間隔の方が大分開いてしまい申し訳ございません。
本編の方更新させていただきました。
それでは本編をどうぞ。
前回のラブ↓ライブ!↑
スクールアイドル同好会の見学に行ったら何故か体験入部みたいなことになって体がボドボドになって、ついでに推しとその想い人と一緒に帰ることになって確殺された。
同好会見学の翌日、
今なら悲しみの向こう側に辿り着けそう。冗談とかでは無く本当に。嘘だッ! と思ったそこのあなた。それが正しい反応です。その感性を大事にして……何言ってるんだ自分は。
はい、てなわけで今日も今日とて推しのいる教室にやってきましたー。ぱちぱちー。あー、もう帰りたい。授業を受けるのはいいけど、推しと同じ空間にいるとか重罪すぎるから転科するか不登校になるかの二択でも迫っておこうかな。
「御影君おはよう」
「アッ、オハヨウゴザイマス」
二択を迫るよりも先に推しこと上原さんから先制攻撃もらいました。流石に電光石火すぎる。回避不可能な速度で来るのやめてもらっていいですか? 自分の命がいくつあっても足りないんですわ。
「昨日の帰りすごく疲れてたみたいだったけど大丈夫?」
「おかげさまで……ちょっと筋肉痛な気はしますけど大丈夫です」
心配してくれる上原さんに現状を含めて問題ないことを伝える。その優しさに、全自分が泣いた。あとこれ何回も言ってるけど、その優しさをこちらに向けないで。高咲さんに向けて。今度そういうこと書いた応援うちわでも作ろうかな……。
ところで、その肝心の高咲さんの姿が見当たらない。普段なら上原さんと一緒に教室に入ってくるんだけども、はて?
「ところで高咲さんは? 今朝はまだ見かけていないのですが……」
「侑ちゃんは後から来るんだけど——」
上原さんがそう述べる中、教室内に駆け込んでくる人物が一人。息を切らせた様子の高咲さんでしたー。疾走してきたみたいだけどどうしたの一体……。
「ま、間に合った……!」
「えと、おはようございます」
「あ、おはよう」
荒い息を整える高咲さんに挨拶すると挨拶を返してくれました。自分はこんな些細なことでも涙が出る。だって挨拶返してもらえることってすっごくありがたいことなんだぜ? この世の全ての食材に対してと同じくらい感謝込めなくては……。
「大丈夫だった?」
「うん。部屋の中に忘れてきただけだから」
「もー、だから忘れ物ないか聞いたのにー」
高咲さんに対してぷりぷりと怒る上原さん。可愛い。推しが圧倒的に可愛い。怒ってても可愛いの反則。とんでもないもん拝んだので記憶消して口封じがてら腹切ろうかな。
とか思ってると教室内に予鈴が鳴り響く。ありゃ、もうぼちぼち
「予鈴鳴っちゃった。また後でね」
「うん。御影君も後でね」
「あ、はい。また?」
お二人が離れて行った後、ゆっくりと座席に腰を下ろす。ふぅ……朝から生きた心地がしないね。お前はもう死んでいる。なんつって。
しょうもない思考の傍ら、朝のSHRを聞き流しつつ一限の準備を進めていく。
一限目は確か
「……やっちまった」
置いてきた心当たりがある場所に思わず頭を抱える。そっか。そういえばあそこで少し荷物出したね。多分その時忘れたね。うん。しゃーない。今日のはルーズリーフに書くか。
バッグからルーズリーフの袋とリングファイル、そして化学の教科書を出した自分は、席に座したまま一限が始まるのを待つのだった——
その日の放課後。自分は再び部室棟へと足を運んでいた。帰宅部なのに二日連続部室棟に来てるの異常だよ。まあそうなる原因を作ったのは昨日の自分なのですが。
そうこう言いながら辿り着いたのは、昨日の今日感が否めない『スクールアイドル同好会』の部室。来ちゃった……はぁ。内心ため息を吐きながら、扉を三回ノックしてから開いていく。
「こんにちわ……?」
恐る恐る中を覗き込んでみると、何やらお取り込み中のご様子で。あら? あらあら? 来るタイミング間違えちゃった? 戸惑い過ぎて一瞬だけどザフトの歌姫出てきちゃったよ?
