前回までのラブ↓ライブ!↑
上原さんの連絡先を手に入れたかと思ったら、彼女からダイレクトアタックをもらってしまい敗北……。そんな中バイト先で先輩を膝枕したり上原さんとメッセージ投げ合ったりしていると……?
自分、御影
「上原さん……」
視線の先には、何故か上原さんの姿がある。見間違いなのだろうか? いやでもさっきの声は——アレは上原さんのものだ。自分がそう判断した。待って、ほんとに待って。なんでいらっしゃるんですかこの人?
「アレ、確かさっきアルバイト中って……」
「はい……そうお伝え、しましたね」
歯切れ悪く上原さんの言葉に頷く。つい30分ぐらい前までずっとメッセージのやり取りしてて、その時言ったんだよね……どこで働いてるかとか仕事の中身とかは話してないけども。
「それで今、御影君がここにいるってことは……」
「ええ、自分のバイト先はこちらです」
隠す必要性もないと感じた自分は素直に述べる。まあ、これに関しては偶然だからね。言い換えれば事故だからさ、うん。それでもう一回言うんだけどさ、上原さんなんでここにいるの?
「そうだったんだね。足りないものを買いにちょっと出てきたら御影君がいたからびっくりしちゃったよ」
そう言って眩い笑顔をこちらへと向けてくる上原さん。上原さん、その笑顔は戦略兵器なのよ。一市民に向けていい火力してねぇんだわ。自分は長男だったから無理やり耐えられたけど、次男だったら爆発四散するところだった。嘘、1回ぐらい爆発してるわ。というか待って、足りないものをちょっと買いに、だって……うーんと?
「そうだったんですか……あれ、上原さんの家って確か」
「このすぐ裏だよ」
「あ……」
上原さんの返答を聞き全てを察する自分。そうじゃん。上原さんの家ってここのすぐ真裏じゃん。なんでこの前来た時に気づかなかったの? バカなの? アホなの? 死ぬの?
色々と忘れていた愚かな自分を内心で罵る自分。……そういえば、何か忘れているような?
「それであの、上原さんは何を買いに?」
「あ、そうそう。生姜を探しにきたんだけど」
「生姜ですか……」
上原さんの返しに頭を抑える自分。生姜……売り場どこだったかな。ど忘れしちゃったよ。ひじょーに困りました。とか思ってたら上原さんの背後から見覚えのある人影が?
「おや、歩夢ちゃん?」
「彼方さん!」
上原さんの後ろから顔を出したのは近江さん。えーっと、なんでしょう。お二人は面識があるご様子で?
「知り合い、なんですか?」
「うん。同じ同好会に入ってるんだ」
「そうだったんですね」
上原さんの返答に頷く自分。……というか、上原さんも近江さんも同好会入ってるって話初耳なんだが。しかも同じ同好会……だと? あの、自分の交友関係が狭く感じられるって状況になったんですが。
なんて具合に悲壮感に浸っていると、なにやら近江さんが自分と上原さんを交互に見据えていた。
「歩夢ちゃんと玲君はどういう関係なの?」
「クラスメイト……ですね」
近江さんの問い掛けに返答する自分。すると何やら近江さんから疑いの目を向けられる。なんでそんな目でこっち見るんですか?
