嘘です。すいません、大遅刻です。はい。
前書きはこの辺で本編どうぞ。
前回までのラブ↓ライブ!↑
自分は普通の高校生御影玲。普段と変わりなくバイトへ行ったら1つ上の先輩近江彼方さんからとあるリークをもらった……。
祝え!我が最推しが誕生せしこの日を!
……とうとうこの日が来てしまった。いざ迎えてみると、とてつもない緊張感を伴っている気がする。1週間前ぐらいまではなんでもない日だったのに。
あ、どうも御影
というわけで人に紛れるようにして登校してきたんですが、何を間違えたのか上原さんと高咲さんと同タイミングで登校してました。
「御影君おはよう」
「おはよー」
「あ、おはようございまスゥ……」
あまりの状況に変な声……変な呼吸出たわ。マジでこの人達自分の事見張ってるんじゃないのかとか、狙ってるんじゃないかってくらいに素敵なタイミングで出会うんですよね。ええ。自意識過剰でしたね。自害してきます。
「元気なさそうだけど、どうかしたの?」
己の愚かさにげんなりしていると上原さんが心配そうに問うてくる。コイツ今罪に罪重ねたぞ。処せぇ! ついでに吊し上げて火炙りにして市中引廻しの刑だ!
因みに市中引廻しの刑っていうのは、縄で縛られて馬に引かれるのをイメージする人多いかも知れないけど、実はそんなことないからね? 罪状とか名前を書かれた札を首から下げて町中1周、即ち見世物にされる刑のことだよ。つまり自分は見世物だった……?
「いえ、何でもないです……」
相変わらず低いテンションで上原さんへと返答した自分は、その流れのまま視線を地面へと落とす。やばい、まともに上原さんの顔を拝めない。普段から推しとしてみていることに加えて、今日が誕生日って考えるめちゃめちゃ神々しくて……ダメだわ。
「なんでもないように見えないけどな」
「……強いていうなら寝不足、ってくらいですかね」
追撃のように繰り出された高咲さんの問い掛けへ適当な返しをする。実は寝不足というのは半分本当で……昨晩というか、昨日
「夜更かししてたの?」
「学年末試験の対策してた、と言いましょうか」
嘘である。この男、勉強などしておらず普段通りの生活を送っていただけだ。めっちゃイレギュラーに頭の中支配されてましたけど。
「え、もうそんな時期?」
「ええ……今週末ですから」
「わあー!!」
「え、侑ちゃん?!」
事実を述べたら高咲さんが叫びながら走り去ってしまい、上原さんもそれを追うようにして走っていく。そんな2人を見送った兼、その場に取り残されてしまった自分は浮かない表情を伴って校舎へと入っていくのであった——
特に変わった事もなく迎えた昼休み。普段なら教室の自分の席で1人虚しくお昼ご飯を突っついている自分だが、今日は教室外にその身を置いていた。
「はぁ……」
大きな溜息を吐いた自分は、座していたベンチに横たわる。自分が現在いるのは、体育館裏にひっそりと設けられた休憩所的な場所。屋根とテーブル、そのテーブルの四方に配されたベンチによって構成されているこの場所は、あまり知られてないらしく人気が全くと言っていいほど無い。
さてそんなところでお昼を取ったりしてた自分は、先も述べたようにベンチに横たわっている。眠いのと、現実逃避を兼ねてだ。
未だぐるぐると回る頭の中を整理しようと目を瞑った途端、聞き馴染みのある声が自分の耳に届く。
「おやおや、こんなところで玲君に出会うとは〜?」
驚き混じりに目を開けてみると、昨日のバイトの時も見たお方が。おやおやおやおや、なんでこんなところで出会うのだろうか。あ、同じ学校だからか。
「ゲッ、関羽……じゃなかった、近江さん」
昨日自分へと色々リークしてくれちゃった人こと近江さん。学校内で会うの中々無いけど、どしたんだろこの人。
「関羽?」
「忘れてください。それでどうしたんですか近江さん、こんなところで?」
「それは彼方ちゃんのセリフだよ〜」
聞き返したら同じセリフを返されました。これが俗にいうリフレクターパックってやつか。え、どっちかって言うとヤタノカガミ? まあどっちもビーム偏光系装備だから変わらんか……とか思ったけど、リフレクターパックは吸収だから反射じゃないね。つまりヤタノカガミが正解なのか。はい。
「自分は……なんというか、1人になりたくて。近江さんは?」
「彼方ちゃんはすやぴしに〜。そしたら玲君がいた」
間延びした声で返答してくれる近江さん。つまり偶然に偶然を重ね合わせた結果がコレってことか。どういうことなのだ……。
勝手に困惑してたら近江さんが自分の隣に腰掛けてくるんですが。あのあの。
「それで、今度は何を悩んでるのかな〜?」
「……近江さん知っててわざと言ってますか?」
「なんのことかな〜」
白々しさ全開の近江さんの様子に思わずため息が出る。ヤバいね、自分今日ため息ばっかだよ。ため息つくと幸せが逃げるっていうけども、幸せなんか元々ないのでノーカン。
「……とりあえず近江さんの質問に答えますと、昨日話してもらった上原さんの誕生日に関する事でずっと悩んでました」
「やっぱりかー」
わかっていました、と言わんばかりの返答をした近江さんは、ずいっと身体を自分の方へと寄せてくる。パーソナルスペースがログアウトしました。どうした、応答しろ! スペェェェス!