「あ、いらっしゃい。どうかしたの?」
「その、少し忘れ物をしてしまいまして……」
「そっか。入って入って」
応対してくれた高咲さんに訳を話したところ、入室を促されました。こんなにあっさり通されてしまって良いのだろうか。普通に考えたらダメなんだろうけど。
通されてから改めて室内を見渡すと、昨日はなかった見知らぬ少女の姿が。制服を見た感じ……
「——東雲学院、の方ですか?」
脳裏にある記憶と合致した学校名を告げる。東雲学院とは虹ヶ咲学園の近隣にある学校。中学時に進学先を選んでいて調べたことがあって、確かその時に見た制服が、正しく目の前の彼女が纏っているものであった……気がする。
「そうだよ。東雲学院でスクールアイドルやってて今日は同好会の見学に来てくれたんだ」
「近江遥です! よろしくお願いします」
「あ、はい、御影玲と申します……ん? 近江?」
高咲さんの説明に続いて名乗っていただいたため反射的に名乗り返していく。あれ今この子確かに近江って名乗ったよね? 聞き間違いじゃないよね?
「御影さん……! お初にお目にかかります! お姉ちゃんからお話は伺ってます!」
「……え、え、え、ええ??」
聞き覚えどころか目の前にいる人と同じ苗字であることに戸惑っていると、突然目の前の彼女……遥さんが目を輝かせながら告げてきました。あれ、なんだかよく分からんけど一方的に知られているみたいだね? それとお姉ちゃんって言ったよね今?
「お姉ちゃん……?」
「彼方ちゃんの可愛い可愛い妹だよ〜」
「ファッ?! 妹さん?!」
バイト先の先輩こと近江さんから衝撃的なカミングアウトいただきました。え、近江さんの妹さん? そうなの? いや妹いるって話は聞いてたけどさ、その妹さんに自分の話がされてるとか思わないじゃん?
あとなんかすっごい期待の眼差し的なの向けられてますけどどう言うことなんでしょうか。近江さん普段妹さんにどんなお話しされてるの? 自分のことなんて言ってるの? 不安に不安を
「玲君驚き過ぎだよー」
「いや、あの、はい……落ち着きました」
色々と言いたいこととかあったけど全部飲み込んで深呼吸して強引に落ち着かせました。飲み込むことは大事。これ古事記にも書いてあること。え、書いてない? マジか。じゃあ皇帝の辞書に書いてあったと言うことで……。
「それで、玲先輩は今日は何をしにこちらへ?」
「あ、えっとですね……ノートを忘れちゃったみたいで、どこかで『化学』って書いてあるノート見ませんでしたか?」
「それってこれのことですか?」
ノートを見てないか聞いてみたら、優木さんがどこからともなくノートを取り出し目の前に差し出してくれた。そのノートには『化学』と大きく書いてある。
「まさしくそれです……! ありがとうございます」
優木さんにお礼を言って、ノートを鞄にしまっていく。その最中、自身の鞄の中に入っていた物が目に留まり、そっと戦慄する。わ、わぁ……。
「あ……高咲さん、これありがとうございました。日中に返すのを忘れてしまってまして」
そう言って自分は鞄の中から取り出した。ジップ付きの袋に詰めたタオルを。倒置法になってるね。なんでだろう。
それで、このタオルはと言いますと、昨日高咲さんからお借りしたタオルですね。洗って厳重に包んで持ってきたは良いものの、普通に返すの忘れてました。あっぶね。
「もう持ってきてくれたの?」
「はい……早めに返さないと忘れてしまいそうな気がしまして」
タオルを受け取ってくれた高咲さんの言葉に苦笑しながら返す。律儀だねって? 当たり前だろお前! 高咲さんが貸してくれたタオルだぞ! 推しの想い人がだぞ! じゃなくても人として最低限の礼儀だと思うからね! 偏見だけど!
