構わないで!上原さん!   作:希望光

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ご無沙汰しております。希望光です。
大変お待たせいたしました。最新話更新です。
本編どうぞ。




前回のラブ↓ライブ!↑
忘れ物取りに同好会の部室に顔を出したらたまたま近江さんの妹さんがいらしてて、紆余曲折あった後近江さんと妹さんが衝突してしまい、落ち込んだ近江さんを自分が連れ出した。


二重の極み……アアアアアッ?!⤴︎

 部室を出た後、更衣室に立ち寄って近江さんに着替えてもらい学校を後にした自分達はそのままアルバイト先に向かった。

 そしてバイト先に着くなり着替えを済ませ打刻し、やることを確認しに行く。

 

「おはよう」

「おはようございます」

「おはよう、ございます……」

 

 道すがらですれ違った社員さんと挨拶を交わす。今日も今日とて可能な限り明るく振る舞う自分と、大きく沈んだまま様子の近江さん。対照的かも〜。無理もない、ですけどね。

 

「近江さん大丈夫ですか?」

「……うん。大丈夫だよ〜」

 

 無理したように笑みを浮かべる近江さんを不安気に思いつつも、やることを確認して、バックヤードに積まれたコンテナの処理に臨む。

 多いなぁ今日……発注ミスったのかなと疑うくらいには多いよ。まあ発注ミスってことはありえないと思うので多分広告の品とかだろうな。うん。

 いつものようにカートにコンテナを積み売り場に繰り出していき、暫し陳列に没頭した自分は運んできたコンテナの中身を消化し切る。

 そんな具合に第一陣を終えた自分が軽くなったコンテナを乗せたカートを押しながらバックヤードに戻ると違和感を覚えた。……何かが変だ。何だ? 

 怪訝さを抱いた訳を考えていると、普段ならとっくに戻ってきているはずの近江さんが居ないことに気がついた。普段は自分より早いか、長くとも自分より少し後には一度バックヤードに戻って来るはず。それなのに今現在姿はない。

 不安を感じた自分は、カートを戻すと再度表に繰り出していく。そして見つけた。心ここに在らず、と言った様子で陳列する近江さんと溢れんばかりに積まれているトマトを。

 

「近江さん」

「……玲君?」

 

 不思議そうに顔を上げた近江さん。その顔を見て自分は絶句した。普段の近江さんが見せない焦燥し切った顔。

 異常な状況を前に危機察知が働いた自分は、表にいる彼女を早々に裏へと連れていくことにした。

 

「……一度、後ろに下がってください」

「え、でも……」

 

 力なく食い下がった近江さんを見た自分は、彼女の手を取るとそのままバックヤードまで連れて行き、有無を言わさず休憩室の椅子へと座らせた。

 

「玲君、彼方ちゃんは大丈夫だよ〜?」

 

 必死な様子で取り繕ってくる近江さん。そんな彼女を暫く見据えながら唇を硬く結んでいた自分だが、現実を突きつけることにした。

 

「大丈夫なわけないでしょ。もし大丈夫なら、あんなミスするなんてありえないと思います」

「玲君……」

 

 普段よりも強めの口調にしたせいか、戸惑った様子でこちらを見つめる近江さん。……本当は、あなたにそんな顔して欲しいわけじゃ無いんです。でも、こんな状態で仕事してるのを見る方がよっぽど辛いんです。

 

「少し、頭を冷やしてください。売り場の整理は自分がやっておきますから……」

 

 それだけ言った自分は、足早に休憩室を去り売り場へと戻る。それでえーっと、なんだっけ。ああ、この山積みになったトマトか。

 

「どうしようかな……」

 

 本来の売り場からはみ出してしまっているミニトマトのパック達を眺めながらため息を吐く。あった分を無心で全部出しちゃったんだよねきっと。自分もたまにそういうことしちゃうからわかる。けど、近江さんがそんなことするなんてまず無いからやっぱり相当なことなんだな……。

 

「とりあえず並べるか」

 

 一度バックヤードへと下がり台車を持って来た後、パックを整列させていく。そうして格闘していくこと約三十分。台車まで使い何とか整列させることに成功した。

 

「完璧……」

 

 自嘲気味に自賛した自分は、店舗外にある自販機を経由して休憩室へと足を運ぶ。そこには、相変わらず沈んだ様子の近江さんが一人で座していた。それを見た自分は、今し方自販機で購入したスポーツドリンクのペットボトルを彼女の方へ差し出しながら声をかける。