「な、なんですか?」
「何をどう悩んでるのか、彼方ちゃんに話してご覧?」
微かに悪い顔を浮かべた近江さんを前に反応に困る自分。なんなんだこの人は……本当に何がしたいんだ。でもそれはそれとして、折角だから相談に乗ってもらうかな。
「わかりました。えーっと……」
「あ、その前に」
話そうとしたら近江さんに遮られる。今度は一体何なんですか。打って変わって真剣な表情を見せる近江さんと、その迫力に呑まれ思わず固唾を飲む自分。
「——玲君」
「は、はい」
「話聞いたら膝貸して〜」
全くもって予想できなかった言葉に大きくズッコケる自分。……ええっと、話聞く対価として膝を貸して欲しいって? なんでやねんねんねん。
「構いませんけど……」
「やったー」
いつもの間延びした口調に戻った近江さんに、あれやこれやと悩みを打ち明けた後、自分は昼休み終了間際まで近江さんのことを膝枕しているのだった——
夕刻、屋上にて
黄昏時を前に黄昏てる変な奴ムーヴをしながら潮の香りに鼻腔をくすぐられていると、不意に屋上の扉が開かれる音が聞こえてくる。こんな時間にここへ来る人なんているのか? 湧き上がった疑問と共に振り向いてみたらあらまあびっくり仰天。上原さんがやって来たよやだー。……え、は、え? う、う、う、上原さん?
「……ほぇ?」
咄嗟に身を屈めてしまった自分はそっと上原さんの様子を伺う。……やましいことは無いのになんで隠れたんだ? あ、推しの前からフェードアウトしてるって決めたからだわ。
とかなんとか思ってたら上原さんと目が合った。……ん、目が合った? え、え、なんかこっち来てない? アレですか『お前とも縁が出来た』って奴ですか? 違うから。ていうか気のせいじゃなくてこっち来てるね?!
「御影……君?」
うわあああああ! 声かけられたよ! 見つかってるよ! なんでだよ! 自分の
「あ、えっと……こんにちわ?」
「う、うん。こんなところで何してるの?」
「ちょっと定点観察を……」
ぎこちない会話をしながら立ち上がった自分は、軽く全身を叩き埃を落とす。地面に触れたりしてないのに、なんか若干汚れてたから反射的に払ってしまった……って、そういうことしてる場合じゃなくて。
「それで、上原さんは何故に屋上へ?」
「私は、呼ばれてここに来てみたんだけど……」
「呼ばれた?」
「あのもしかして、近江さんに呼ばれました?」
「うん。彼方さんから屋上に来て欲しいって言われてね。そしたら、御影君が居たんだよ?」
驚きました、と訴えんばかりの表情をこちらに向ける上原さん。上原さん、そのお顔は反則です。そしてやっぱりかー! 昼休みに話した時、近江さんが『彼方ちゃんに任せて〜』とは言ってて嫌な予感はしてたけども、まさか直接上原さんを召喚するとは思わなんだ! くっ……どうする御影。
「それで、御影君はここに居たってことは、私に何か用事があるって事?」
「用事というかなんというか……ちょっとしたことなんです」
改まった自分は上原さんに正対し、ゆっくりと視線を彼女の方へ向ける……が、眩しすぎてやっぱり直視できない。この人のオーラ強すぎるッピ!
なんて、1人で格闘しながらもなんとか上原さんの方を見据えた自分は口を開く。
「その上原さん……お誕生日、おめでとうございます」
僅かに視線を落としながら祝福の言葉を告げた自分が再度上原さんの方へ視線を戻すと、またしても驚いた表情を浮かべる上原さんの姿が。え、え、え?
「御影君、私の誕生日の事知ってたの?」
「ええ……昨日耳に挟みまして。だからその、贈り物とか何もなくて……こう、祝辞みたいなことしかできないんですけども」
申し訳ない気持ちに駆られた自分は、視線を落としながら告げる。このためだけに呼び出した感があるのも申し訳ないし、何も持ってないのも申し訳ないし。こいつ重罪だな?
