構わないで!上原さん!   作:希望光

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初めましての方は初めまして。ご存知の方はお久しぶりです。希望光でございます。
今回は、依頼をいただいてノリと勢いで仕上げた作品となっております。それでは、本編の方どうぞ。


本編
さよなら平穏


 ——突然だが諸君、己自身の想い人に更に別の想い人がいた場合、どのような行動をとるだろうか。想い人の想い人に勝る様なアピールで振り向かせる、なんていうのも1つの手であろう。

 因みに自分の場合は、全力でモブであろうとします。だって仕方ないよね。自分の想い人とその想い人……幼馴染なんだから。勝てるわけがない! 

 ……え? というかお前は誰だ、って? 名乗るほどのものではないな……まあそうだな、『名無(ななし)』とでも名乗っておこうかな。

 

「どうしたの御影君、険しい顔して?」

「……え、うん、上原さん?!」

 

 1人思慮に耽ていると目の前に姿を現した少女に呼ばれ、現実へと引き戻された。と言うかあの、名無って言った直後にお名前呼ばれてしまったのですが……。

 

「そんなオーバーリアクションするほどのことかな?」

「その、なんか、ごめん……条件反射で」

 

 自分が申し訳なさそうに返答したのは、艶やかな朱色の髪を持ちここ虹ヶ咲学園の制服に身を包んだ少女。彼女の名は上原歩夢。クラスメイトにして、先に挙げた自身の想い人その人である。くぅ……やっぱり神々しいよこの子……ッ! 

 

「ふーん。それで結局御影君は何を考えていたの?」

「……さっきの授業のことで色々」

 

 上原さんの問いに対して短く答えた自分は、窓の外へと視線を移した。さて、名前を呼ばれてしまったことにより隠し通すこともできなそうなので名乗っておきますか。自分は御影(みかげ)(れい)。ここ、虹ヶ咲学園に通うしがない高校2年生です。

 ……というか上原さん、突然話しかけてこないで。心臓に悪いから。思慮に耽ていたこっちにも非はあると思ってはいますけども。

 

「さっきの授業……数学だったけどどこかわからなかったの?」

「分からなかったというか、公式を聞き逃したと言うか」

「うーん、それなら私のノート貸してあげようか?」

 

 ……ねぇこの人さ、軽率に人に優しくし過ぎじゃない? あの、なんと言うか、そのうち勘違いされますよ。うん。現にそうなった奴がここにいるし。

 

「……流石に悪いと思うけどな」

「そう? 私は気にしないけど?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 彼女の言葉に頷くと、彼女はこちらにノートを差し出してきてくれる。そのノートをしっかりと受け取った自分は、そっと机の中へとしまうのであった。

 

「ありがとう上原さん。写し終わったらすぐに返すね」

「ゆっくりで大丈夫だよ」

 

 そう言ってこちらへ笑みを向けてくる上原さん。お願いやめて! それは火力が強すぎて自分の情緒が滅されてしまう……! 

 彼女の笑顔のあまりの眩さに直視できないでいると、こちらへと近付いてくる足音が聞こえてくる。そちらへと視線を向けると黒い髪をツインテールに結った少女が手を振りながら現れた。

 

「歩夢ー。やっと見つけた」

「あ、侑ちゃん」

 

 自分達の前に現れたこの少女こそ、上原さんの幼馴染にして想い人である少女、高咲侑。彼女もまたクラスメイトの1人だ。

 ……あー、この2人の関係性があまりにも強すぎて、ぶっちゃけ介入できない。だから、あの、そろそろ自分をただのモブ若しくは置物としてそっとしておいて。

 

「どうしたの?」

「一緒にお昼食べよ?」

「いいよ。あ、折角だし御影君もどう?」

 

 突如として飛んできたキラーパスにより、自分のSAN値は一気に削られた。ヤバい、不定の狂気に入りそう。本当に教室の窓から飛び出して身を投げたくなってきた。

 

「折角お誘い頂いたところ申し訳ないんだけど、ちょっと行くところがあるので自分はパスでお願いします」

「そっか。じゃあ、また機会があったら一緒に行こうね」

「はい」

 

 ……想い人からのお誘いなんで乗りたい気持ちで一杯であったが、なんとか断れた。というかここで乗ったら普通に重罪でしょ。だって、百合の間に挟まる……うん、極刑! よく耐えた。偉いぞ自分。

 

「じゃあ歩夢行こっか」

「うん」

「いってらっしゃいませ」

 