 

「これ、良ければどうぞ」

「え、あ……ありがとう」

 

 ペットボトルを受け取った近江さんの傍らに腰を下ろす。普段とはやってることが真逆な気がする。自分はいつも座ってると隣に座られる側だから。

 

「落ち着きましたか?」

「うん……」

 

 未だ元気のない彼女に声をかけてみる自分。この状況だと返事くれないかなとか思ってたけど、俯きがちにお返事してくれました。自分はこんなことでも死ぬほどありがたい。

 

「あの、すいません。自分が無理やり連れてきた感じなのに、あんなこと言って」

 

 近江さんの言葉にありがたさを感じていたところ、不意に罪悪感が込み上げてきたため謝罪の言葉を口にした。冷静になると無理矢理連れてきた立場だから怒る資格なんてないんだよね。というわけで重罪だよ御影君? 腹を切ります。

 

「ううん。玲君は、彼方ちゃんのことを思ってああしてくれたんだよね。だから謝らないで? それに悪いのは、頑張りが足りない彼方ちゃんなんだから」

 

 自分の謝罪に対して力無く首を横に振る近江さん。自責タイムに入っちゃってるなこれは。一旦話を進めて思考を上塗りさせたほうがいいのかもしれない。そう考えた自分は新たな問いをなす。

 

「今日妹さんが仰ってたこと、全部本当なんですか?」

「本当だよ。お家のためにアルバイトしてるし、お掃除とお洗濯とお料理も彼方ちゃんがやってる」

「それと特待生なんですね、近江さんは」

「うん」

 

 困った様な笑顔を浮かべつつ頬を掻きながら頷く近江さん。聴けば聴くほどハードスケジュール過ぎる。そこに同好会の活動をぶち込むんだ。そりゃ睡眠不足にもなるよ。

 彼女の置かれた状況と現状の合致に頷きつつ、内心で湧き上がったことを表に出していく。

 

「……もし、自分が妹さんと同じ立場なら、あの時全く同じこと言ってるかもしれません」

「そう……なの?」

「ええ。無理が祟っていつか壊れちゃうんじゃないかって……そう、感じちゃいますね」

 

 近江さんの問いに頷いた自分は、理由を軽く説明する。身近な人が頑張りすぎて倒れちゃうとか、見ている側としてはとても辛いことだから……止められるなら、止めるよねって話。

 

「今日ぐらい、自分に任せて休んでいてください。それで、遥さんと何をどう話し合うかを考えてみてください」

「でも……出勤してるし……」

 

 自分の言葉に食い下がる近江さん。近江さんならこの場面食い下がるの正直わかってたし、普段なら彼女の意思を尊重するところだけど、今回は自分の意見を通させてもらいますよ。

 

「それは自分からうまく伝えておきますよ。それに、青果(ウチ)のエースに倒れてもらっちゃあ、困るので。それでは」

 

 嘘偽りのない理由を投げながら彼女に背を向け休憩室を出ていく自分。現実的に考えて、このままの調子だとミス多発しそうだなって言うのと、純粋に休んでくれということでね。強引に説得して行った次第です。さてさてさーて、近江さんの穴あき分まで働きますか。

 意を決した自分は、バックヤードから夕方のラッシュを迎えようとしている売り場へと繰り出していくのであった——

 

 

 

 

 

 翌日、重い体を引きずって登校した自分。近江さんの分まで仕事を頑張った結果、同じシフトに入ってた他の人から『残像が見えた』なんて言葉をもらっちゃいましたよ……それが仮に『質量を持った残像』だった場合自分はM.E.P.E(最大稼働)してたってことになるんですよね。

 つまり自分はフォーミュラ(F)ナインティー(9)ワン(1)だった? なんとぉ! 

 

「痛い、痛過ぎる」

 

 一人でボヤきながら昇降口にて靴の履き替えを行う。一昨日、昨日と激しく動き回ってただけで瀕死なのに、残像見えるような動きでバイトしてたって言うんだから残当だよね。残像だけに? アレ、目から汗が……これは? 

 ——さあな、自分はその感情(それ)を知らん。

 ……両面御影さん?! 

