくる。シュールだなぁ。

 

「ウマ娘の足は凄まじい加速をするが、それ故に脆い。ヒトの足とは構造が同じ筈なのに、()()()()()()()()()()()()()()()不可思議な器官の一つだ。加速した状態で転びもすれば足は只事ではすまないし、足に疲労が蓄積した状態で更に負荷を重ねれば壊れていく。――担当するウマ娘の足の状態や健康状態に気を配ってコーチをするのがトレーナーの仕事だ」

「ふぅん」

「その点で言ったらお前の足は規格外だがな。20kmも走り込みをやって尚、全然()()()()()だろ」

「ジョギングレベルで疲れているよ。いや、散歩かね?」

「おっっっそろしいな、お前」

 

 そんなドン引きの目で見るなよ。照れるだろ。

 

「一体どんな生活送ってたらそんなスタミナがつくんだ……。そこまで体を鍛えているっていう訳か……? だとしても、鍛えているのなら何で本気で走らないんだ……」

「鍛えているつもりはないさね。ただ……、そうだなぁ……。元々の能力が高いとか、妹の遊びに付き合ってたらこうなっていたとか、かねぇ……」

「余計に分からなくなった……」

 

 しわしわになった電気鼠みたいな顔をしながらも、高遠は息を戻せたようだった。

 更にぐるっと辺りを見回すと、丁度空が赤らんでいくところ。そろそろ戻る時間か……。

 

「センニンギリ、水分補給はしておけ」

「ん、あぁ」

 

 カゴに入っていた水筒を渡されて飲む。うーん、スポーツドリンクの味。

 

「ところで」

「なんだ」

「センニンギリって長いから、()()()()って呼んでいいか」

 

 

 

「…………………………………………」

 

 

 

「そんなに嫌か……」

「別に、構わないがね」

 

 四文字で区切られるのはよくあるっちゃある。センとか、センニンって呼ばれることは多いけれども。

 まぁ……、まぁ……落ち着け。落ち着くんだ私。キングハイセイコーに呼ばれても大丈夫だっただろう。

 ただ名前の響きが似ているだけじゃないか。うん。もう血縁関係で無いからそう結びつくこともないし、競馬新聞で父親の名前で賭けられることもないし、産駒対決とか題されることもない。

 今の私の父親はショーイチなのだから。

 

うわぁぁぁぁぁぁ! あああああああああ!」

「おっ、センちゃんだ! おーい!」

 

 背後からクアドランスの気配を察知した。勢いよく振り返った先には、奇妙な光景が広がっている。

 ……クアドランスが、ヤツのトレーナーを背負って走ってきていた。ガクブルと震えているトレーナーは白目を剥いて泡を吹き出している。それに関わらず、クアドランスは笑顔で空いている片手を振って、傍で止まった。

 

「どうしたんだい、それ」

「トレーナーね、虫が大の苦手なんだけど……。喋っていた最中に口の中に虫が入って来ちゃって気絶しちゃったんだ。それで運んでたら現実を認識して()()なっちゃった」

 

 多分それ、虫以外にもお前の走りで泡吹いてる(フシ)あるよ。

 何も言えず微妙な目でクアドランスを眺めていると、隣の高遠がやや速度を下げてクアドランスの近くへ寄った。

 

「クアドランス、俺の自転車にお前のトレーナーを乗せるから下ろしてやってくれ……」

「えっ、いいの?」

「構わん構わん」

「ありがとうございます~! そろそろ腕が痺れちゃってきててどうしよっかなって思ってたんですよ」

 

 ひょい、と荷物のようにトレーナーは自転車の座席に乗せられた。しばらくぶらぶらとした後、クアドランスのトレーナーの目に光が宿った。

 

「こ、ここは……一体どこ……」

「河川敷だ」

「あ、貴方は()()高遠さん……!?」

「……そうだな。()()高遠だが、なにか」

 