 仲良く並んで教室を出ていく2人を見送った後、大きく息を吐いた自分はそのまま机に突っ伏した。……本当に、本当に幾つ命があっても足りない気がして仕方がない。後な、ちょくちょくこちらへと向けられる高咲さんからの視線が怖い。自意識過剰なだけかもしれないけど、刺すような視線を飛ばされてて辛い。

 

「はぁ……」

 

 大きく溜息を吐いた自分は、机の横にかけてあった荷物を掴むと席を立ち教室を後にする。と言っても、どこか行く宛があるわけではないんですけどね。

 そんなこんなの自分が辿り着いたのは中庭……中庭でいいんだよなここ? と言ってしまうくらいには広い。とにかく広い。なんでこんなに広いのか、ちょっと聞いてみたいよ……とか思ってないで早くお昼食べないと昼休みが終わってしまう。

 

「どこかいい場所は……」

 

 落ち着いて昼食が取れる場所を探して中庭を歩き回っていく。コラそこ、ボッチ飯言うな。

 

「アレ、御影君?」

 

 聞き馴染みのある声で呼ばれた自分は、錆びた機械の様にゆっくりとそちらへ視線を向ける。するとそこには、先程まで教室内で会話を交わしいた上原さんと高咲さんの姿があった。えーっと、なんでここにいるんですか? 

 

「なんでここに?」

「ここでお昼食べようって侑ちゃんと決めててね。御影君は?」

「……用事が終わったからお昼食べようかと」

 

 上原さんの問いかけに答えた自分は徐々に徐々に視線を上原さん達から逸らしていく。その、上原さんの傍らに立つ高咲さんから向けられた視線があまりにもこちらへの敵意を持っており、とても怖いから……。正直に言うと、今すぐにでもこの場所から逃げ出したい。保身的な意味合いも込めて。

 

「そうだったんだ。じゃあ、御影君も一緒に食べようよ」

「えーっと、高咲さんに悪い気がするから……」

 

 そう言って食い下がる自分。すると上原さんが唐突に高咲さんの方を向くと口を開いた。

 

「侑ちゃんは、御影君が一緒でも大丈夫?」

「歩夢が良いなら私は構わないよ」

「じゃあ決まりだね」

 

 結局、流れのままお昼を2人とご一緒することになりました。おお神よ……こんな哀れで罪ありきな自分をお許しください……。そんな懺悔と共に、その日の昼休みは過ぎていくのであった。因みに、持参したお弁当の中身は味がしませんでした——

 

 

 

 

 

 放課後、人気の無くなった教室内で1人延々とノートに筆を走らせていた。何を書いているかというと、昼休みに上原さんから借りたノートの内容を写してるだけですけど。

 

「はぇ……ここはlimitの応用でいけるんか」

 

 書きそびれた公式を眺めながら、並行して応用問題を含めた本日のおさらいも行う。あー、今日やったとこちと難しいかもな。で、ちょっと関係ない話するんだけどさ、上原さんのノートめっちゃ綺麗なんだよね。写真撮りたいとか一瞬思っちゃったよ。流石にやめたが。

 

「……っと、今日の分はここまでか」

 

 思考などを織りまぜながら書き写しているうちに、最後の1文までを終えていた。没頭してると書き終わるのって早いよな。不思議。よーし、とりあえずこのノートを上原さんの机の中に返して、帰りますか。そう思ってノートを閉じた途端、この教室へと近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

「あ、御影君まだいたんだ」

 

 足音と共に現れたのは上原さん。あれ……? あなた確か高咲さんと下校しましたよね? 

 

「ええ、まあ。借りたノートの方を写していたので」

「そうだったんだね」

「はい。それでちょうど終わったところでしたので。こちらはお返しします。ありがとうございました」

 

 そう告げた自分は、上原さんに件のノートを差し出す。上原さんはそれを受け取った後、ノートに向けていた視線をこちらへと向けた。

 

「私のノート、見辛く無かった?」

「全然そんな。寧ろ、見やすくて書き方参考にしたいくらいでしたよ」

「そうなの? ふふっ、ありがとう」

 

 柔らかく微笑み、謝意を告げてくる上原さん。それを向けられた自分は、気を失いそうになる。あまりの神々しさに。

 やめて上原さん……それは、高咲さんに向けるべきものだよ。なんなら、今この瞬間も、自分とじゃ無くて高咲さんといるべき時間なんだよ? 

