構わないで!上原さん!   作:希望光

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ご無沙汰しております。希望光です。
大変お待たせいたしました。本編最新話更新です。
前置きはこの辺にて本編の方どうぞ。




前回までのラブ↓ライブ!↑
スクールアイドル同好会の部室を訪れて、自己紹介してる途中に変なこと言ったみたいで場の空気が凍てついた。


やはり自分の学生生活はいろいろ間違っている気がする

 ……一瞬にして静まり返った部室内。煩いくらいに換気扇の音が響く中で自分、御影玲は慄いていた。どうやら自分は何か選択肢を間違えてしまったみたいで、同好会の皆さんがフリーズしてしまいました。何やってんだ御影、お前船降りろ。マジで。

 

「な、なななな、なんのことでしょうか?」

 

 全身を震わせながら、言葉を発する中川さん……いや、今は優木さんか。なんか凄く焦ってる感じがしますねー。死になさい御影。責任とって。

 

「あ、いや、その、真偽を確かめたかっただけなんです……決してそれを誰かに言いふらしたりとかそういったつもりは毛頭無くて……」

 

 弁明的意味合いを込めてなんとか言葉を発していく自分。対面も震えてるのに、応答してるこっちも震え気味とかいう構図、ツッコミどころ満載だね? 

 気まずさ全開で場の様子を確かめていると、不意に優木さんが口を開き始める。

 

「本当に……言いませんか?」

「絶対、絶対に言いません……! もし破ったら煮るなり焼くなり好きにしてもらっても良いので……」

「そ、そこまではしなくても……!」

 

 自分なりに誠意を言葉に表してみたら優木さんに止められる形になりました。……ん? 流れ変わったな? 自身の脳内でUCが流れ始めていると、優木さんがこちらへと歩み寄ってくる。パーソナルスペースが死んだみたいだ? 

 

「さっきの話、信じて、いいんですよね……」

「も、もちろんです」

 

 上目遣いで問うてくる優木さんに対して再度頷いて見せる。すると、優木さんはパァッと表情が明るくなったかと思えば、自分の両手を取ってきた。え、え、ええっと優木さん……? 

 

「ありがとう……それしか言葉が見つかりません」

「その流れだと自分、レッスン5を教えて死んでるのですが……」

「……ッ!?」

 

 聞き覚えのある言い回しをした優木さんに対して、指摘するような返答をしてみたら驚愕されました。すいません、ほぼ脊髄反射で今の返答しちゃったんです。指でも目でもなんでも詰めるから許して。

 

「震えるぞハート?」

「燃え尽きるほどヒート」

「刻むぞ?」

「血液のビート」

 

 内心で色々懇願してたら某暴走機関車の名を持つ英国紳士の台詞を投げられました。しかもこれ、また反射的に返しちゃったよ自分。……あれ、ていうか優木さん、もしかしなくても。

 

「覚悟はいいか?」

「——俺はできてる」

 

 某ジッパーの人が暗殺チームと対峙した時に発した台詞を繋げる形で述べてみたんですよ今。あそこのシーン、特急列車から道連れ覚悟で降りるシーンなんだけど、めっちゃカッコいいと思う。震えるね本当……話が逸れた。

 それで、その時の台詞を言ってみたら、優木さんが目を輝かせ始めたんですよ。えーっと……何が始まるんですかね。

 

「YEAAAH!」

 

 満面の笑みで歓喜の声を上げ、パーソナルスペースなんてものは存在しない距離まで寄ってきた優木さん。あー、なるほどその流れか。

 色々と理解した自分が両の掌を水平にして差し出すと、優木さんが掌を下にしてタッチをしてきたので、間髪入れず自分が上、優木さんが下という形でもう一回タッチを行い、互いの左手で熱い握手を交わしつつ、右腕を交差するように2回、左、右と入れ替えながら押し付け合う。そして、グーにした左手に同じくグーにした左手を重ねるタッチを交互に行い、両腕をL字にして熱いグータッチを交わしてフィニッシュ。

 何をやってるか分からないという方、適当な検索エンジンで『ピシガシグッグッ』と調べてみてください。誰に解説してるんだ自分は……。

 

「なんかせっつーと同調してるね?」

「完コピしてる人初めて見た……」

 