「ただのクラスメイト、って感じではないよね?」
「な、な、な、なんでそう思うんですか?」
「なんというか親しげだから、かな」
その言葉の後、突然近江さんがこちらへと詰め寄ってくる。そのことに戸惑っていると近江さんが耳打ちをしてくる。
「玲君って、歩夢ちゃんのこと好きなの?」
「はい?」
藪から棒に飛んできた近江さんの質問に素っ頓狂な声をあげる自分。どこからその疑問にぶち当たったんですかこの先輩。
「どうして……そう思われたんですか?」
「玲君の言動から、かな~」
「げん、どう……?」
近江さんの言葉に首を傾げる自分。秘密結社の総司令にして主人公の父親か? 突然呼び出して、見たことも聞いたこともないものに乗れっていうのヤバいよな。
なんて現実から逃げ出していると、目の前の近江さんが唐突に微笑みながら言葉を紡ぐ。
「もうしかして、玲君自分で気付いてない?」
「……どうでしょう」
近江さんの言葉に対してはぐらかすように返した自分は、徐に視線を上原さんの方へと向ける。すると不思議そうにこちらを眺めていた彼女と目が合う。
「どうかしたの?」
優しい微笑みと共にこちら絵と投げかけてくる上原さん。その眩さに、意識を失いかける自分であったが何とか耐え口を動かす。
「なんでもない、です。それで近江さん」
「んー?」
「生姜ってどちらにありましたっけ?」
上原さんに対して首を横に振り、近江さんへと話を振る。完璧な受け流し。100点満点で完璧だね。
「生姜はねぇ……向こう側なんだけど」
「上原さんのこと、案内してもらってもよろしいですか?」
「お安い御用だよ〜」
その言葉と共に上原さんを連れこの場を離れていく近江さん。我ながら、話題逸らしからの誘導が上手になったなと思う。そうして自分は、己の成長を自画自賛しながら作業へと戻っていくのであった——
アルバイトの後、帰宅しようと思っていたら近江さんに引き止められた。何事かと思って首を傾げていたんですが……気が付いたら近江さんと一緒に東雲水辺公園にいると言う状況で……なして?
「それで玲君、さっきはぐらかしたけど結局どうなの?」
「……はい?」
水の広場に備えられたベンチに腰を下ろした途端、このような問いかけをされる。……もしかして、諸々のことバレてた?
「さっきの返答、嘘吐いてたよね?」
隣に腰掛けた近江さんは、こちらに詰め寄りながら追求してくる。あーこれは……しっかり答えないとかなぁ。
「……その場凌ぎで嘘吐きました。すいません」
「そっか。それじゃあ、玲君自身は自分の気持ちに気付いてるの?」
「ええ、まあ……」
近江さんの言葉に首を縦に振る自分。自分が、上原さんのことを好きってことは、1番よくわかってる。むしろ分かってなきゃ、滅されたりしない……アレでもこれって、推しの笑顔にやられるであって好きの意義が違うような?
「じゃあ——」
「上原さんの事は、好きです。はい」
改めて言葉にすると、すごく恥ずかしい。今、自分の顔真っ赤だろうな……めっちゃ熱いし。
「そっか、歩夢ちゃんのことが好きなんだね」
何かを納得するように頷いたかと思えば、突然こちらを向く近江さん。こ、今度は一体何なんですか?
「玲君が歩夢ちゃんのこと好きになったきっかけとかあるの?」
「きっかけ……ですか」
問いかけられた自分は、両手を膝の上で組みわずかに前傾する。……あったな。上原さんのことを好きになった出来事が。
「ありました。彼女のことを、好きだと思い始めたきっかけが」
1つ頷いた自分は、自身の中にある記憶を呼び起こしていく。アレは確かそう、昨年……1年生の2学期の時の話だ——
高校に入って初めての夏休みを終え、迎えた2学期。相変わらずの残暑に鬱陶しさを感じながらも、自分は読書に明け暮れる日々を送っていた。
「……あー、ここでそう言う方向に行くか」
小説の展開にボヤきながらページを捲っていくと、昼休みを終えるチャイムが教室内に響き渡る。それ即ち、安らぎは終わり地獄が始まる。睡魔との闘い不可避な午後初めの授業。
「……英語表現か。眠くなるわ」
溜息を吐く傍ら、教科書とノートを引っ張り出した自分は教壇に留めてた視線を窓の外へと移していく。多分この頃の自分は、変わり映えしない日々にどこか退屈さを感じていたんだと思う。友達も碌に居らず、毎日本の世界に飛び込むだけ。それが、辛かった。