「あ、今日も同好会の見学してく?」
「……はい?」
「もちろん、御影君が良ければだけど」
唐突に振られた内容に困惑する自分。えーっと、今日も同好会の見学? 昨日の今日で? マジですかちょっと? なんでこうなってるの?
「え、あ、予定とかは全然ないのでアレですけど……なんか申し訳ないような」
「遠慮しないでよ。今日は元々遥ちゃんが見学に来てるんだから。みんなもいいよね?」
食い下がってみたものの、高咲さんからの上手い返答、且つその他一同からの頷きをもらい逃げ場がなくなりました。あかん、首を縦に振るしかなくなっちまった。外堀埋められたね……これは策士。
「あ、うう……わかり、ました。お邪魔します」
画して自分は、同好会見学二日目に臨むこととなりました。解せぬ。なんでだよ。おかしいだろ。これはもう『次回御影死す、デュエルスタンバイ!』案件だよ。
「ところであの、中須さんは何を……?」
「あー、あれはですね……」
「かすみんなりに頑張ってるんだよ。ほら、いこいこ?」
自身の死を悟りながらも、気になっていた事について問うてみる。部屋の奥の方でずっと窓の方を向いてた中須さんが気になってね。聞けば何かを頑張っているそうで。何を頑張ってるのかを聞きたかったんだけども……。
そんな感じの中須さんを一人部室に残し他の皆さんと部室を後にしていく。いいのかな置いていって……?
「ちょっとぉ! 置いてかないでくださいよーッ!」
部室を出てちょっとしてから、後ろから中須さんの悲痛な叫びが聞こえてきました。……ダメだったみたいですね。
中須さんに対して心の内で十字を切っているとそのまま更衣室に担ぎ込まれ、ジャージに着替えさせられるとそのまま部室棟の外へ連れて行かれた。なんか、変……はい、というわけでやってまいりました屋外は……あれ、今日は通路だな。グラウンドじゃないやん。そして今日も着替えさせられた挙句にスタート位置に立たされている自分。おかしい。絶対におかしい。何もかもがおかしい。
「行くよー。よーい、ドン!」
有無を言わせてくれない勢いの高咲さんの合図で始まったランニング。本日の自分は昨日のダメージを持ったままなので正味死にそうです。これはアレだな。雷門の守護神から点を取るために足を犠牲にする覚悟を決めた帝国の司令塔よろしく、足に別れを告げる心持ちでいかないとだな。
そんなこんなで昨日よろしく一定のペースを心がけて走っていると、叫びながら疾走する人が一名。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
まるで何処ぞの槍鯖みたいなフォーミングで突っ走っていくのは近江さん。はっや。昨日の比じゃないよ。例えるなら昨日の三倍の速度。……赤い彗星かな? つまり近江さんはダイクンの忘形見で、ジオン軍のエースだった……? ジオンじゃなくてバイト先のエースの間違いだろ。同じカタカナ三文字だけどさ。
「遥ちゃーん!」
妹さんに手を振りながら走り抜けていく近江さんを見送りながら、その後ろにいる宮下さんに追従する形で走り抜けていく。あ、カーブキッツ……重心移動で筋肉が悲鳴を上げたよ今。
その最中、何気なく高咲さんと並んで立っていた妹さん——遥さんの方を見やると、暗がりな表情を浮かべていた。
「……なんもなきゃいいけど」
徐に溢しつつ、軋む体で走り続ける。その結果、ゴールするも昨日より遅いし太ももと
どっからどう見ても重症な自分ですが、そこで船を降りることも叶わず、その後のストレッチにも突っ込まれました。……ケテ……タスケテ。
「うぉぉぉぉぉお!」
「彼方さん、いい感じです! 昨日より出来ている気がします」
「ヨシ、お姉ちゃん頑張って!」
こちらでも相変わらず咆哮しておられる近江さんとその背中を押す上原さんを横目に一人で前屈をする。……あれ、昨日よりも体がよく曲がる。両肘と前腕が
頑張る近江さんの傍ら、昨日の今日で変な位置まで着いてしまった自分はなんとなく居た堪れなくなった。……昔柔軟やってたからって、最近サボってたら普通に考えて体は固まっているはずなんですよ。ええ。なんで昨日ちょっとやっただけで可動域が若干戻ってるんだよ。おかしいだろ。あ、昔は開脚して地面に顔がつくとこまで行ってました。はい。
「玲さん、今凄いところまで行ってませんでしたか?」
「……多分気のせいです。膝ちょっと曲げちゃったので」
傍らを通りがかった優木さんからの言葉に、視線を逸らしながら応答する。そう、今のはきっと気のせい。膝が曲がっていたせいなんだ。よって今の柔軟は無効! ノーカウント! ノーカウント! ノーカウントなんだ! ノーカン! ノーカン!