 内心に突如現れた特級呪霊みたいな姿の自身に驚きながら教室に入った自分は、座席に着くなり思考回路を遮断し荷物を下ろした。

 その直後、死ぬほど聴き慣れた声に呼びかけられる。

 

「御影君おはよう」

「高咲さん、それに上原さんも。おはようございます」

「うん、おはよう」

 

 もはや見慣れたまである光景を前に心の内で涙を流す自分。なんか色んな感情が混ざり合ってて何の涙かわからないねぇ。何で泣いてんだろう自分。

 だから出てくるなよ、禍々しい姿した自分。思い出の中でじっとしてろ。思い出になどならない? そもそもお前(両面御影)は今日初出だから存在しない記憶じゃねぇかいい加減にしろ。

 相変わらず騒がしい頭の中を再度切り捨てたところで高咲さんから問いかけられる。

 

「昨日あの後、彼方さんはどうだった?」

「アルバイトの時、ですよね?」

「うん」

 

 自分の確認に頷き返してくれる高咲さん。そりゃ気になりますよね。自分が強引に近江さんを借りて行ったわけでぇ……その後の報告までする義務があるしね。さあ、報告の時だ。間違ってもアグニカの魂は引っ張り出してきていないので悪しからず。

 

「大分引き摺ってましたね。遥さんとは、しっかり話し合うようにした方がいいとは伝えたのですが……」

 

 昨日の近江さんの様子と己の言動を簡潔に伝えていく。すんごい引き摺ってたよねぇ。業務に支障が出るレベルだからよっぽどだよ。

 ……それで、話し合う様に伝えたのはいいものの、それが実現可能かどうか、って問題もあったりするんだよね。特に今回の二人の場合。

 

「話し合うにしても、互いに言葉を交わす意思がなければできなかったりしますからね……できていればいいんだけど」

「そっか……」

 

 自分の希望的観測に俯きがちに反応してくれる上原さん。ああ、そんな顔をなさらないで……不謹慎だけど、上原さんの曇ってる顔もお美しい……このまま溶鉱炉に身を投げるしか無くなったな。上原さんの曇り顔に良さを見出した時点で自分は死ぬべきなのだ。

 そもそも彼女の表情を曇らせたのは自分だし、その責任取るべきではないかと思うのですよ。よし、今日はお昼にでも切腹だ。

 

「御影君」

「はい」

「御影君は遥ちゃんが言っていたことを聞いてどう思った?」

「近江さんの現状についてですか?」

 

 自分の言葉に頷く高咲さん。現在の近江さんの状況を聞いてみて……か。投げかけられた問いに、昨日の近江さんとの会話で感じたことを織り交ぜながら返答する。

 

「個人的にですが、もっと自分本位になってもいいんじゃないかとは思いましたね」

「どうして?」

「今の近江さん、他の人のためにって理由で動き回ってるように思えて」

 

 自身のことよりも、他者——特に身内のことを優先的にやって、自身のことは二の次。その結果が、過労と慢性的な睡眠不足……というのが自分の見立て。

 何回でも言うけど、これじゃあ倒れますよ。自分も同じことしたら多分病院に送られるレベルですよ。え、自分じゃ比較対象にならない? それはそう。

 

「家の事一人でほぼ全部やってるっていうところもそうだし、『遥さんには全力で夢を追いかけて欲しい』なんて、妹一番になってるのもそう感じた要因の一つですね」

「言われてみれば……自分のことよりも遥ちゃんの方を優先してたよね」

 

 自分の補足に頷く上原さん。良くも悪くも、彼女の原動力が『妹が全力で夢に駆けていく』だから、止めようにも止め難い。

 仮に止めるとしても、原動力の代替になるものを見つけなくてはいけないし、何よりも他人ファーストな部分を本人に見直してもらわないといけない、と思う。

 あと、責任感の強さなんかも一枚噛んでるんじゃないかな……うん。

 

「はい。後は、遥さんが言ってたように家計を助けるために週五でシフトに入ってることもですし、虹ヶ咲(ウチ)に特待生で入ったこともその要因じゃないかなって。虹ヶ咲は特待生への学費の免除やってますから」

 

 特待制度の説明と、彼女が特待生である理由の考察を話していく。お家のこと全力で気にかけてないとここまでのこと出来ないと思うんだよなぁ。近江さん、マジで優しい……けどその優しさが身を滅ぼしかけてるのが……。

 言い得ない感情を抱きながらも、補足を続けていく。

 