そんな具合に黄昏ていると、教壇に英語教師が現れたため、視線を向ける。そして、退屈だという思いを抱えたまま授業に臨んだ自分。
「よし、今日の授業は前回配ったプリント使うぞ。隣同士でペア作れー」
教師の指示に従い隣の座席の人とペア組む。確か、この時に組んだ相手が……上原さんだった。この当時の自分は、他人に興味がなくて隣の席の人間ですら、まともに名前を覚えていないなんてことがザラだったんだよな。当時の自分、許せん。
「よろしくね」
「よろしく……」
小さく会釈した自分は
……ちょっと話が逸れたけど、そんな感じでペアを組んだ自分はプリントと教壇へ交互に視線を移しながら、授業に耳を傾けていた。すると、傍から小声で呼びかけられた。
「えっと、御影君……で良かったんだっけ?」
ここで自分の名前を呼ばれたことに、心底驚いてしまったのは未だ鮮明に覚えている。まさかこの教室内で、教師以外に自分のことを覚えてる人がいるとは思ってもみなかったから。
「はい。合ってますよ」
「良かった。下の名前は……れい、でいいのかな?」
半信半疑で飛んできたお隣さんの言葉に小さく頷く。自分の名前、他の読み方のが主流だから、初見だと間違えられる時が多々ある。多分上原さんも、そのせいで確証が持てなかったんだと思う。
「そうです。御影、玲」
「私は上原歩夢。改めてよろしくね、御影君」
「……こちらこそ」
優しい笑みを携えた返答に頷いた自分。この時の上原さんの笑顔、マジで破壊力が高かった。この時の自分は、そんなの全然気にしてないし、そもそも推しじゃなかったから無反応だけど、思い返してみたらとんでもない火力してらぁ。コロニーを一つ破壊できそうな威力してるよ。
「それで、その、御影君?」
「はい?」
「御影君って、英語得意?」
突如として振られた話題に驚愕する。たった今自己紹介しあったかと思えば、次は英語が得意かを尋ねてくる。今までに経験したことのない状況に、自分の脳は処理バグを起こしていた。
「え……いごは、そこそこ、かな」
「それなら、ここの問題の答え分かる?」
プリントに記されていた問題を指差す上原さん。確かその問題は……選択肢にhaveとか並んでたんだよな。これ難しいね。
「これは、2の『had been』が正解になります」
「そうなんだ……私は4の『have been』だと思ってたけど……」
不思議そうに首を傾げる上原さん。対する自分は、適度に黒板側の様子を確かめながら、解説を行なっていった。……この時の自分、めっちゃ器用だな。今の自分じゃ考えられないよ。
「確かにそう思えるんですけど……今回の問題文『My father ( ) drinking beer for a while, when I ordered the next one.』となっていて、『when』で後続文が存在しているので……現在よりも前の時点の話をしてることになります」
「あ、そっか……この状態だと、もう過去完了進行形しか入らなくなるんだね」
上原さんの言葉に首肯した自分。こうやって振り返ると、こんな雑な説明でちゃんと飲み込んでくれた上原さん、天才じゃん。ヤバ。
「そう言うことです。だから答えは」
「——2の『had been』になるんだね」
「
某奇妙な冒険のネタを交えながら返答した自分。なんだろう、無駄にうざったい言い回しするのやめてもらっていいですか?
そんなやりとりを最後に、その日の英語表現の時間は終わりを告げ何事もなかったかの様にペアは解散した。
そして6限の世界史、帰りのホームルームとを終え迎えた放課後。この日はバイトも無かったため、荷物をまとめながら何をするかを考えていた。
「あのー、御影君?」
「……はい?」
意識外から呼びかけられた自分は、少しばかり過剰に体を震わせつつ上原さんの方へと視線を向ける。いやあの、ほんとに突然すぎて対応が追いつかなかった。
「その御影君が良ければなんだけど……私に、勉強教えてくれないかな?」
「自分が、ですか?」
上原さんから発せられた言葉に自分は耳を疑った。自分が、彼女に、勉強を教える? たいして話したこともないクラスメイト同士で?