 目を見開かせ、高遠を見つめるクアドランスのトレーナーに何やら思うところがあったのか、高遠は目深に帽子を被る。

 気まずさのある沈黙が両者に漂う。

 そっか、そういえば高遠って悪評があるんだった。そりゃウマ娘以外にも警戒はされるか。うっかりうっかり。いつもの調子を見てたら忘れてしまっていたよ。

 

「あ、あのっ!」

 

 掛け声と共にクアドランスのトレーナーは自転車の座席を降りた。

 

 ――そして、高遠へと頭を下げた。綺麗な直角のお辞儀である。

 

 

 

 

 

「宜しければ、ウチのクアドランスと一緒にトレーニングをさせていただけませんか!?」

 

 

 

 

 

 叫ぶような声で告げられた言葉に「はっ?」と、高遠が聞き返した。待て、どういう話だこれは……?

 思わずクアドランスを見るとウィンクを返された。

 ……もしかして、承知済みの話なのか? 元からこうする予定だったとでもいうのか……?

 

「ご存じの通り、クアドランスは才能に溢れたウマ娘です。場合によっては中央の移籍も可能なほど。……ですが、彼女とトレーニングしていく度に自らの至らなさを自覚していくばかりです。これでは、到底彼女の才を十分に発揮させることは出来ないと悩んでいた所、迫野(さこの)さんが『高野のとこで教えてもらうといい』と言われまして……」

「――迫野(さこの)が?」

 

 高遠は帽子のつばを上げてクアドランスのトレーナーを見つめた。声にはまさか、という驚きの色があった。

 

「待ってくれ。それはつまり、サブトレーナーとして就きたいということか? 『合同トレーニング契約』を結ぶということか?」

「後者です。――貴方方と『合同トレーニング契約』を結びたい」

 

 合同トレーニング。書いて字のごとく、違う陣営のトレーナー・ウマ娘同士が協力し、トレーニングに励むこと。

 待て、待て待て待て。もし結んだとなれば、私はクアドランスと共にトレーニングをすることに……?

 

「勿論、無理にとは言いません。断ってくださっても構いません」

 

 顔を上げたクアドランスのトレーナーは高遠を、次いで私の目を見つめる。

 

「ですが、このことはクアドランスも了承しています」

「わたしとしてはどちらでもいいけどね。このままトレーナーと二人三脚で歩むのもいいけど……、センちゃんたちと協力しながら歩むのもなんだか()()()を歩めそうで楽しそう!」

 

 思わず高遠と視線が合う。言葉にしなくても分かる。

 「どうする?」だ。

 

「……なんだ、その、少し時間をくれ。お前たちの気持ちは分かった」

「良い方向に検討していただけると……嬉しいです! それではっ! クアドランスっ!」

「はーいっ! それじゃ失礼しましたっ!」

 

 クアドランスのトレーナーが声を上げ、それを受けてクアドランスはトレーナーを背負って走り去っていった。

 

「あああああああああ! もう少し遅く走って! あばばばばば!

 

 叫び声を聞きながら、その背が小さくなるまで見つめていた。

 

 違う道。違う道とはなんだ。

 

 ……何を忘れている。なんで妙に引っ掛かるんだ。

 

「合同トレーニング……。迫野(さこの)、が……? 何故……」

 

 ぽつりと呟かれた声で意識が一気に引き戻される感覚がした。ゆっくりとした動きで見つめれば、高遠はややたじろいだ。

 

「あ、あー、その……、どうする……」

「その話は、お互いもう少し後にした方が良さそうだねぇ」

「っ。……助かる」

 

 なんだか高遠もダメージを受けているようだった。迫野という人物に対して動揺をしているようだが。

 こんな調子では、話すべき話も、他愛のない話も出来ない。

 静かな帰り道を二人して歩いていた……が、高遠の足がいつまで経っても遅いので私が自転車を持ち、高遠を背負ってトレセン学園まで帰った。丁度いい重さだった。

 

 

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