「ただ、その特待生になったことで他生徒よりも多い課題と成績の維持というタスクが生じて、オーバータスクに拍車をかけてしまっているんじゃないかと」

「特待生ってそんなに大変なの?」

「ええ。学校側に学力面を買われて直々に来てくれと言われている生徒なので。特待を維持するためにはそれ相応の成績を収め続けないといけないんですよ」

 

 説明しながら改めて思うことなんですけども、金銭的なことを考えると特待に手を伸ばしちゃうのよなって。経験あるからわかるんですよ。ハハハ……。

 

「御影君詳しいね?」

「実は……特待生の枠、狙ってたんです」

 

 投げられた問いに自身の過去を絡めて答える。入学する前、特待生狙っていた者です。まあ、自分の頭じゃあ多分特待はもらえなかったとは思うんですけども……。

 

「どうして?」

「近江さんと同じような理由で、親に負担をかけたく無かったんです。その時に、普通の人より課題が多いこととか知りました」

「そうだったんだ。でも今は、特待生じゃないんだよね?」

「ええ。負担をかけたくないってことを話したら、気にしなくていいと言ってもらえたので一般枠で入学しました」

 

 口頭で述べた理由に加えて、課題の量が多いのが少し嫌だなと思ったのもあったり。でも気にしなくて良いって言われて、勝手に持ってた肩の荷が降りたのも事実なんだよな。

 なんとなく感傷気味になっていると、始業時間前を知らせる予鈴が鳴り響く。

 

「ありゃ、もう始業前……」

「御影君、今日のお昼って空いてる?」

 

 不意に高咲さんから投げられた問いに僅かに驚く。お昼、ってことは昼休みだよな? 今日は委員会とか呼び出しとかもなかった思われ。

 

「空いてますけど?」

「ごめん、お昼食べる時一緒に来てくれない?」

「昼食時ですね、分かりました」

「ありがとう」

 

 謝意を告げて席に戻っていく二人を見送ってから鞄の中身を机の中に移していく。さて、昼は荒事が起こるかもしれないし、それまでに覚悟の用意をしておかなくては……あ、昼は切腹するって決めたじゃん。なんでOK出しちゃったの自分。

 大きくため息をついた自分は、HR(ホームルーム)を受ける用意に取り掛かった——

 

 

 

 

 

 迎えた昼休み。高咲さんと上原さんと中庭に赴いた。外出てきたのはいいけどあまり天気良くないみょんなぁ今日。

 雲行きに杞憂しつつ二人の後を着いていくと、他の同好会の方々が現れた。正確には、集まっているところに自分たちが合流した、と言うべきか。

 うーんと、これは、同好会の皆さんのお昼の席に同席、ってことだよな? なぜ自分はここに突っ込まれたし……。

 各々が腰を下ろしてお昼を広げている中、そこに混じるように座した自分。まあ、少しだけ距離を置いて座ってるから実質的にはぼっちなんですけども。

 なんて考えていたら、近江さんの隣に腰を下ろしていた高咲さんが、一同の前で近江さんに声をかける。

 

「あの——」

「昨日の夜ね……」

「……?」

「遥ちゃんと話そうとしたの」

 

 高咲さんの言葉を遮るようにして昨晩の出来事を回顧し、話し始めた近江さん。その表情はとても悲しげに見え、聞く前から良くない出来事であったことを物語っている。近江さんも近江さんなりに努力をしたけど、ってことなんだろうな。

 

「『その話題はもうお終いにしよう。お姉ちゃんと喧嘩したくて辞めるわけじゃないから。今度のライブ、絶対来てね!』って言われたら、何も言えなくなっちゃって」

 

 大きく肩を落とす彼女の姿からは、悲しみのほかに迷いも汲み取れた気がした。どういう風に返していいか、分からなくなっちゃいますよね。いかんせん向こうが覚悟を決めちゃっている状態だから……。

 きっと自分も、似たような状況で似たようなこと言われたら、言葉を見つけられないと思う。それぐらい、相手の返答は強かった。

 

「遥ちゃん、せっかくスクールアイドルになったのに心配かけちゃって……遥ちゃんが辞めるくらいなら、いっそ彼方ちゃんが——」

「それはダメ!」

 

 近江さんの自責に近しい言葉を叫ぶようにして遮った高咲さん。流石高咲さん、普通の人にできないムーヴを平然とやってのける! そこに痺れる憧れるゥ! 

