高咲さんに屋上に呼び出されたかと思えばO☆HA☆NA☆SIされる羽目に?!更に帰り際には勘違いされたかと思えば、上原さんの連絡先を頂いた……自分、この後死ぬんとちゃいますか?
一波乱あった日の夜、就寝までの準備を全て終えた自分はスマホのメッセージアプリと睨めっこしていた。
「初めの1文って……何送ったらいいんだろ……」
『上原歩夢』と書かれたトークルームを開いて早30分。未だになんのアクションも起こせずにいます。真面目に何送って良いのかわからないな……当たり障りのない挨拶でもしておけば良いか?
「えーっとひとまず……『御影です。宜しくお願いします』、と」
軽い挨拶を交えて短文を送った後、その文章を暫し眺めていると不意にメッセージに既読が付く。……送ってから1分位しか経ってませんが、確認するの早くない? いや、たまたま他の人とやりとりしてたタイミングだった説もあるよな。うん、きっとそうだ。
『上原です。よろしくね!』
1人で無理やり納得してたら上原さんから返信が来ました。ご丁寧に可愛い蛇のスタンプを付け加えて。いやあの、レスバ早すぎんか? なんてことを考えながら、『よろしく』と言う趣旨を込めたスタンプを送信するとそのまま携帯を閉じ、眠りにつくのであった——
翌日の朝、自転車に跨った自分は学校目指しながら思慮に耽ていた。なんか……上原さんと連絡先交換したの、実感湧かないなぁ。
まだまだ微弱な陽光を浴びながら、風を切って進んでいく。やっぱ自転車だと、潮の香りが強く感じられる。それも、都内の臨海部特有の潮と工業系の混じった香りが。
時たま感じる新鮮さで、無理矢理に現実逃避をする自分であったが信号に捕まったことにより、再度現実に襲われる。
「……今日、上原さんにどんな顔して会えば良いんだろうか」
無意識の内に表へと出た言霊は、忙しなく行き交う都市の雑音に掻き消される。暫し呆然としながら、目の前を通り過ぎていく車両を眺めていると、信号が変わったことを知らせる音声が耳に届く。
上の空のまま、再び自転車を漕ぎ出した自分は大きくため息吐くと、頭を振り今ある思考を飛ばし前を見据える。悩んでても仕方ないし、その時なんとかしよう。そう決意して、学校へと自分は急ぐのであった。てな訳で、その後何事もなく校門を潜った自分なんですが、ここで事件が起こった。
「おはよう御影君」
自転車降りて手押しに変えた途端、背後から上原さんに声をかけられました。あの、タイミング良すぎませんか貴方? 半ば恐怖混じりに戦慄していると、上原さんと高咲さんが自分の視界に現れる。
「あ、えと、上原さんに高咲さん……おはようございます」
「おはよう」
「おはよー」
こちらへと挨拶を返してくれた御二方は、何事もなかったかのように自分の左側に並んでくる。……自然な流れすぎて忘れてたけど、自分側から見たらやばい状況じゃないですか?
「あ、御影君今日は自転車なんだね」
「えっと、まあ、はい……」
上原さんの口から飛び出した『自転車』と言う言葉に反応して、自分の脳裏には先日の放課後のことが映し出される。東雲……徒歩……自転車……ウッ!
「どうしたの御影君、急に頭を抑えて?」
「ちょっと頭痛というか立ち眩みが……」
「え、大丈夫?」
「……
心配そうにこちらを見つめてくる上原さんに条件反射的にちょっと……というか大分古いネタで返答してしまった。これ、絶対わかんないよね? モーマンタイとか言われても意味知らんよな……。
「いつのネタ?」
「え、知ってるんですか?」
「意味合いぐらいなら」
知らないと踏んでたら、高咲さんが知ってる素振り見せてきました。待って、なんで? 前回の某天界出身も拾われたし、なんなんですかほんとに?