 

「どう……いたしまして」

 

 なんとか言葉を紡いだ自分は、卓上に開きっぱになっていた自身のノートを閉じ鞄にしまうとそれを掴んだ。

 

「帰るの?」

「ええ。やるべきことも終わりましたし」

「なら、一緒に帰っても良いかな?」

 

 ……えーっと、この人は今なんて言ったのかな? 一緒に帰る、って? 冗談ですよね? いや、冗談だと言って。本当切実なお願いなんだけど。

 

「……なんで急に?」

「私も用事終わって今から帰る、から?」

「そ、そっか……自分は構いませんけど……」

 

 内心震えながら上原さんの言葉に対して頷く。あの、本当になんなの今日。自分死ぬのかな? 絶対お迎え来る流れだよねこれ? 

 

「じゃあ、帰ろっか」

「はい」

 

 腹を括った自分は、荷物を背負うと彼女と共に教室を後にする。そうして帰路に着いたのだが、暫くの間は互いに無言のままであった。ヤバい……内容が無いよ……つまらんギャグ言ってる場合じゃなくて、ほんとにどうしよ。内心悩みつつ歩いていると、不意に上原さんが口を開いた。

 

「ねぇ御影君、この後って時間ある?」

「この後……ですか。一応……ありますけど」

「なら、ちょっと寄り道して行かない?」

 

 ゆりかもめの駅を指しながら、こちらへと問いかけてくる上原さん。その眼差しは、何処かこちらへの期待が込められたものであった。

 

「どちらに?」

「うーん、とりあえず台場駅周辺とかどうかな?」

「かしこまりました」

 

 頷いた自分は、上原さんに続くようにしてゆりかもめの駅へと進んでいくのであった——

 

 

 

 

 

 台場駅で降りた後、アクアシティーやダイバーシティ内でウィンドウショッピングしたり、ヴィーナスフォートでお茶したりと普段なら絶対にしないようなことを想い人と堪能した。そして今は、家に着いたら自刃することを決めつつ上原さんと帰路についていた。

 

「ごめんね、色々付き合わせちゃって。ウィンドウショッピングとか退屈だったでしょ?」

「いえ、そんな。ショッピングもお茶するのも、とても楽しかったですよ」

 

 上原さんの言葉に対して首を横に振りつつ、自身の率直な気持ちを述べる。家に帰ったら自刃する、って言ったけどそれはそれとして今日の放課後はとても楽しかった。それこそ、有意義という言葉が似合うくらいに。だって、好きな人と一緒に放課後満喫してるんですよ? そんなの実質的にデートじゃん? はぁー、自分のことを誰か裁いて。ついでに上原さんは高咲さんと放課後デート決めてもろて。

 などと内心が破茶滅茶な自分であったが、なんとかそれらを退け意識を現実へと引き戻す。

 

「さて……どうやって帰ろうかな」

「私はこの後りんかい線なんだけど、御影君はどうする?」

「そうですね……」

 

 懐からスマホを取り出した自分は、現在地——東京テレポート駅から自宅までの最短ルートを調べる。なるほど……りんかい線乗って帰るのが1番早いのか。

 

「自分も、りんかい線みたいなので……もう少し、ご一緒みたいです」

「そうなんだ。じゃあ、帰ろっか」

 

 彼女に促された自分は、彼女と共に長い階段を降り、改札を抜け更にエスカレーターに乗って駅の構内へと足を運ぶ。夕刻手前ということもあり、駅の中は利用客の姿がそこそこ見えた。

 

「あ、もうすぐ電車来るって」

「みたいですね」

 

 ホームに着いて2分も経たないうちに、列車が進入してくる。流石にタイミングよろし過ぎやしませんかね。などと思いながらも乗り込んだ自分と上原さん。車内中程で立ち止まった自分が閉まる扉を眺めていると、傍らから上原さんに声を掛けられた。

 

「そういえば御影君って、どこに住んでるの?」

「自分ですか? 自分は、月島なんですが」

「へぇー、月島なんだ。私、東雲なんだけど意外と近いね」

「そうですね」

 

 ……なんか会話の流れで上原さんの住んでるところ知っちゃったんだけど。え、これ知っちゃまずかったんじゃないの? ねぇ? 

 などと言った具合に戸惑っていると、スマホが降車の案内を飛ばしてくる。あれ、もう東雲? というか上原さん住んでるの東雲ってことは……。

 

「私ここで降りるね」

「自分も今日はここで降りろとのことなので……」

「ほんと?」

「はい、まあ……っと、降りましょうか」

 

 開いた扉を潜り車外へと出た自分と上原さんは、真っ直ぐ改札の外へと向かった。えーっと、こっからどうしたら良いんですか。教えてスマホ君? 