内心喧しいまま、ストレッチから筋力トレーニングに移行する。まず初めにやったのは、筋トレの王道と言っても過言では無い腕立て伏せ。
「うぉぉぉぉぉお!」
聞き慣れてきた叫び声と共に曲げた腕を震わせつつ伸ばそうとする近江さんと、その横で黙々と胸を地面に着けた後に地面を押し上げて空中で一度手を叩く『手叩き腕立て伏せ』を敢行する自分。
「凄い彼方さん! 今までで一番低い!」
全身全霊で叫びながら腕立てを頑張る近江さんに声を掛けるのは高咲さん。マネージャーとしての素質が高いし様になる。控えめに言って素敵だと思います。……あ、そろそろ手叩きの反動で手首が痛くなってきた。
「が……頑張れお姉ちゃん」
「……ギャフッ」
「彼方さん!?」
上体を起こし切る前に潰れてしまった近江さん。上げるのキツいんですよね腕立て。自分は今押し出して上体を軽く浮かせているから瞬間的に厳しいだけで……対して普通に腕立て伏せやると、腕に常に負荷が掛かる状態でそこから上げるとなればね。うん。絶対向こうのが辛いよね!
それから自分も手首痛くなってきました。メニューと違うことやってるお前が悪いって? それはそう!
愚かな自分に対して内心で文句を言いつつ次のメニューに移る。続いてやるのはプランク——両腕の前腕とつま先で体勢取るアレ——の足元がバランスボールバージョン。不安定な足場。間違いなく体幹に効くやつや。
「うぉぉぉぉぉお!」
本日四度目の近江さんの咆哮を聴きながらバランスボールを使わずにプランクをする自分。やってなかったせいで普通のでもキツいから、今近江さんがやってるバランスボール使った方にした瞬間腹筋が終わるナリ。
そう思っていると、優木さんから近江さんへの声を掛けが始まる。
「良いですね彼方さん! 良い調子!」
「良いよ良いよ……あ」
「ヒィーッ!」
とかなんとか思ってたら近江さんがバランスを崩してボールが弾け飛んだ。そしてバランスボールが中須さんにシューッ! 超☆エキサイティング! やっとる場合かぁ!