 こちらのやり取りを見ていた宮下さんと天王寺さんが、各々の感想を述べていく。待って、天王寺さんも知ってる側なの? 優木さんは色々振って来たから確定だけども、天王寺さんもなの? どうなってるんだここ。

 1人勝手に戸惑っていると、中須さんがこちらへと言葉を投げてくる。

 

「あのー、2人だけで盛り上がらないでもらってもいいですか?」

「え、あ、すいません……」

「お話ができそうな方でつい熱が入ってしまいました!」

 

 自分、優木さんの順に謝罪的な言葉を述べる。今自分達、完全に同調してたはずなんですけど、多分側から見たら何してるか分からなくて、ついでに近づけない状況だったみたいで……もしかして自分と優木さんでサイコフィールド張ってた? 仮にその理論を通すとしたら自分も優木さんもサイコフレーム持ちになるんだよな……自分はもちろんそんなの持ってるわけじゃないのであれか、EXAMの同調か? これはこれで互いをニュータイプと勘違いして殺し合うから違うな。

 

「立ったままでもなんですし、どうぞ掛けてください」

「え、あ、じゃあお言葉に甘えて」

 

 促された自分は、そのまま勧められた座席に腰を下ろす。あ、結構座り心地が良い。教室の椅子もこれが良いな。とか言って現実逃避してると、上原さんがお茶出してくれました。推しが淹れたお茶ってことになるのかな? うーん、飲めないねぇ。飲まなきゃ失礼だけど推しが淹れたというだけで死ねる代物になってるよ。どうしよっか。

 とりあえず上原さんにお礼をしてカップを手に取ると、軽く口に含んでから再度自身の前に置き直す。ヨシ、飲んだという事実と腹を切るという決定事項が同時に生まれたぞ。

 

「それで、玲さんはどうしてこちらにいらしたのですか?」

 

 お茶を前にさらに現実逃避してたら優木さんに問われました。一般通過男子生徒がスクールアイドル同好会に足を運んできたのだから当然の疑問だろう。オイコラ、一般通過じゃないって言ったやつ体育館裏に来てもろて。修正してやる! 

 

「ん、ああ、中須さんに遊びにきてくださいと言われまして」

「かすみさんが、ですか」

 

 意外そうな顔をした桜坂さんに対して頷いた自分は、波瀾万丈であった昨日のことを振り返りながら言葉を紡ぐ。

 

「昨日、中須さんが少し困っているご様子だったので助けた、と言いましょうか。少しばかり手助けをしたのですが、そのお礼がしたいので遊びに来てください的なことをおっしゃっていただきまして」

「手助けしたというのは具体的に?」

 

 桜坂さんの問いに答えていくと、今度は優木さんがこちらへと疑問を投げかけてくる。

 うーん、これ言っていいのかな? 自分は……振り返ると言う意味合いではあまりお話ししたくはないけど、問われたことに対して答えない方が不誠実だと思うので結果的にお話しできるけど、中須さんがどう思うかが……。

 

「実はかくかくしかじかで……」

 

 不安に思っている自分を他所に、昨日の顛末を語り始めた中須さん。何気ない、気配り無に帰す、夕の時……何詠んでんだ自分。頭おかしすぎるだろ。

 

「そんなことが……」

「大変だったねかすみちゃん」

「怪我とかはしてないの?」

「大丈夫です。玲先輩のおかげで」

 

 各々が見せる反応を眺めながらお茶を啜る自分。いやー、マジで大変でしたね。中須さんはお怪我がなくて本当に良かったですよ。仮になんか怪我してたらまた大事になってだだろうし……。

 

「玲君は?」

「はい?」

「怪我とかしてない?」

 

 心配そうな顔でこちらへ問いをなす近江さん。昨日の高咲さんや上原さんもだけど心配してくれるとか優しすぎるよ……嬉しくて涙が出てきたぜ。情緒脆すぎか。

 

「ええ、大丈夫ですよ。拳飛んでくる前にお巡りさん来てくれましたから。あ、お茶ご馳走様です」

「あなた、済ました顔で随分と物騒なことを言うのね」

 