「なんでまた……?」
「御影君の教え方が、すごく丁寧だったからまたお願いしたいな……なんて思って」
述べられた上原さんの言葉に、嘘偽りは感じられなかった。当時の、あまり他人に興味がなかった自分がそう感じたのだから、本当にそんな感情混ざっていなかったのだと思う。
そんな彼女のお願いに、自分は断ると言う選択肢を奪われた気分になり首を縦に振っていた。
「……わかりました。そこまで言うのであれば、お教えします」
「本当? ありがとう!」
満面の笑みと共に謝意を述べてくる上原さん。対する自分は、ただただ視線を僅かに逸らすことしかできなかった。他人から謝意を述べられるという経験があまりにも乏しすぎて、どんな反応をして良いのか、当時の自分は分からなかった。そのことに、もどかしさを感じていると上原さんが口を開いていた。
「この後って空いてる?」
「一応空いてはいますけども」
「それなら今日、これからお願いしてもいい?」
急転直下な流れに、自分の頭は応答を停止する。当時の自分ですら脳の処理が追いついてないって考えると、やっぱり相当なお話だったよねこれ。
「構いませんよ、ええ、はい」
「それじゃあ、図書室行こっか」
上原さんに促された後、彼女と共に図書室へ足を運ぶと先に頼まれていた通りに勉学の指南をしていくのであった——
「——それで、その日を皮切りに結構な頻度で勉強を教えていくことになったんです」
「へぇ〜、そうだったんだね」
一通り話し終えた自分はそこでようやく顔を上げ、何度も何度も頷く近江さんの方を向く。回想シーンが長いって? 知らんな。
「それで、どうして好きになったの?」
一息ついてたら近江さんから追撃が飛んできました。……肝心なところを説明できていない状態だったから仕方ないんだけども。
「上原さんと一緒に勉強しているうちに、彼女の真っすぐさに憧れを抱いたんです。それと同時にちょくちょくと気にかけてくれる彼女に惹かれたんです。でも——」
ここで自分の言葉は詰まる。あの日受けた衝撃は、恐らくだが自分の心に大きな傷を残した。それ故に、思い出すことを拒んで口を噤んでしまったのだ。けれども自分は、本能的なそれを強引に振り払って続きを口にする。
「上原さんには、他に好きな人がいたんです。それも、両想いの」
自分の口から飛び出した言葉が消え去るのと入れ違うようにして、自分の瞳には涙が滲んでくる。何度思い出しても、辛いものは辛い……よね。うん。自分自身に優しく言い聞かせながら、目元を袖で軽く拭う。前々から言ってることなのに、場の雰囲気のせいで感傷的になってらぁ。
「そう、だったんだね……因みに歩夢ちゃんが好きな人、って言うのは?」
「高咲さん、って言う幼馴染の子がいて、その人ですね。多分」
以前から申してるように、上原さんには好きな人がいて、その人は幼馴染——そこから導き出されるのは、高咲さんのこと。そう言うことなんですよ……って、これも前々から言ってるから改まって言う必要ないだろ! しかも忘れちゃいけないの、ほぼ確定に近い予想。タチが悪いというか、ハッキリしないというか。いやハッキリはしてるんだけども。
「それで玲君は、どうしようと思ったの?」
「上原さんと高咲さんのことを応援する立場になろうかなと思って……推しに幸せになって欲しい理論で」
これも繰り返しになるのだが、自分はモブとして上原さんと高咲さんを応援する立場になりたいと願い行動している。けれども現実はどうだ?
推しの方から接近してきてますねヤダー。さらに言えば推しの想い人に目の敵にされかけましたね。モブどころか平穏も無くなったよちくせう。
「でもそれって、結局は自分の気持ちを偽ってるってことだよね?」
「……そう、かもですね」
不要な自問自答の傍ら、鋭い近江さんの指摘をもらい現実へと引き戻される。近江さんの言う通り、自分の今の状態は他者から見れば感情を偽ってるに過ぎないのだろう。けれども、自身の中では上原さんを推しとして認識しているし、推しに幸せになって欲しいと言う思いもまた本物なのだ。
だから自分は、次のように述べていく。
「仮面つけて、偽ってるかもしれない。でも今の自分の中にあるのは、全て本心になってるんです」
「それが、今の玲君の気持ちなんだね」
「はい」
近江さんの言葉に頷き、伏目がちになる自分。そんな自分に近江さんは、優しげな笑みを向けなからこちらへ諭すように言葉をかけてくれる。
「玲君は、強いんだね」
「そう、でしょうか?」
近江さんの言葉に首を傾げる自分。対する彼女は、コクりと首肯の意を示し言葉を紡ぐ。