「ううん。そんなことないよ。御影君にお祝いしてもらえたってだけて、私は凄く嬉しいよ?」
とかなんとか思ってたら上原さんからの切り返しが来ました。いちげきひっさつ!
てな感じで戦闘不能になってしまった自分の情緒1を戻し、後続で控えている情緒2を繰り出してなんとか再起した自分は意識を現実に向ける。
「上原さん……」
「だから、ありがとう御影君」
視線を上げた途端、入ってきたのは
「そんな、お礼を言われるようなことではありませんよ。それに、先も言ったように何も用意できていないので……」
再度
もうね、SAN値とかじゃなくてメンタル食われてるのよ。だからこう、笑いながらも気分が沈んでいくという。悲しいなぁ。
悲しみに打ちひしがれていると、なにやら上原さんがこちらへと歩み寄ってくる。あの、どうして距離を詰めてくるんですか?
「上原、さん……?」
「ならさ、プレゼントの代わりに私のお願い、聞いてくれる?」
とんでもない代替案が飛び出してきましたね。それも本人のお口から。え、待って。それって、その、つまり、推しの願いをどのようなものであれ、叶えろってコト? それが重罪であろうとも? 終わったな。風呂入ってくる。
「お願い、ですか?」
「——私のこと、下の名前で呼んで欲しいな」
夕陽を背に投げられた上原さんからのお願いに、全神経の信号が停止する。下の、名前で、呼んで、欲しい……って? つまりそれって、推しの御名前を呼べと? こんな下等人種が? 呼べるわけないよ父さん!
でもでも、推しからのお願いだから断るわけにもいかないし……板挟みジャマイカ。前門の虎、後門の獅子……いや、この場合は前門の推し、後門の爆破か。死ぬしかないじゃない! ええい、どうにでもなれぇ!
「え、っと……歩夢……さん」
一言一句を噛み締めるようにして絞り出していく。その結果、自分の手持ちの情緒は全て、某ソロモンの悪夢さんの攻撃を受けた艦隊よろしく消滅する。あ〜、星の屑の音〜。やっぱダメだよこれ! アウトだし、アウトだし、死ぬの不可避だよ!
感情がオーバーロードし始めた自分は、両手で顔を覆いその場に膝から崩れ落ちる。
「み、御影君?」
「やっぱり……勘弁してください……」
「え?」
限界をとうに超えてしまった自分は涙声で訴える。呼ぶ度にですね、自分は爆発するし、付随的効果で死んじゃうしで、既に持たない身を余計に焼くだけな結果になってしまうので、本当に申し訳ないんだけども勘弁してほしいです。だってさ、名前を呼ぶだけで9999の固定ダメージ飛んでくるんよ? そりゃ、ねぇ……。
「他のことで埋め合わせするので……これは勘弁してください……自分には……敷居が高すぎます……」
「そ、そっか。なんか、ごめんね?」
「いえそんな……こっちの方がすいませんです……」
首を横に振りながら立ち上がった途端、立ちくらみに襲われ大きくバランスを崩す。あ、ヤバい。最悪の位置でバランス崩したみたいで踏みとどまれないわ。
「御影君、ッ」
そんな自分の異変に気が付いたらしく、上原さんは咄嗟に手を伸ばし自分の手を掴んでくれる。だが、こちらの倒れる勢いの方が強かったらしく、そのまま彼女を巻き込み倒れてしまう。
背中を走る痛みに悶えながら、反射的に閉じてしまった目をゆっくりと開いていく。するとそこには、自分の顔の両側に手をつき、夕陽を背にし
「大、丈夫?」
「は、はい……上原さんの方は大丈夫、ですか?」
「うん。私は平気だよ」
自分の問いに頷いた上原さんは小さく笑いかけてくれる。自身が何事もないと示すかのように。対する自分はというと、背中を打った反動なのか呼吸がうまくできないことに加え、上原さんの存在が間近にあるという事実、更にはこのような状況になってしまった事への申し訳なさがひしめき合い、本日何度目かの脳死状態に陥っている。というかこの体勢……自分が上原さんに押し倒されたみたいな構図になってると思うんだけども、誰かに見られたら不味くないですかね?