内心に現れたドイツ軍人に叱咤されつつ立ち上がった自分は飛んでいったボールの回収に走るのだった。
「では、今日の練習はここまでにしましょう」
飛んで行ったボールを拾って戻ってきたら、終わりの旨を優木さんが告げていました。終わったみたいですね……ありがとう今日の自分。さようなら明日の自分。
凄惨であろう明日の自分に十字を切りながら、練習を終えた皆さんと共に部室棟に戻った。そして屋内に入るなりシャワールームに駆け込んだ自分は、素早く汗を流して同好会の部室へと戻った。荷物が置いてあることと、戻ってきて欲しいと要請を受けたためだったり。
「あ、玲お帰り」
「あ、えと、戻りまして。これは?」
「遥ちゃんの歓迎会だよ」
宮下さんに出迎えてもらった後に応答しながら現状を問うと、高咲さんから補足をもらいました。遥さんの歓迎会ですか。卓上にクッキーとかコッペパンが並んでるけどいつ用意したんだこれ……やっぱこの同好会の人達ヤベーよ。
「——素敵な同好会ですね!」
「ほんと? 嬉しいなー!」
慄きまくっている自分の傍で会話を繰り広げる高咲さんと遥さんの声に耳を傾けていると、座していた近江さんがばたんきゅーと言わんばかりに机に突っ伏し始めた。おや? おやおや? おやおやおや?
「お姉……ちゃん?」
「大丈夫ですよ。枕はちゃんとありますから」
「うえっ……?」
不安そうな様子を見せた遥さんに対して桜坂さんが応答しつつ、紫と白のストライプ柄の枕を近江さんと机の間に差し込む。手慣れてますね。起こさずに、且つスムーズに差し込むとか職人技。……桜坂さんは近江さん職人だった? なんだよ近江さん職人って。
「この枕、彼方ちゃんのお気に入りなの。寝心地良いんだって」
補足するように言葉を紡いだエマ先輩が、近江さんの肩にブランケットをかける。あのえっとお二人さん。流石に手慣れすぎでしょ。え、何、この人普段の同好会でもこんな調子なの?
「あの……お姉ちゃんは良く寝ちゃうんですか?」
「はい。私の知る限り彼方さんは寝るのが大好きだと思いますよ」
椅子から立ち上がりながら神妙な面持ちで問うた遥さんと、それに答える桜坂さん。すると桜坂さんの隣に立つエマ先輩が口を開く。
「特に膝枕で寝るのが好きだよね?」
「膝枕ぁ……?!」
エマ先輩の言葉に驚愕の色を示す遥さん。凄い驚き方したねー……冷静になってみると人に膝借りて寝るってやっぱり普通じゃ無いよな。自分の感覚がおかしかったわけじゃ無いよな。お前はいつでもおかしいだろと言われたら否定はできないんですけどもあのあの。
「そうそう。愛さんもしてあげたよ」
「自分もアルバイトの休憩中に膝貸してって言われて貸しましたね……」
宮下さんの言葉に続けて、先日あったことを思い出しながら呟く。いやーあの日は近江さんに東雲水辺公園に拉致られて……あ、ヤッベ。思い出さない方がいい日の記憶だったじゃんアレ。過去回想からの号泣した日だよ。はいはい封印封印。
「御影君のは何か違くない……?」
「そうですか?」
訝しんだ顔で問うてくる高咲さんの言葉を受けて首を傾げる。なんか変なところあるか……ただ皆さんみたいに膝枕したってだけのはずなんだが。はて?