 脳内で勝手に高咲さんへしびあこしていると、辺りは風の音しか聞こえないほどに静まっていた。一同がどうすべきなのか言葉を探しているようにも感じる空気の中、野次馬根性を抱えてこの場にいる自分は何事もなかったかのように持参したお弁当の包みを開けにかかる。

 

「玲君は……」

「はい」

「彼方ちゃんがスクールアイドル辞めるって言ったら、どう思う……?」

 

 包みを解いていたところで問いかけられた自分は、一度手を止めて彼女の方を一瞥した後に再度手元に視線を戻してから返答していく。

 

「どうして自分に聞くんですか? たった今、高咲さんが止めたのに」

「それは……」

「近江さんが辞めたいと思うのなら、辞めればいいと思いますよ? 高咲さんの静止も無視して」

 

 相変わらず視線を手元に留めたまま、率直な意見を言葉にして近江さんにぶつける。きっと今の近江さんは、すごく悲しい顔をしているんだと思う。問うてきた時の声、震えていて縋ってくるような雰囲気だったもん。

 でも、それを分かっていながら自分は、突き放すような発言をした。

 

「まあ自分からすればどちらでも、お好きなようにしてくださいというのが本音です。自分のことじゃなく近江さんのことですし、自分は他人の人生にとやかく言うつもりもなければ資格もないと思ってますから。けど、さっきも言ったように、近江さんが辞めたいと思うなら辞めちゃえばいいと思いますよ?」

 

 先に述べたように自分の人生を他人、特に自分なんかに委ねてほしくないというのが一つ。そして自分自身で進む道を決めてほしいということで二つ。だから自分は、彼女に対して冷たい発言をした。近江さんに嫌われることも辞さない気持ちで。

 

「御影君、いくらなんでもそれは——」

「だけど、後悔だけはしないでくださいよ。自分の選択で」

 

 弁当を自身の傍らに置き立ち上がった自分は、高咲さんの言葉を遮るようにして自身の想いの根底を発していく。そして、一呼吸置いてからその続きを言霊にしていく。

 

「誰でもない、あなた自身の道なんだ。だから他人に委ねず、自分で悔いのない選択をしてください」

 

 座る近江さんの前まで歩みを進めた自分は彼女の目を見据えながら告げる。そうして暫しの間近江さんと見つめ合っていた自分だったが、おもむろに視線を逸らすと彼女に対して背中を向ける。

 

「あー、あと近江さんはもう少し事柄……というより、ご自身を俯瞰して見た方がいいかと思います」

「俯瞰して見る……?」

 

 後ろ髪を掻きながら投げかけた言葉に近江さんが首を傾げる。俯瞰してみるというのは、自己分析の時に最も必要な事項。

 特に、今回のように両者の意見が衝突、且つ平行線となっている場合は尚のこと重要度が増す点だと思っている。

 だからこそ先のように伝えたのだが、どうも伝え方が悪かったみたいで近江さんが意味を飲み込みきれていないご様子だ。御影、近江さんに土下座しなさい。そのまま切腹しなさい。なんならそれでも足りないレベルだよ。

 自身に切腹するように命じつつ近江さんの方に向き直った自分が次にどのような言葉を投げるべきか考えていると、近江さんの後方に座していたエマ先輩が徐に立ち上がった。

 

「彼方ちゃん」

「……?」

 

 問いかけたエマ先輩は、不思議そうな表情を浮かべる近江さんの傍らに歩み寄ると腰を下ろしながら続きを言葉にしていく。

 

「それは本当に、彼方ちゃんが望んでいることなの?」

「——違う。彼方ちゃんの望みは……ずっと探してた夢はここにある」

 

 エマ先輩からの問いに首を横に振った近江さん。やっぱり、やめるのは本心じゃないんですよね。当たり前か。さっき遥さんよりも自身がやめた方が良いって言いかけた時、声が僅かにだけど震えていたぐらいだし。

 

「同好会が再開してから、ずっと楽しかったんだ。やりたいことがどんどん増えていって、それを一緒に目指す仲間がいるのがすごく幸せで、みんなとの同好会は彼方ちゃんに取ってもう——大事な、失いたくない場所なんだよ」

 

 近江さんの本心を聞いた自分は内心で一言、言えたじゃねぇか……ってどこぞの王子の真似してる場合じゃなくて。

 

「でも、遥ちゃんの幸せも守りたいな。そんなの……ワガママだよね?」

 