 本当のこと話しながらお茶のお礼を述べると、朝香さんから物騒なこと言ってるとお達しされました。まる。確かに物騒かもしれないけど事実だから済ました顔して言うしかない気がするんだよな……。

 

「変にオーバーリアクションになるよりかは良いと思いますけどね?」

「一理あるわね」

 

 朝香さんの言葉に応答しながら、大きく息を吐き視線をテーブルの中央あたりに落とす。人の目見るの辛くなって来た。そろそろダンボールとかロッカーの中に隠れたいなぁ。

 

「そう言えば、御影君はどうしてせつ菜ちゃんの正体がわかったの?」

「それ、私も気になってた」

 

 逃げ場を求めて視線を逸らしているとエマさん、高咲さんの順に問うてきたため再び視線を上げていく。どうして分かったか。どうしてと言われると何て答えて良いかわからない。

 

「何でしょう。同じ目をしていた、って言えば良いのかな」

「同じ目?」

 

 一同の疑問を代弁するかのように中須さんが首を傾げる。やっぱり上手く伝わらないよな。流石に抽象的すぎたか。けどそう表現するのが1番近いんだよな……いや、冷静に考えたら同じ目をしてるで納得できないか。

 

「瞳の奥にある、熱意……いや、輝きって言うのかな。中川さんの時も、優木さんの時も同じ輝きをしていたんです。何事にも全力で当たるような、真っ直ぐな輝きを」

 

 何とか言葉にして一同に理由を説明する自分。その甲斐あってか、皆さんどこか納得して雰囲気を醸し出してくれた。と、とりあえず説明になってたみたいなのでヨシ! え、フラグ? またまたご冗談を。

 

「一応聞くけど、せつ菜とは初対面よね?」

「優木さんとなら初対面です。中川さんとでしたら、今日の昼休みに一度……」

 

 朝香さんからの問いかけに昼の出来事を思い出しながら返答していく。いやまさかね、ぶつかった相手が生徒会長だなんて思わなだし、その生徒会長が名前と姿変えてスクールアイドルしてると思わなんだ。なんならその両方同日、且つ初対面という要件を満たしてるのおかしすぎんだろ。何なんだよマジで。どうなってるんだ。

 

「じゃあ御影君は会って2回目で正体を見抜いたってこと?」

「そうなるのかな? あまり自覚はしていないんですけども……」

 

 視線を流しながらやんわりとした答えを高咲さんへと返していく。見抜けたことは事実なのだが、実感は湧いていない。ぶっちゃけ、こんなことがあるとは思っていなかったのでぇ……。

 

「これだけ人を見る目があるのなら、スカウトしてもいいんじゃ無い?」

「な、何に、ですか?」

「マネージメント役よ」

 

 内心でため息をつきながら現実逃避していると、とんでもないことを言われました。あーた正気ですか? 出会って数分にも満たない人間にマネジメント頼もうとしてるんだよ? バカなの? アホなの? 死ぬの? 

 

「え、え、え」

「なんで御影君に?」

 

 自分同様の疑問を抱いたらしい高咲さんが朝香さんへと問いかける。良かった。自分の疑問は個人的なものではなかったようだ。これで自分だけが疑問に思ってたんじゃ、異端審問不可避案件でしたからね。

 

「侑1人じゃできないこともあるでしょうし、彼の視点から何か得られることもあるんじゃ無いかしら? 特に、人を見ることに関しては長けてる様に感じたし」

 

 そう述べてうすら笑いと共にこちらに視線を投げてくる朝香さん。理由付けとしては完璧、と言わんばかりの視線……ですね。実際正論なところがいくらか見受けられるんだろうな。自分は内情知らんからなんとも言えんけど。

 

「謹んで辞退させていただいてもよろしいですか?」

 

 対する自分はといえば、全力でその提案から退きたい所存です。いやですね、推しと同じ空間にいるだけでも畏れ多いのに、課外活動の時間まで推しと一緒とか不可視にして不可避な裁き案件なんですよね。ヘヴンリー○ージスさんは除去できないのでお帰りください。

 

「えっと、玲先輩。理由を伺っても?」

「その……全力を注げない人間が、そんなことをする資格ないと思ってるのと、いきなり出てきた得体の知れない奴が関わるのもどうかなって思いまして」

 