「お姉ちゃん……皆さんに膝枕をしてもらう程頻繁に寝ているんですね……」
「そう言われると、最近いつにも増して良く寝ているような……」
「確かに……練習しながら、寝てた」
「この前も、全然起きないくらい熟睡してて」
遥さんの言葉を皮切りに、直近の近江さんの様子を思い返したらしい桜坂さんと天王寺さん。これだけポンポン上がってくるって言うのはそれなりだと思う。うん。
「彼方ちゃん……?」
不思議そうな様子で名前を呼んだエマ先輩の声が酷く部室内に木霊していた。ここまで来ちゃうと……心配の領域まで来ちゃいますね。だって証言が役満なんだもん。
だからと言って、本人の口から聞いた話では無いから断定はできないし、こちらでどうにかできるようなことでも無いのだけれど。
「取り敢えず……今は寝かせておいてあげた方が良いかもしれませんね」
「そう、だね」
机に突っ伏し眠る近江さんを見据えながら溢した言葉に、エマ先輩が頷いてくれる。
と言うことで、近江さんに関する話はここで一度打ち止めとなり、遥さんの歓迎会を仕切り直すことに。結果、部室内には明るい会話が再度飛び交い始めた。
その傍らで、窓際のスペースを借りた自分は、本日ルーズリーフに板書した授業内容をノートに写し直していた。
「ここの『塩化水素』と『アンモニア』の化合式は『NH₄Cl』、と」
化学式を呟きながら筆を走らせていく。帰ってもいいんだけど……なんだろう、物凄く帰り辛いのと、帰ってはいけない気がした。なんでかまでは、分からないけど。
「御影君は板書してるの?」
「はい。今日の化学の。終わり、っと」
高咲さんからの問いかけに答えつつ板書を終えた自分は、ノート等をバックにしまい、遥さん達との会話を始める。
「御影さんは普段はどんなことをされているんですか?」
「普段ですか? 自転車漕いでみたり、遠出してみたりとかですかね」
自分の私生活と言うたわいも無い会話をしていると、唐突に近江さんが覚醒した。なんかBGMかけたほうがいいかなここ? なんというか、神々しいので。
「……あれ?」
辺りを見渡し現状の把握に努める寝起き近江さん。頭の処理が追いついてない感ありますね。普段の自分も多分あんな感じなんだろうな。一緒にしたら失礼だろいい加減にしろ。
己の失礼さに全力で突っ込んでいたら、遥さんが近江さんに声を掛ける。
「目、覚めた?」
「ハッ! くぅ〜〜ッ!」
遥さんの言葉で状況を悟ったらしい近江さんは、枕で顔を隠すと声にならないような声を上げた。たまに思うんですけど、今みたいな声って人間のどこから発されてるんでしょうね。どうでもいいか。
「遥ちゃんにお姉ちゃんの恥ずかしいところ見られてしまった〜!」
「恥ずかしくなんかないよお姉ちゃん。疲れて当然だよ。いっぱい無理してるんだから」
「——無理してるって、何を?」
遥さんからの言葉に、不思議がった様子で問い返す近江さん。そんな彼女と同様に、自分もまた首を傾げた。近江さんが無理してるっていうのは、どういう意味なのか、と。
近江さんがそんなに無理しているような場面ってあったか……? アルバイトの時も週四から五で入ってるぐらいだし。四日から五日シフトに入ってるの、冷静に考えたら入り過ぎなのでは?
「やっぱり……」
「遥ちゃん?」
「お姉ちゃん、同好会が再開してからあんまり寝てないでしょ?」
遥さんの口から飛び出た一言に、自分は驚愕した。ちょっと待って、は、え、あんまり寝てない? 嘘だよね? あんだけ働いてるのに家で寝てないってことなの? でもなんで?
疑問の先に新たな疑問が生じる状態に陥っていると、近江さんが反応する。
「うーん、つい楽しくて〜」
「私、お姉ちゃんが忙しすぎて倒れちゃうんじゃないかって、心配で……それで今日、見学に来たの」
明るい表情を見せる近江さんとは対照的に、どこか影を落とした顔で内心と今日の目的を吐露した遥さん。
様子を見る限り、近江さんは遥さんから見て大分深刻な状態なのかもしれない。でなければ、直接様子を見にくるなんてことしないはず……ですから。
「そうだったの?」
理由を聞いて首を傾げる近江さん。そうですよね。そう思っちゃいますよね。自分が当事者だったとしても同じ反応してますねきっと。
だって自分の様子見に足運んでくるとか思わないじゃん? え、そんなことない? そっか。