 誰にとなく発せられた近江さんの疑問。それに自分が応じるべきか悩んでいると、朝香さんが口を開いた。

 

「そうかしら? それってワガママじゃなくて、自分に正直って言うんじゃない?」

「うん。自分に嘘ついてるよりずっといいと思うよ?」

 

 朝香さんの言葉に同調するエマ先輩。そして自分もまた首を縦に振っていた。お二人と全くもって同意見です。

 

「きっと遥ちゃんも、彼方さんの幸せを守りたいんだと思います」

「似た者姉妹だと思う」

「似た者姉妹?」

 

 天王寺さんの言葉に首を傾げる近江さん。自分も天王寺さんとも同意見でございます。あと上原さんの言葉あまりにも的確すぎて首が捥げた。縦に振りすぎて。とりあえず捥げた首掴んで繋げなきゃ……。

 

「だって二人とも言ってること一緒だよ」

「そうですね。お二人とも全部自分一人で解決しようとしています」

 

 宮下さんが近江さんの疑問に答えるかのように付け加え、中川さんが補足する。言ってることがね、二人ともね、同じだったね。昨日の時。

 再三言っているのだが、互いに互いのことを想った結果なんだよね今回のこと。

 

「でも遥ちゃんは、彼方ちゃんが守らないと……」

 

 現状を伝えられた近江さんは、相変わらず不安そうな表情で述べた。そうか……近江さんにとっての遥さんは未だに庇護すべき対象なんだ。それを聞いてここまでの彼女の発言の真髄を心で理解できた気がする。

 でもわかる気がする。自分より下、弟や妹なんかは自分が守ってあげなきゃいけないって考え出てきちゃうよな。

 

「彼方さん、遥ちゃんはもう守ってもらうだけの人じゃないと思う」

「え?」

「だってそうじゃなきゃ、お姉さんのことを助けたいってあんなに真剣にならないよ」

 

 一人納得している手前、高咲さんが近江さんに諭す様に告げた。あー、みなさん深いことおっしゃいますね。それに比べて自分の発言、なんだあれ。ぺらっぺらじゃないですかちょっと。やっぱり人としての位の低さが言葉にも滲み出しちゃってたよね。もうね、柱じゃないけど不甲斐なし。穴があったら入りたい。

 

「なんとなく、わかったような気がする」

 

 一同の話を聞いた近江さんは、まるで決意を固めたように凛々しい表情を浮かべる。成ったな……新たな覚悟を持った状態に。何様の発言だよこれ。やっぱ東京湾に身を沈めて贖罪しやがれ。

 

「遥ちゃんにちゃんと伝えなきゃ!」

 

 そう言って立ち上がった近江さんは、入水を考えている自分の前に歩み寄ってくると唐突に手を取ってきた。え、え、なに。どう言うこと。何が始まるの? 

 

「玲君、手伝って!」

「え、あ、何をどう?」

 

 突然のお願いにあわあわする自分。あまりにも突然過ぎて何をどうしていいのか全然わからない。とりあえず、近江さんが何を手伝って欲しいのかを聞かないと返答すらできないねこれ。

 

「前にDTM? ってやつやってたよね?」

「DTM……ああ、まあ、やってたというよりは、遊びで軽く触ってたというか」

「それでも構わない。彼方ちゃんに、力を貸して」

 

 自分の目を見て真っ直ぐに頼んでくる近江さん。DTMの話題を出してきたということは恐らくだが、曲を作るのを手伝って欲しいってことなのだろう。そんな風に頼まれちゃったなら断れないですよ……けど、DTMに関しては遊びで触った程度なのは事実だし、なんならここ半年以上触ってないからほぼ初心者と変わらないレベルなんですよね。曲作るにしてもレベル不足だと思うんだよな。

 

「じ、自分で、いいんですか」

「他でもない、玲君だからお願いしてるんだよ」

 

 再度の問いに力強く頷き返答してくる彼女を前にした自分は腹を決めた。そこまで信頼をおいてくれているというなら、応えなければ失礼……だよね。

 

「わかり、ました……できる範囲でお力添えします、はい」

 

 近江さんのお願いに首を縦に振った自分。直後、妙な音が少し離れたところから聞こえてきた。なんだろうこの胸騒ぎ。本当にいい予感がしない。ここ最近ので一番良くないぐらい胸騒ぎがしてる。

 

「あ……」

 