「だって自分の想いを諦めたのに、その原因となった相手の事罵るんじゃなくて、むしろその人まで含めて声援を送りたいってことでしょ?」
「……恐らくそうなりますかね」
近江さんの言葉に歯切れ悪く頷く自分。近江さんはこう言ってはくれているが、正直なところ自分自身がよくわかっていない。
「自分と対立しそうな人のことを認めて、応援できるのはすごいことだよ」
穏やかな笑顔を携えて述べた近江さん。近江さんがここまで言ってくれるってことは、今の自分が無意識にやってることはそれぐらいすごいことなんだろうな。タブンネ。
「ありがとう、ございます」
「ふふっ、やっと笑ってくれたね〜」
揶揄うような言葉を向けてくる近江さんだが、その表情は相変わらず優しげなものであった。近江さんのこういうところ、自分は尊敬する。だからこそ、自分は言葉にする。彼女への感謝を。
「その、ありがとうございます」
「どうしたの、急に改まっちゃって」
「唐突に、今ある人間関係がとても恵まれているんだなと感じまして」
小さく笑った自分は、近江さんに留めてた視線を外し、目の前の海へと移す。すると近江さんが新たな問いを投げてくる。
「前は、恵まれてなかったの?」
「……そうですね。なんせ自分、いじめられてましたから」
「え……」
自分の言葉を聞いた近江さんはかなり衝撃だったようで、口元を両手で覆い目を大きく見開いていた。けれども自分は、そんなことなどお構いなしに話を続ける。
「小学生の時、いじめられてたんです。だから、碌に友達もいませんでした」
「中学の時は?」
恐る恐ると言った様子で尋ねてくる近江さん。自分はあっけらかんとしたまま答えていく。
「同じで、友達はいませんでした。ついでに、受験期が近づいた時にまたいじめられました」
中学入ってからは普通だったのだが、受験期が近づく2年の終わり頃に小学校時代に自分をいじめていた奴らが再びこちらへと牙を向いた。まあ、3年間通して相も変わらずだったから、標的にしやすかったんだろうなとは思ってたり。
「2回……も?」
「ええ。1回やられてたおかげか、苦ではありませんでしたけども」
当時の自分ことを振り返りながら、吐き捨てるように告げた自分は薄く笑う。一度植え付けられた
「だから、他者と関わることを避けて生きてきたんです。昨年度の2学期までは——」
そこまで言い切った所で、不意に近江さんが自分の首元に腕を回したかと思うとそのまま優しく彼女の胸へと抱き寄せられる。
「近江さん……?」
「泣いても、良いんだよ」
「……え?」
優しく諭すように返答してくれた近江さんは、自分の頭を撫で始める。まるで小さな子をあやすかのように。そんな彼女を前にした自分は、知らず知らずのうちに涙を溢れさせていた。あれ……なんで?
「玲君は少し、お休みした方がいいよ。彼方ちゃんが側に居てあげるからさ」
その言葉とともに近江さんは頭を撫でているのとは逆の手で、自分の背中を一定のリズムで優しく叩く。それにより現れた安心感が、涙を加速させる。
「ウッ……ウウッ……」
近江さんへと抱きついた自分は、湧き上がる感情を嗚咽として溢れさせる。静かな公園内は夜間ということもあってか、煩いくらいに自分の泣き声が響き渡っていた——
結局あの後、20分程近江さんに身を預けて泣いていた。いやー、まさかこの年であんなに泣くとは思わなかったよ。お恥ずかしい。
それで今は近江さんと共に帰路についてます。近江さんを家まで送り届けるために。
「わざわざ着いてきてくれなくても良かったのに〜」
「自分が引き留めてしまったようなものなので、そう言うわけにはいきませんよ」
今回ばっかりは終始自分に責任があると思ってるので、ね? お話聞かれる理由作ったのも自分。その後なんやかんやあってあの場に近江さんを縛ってしまったのも自分。うん、有罪!
「なら、玲君のお言葉に甘えちゃおうかな」
何処かあざとい感じを映す笑顔と共に告げてくる近江さん。そんな彼女に、微かにだがドギマギしてしまう。そんな気がした。……ここ大事だよ? かすかす……もとい、微かにだからね? 自分はどこまで行っても上原さん推しだからね?
「そうして、ください」
直視することに耐えられなくなってしまった自分は、近江さんに向けていた視線を外す。今さっきの表情、初見だけどヤバかったな……この先輩、やっぱり危ねぇよ。
「玲君もうしかして、照れてる〜?」
「そんなこと……あります」
なんかもう隠すのも馬鹿馬鹿しくなってきたので正直に答えました。アホか。
内心己へとノリツッコミを入れてると……近江さん固まってるんだが。はてさて一体?