「でも、今日のお姉ちゃんは疲れなんて感じさせないくらい元気で楽しそうで、すごく嬉しかった。いつも私を優先してくれたお姉ちゃんが、やっとやりたいことに出会えたんだ、って」
「遥ちゃん……!」
遥さんの言葉に、嬉しそうに微笑む近江さん。そんな二人を見ながら、自分は何故か嫌な予感が湧き上がった。嵐の前の静けさというか。……何か、とんでもない発言が飛び出すのではないか、と。
「今のお姉ちゃんには、同好会がとても大事な場所だって、良く分かったの。だから私、決めたよ」
「……何を?」
「私——スクールアイドル辞める」
瞬間、時間が止まったと錯覚するような静寂が部室内に広がる。そして蓄積され飽和した感情は驚愕の声として沈黙を突き破る結果を生じさせた。
「……え?」
「「ええーッ?!」」
近江さんと高咲さんを筆頭とした叫びにも似た声が響き渡る。人の全力の驚きって空気を振るわせる力半端ないっすね。御影感激ー、じゃねぇよ黙れよ。今それどころじゃねぇだろ。
「や……え……ど」
「どうしてッ?!」
近江さんが戸惑いのあまり言葉を発せないでいると、それを代弁するかのように高咲さんが驚愕したまま遥さんへと問いかけた。
「このままじゃ、お姉ちゃんが、体壊しちゃうから……」
「彼方ちゃんが寝ちゃったせいで遥ちゃんのこと心配させちゃったの? 大丈夫だよ〜」
「全然大丈夫じゃないよ!」
「……ッ」
遥さんを説得しようと言葉をかけた近江さんだったが、強めの返しに言葉を詰まらせてしまう。遥さんの剣幕、言葉の対象じゃない自分でも息を呑んでしまうくらい凄い。それくらい、近江さんのことを思っている証拠でもあるのだろう。——それが本人に届くかは別として。
「お姉ちゃんはお母さんが忙しいからってお家のこと全部して、家計を助けたいからってアルバイト掛け持ちして、奨学金貰ってるからって勉強も頑張って、その上スクールアイドルもなんて、誰だって倒れちゃうよ!」
遥さんの口から語られた近江さんの状況を聞き戦慄する。そんな多忙なのに、いつもバイトしていたんですか。
こんなの遥さんじゃなくても心配するレベルだよ。そこに身内としての心配が上乗せされるんだから気が気じゃなくなるでしょうに……。
「もういいの……私のことより、お姉ちゃんにはやりたいことを全力でやって欲しいの」
「遥ちゃん……」
言葉を交わすお二人は互いに哀しげな表情を浮かべる。遥さんは、近江さんに自身の発言の訳を必死に説こうとしている。そして近江さんは今、遥さんの想いを聞いて受け止めようと努めている。
そんなお二人にさらなる不安感を感じていると、桜坂さんが遥さんへ問いをなす。
「あのー……そのために遥さんはスクールアイドルを辞めるんですか?」
「はい」
「だ、ダメ! そんな、遥ちゃんは夢を諦めちゃダメ!」
遥さんが桜坂さんの問いかけに頷いた直後、近江さんが彼女の両肩に手を置き、必死な様子で事に対しての否定を見せる。
普段の彼女からは見ることのないその姿に勝手に驚いていると、視線を横に逸らした遥さんが、抱えていた内心を更に吐き出していく。
「お姉ちゃんが苦労してるの分かってて夢を追いかけるなんて出来ないよ!」
「そんなの、気にしなくて良いんだよ。だって、遥ちゃんは大事な妹なんだもん」
「——どうして」
閉じていた目をゆっくりと開き、近江さんの方を向く遥さん。寂しげな目で近江さんを見据えた彼女は続きを発していく。
「妹だったら、気にしちゃいけないの?」
「心配させちゃってごめんね? 彼方ちゃん、もっと頑張るから」
優しく、そして笑みを携えて告げられた近江さんの言葉。そんな言の葉を受けた遥さんは、小さく下唇を噛むと感情を爆発させることとなる。
「お姉ちゃんの、分からず屋!」
「ッ……」
「遥ちゃん!」
部室を飛び出して行く遥さんと、制止するように名前を呼んだ高咲さん。自分を含めた一同があっけに取られる中、高咲さんが席を立つ。
「私見て来る!」
「……自分も」
反射的に立ち上がった自分は、部室を飛び出して行った遥さんとそれを追いかけて行った高咲さんの後に続き部室を出る。振り返ることなく。
そして、既に姿の見えない二人を追うため階段を駆け降りていく中、突如自分の脚に電流走る。
「アッ……!」
過負荷に過負荷を加えられていた足が限界を迎えたらしく、痛みという悲鳴を上げたため思わず足を押さえてしゃがみ込んだ。この締め付けるような筋肉の動き……痙攣してる。こんな時に……痛い痛い痛いッ!