 流し目で桜坂さんからの問いに答えた自分は、わずかに体をすくませる。なんか言ってて自分が情けなく感じてきた。人を支えるとかそういうことには向いてないし、さっきも言ったけど、何処の馬の骨かもわからんやつが突然関わるのは如何なものかと思うんですよね。

 

「それは残念ですね。玲さんでしたら皆さん喜んで受け入れてくださると思うのですが」

 

 少し残念そうに肩を落とした優木さんの発言に、他の方々が頷いて見せる。……オイオイオイオイ。なんで全員が首を縦に振ってるんだよ。おかしいだろ。さっきも言ったけど詳細不明の馬の骨だぞ? なんでそんなに信頼的なもの投げられてるわけ。そもそも信頼って互いに交流がないと生じ得ないものでしょうが。あ、近江さんと高咲さんと上原さんは例外? 玲だけに? 腹切れ御影。

 

「億が一にでも心変わりするようならその時にまた言って貰えば良いんじゃないかしら?」

「それもそうですね」

 

 朝香さんの言葉に肯定の意を返す優木さん。オイコラ、自分が心変わりするの前提で話を進めるな。でもここで突っ込んだら負けだぞ自分。こら、堪えるんだ……! 

 

「あの玲先輩、よければかすみん達の練習見ていってください」

 

 ツッコミを入れようとする己を必死で押さえ込んでいると、中須さんからこちらへと提案がなされた。練習の見学……? おや? おやおや? おやおやおや? なんだか変なことになってきたぞ。良い予感がしないんだ……。

 そう思っている間にもあれやこれやと流されていき、気がつけばジャージに着替えて屋外へと繰り出していた。ウッソだろお前。気が付かぬ間に着替えてるし連れ出されてるんだけど?! 

 あわあわしてると、皆さんが何やら準備運動を始めていました。何を始めるんでしょうか……。

 

「何するんですか?」

「ランニングだよ」

「ランニング……?」

 

 ストップウォッチと用箋挟(ようせんばさみ)を手にした高咲さんに問うと、何食わぬ顔で返されてしまい返って首を傾げることとなった自分。走り込みやるのか……そっか。これ普段やってる練習の一環ってことなんだよね。だから多分見学として連れ出されたんだよね。

 

「うん。御影君も走ってみる?」

「え、いや、あの」

「いーじゃん! 折角だし走ろうよ!」

 

 謎の提案に困っていると、宮下さんに引き摺られてスタートライン上に立たされました。ど゛う゛し゛て゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛! ゛! ゛こんな、自分の意思が反映されていないなんてあんまりだァ……! 

 

「じゃあいくよー?」

 

 内心絶叫キメてたら、高咲さんがこちらへ始まる旨を伝えてくる。いかん、離脱する時間がない。ええい。腹を括れ御影玲。

 

「よーい、ドン!」

 

 高咲さんの合図で始まったランニング。中身とか特に詳しく聞いてないけど、400mトラックを走ってるのでおそらく周回する感じなんだろうな。なんとかなれー! 

 走り出してしまった自分は内心で叫びながらがむしゃらに、しかしながらペースと呼吸を乱すことなく走っていく。そうしてトラックを10周した辺りで、高咲さんから声をかけられる。

 

「御影君ゴールだよ。え……御影君はや……」

 

 ストップウォッチを見て驚愕する高咲さんの傍らに歩み寄った自分は、彼女の手中にある記録を確認する。どれどれ……15分37秒。今まで走ってたのが400mトラックのはずで周数が10のはずだから……4000m。1周あたりの平均は1分33秒ってところか。ふむふむ……。

 

「現役の時よりタイム落ちてるな」

 

 現状は帰宅部ということで動いていないから当然の結果ではあるのだが、少し悲しい気持ちも否めない。そんな感じに少し落ち込んでいると高咲さんが不思議そうな顔で問いかけてきた。

 

「現役?」

「え、ああ。中学の時サッカー部にいたんですけど、その時のことです」

 

 ボールを追いかけ走り回っていた時のことを思い返しながら返答する自分。あの頃は……まあ、まだマシな方だったかな。人間的にも。なんて。

 

「へー。御影君ってサッカーやってたんだね。高校入ってからもやろうとか思わなかったの?」

「高校は部活やらないって決めてたので……」

 