「なんの話?」
「大海原のお話……ですかね?」
「意味合い的には大体あってるね」
「へぇー……?」
はぐらかし気味に高咲さんに振ってみたら、しっかりと意を汲んでくれたようで話を合わせてくれた。ありがとう高咲さん……それしか言葉が見つからない……。
「あ、自分は自転車置きに行かないとなので一度失礼しますね」
「うん、後でね」
2人と一度別れた自分は、自転車と共に駐輪場へと進入していく。自転車で来た時いつも思うんだが、ウチの学校の駐輪場中々広いのに、自転車が殆ど停まってないんだよね。あの、生徒が大体下校した夜の駐輪場感が凄い。朝だけど。
「定位置は……あ、ここだ」
2ブロックの東側と記された置き場に自転車を停めた自分は、鍵を掛けると教室へと向かって歩き始める。あーあ、教室行ってからどうしよう。流れでなんとか接してたけど、正直この後どうして良いかわからない。
「やって見せろよ……御影!」
——なんとでもなるはずだ! どこからともなくそんな返しが聞こえてきた気がする。多分気のせい。気のせいであってくれ。自身にそう言い聞かせた自分は、渋い表情を浮かべながら教室へと向かっていくのだった——
昼休み、お昼ご飯を目の前にした自分は今日も今日とて瀕死となってます。ついでに自分の中にあったはずの食欲はログアウトしてました。あれれ〜、おかしいぞ〜? 4限の途中まではあったはずなのに。
「……垂れてても仕方ないか」
大きく息を吐きながら伏せていた上体を起こした自分はそのまま伸びをし、凝り固まっていた体を伸ばしていく。あー、このパキパキいうのが気持ちいい。などと思いつつ伸びを終えると、座席の傍らに立つ人影が目に留まる。
「……高咲さん?」
そこにいたのは高咲さん。何故何どうして? 意外すぎて一瞬固まっちゃったよ。
「どうかしたの?」
「一緒にお昼どうかなと思ってね」
……おやおやおや、流れ変わったな? 薮からスティック的に高咲さんの方からお誘い貰いました。本当になんで?
「自分が、ですか?」
「うん。嫌、だった?」
「いえいえそんな。むしろ誘っていただいて嬉しいくらいです」
嘘偽りのない本心を言葉にして返答する。実際にね、お昼食べようって誘ってくれるのはすごく嬉しい。嬉しいよ。けどさ、高咲さんと上原さんの時間を邪魔したくないのよ! でも誘ってもらったのに断るのもまた悪いじゃん? つまりですね、どっちに転んでも死なんですよ! はいはい終わり! 閉廷! 解散!
本日も自害することを決めた自分は、開いていた弁当を包み直すとそれを持って立ち上がる。
「今日は、どちらで?」
「屋上だよ」
わー、屋上……アレ、おかしいなぁ。高咲さんの口から屋上って聞いたら、瞳から汗が滲み出してきたぞ? 不意に滲んだそれを袖で拭っていると、高咲さんが不思議そうにこちらを見ていた。
「あの、何か?」
「どうしたのかなって」
「目にゴミが入った気がして」
偽りの理由を盾にして高咲さんの問い掛けを受け流した自分は、そのまま歩き出した高咲さんの後に続いて教室を出る。で、前回と同じルートで屋上へと繰り出し設置されていたベンチの内の1つに並んで腰をかける。
いっつも不思議に思うんだけどよぉ……なんで屋上開放されて、且つベンチまで備えられてるんですか?
「うーん、歩夢先に来てると思ったんだけどなぁ?」
「上原さんはどちらに?」
「呼び出しと購買に行くって」
高咲さんの言葉に頷いていると、突如として自分の視界が暗転する。え、なに……なんか、目元があったかい? 不思議な感触に戸惑っていると、柔らかな香りが鼻腔を突く。アレ、この匂いどこかで……なんだろう、知ってる匂いだ。
どこか愛おしさを感じる香りがどこで知ったものなのか、記憶の中を隅から隅まで探りまわしていると、唐突に視界が開ける。眩しさに、やや目を細めながらも後ろへ視線を向けると、そこには
「どう、びっくりした?」
イタズラが成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべる上原さん。ええ、びっくりしましたよ。本当。というか、自分今、上原さんに……。それを理解するや否、自身の頭の中が爆発したような感覚に陥る。
「ふぇぇ……」
鳴き声のような謎の声を発したところで、自分の視界は激しく揺れ暗転する。そうして遠ざかる意識の中で自分が最後に聞いたのは、上原さんと高咲さんの必死な呼びかけであった——
結局あの後、2人によって保健室に担ぎ込まれました。で、5限の途中で目を覚まして、休み時間に教室戻るなり上原さんと高咲さん全力土下座をかました次第で御座います。マジでお2人にはご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げさせていただきました。はい。
そして現在は、気絶してた結果食べ損ねた
「あー、パンク○ザードはどっちだったかな」