「……近江さん?」
「え、あ、ごめん。何かな?」
呼びかけてみると慌てた様子で反応を見せる近江さん。本当にどうしたのだろうか。
「いえ、なんか、固まってたので」
「あー、それは玲君のせいかなぁ」
「ふぇぇ?」
突然自分のせいだと言われた。こんな時、どんな顔したらいいかわからない……。笑えばいい、わけではないことは確かなので困った。ゴーグルせんせーに聞いてみるか?
「玲君は、もっと発言に気をつけた方がいいかもね〜。あ、彼方ちゃんはこの辺で失礼するんだぜ」
「え、あ、え、はい……肝に銘じます。その、お気をつけて」
手を振り去っていく近江さんに手を振り返しながら見送る。なんか今日色々あったな……。
1つ溜息を吐いた自分は、手押ししていた自転車に跨ると自宅目指して漕ぎ出す。夜間ということもあってか、ほのかに冷たさを帯びた潮風を切りつつ進んでいく。
「——サイクリングリサイクル、なんてね」
アホみたいな呟きを携えながらも、鼻歌混じりにマシンを走らせていく。まあ、自分の愛馬? は凶暴でもなければサドルもペダルも完備しているんですが。
意味不明な問答を繰り返しながら自宅へと帰った自分は、夕食やら入浴やら洗面などをそつなくこなしていく。
そうして床に入り携帯を開くと何やらメッセージが。……アレ、なんかこの流れ今日もやったような?
「アイエー?!」
某ニンジャよろしく叫んだ後、気がついてみると……アレ、自分の部屋じゃないところにいる? はてさて一体?
不可思議な状況に戸惑いながらも携帯を取り出してみれば、『7:25』という数字がデカデカと待ち受け画面に表示される。……最後に記憶があるのが『22:54』だったから、8時間半以上も記憶が飛んでいるじゃないですか。これが所謂某ギャングのボスの能力、キング・クリムゾン! ……な訳ないか。というか自分知らぬ間に制服に着替えてるし、周りはよく見れば教室の景色だったし、無意識で登校までこなしたってことだよね? それも普段よりも早い時間に。おかげさまで人の姿はないよ。はい。
「なんでこんな時間に来たんだっけ……?」
この時間帯に教室に来た理由を必死になった思い出していると、この教室へと近づいてくる足音が耳に届く。何故か気になってしまった自分は徐に扉の方へと視線を向ける。
「あ、御影君おはよう」
教室へとやってきたのは上原さん。え、は、ええ? 上原さんがこんな朝早くから登校してきた……? それも1人で。ほんまにどういうことなんだってばよ。自分だけじゃなくて、上原さんまで来たって打ち合わせでもしてたんですか? 答えろ御影ェ! とりあえず1回腹切ろっか。
「えと、おはようございます……」
意気消沈としながら返答した自分は項垂れる。確か昨日、上原さんたトークで話をしたところまでは覚えてる。でも内容は覚えてない。寝たことも起きたことも家を出たことも覚えてない。ホンマにどういった理由でここにいるんだ自分よ……。
頭を抱えた自分は上原さんの死角となる位置で携帯をいじり、昨晩のトークを確認する。えーっとなになに……聞きたいことがあるって言われて、朝早めに来れないか……的なことを言われてたのね。はぇー。
「御影君、早かったね」
「いえそんなことは。ついさっき来たばかりですので」
身体は多分もっと前の時間からいたのだろうけども、意識が戻ってきたのは今さっきだから嘘はついてない。そう、嘘はついていないのだ。暴論だって? 全くもってそうですね。
「そっか。ごめんね朝早くから呼んだりしちゃって」
「いえそんな全然……それで、自分に聞きたいことというのは?」
首を横に振った後、トークに記されていた要件について上原さんに尋ねてみる。すると、鞄を自身の席に置いた上原さんが自分の前へと歩み寄ってくる。え、えーっと、上原さん?
戸惑いながらも彼女と向き合う自分。そんな中で上原さんの口から出た言葉は、あまりに衝撃的であった。
「その御影君、単刀直入に聞くんだけど——御影君は彼方さんとお付き合い、してたりするの?」
「……はい?」
終
思考・停止
━━━━━
御影玲