 続けて為された高咲さんの問いに今度は視線を逸らしながら返答していく。正直中学もロクな思い出がないせいで、サッカー部の時の記憶通してその辺のこと思い返しそうで嫌なんだよな。サッカー自体は嫌いじゃないしやりたいとは思ってるけど。まあ、そういう訳で帰宅部なんですよね。

 

「つ、疲れました……」

「かすみちゃんお疲れ様」

「中須さん、お疲れ様です」

 

 微かな感傷に浸っていると、走り終えたらしい中須さんが息を切らしながらこちらへとやってきたので、労いの言葉をかける。

 

「ありがとうございます……というか玲先輩……何でそんな涼しい顔してるんですか……」

「え?」

 

 謝意の言葉を返してくれた後、こちらを見て怪訝そうな顔をする中須さんと、その訳が分からなくて首を傾げる自分。涼しい顔してるの自分? 全然そんな自覚ないんだけど。

 

「玲先輩、かすみん達よりも多く走ってるだけでも中々なのに、先にゴールして且つ疲れた様子が出てないのおかしいですよ?」

「言われてみれば確かに」

 

 中須さんに指摘され、初めて自分が異常であったことを認識しました。まる。元々異常だっていうのは言わないお約束です。というか、色々認識した途端疲労やら発汗やらが襲ってきたぞ……? 

 

「わ、御影君汗凄いけど大丈夫?!」

「今になって発汗しただけなので大丈夫ですよ」

 

 走り終わったらしい上原さんに驚かれてしまう自分。推しを驚かしたということで禁固刑または罰金、もしくはその両方が科せられますね。This answer is……You diedということですね。OKゴーグル、誰にも迷惑が掛から掛からずに消える方法を教えて。

 

「御影君、良かったら使って?」

 

 全力で自身が消える方法を模索していると、高咲さんからタオルを貸してくれると申し出がありました。そんなの受け取れませんよ! だってそれ高咲さんのでしょう?! 自分みたいなやつの汗を拭うわけにはいかないのよどう考えても! 

 

「え、いや、そんな悪いですよ……」

「でも拭かないと風邪ひいちゃうからさ」

「うっ……」

 

 全力で食い下がる自分であったが、ごもっともな理由を述べられて返答に詰まってしまう。そんなこと言われたら、切り返せないじゃないか! 『ぴえん』を通り越して『ぱおん』だし、『ぱおん』をPuls ultra(さらに向こうへ)して『ボカン』だよこれ。オイオイオイオイ、死んだよ自分。自害確定だよ。確定演出だから激アツだよきっと。バジ○スクタイム突入不可避かもしれない。

 

「ほら使って?」

「……お言葉に甘えて」

 

 高咲さんからタオルを受け取った自分は、額から滴る汗を拭っていく。……ほのかにだが、爽やかな柔軟剤の香りがする。あー、これで自分は犯罪者のレッテルを貼られても文句が言えない状況になったのか……じゃねぇよ! 何考えてるんだよ! 冷静にレビューしてる場合じゃ無いんよ! 

 

「あのこれ、洗って返しますね……」

「そこまでしなくてもいいよ?」

「いやいや、これは流石そのまま返すわけに行かないので……」

 

 全力で首を横に振り返答する。流石に使ったものをそのまま返すのは人としてどうかと思うので、ね? ……え、野郎が女の子の使ったものを持ち帰るのは犯罪紛い? ぶっちゃけそうだけど、ここは人としての要素を優先しようかなと。はい。

 

「私は気にしないけどな。でも御影君がそこまで言うなら、そうしてもらおうかな」

「すいませんわがままで……」

 

 申し訳なさいっぱいでペコペコする自分。側から見たら普通に変なやつ……元々変な奴でした。いつから自分が普通だと錯覚していた。いつもいつでも異端審問される側なんだからもっと自覚していけ。そして腹を切れ。

 

「終わったんだぜ〜……彼方ちゃんもう限界……玲君おぶって〜」

「え、あ、ちょっ……あべし!」

 

 流れるように内心で切腹を決めていると、走り終わった近江さんに背中側からのしかかられ見事にバランスを崩し近江さんの下敷きになる。哀れなり。ついでに貧弱すぎるッピ! 