どこぞの元大将の様なセリフを吐きながら自転車を飛ばしていく。にしてもあの人と言い、某100年の眠りから覚めた人と言い、声が良いよな。中の人の声質がよろしいのか。どうでもいい事を自問自答しつつ、頬を撫ぜる風に爽快感を感じていく。そうして辿り着いたのは東雲の一角にあるショッピングセンター。自分はここの青果に属してアルバイトに勤しんでいる。
「おはようございます」
挨拶と共にバックヤードに入った自分はそのまま更衣室へ足を運ぶと手早くユニフォームに着替えていく。まあ、付けるのエプロンだけなんですけども。そうして支度を終えた自分は、タイムカードを切ると売り場へと赴いていく。
「いらっしゃいませー」
抑え気味な声で発した言葉は、有線を筆頭とした店内の喧騒の中へと溶けていく。買い物しているお客さん達の側をそろりそろりと抜けていけば、やってまいりました。入り口前にドーンと構えられた青果売り場。ここが自分の担当部署の目玉。デカい。説明不要! みたいな感じで。
「さてさてさーて……とりあえず手直しから入るか」
トマトの陳列された台の前で屈んだ自分は黙々と散らばっていたトマト達を整えていく。トマトって甘いのと酸っぱいのの差が激しいと思うんですよ。どっちもトマトの良さだと思ってるので好きなんですけど。あ、このトマト傷んでる。
傷んだ商品を見つけた自分は1度バックヤードへ戻ると、回収用のカートを取り再び売り場へと繰り出す。えーっと、さっきのトメイトォは……これだ。
傷んだトマトをカートへと入れ他のトマトも調べていく。これはOK……こっちもOK。あ、これはグレー……入れちゃおー。ある程度やったところで、トマトの売り場を離れその隣にあるキュウリの売り場へと移動する。これは……そもそも商品が無いじゃあないですか。後ろみてくるか……?
嘆きながらも売り場全体を一瞥した自分は再びバックヤードへと戻る。そうして少なくなっていた商品を取り出していく。えーっと……キュウリとナスと大根と……キャベツisどこ?
キャベツを探していたのだが、在庫が見当たらない。てなわけでバックヤードを右往左往していると、本日2度目の視界暗転が発生。え、え、ええ? 今度は一体全体なんなんですかー?
「だーれだ?」
唐突な事象に慌てふためいていると、不意に背後から声が聞こえてくる。アレ、このどこか間延びした様な声って……? 問われた自分は、自身の中で浮かんできた人物の名を恐る恐る口にする。
「
「ピンポンピンポン、せいかいー」
振り向いた先にいたのは、オレンジブラウンのウェーブがかったロングヘアーが特徴的などこかおっとりとした印象を受ける女性。彼女は『近江彼方』。自分の1つ上の先輩で、自分の教育係を務めてくれた人だ。……後、今みたいなことをよくやってくる。
「おはようございます」
「おはよう。こんなところで何してたの?」
不思議そうに首を傾げこちらへと問いかけてくる近江さん。対する自分は、在庫置き場へと視線を流しながら返答する。
「キャベツの在庫が見当たらなくて……どこにあるか知りませんか?」
「んー、キャベツ……あー、ここになければ今はないね」
相変わらずゆったりとした様子で答えてくれる近江さん。それを聞いた自分は大きくため息を吐く。ここにないならないってことは、今日のキャベツは売り切れってことか……悲しみ。
「そうですか……」
「うん。今日はこの後入荷の予定もないからね〜。品出しは、諦めよう」
「さいですか」
近江さんの言葉に頷いた自分は、野菜を積んだカートを押して売り場へと戻る。なーして表と裏を往復せねばならんのだろうか……。ぶつくさと文句を内心でこぼしながらも、売り場に着いた自分は野菜を並べていく。
これをこうしてここをそうして……そっちはこうして、あれはどうするんだ? あ、こうか……。
試行錯誤しながらも野菜を整え終えた自分は、小さく伸びをするとカートを押してバックヤードへと入る。さて次は何をしたら良いかな。作業指示がないかとバックヤード内を再び右往左往する自分。今日ほんとに往復しすぎだし、右往左往しすぎなんだけど。
「おやおや〜玲君、今度はどうしたんだい?」
「作業指示書ってどこかにありませんでしたか?」
「あー、今日は無かったね〜。なんで?」
「売り場の整理終わって出しとく物も見当たらなかったので」
売り場の方へ視線を向けながら返答する自分。キャベツが売り切れてて出すべきなんだけどもそれも在庫がないし……。
「そっか。じゃあ今日はやること無いね」
「……はい?」
やることがない……だと? それは流石にやばいと思うんだがなぁ。アレでも確か今日って。
「今日夕方に配送来ませんでした?」
「あ、配送今日だったか〜。彼方ちゃん忘れてたぜ」
後頭部を軽く抑えながら小さく舌を出した近江さんは小さく首を傾げる。そんな近江さんを見た自分は苦笑を返答代わりにする。
「それじゃあ、配送来るまでは休憩してようか」
「はい……ん?」
反射的に頷いた自分であったが、ふと近江さんの言葉に違和感を覚える。この人今休憩って言った? 休憩って言ったよね? それ即ち仕事をサボる……ってコト?!