 恐る恐る振り返ってみれば、先ほど開けた状態にした自分のお昼が入ったお弁当がひっくり返った状態で地面に落ちていた。

 当然中身が無事なはずもなく……その周辺に無惨に転がっているではないか。鬼舞辻……いや、昼飯無惨つってな。喧しい。

 

「べ……弁当ーッ!」

 

 弁当の側まで向かった自分は、相棒を失ったどこぞの王様みたいに膝をついて叫ぶ。お昼が……自分の楽しみの一つのお昼ご飯が……逝ってしまった……覚悟しろよこの虫野郎ッ! これは紛うことなき八つ当たり。

 というか弁当……なんでお前が(こうべ)を垂れて(つくば)って平伏してんの……この場面だと自分がやるべきことなんだよ? やること取らんで欲しかった……じゃなくてじゃなくて。

 

「お、お昼ご飯……が……」

 

 お弁当を失ったことにより色んな意味でライフポイントがゼロになってしまった自分は、力無く言葉を吐き出すことしかできなかった。悪い、やっぱ辛えわ……。

 流石に惨め過ぎると思うと同時に、どうしようもないと感じている。今から学食行こうにも時間的に席は空いてないだろうし、仮に席が空いていたとしても午後の授業に間に合う保証もない。つまり昼抜きが確定しました。甲賀忍法帖流すかもう。

 

「げ、元気出して……彼方ちゃんのお弁当少し分けてあげるから」

「え、いやそれは、申し訳ないです……」

 

 自身の傍らに立った近江さんが肩に手を置きながら告げた言葉に食い下がる。人からご飯もらうのは悪いというか、忍びないというか。

 

「私のも分けてあげるよ」

「私のもいいよ」

「愛さんのもいいよ!」

「え、え、え?」

 

 忍びないとか言ってたらその場にいた皆さんがお弁当少しずつ分けてくれるとか言ってくれました。マジで皆さん優しすぎない? 

 そんなこんなの内、皆さんから分けてもらって一人分のお弁当が完成してました。これはもうね、感謝ッ! 圧倒的感謝ッ! 

 それと同時に人として情けなく思うよ……だってさ、近江さんに突き刺すようなこと言ったのに留まらず、皆さんからお昼分けてもらってるんよ? 人権が剥奪されても文句言えないね! あ、元々ないか。

 

「皆様、このご恩一生忘れません……」

「大袈裟よ」

 

 今の自分が発せる最大限の感謝の言葉を述べたら朝香さんに苦笑されました。ありゃりゃ? なんでやろうか。

 

「その、家訓に『富む者に恵んでもらったら感謝だけでいいが、そうでない者に恵んでもらったら恩を忘れるな』と言うのがありまして……」

「それ、陸奥の家訓だったような」

「なんでわかんだよ……」

 

 天王寺さんのツッコミに思わず頭からメロンパンが出そうになる。えー、天王寺さんがおっしゃられた通り自分の家の家訓では御座いません。某圓明流を扱う家系のものです。どうでも良いけど圓明流の技を習得してみたいとか思ってた時期ありましたね。まあ無理だったので全く違う流派の二重の極みを習得したのですが……形だけ、ね? 

 

「そういえば御影君ってDTMやったことあるって」

「……本当に遊び程度でしか触ったことないんですよ。だから帰ったらまた触らないと」

 

 高咲さんに振られた事柄に答えながら頂いたお弁当を口に運ぶ。うますぎて涙が出てきた……今日泣いてばっかじゃない自分? 気のせいじゃないよな。

 

「それで近江さん、曲はいつ頃までを目安に作るんですか?」

「次の遥ちゃんのライブまでに」

「え、結構余裕ないですよねそれ?」

 

 返ってきた言葉に思わず箸を止めた。あれ、確か東雲のライブって一週間後とかだったはず。え、それまでに初心者状態脱して曲の完成にこじつけなきゃいけないの? オイオイオイオイ、死んだわ自分。先に敬礼しとこ。

 

「うん……だから手伝って欲しいな、って」

「あー、はい……分かりました。出来る範囲で頑張ります」

 

 大きく息を吐いた自分は、帰りのSHRが終わり次第即座に帰宅し作業に取り掛かることを決めつつ、いつの間にか晴れ渡っていた空の下で皆さんにいただいたお弁当を美味しく食するのであった——




今回はここまで。閲覧の方ありがとうございました。
また次回の更新でお会いしましょう。さよならさんッ!

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