 画して地に伏した自分であったが、なんとか近江さんを支えたまま立ち上がる。いやはや、不意打ち気味とはいえアレを支えられないくらい体幹が弱ってるってことじゃん。これは普通にヤバさを感じますね。トレーニングしよトレーニング。プランクから行くべ……。

 

「すいません、怪我とかしてないですか?」

「大丈夫だよ……玲君も大丈夫?」

「大丈夫ですよ。だからその、落ち着いてください」

「でも……」

 

 心配そうに問うてくる近江さんに落ち着かせるように返した自分と、そんな自分に対して尚もオロオロとした様子を見せる近江さん。えーっと、こういう時はどうしたらいいんでしょうか。普通に落ち着いてもらえないんだけど……。

 

「大丈夫ですよ。さっきはちょっと驚いて対応できなかっただけですから。それに怪我もしてませんから」

「玲君がそう言うなら……」

 

 少しばかり強引に言い聞かせるようにしてみたところ、納得してくれた様子を見せた近江さん。とりあえずこっちは大丈夫そうだな、と感じ視線を近江さんから周囲に移すと、既に皆さん走り終わって集結してました。

 

「あ、皆さん走り終わってたんですね……」

「うん。ちょうどね」

 

 独り言としてこぼした物を高咲さんが拾って答えてくれました。ふぇぇ……拾われちゃったよー。

 

「次はストレッチやりますよー」

「え、あ、えと、はい……?」

 

 中須さんに促され他の方々と共にトラックから移動する。ストレッチ……全身を黄色いタイツに包んだ人が脳裏に浮かんだ気がするが多分それじゃないと思う。絶対今回は関係ない。名前は関係あるかもしれないけど。

 さてさてさーて、移動し終わったのですが、何グループかに分かれてストレッチが始まりました。しかもちゃっかり自分もグループ分けに巻き込まれてました。何故だ……これじゃ見学じゃ無くて体験入部なのよ。

 

「よろしくお願いします!」

「アッハイ、ヨロシクオネガイシマス」

 

 優木さんからの挨拶に片言で返す。というわけで、優木さん、宮下さん、天王寺さんのグループに入れていただきました。何故何どうして。おお神よ、この哀れで無知な愚か者に訳をお教えください……。

 

「じゃあまずは前屈から行きましょう」

「ハイ。オテヤワラカニオネガイシマス」

 

 長座体前屈の姿勢で始まりましたストレッチ。久々……学年初めの体力測定以来の長座体前屈ということなのですが、普通に体が硬くなってて泣けてきました。前は伸ばした時に両膝が膝につくとこまで行ったのに行かなくなった。行けてつま先を掴めるところ。ストレッチサボったツケですねクォレハァ……。

 己の現状に内心で涙を流していると、不意に背面側で気配を感じる。真後ろに……立たれてる? 

 

「玲さん、少し押しますよ?」

「んぇ?」

 

 優木さんからの声かけに驚きの声を上げた直後、背面に何が触れた感触と前へ倒れるように促す力が訪れる。それを受けた結果自分の背中、特に背骨の中央部辺りからゴリゴリと軋むような音が鳴った。

 

「あっ……」

「大丈夫ですか?」

「ええ、まあ……」

 

 応答しながら脚部裏側全体に走る痛みと格闘する。あれ、ストレッチってこんなに痛みを伴うものだったっけ? 後、背面に走る感触が感触過ぎて普通に辛い。あまり信じたくないんだけど、多分当たってるよこれ。体勢がどうなってるかわからないから予想だけど。でも異常に柔らかい感触がするので……ヤメレ。こういう時こそ心頭滅却、明鏡止水。はぁーあ。何かの間違いでハイパーモードにならないかな。無理か。雑念だらけだし。

 

「玲って結構柔らかいね?」

「玲さん私よりも柔らかい……」

「これでも結構硬くなったんですよ……」

 

 苦笑しながら答える自分。こうやってね、他のことに頭を回すようにしながら会話をしてね、現実逃避するんですよ。あ、待って筋が……。

 

「イテテ……」

「あ、すいません! 押しすぎてしまいましたか?」

「い、いえ。変に力を入れてしまっただけなので……」

 