「休憩?」
「うん。来るまでやることないんでしょ?」
「まあ、はい」
近江さんのいう通りなんだよな。掃除とかも見た感じやってあったから、配送が到着するまでやることがないんだよ。
「じゃあ少し休もうよ。彼方ちゃんも一緒にサボってあげるから〜」
「そうですね……って、サボりの自覚あったんですか!」
「アハハ〜」
この人今サボりに付き合うって言っちゃったよ! でもなあ、近江さんの言うことも一理あるから、ここは素直にそうしておこうかな。というわけで、近江さんと控室に下がったんですが……あれ、なんでこの人自分の隣に座ってるの?
「玲君玲君〜」
「はい?」
「膝貸して〜」
間延びした声で返ってきた答えに訝しむ自分。膝を……貸して欲しい? えーっと……自分の膝で何するんですかねこの先輩は。怖いんですけどあのあの。
「何するんですか?」
「んー、膝枕」
少し考え込む仕草を見せてから答える近江さん。膝枕……だと!? この人後輩の膝を枕にしようとしてる訳?! 待って待って、情報量が多すぎて処理が追いつかない。
「え、えーっと、自分の膝を、枕に?」
「うん。だめかな〜?」
しどろもどろになりながらも、なんとか口を動かす自分。対する近江さんは……う、上目遣いで懇願してくるだと。なんなんだ今日のこの人……なんか、普段よりも多め且つ近めに絡んでくるぞ? というかその上目遣い反則なんですよはい。
「わ、わかりました。自分ので良ければ……」
「やったぜー」
どこかうれしそうな表情を見せた近江さんに対して溜息を吐く自分。はーあ、なんかうまい具合にはめられた気がする。なんて思っていると、何やら膝に重みを感じる。なんですかね……って、近江さんもう寝てる?! 嘘? まだ会話してから1分も経ってないよね?!
いつの間にやら自分の膝の上で夢の世界へと旅立っている近江さんを一瞥した自分は、懐にしまっていた携帯を取り出す。あれ、なんかメール来てる?
不思議に思いながら開いてみると……アレ、なんか見たことのあるログが? 『御影です。宜しくお願いします』って書いてあるんですけど、これ上原さんとのトークじゃん? はいー?!
「上原さんから……?」
膝上で近江さんが眠っているにも関わらず、1人で動揺を抑えられなくなった自分。粉☆バナナ案件というか、この世からログアウト案件だよちょっと? というか、自分に何用なんでしょうね……? 恐る恐るメッセージを確かめてみる。
『今何してる?』
それがただ一言だけ届いていたのだが……えーっと、どういう意味なんですかこれ? 深い意味はないよね? そうだと言ってよ、ねぇ?
『今はバイトの休憩中ですね』
現状を手短に返した自分は溜息混じりに天井を仰ぐ。なんでたかだか返信1つにここまで疲れを感じるのだろうか。まるで意味がわからんぞ。とか思ってたら向こうからの返信きたんだけど。待って、流石に早い早い。今度は『なんのバイトしてるの?』……アババババ。なんて質問来てんだ……そんなに深掘りしちゃいます?