などと考えていたらどうもフラグだったらしく、屋上の出入り口の扉が勢いよく開かれる音が響き渡る。
「歩夢!」
「侑ちゃん?」
……オタワ。じゃなくてオワタ。このタイミングで現れたのは高咲さん。これは死刑執行待ったなし。言い残すことは……何もないよ。我が生涯に一片の悔い……あるかもしれないからこの台詞ダメだわ。
「大丈夫? 怪我してない?」
「うん。平気だよ」
「良かった……」
上原さんの無事を確認し胸を撫で下ろした様子の高咲さん。すると突然高咲さんがこちらへと振り向く。鋭い視線を携えて。なんだろう……今までに何人も殺めて来たのではないかと錯覚するぐらいに恐ろしい視線なんだけど。これ自分死んだか? 死んだわ。
「——御影君」
「は、はい……」
明らかな圧を含んだ高咲さんの言葉に、まるで全身の細胞が恐怖を感じているかの様に震える。悪寒なんてレベルじゃない——例えるならそう、氷点下よりも厳しい冷たさが、背筋を駆け抜けた感じ。
今ならね、『メガ・バズーカ・ランチャー』を外した某大尉の気持ちがよくわかる。こんなプレッシャーに晒されたら動揺するよ。
その圧に意識を飛ばされないようひたすら思考を回していると、高咲さんが噤んでいた口を開く。
「歩夢は私が最初に可愛いと思ったんだからね!」
高咲さん口から飛び出した一言は、不思議なくらいに辺りへと響き渡る。開けている屋上であるにも関わらず。というか待って、え? 今のって高咲さんから上原さんへの告白ですか? 告白だよな? 告白だと言え。
「ゆ、侑ちゃん……」
両手を口元に当て瞳を大きく見開く上原さん。その頬は、夕陽に照らされているにも関わらず、紅潮しているのがわかるほどに紅く染まっていた。
そんな見たこともない推しの表情を目にしてしまい、ますますこの場から消えたくなって来た自分は、恐る恐る高咲さんの方へ視線を戻す。
するとなんということでしょう。高咲さんの方も顔真っ赤なんですけど。なんなのこの人。自分で言って恥ずかしがってるの?
「だから、えっと、その……ふ、ファン1号は、わ、私なんだからね」
「あ、え、あ、はい……」
もはや現実における応答を停止しかけていた自分は、小さく頷くことしかできないでいる。いや、こんなの見たら止まるよ。ついでに情報過多だし。
「侑ちゃんそれって……」
「だって、歩夢は——」
突如として会話が頭に入ってこなくなった高咲さんと上原さんのやり取りを横目に、1人
「御影玲はクールに去るぜ……」
「コラコラ玲君、どこに行くのかな〜?」
何事もなく立ち去ろうと思ったら何故か近江さんに肩を掴まれる。あの、えっと、なんでここにいるんですか貴方? というかなんで自分のこと捕まえるんですか。
「近江さん離してください。自分は帰って腹を切るんです!」
「それは尚更帰せないかな……」
結局そのまま、ごねながらも近江さんに連行されてしまう自分。で、今は何故か近江さんと高咲さんと上原さんとスクールアイドル同好会の部室前に立っている。なになぜどうして。自分はどうして……こんなところへ来てしまったのだろう……本当に。
疑問に思っている自分の手前で上原さんが扉開けて中に入っていく。すると、パンッといった具合の音が複数回鳴り響く。
「歩夢先輩! おめでとうございます!」
上原さんの達の後ろに続いて部屋の中に入ってみると、中須さんを筆頭とした面々がクラッカー構えている。これって、上原さんの誕生日会だよね……?
「なんでレイがそっち側にいるんだい?」
「自分にもさっぱり……気がついたらここに来ていたので」
そそくさと部屋の端へ寄るとミアさんに声をかけられる。いや本当にね、なんでここにいるんだろうね自分。誰か教えて欲しいくらいだよ。とか思ってたら、なんか着々とパーティが進んでいきました。小並感だね、はい。
皆さんがわちゃわちゃしてる中、1人ソファーを借りて座し、頂いたジュースをチビチビと飲みながらそれを見守ってるといつの間にやらお隣に上原さんが。……え、え、え、アレ? あそこでわちゃわちゃしてるのって、上原さん囲ってやってるわけじゃないの? え?
「御影君、楽しんでる?」
「ええ。はい、そうですね」
——嘘である。この男、未だに戸惑い状況についていけてないがために、楽しむことなどできていない。咄嗟に嘘つきました。それも推しに。
「なら良かった、かな?」
「そう、かもですね。それで上原さんは何かご用、で?」
ゆっくりと視線を上げ上原さんの方を向きながら問いかけてみる。すると何やら辺りを一瞥した上原さんが、唐突に距離を詰めてきたかと思うと耳打ちしてくる。
「埋め合わせなんだけど、今度また一緒にお出掛けしてくれる?」
驚愕しながら距離を取り再度彼女と対面する。え、今、今度一緒にお出掛け……え? あと、今、推しの
「ほあああああっ!!」
「み、御影君?!」
全キャパが同時にショートした自分は奇妙な断末魔を上げると同時に視界をぐらつかせる。やっぱり……自分の最推しは最強だよ……。こうして、推しの誕生日は何故か自分にとって忘れられない日となってしまった。こんな忘れろって方が無理だよね! 墓場まで忘れられません!
この後、皆さんに介抱されたりしてなんとか一命は取り留めました。はい。