 首を横に振り優木さんに対して違う旨を伝える。……とりあえず今ので優木さんが離れてくれたのでヨシ! 何も良くないよ。今ここで腹を切るか、帰りに東京湾に入水するか選びなさい。ちなみに今回の正解は迷惑がかかりにくいと言うことで後者が正解だと思われ。

 

「玲さん、押していただいてもいいですか?」

「……分かりました」

 

 自分と交代でストレッチを始めた優木さんに、後ろから押してくれと申されました。……やっぱ活動見学のはずなのにおかしいよこれ。100歩譲って走り込み一緒にやるのは分かる。まだ分かる方だ。しかしながら、ストレッチでこれはおかしすぎる。普通はこんなことにならない。なるはずがない。なってたまるか。

 ……え? 普通とか当たり前ってなんだろう? そう言われるとなんだろうな。御影わっかんなーい☆……許してください、なんでもはできませんけど。

 そうこうしている間に、目の前の優木さんが長座から開脚前屈に移ってました。長座の次は開脚なんですね。そう思いながら、優木さんの背中をゆっくり押していく。

 

「こんな感じで大丈夫ですか?」

「大丈夫です。あ、もう少し押してもらえます?」

「はい」

 

 優木さんの言葉に頷いた自分は、指示された通りに背を押して行く。今日以降、いつどこで誰に刺されるかわからなくなってきたから怖いな。泣こっかなもう。

 幾度目か分からない嘆きの声を抱えながら、淡々とストレッチをこなしていくこと約1時間。ストレッチの時間が終わり部室へと戻りました。

 

「どうだった?」

 

 部室に戻るなり、上原さんに声をかけられました。ヤベーイ。ハザードしちまうよ。でもここでスルーなんてできるわけもなくて……中尉(なかい)さん案件だ。

 

「少し体が痛いですね……アハハ……」

「普段ストレッチする機会ってそんなにないもんね」

「そうですね……」

 

 当たり障りのない返答でなんとか乗り切る。よし、今日も楽しく話せたな。それはそれとして普通に重罪なので死にましょう。今日の優木さんの案件複数と上原さんの件なので4回は死刑が確定できるね。

 

「そうだ御影君、今日この後って用事ある?」

「特にはないですけど」

「じゃあ一緒に帰ろ?」

「……ん?」

 

 上原さんからの言葉に首を傾げる。今なんて? 一緒に帰ろって言われた? いやいやいや、そんなマッカーサ……まっさかー。高咲さんと一緒に帰るって旨を話してたんだよね。きっとそうだよね。

 

「折角だから一緒に帰ろ? 最近一緒に帰る機会なかったから」

「え、あ、はい。わかり、ました……?」

 

 流されるようにして頷いてしまう自分。愚か者ー! 何故頷いたんだ! バカなの? アホなの? 死ぬの? ……逆に考えるんだ、推しからの提案を断れるわけがないと。『前門の虎 後門の獅子』ってことだ。自分の負け。なんで負けたか来世までに考えてきてください。ほな、さよならー。

 こうして、自分は上原さんと——後恐らくだけど高咲さんと下校する運びになりました。粉☆バナナ! ニアが自分を陥れようとしているだけだ! そんなわけあるか、自分で招いた結果なんだよなぁ。とりあえず、一旦部室出ようか。そうしよう。

 

「あの、自分先に出て待ってますね」

「うん。後から行くね」

「はい。ではすいません、本日はありがとうございました」

 

 上原さんの返答を聞いた自分は扉の前に立ち、一同の方へ向き直りながら本日ことに対して謝意を伝える。すると、一同を代表するように中須さんが一歩前に出て返答してくれる。

 

「玲先輩、また遊びに来てください。可愛い可愛いかすみん達が待ってますから」

「ありがとうございます。またお邪魔させていただきます」

 

 そう言って一礼した自分は扉を開け部室を後にしていく。この後正門で待機していたのだが、予想通り上原さんと高咲さんが一緒にいらして2人に同行する形で下校することとなった。その結果としては、あまりにも気が気じゃ無くて生きた気がしなかった。




今回はここまで。閲覧の方ありがとうございました。
また次回の更新でお会いしましょう。さよナランチャ!

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