なんてことを思いながらも自分は、新たに送られてきた文章に対して、レスポンスをしていくのであった——
結局あの後、配送が来るまでの間ずーっと控え室にいて、ずーっと近江さんのこと膝枕して、ずーっと上原さんとメッセージアプリでキャッチボールしてました。嘘でしょ自分? おかげさまで、正直休まった気がしません。むしろ疲れました。主にキャッチボールのところ。で今は、届いた配送の仕分けしてます。
ちなみに近江さんなんですけど、配送来る1分前に突如として目を覚ましました。この人の体内時計どうなってんだ? と思ったけど言わなかった自分、多分偉い。
「玲君、ブロッコリーってそっちに入ってる?」
「ブロッコリーですか? あー、ありますよ」
ブロッコリーの入っていたコンテナを近江さんの側にあるカートへ積む。これで一仕事終えたとか思ってたら、ブロッコリーの2カゴ目が出てきました。追加で積み込みです。悲しみ。
「2カゴもあるのか〜。これは頑張らないと」
「そうですね。自分もこっちにある分全部やらないとなんで」
近江さんの言葉に頷く自分。近江さんも頑張るみたいだし、自分もガンバラナイト! 1人内心で意気込んだ自分はカートを押して売り場へ向かう。
18時を回った辺りのためか、売り場は先程よりも買い物客に溢れ賑わいを見せていた。いやー、この中で作業するの大変だなぁ。まあ、やってみせろよ案件なんだけども。
カートを端に寄せた自分は、そこで波が切れる一瞬を待つ。買い物客が捌けるその瞬間を。……って言っても、そうそうそんなタイミング来ないんだよね。いや待てよ。空いてきたわ。
「……行きましょか」
小さく溢した自分はカートを押して棚の前へと赴く。えーっとまずは、さっきなかったキャベツを並べて……ヤベ、後ろにキャベツの待機でき始めた。
慌ててキャベツを並べた自分は、カートを押してその場を退く。やはりここは戦場。身体は闘争を求めるような感じではないけどね。はい。
てな感じで野菜を並べては戻るを繰り返している内にカートの中身が空になる。配送分はとりあえず終わったし、これはピーク終わったらまた手直しかな。大きく息を吐きながらカートをバックヤードへと戻した自分は大きく伸びをする。久々疲れたー。夕方の売り場補充は地獄って、はっきりわかんだね。
「玲君お疲れ〜」
「あ、お疲れ様です」
とかなんとか思ってたら近江さんがカートを押して入ってきた。どうやら向こうも出し終わったようですね。と言うか近江さん、自分の1.5倍ぐらいの品出しやってたはずなのに今帰ってきたの?
「早かった、ですね?」
「アレぐらいなら余裕だよ〜」
そう言ってピースサインをこちらに向けてくる近江さん。流石近江さん、自分にできないことを平然とやってのける! そこに痺れる憧れるゥ!
「彼方ちゃんのこと、もっと褒めてくれてもいいんだぜ〜?」
「……え?」
突然の近江さんの言葉に戸惑う自分。……あれ、今の言葉に出てた? いやいや、そんなはずはない。だって口開いてすらないし。どう言うことだってばよ。
「うん。言葉には出てなかったよ〜」
「あの、人の内心読むのやめてもらって良いですか?」
「玲君が表に出してるだけだよ」
揶揄うような笑みと共にこちらへと告げる近江さん。つまり自分って……分かりやすい、ってコト? オワオワリなんですよそれ。
「……変なこと言わないでください」
「本当のことなんだけどなぁ」
「そうですか……じゃあ、売り場手直ししてきます」
唐突にその場から逃げ出したくなった自分は、適当な理由をつけて売り場へと出ていく。なんだろう、さっき言われたこと、反論ができない自分がいる。これは御影のやつ終わったな。風呂入ってくる。
完璧なるフラグワードを内心で吐きながら、雑然としている売り場を丁寧に整えていく。やっぱね、静かに落ち着いた売り場で黙々と手直ししてるのが1番いい。なんかこう、鼻歌を歌いたい気分だ。逆にさっきみたいなラッシュ時は素数数えたくなります。落ち着くために。
と言うわけで鼻歌混じりに作業をしています。曲? 『Round about』って曲です。それのAメロまで歌った辺りで、何やら背後に気配を感じる。
「いらっしゃいませー」
「あ、すいません」
そちらを向くことなく挨拶だけ飛ばして作業に集中しようとしたが、呼びかけられたために手を止めてそちらへと顔を向ける。
「はい——あ」
振り向いたところで自分は目を疑う。いや、待ってくれ。これは一体全体どう言うことなんだ。夢か。夢であってくれ。夢だと言え。マジでそのレベルなんだよ。
「……御影君!?」
「上原さん……」
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