明日からアサルトシュラウド纏った生活しないとダメかな? 出てこいストライク! でないと傷が疼くだろうッ!! ……的な感じで。重そうだからやめておこう。
思考の傍ら、
心の中で泣きながら足を若干引きずるようにして向かったのは校門へと通じる道。その真ん中辺りで、高咲さんが遥さんを捕まえていた。
「——お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします」
二人の元に向かう途中、聞こえてきた言葉に足元にむけていた視線を上げると、高咲さんに一礼し踵を返す遥さんの姿を捉える。
「高咲さん」
「御影君……」
どうにもできないことを悟ったのか、不安な表情を見せる高咲さん。自分もまたその意を汲んで小さく肩を落とす。
本人の意思である以上、身内以外の他人がどうこう言うのはお門違いなんだと。分かっているけど……その感情に反して自分は、遥さんに呼びかけた。
「——遥さん」
「……はい?」
自分の呼びかけに足を止めて振り返る遥さん。ここでちゃんと止まって振り返ってくれるところに人柄が出ていると思います。優しいね。お姉さんと同じで。
遥さんの人間性に染み染みした自分は、自身の思っていることを率直に彼女に告げることにした。
「自分の気持ちに嘘をついたり、妥協したりしないでくださいね」
そう投げかけると、遥さんは悲しげな顔を浮かべながら背を向け、何も言わずに敷地の外へと進んでいった。
今の今で頷けるような事じゃないのは分かってる。でも、伝えておかなければいけないと感じた。だから、これで良かったと思う。今は。
そうして彼女の背中が見えなくなった頃、傍らの高咲さんに声を掛ける。
「戻りましょう」
「そう、だね」
頷いてくれた高咲さんと共に部室へ向かう自分。途中階段の昇降に悪戦苦闘しつつなんとか部室に着くと、重く沈んだ空気が出迎えてくれた。
「遥ちゃん……」
どうしたものかと高咲さんと考えていたら、自責するような声で先ほどまでいた少女の名を呼ぶ近江さんの声が部室内に酷く響いた。
その様子を見て自分は直感的に思った。このままの状態で近江さんをここにいさせるのは不味いのではないかと。
直後、思うよりも早く部屋の隅に置いていた自身の荷物を掴んだ自分は、椅子に力無く座る近江さんの前に躍り出ると同好会の皆さんに問いかける。
「あの、近江さん借りていってもいいですか?」
「……え?」
一同から驚きの視線が自分に集う中、当事者である近江さんが首を傾げた。対する自分は、その疑問に答えるように近江さんに話す。
「今日、シフト入ってましたよね。行きましょう。そろそろ出ないと遅れてしまいます」
さっきの件があるから、悪手になりかねないけど、今の状況を変えるにはこれしかない……。
そう考えていた自分は、近江さんの手を取ると椅子から立ち上がらせ手を引いていく。
「では、お借りしていきます」
「御影君」
一言告げてから退室のために自分が扉に手をかけると高咲さんに呼ばれる。何事かと思い振り向いてみると、真剣な眼差しでこちらを見据える高咲さんの姿が。
彼女の視線が訴えかけてきた意味を理解した自分は、小さく頷き返す。近江さんのことは、少しですが任せてください。
内心で誓いを立てた自分は、近江さんと共に同好会の部室を後にしていくのだった。