 

「御影君はここからどうするの?」

「……歩いて帰ります。運動がてら」

「なら、私も一緒に歩いて行くよ」

「……はい?」

 

 アレ、自分また選択肢間違えました? 上原さんと離れるために徒歩を選択したはずなのに、上原さんとの帰路継続になっちゃったんですが? もうこの場で自決したい。誰か介錯して? 

 

「私ここから、歩いて帰れる距離なんだよね」

「そ、そうなんですか……」

 

 というわけで、上原さんと徒歩で帰宅になりました。訳が分からないよ。これもう、死ぬしかないんだよなぁ。マジで誰か自分を処して? 

 

「それに、御影君ともう少しお話したいかな、なんて」

 

 気恥ずかしそうに笑った上原さんを前にした自分の心臓は、一瞬その動きを止めた。そう、錯覚する程に可憐で、愛おしく思えると同時に即座に首を掻っ切りたい衝動に駆られた。あの本当に……勘違いする人が続出するし、その内死人が出るというか目の前に死人がおるのでその、高咲さんだけにそういうのして? ね? 

 

「それは構いませんが……自分と話しても、面白い話はできませんよ?」

「良いよ。ただ御影君とお話したいだけだし、私も面白い話はできないから、ね」

 

 ……あ、スゥー。なにこの聖人、眩すぎる。もう無理死ぬ。途中の橋で身投げするしかないな。というわけで無事に帰れないことが確定しました。ぱちぱちぱち。

 と言った具合で現実逃避しつつも、自分と上原さんは改めて帰路へと就いた。

 

「御影君って、休みの日は何してるの?」

「休みの日は……サイクリングしてますね」

「へぇー、どれくらいの距離を?」

「うーん、平均して30キロぐらいですかね」

 

 何の前触れもなく飛ばされてきた質問に対して、当たり障りのない返答をしていく。アレ、普通に会話してるだけなのになんでこんなに疲れるのだろうか……? 

 

「30キロって……どれくらい?」

「そうですね……学校から考えるとだいたい府中市辺りまで、ですね」

「府中市……え、そんなに遠くまで?! 自転車で?」

「ええ……まあ」

 

 気恥ずかしさを覚えながらも、彼女の言葉に頷く。あ、待って上原さん……そんな輝かしい視線をこちらにお向けにならないで……。

 

「そっかー。そんな距離を平均して漕いでるぐらい、自転車乗るのが好きなんだね」

「はい……」

「こんど御影君が自転車乗ってるところ見てみたいかも。あ、私の家ここなんだよね」

 

 そう言って上原さんは右手側に見えて来たマンションを指差した。はぇー……でっかいマンションだなぁ。あれ、というかなし崩し的に上原さんの家知っちゃったんだが? 

 

「学校から歩いていけるぐらいの距離なんですね」

「うん。たまに侑ちゃんと一緒に歩いてるよ。あ、侑ちゃんの家は私の家の隣なんだけどね——」

 

 ……あの、間接的に高咲さんの家も知ってしまったのですが。これ、個人情報だよね? 保護法に引っ掛かってワンチャン訴えられるかもしれない可能性が出てきてしまったんだが? 

 

「——って感じで、いつもベランダで顔合わせてるんだ」

「そうなんですね。なんだが、お2人が羨ましいです」

 

 上原さんの言葉に対して返答した自分は、懐から取り出したスマホの画面を見る。……ありゃ、母さんから買い物の頼まれたメッセージ入ってる。

 

「どうかしたの?」

「えーっと、買い物を頼まれたので、自分はちょっと先を急ぎますね」

「そっか。分かった。気をつけてね」

「ありがとうございます。では、自分はこれにて」

 

 上原さんに謝意と別れを告げた自分は鞄を背面にて担ぐと、走りやすい体勢を取り小走りを始める。そうして数十秒程走った辺りで不意に後ろを向くと、上原さんがこちらへと手を振っていた。

 

「御影君! また明日ね!」

 

 上原さんに対して軽い会釈をした自分は前を見据える。さて……拝啓お母様、家に帰ったら息子が不甲斐なく倒れて息をしていないかもしれません。もしかしたら、自分の命日になるかもしれません。今までありがとうございました。

 などと遺書紛いなことを考えながら、小走りで真っ直ぐと行きつけのスーパーを目指していくのであった。




ここまでご覧くださりありがとうございました。楽しんでいただけたのなら幸いです。

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