本編最新話の方大変お待たせ致しました(土下座)
どうぞ。
前回のラブ↓ライブ!↑
サンプルボイス撮ったりなんだりしてボロボロになった後、体を引き摺ってカフェに寄ろうとしたら遥さんと鉢合わせた。
注文した飲み物を手に席へと戻り腰を下ろす自分。そんな自分の対面に座るのは近江遥さん。相変わらず、元気のない様子だ。何かあったと一目見て分かるくらいには。
「あの、これ。よければ」
「え、あっ、ありがとうございます」
購入して来た飲み物の内の片方を彼女へ差し出すと、驚いた
「それココアなんですけど、もう少し甘いやつの方が良かったですか?」
「いえ、そんなことは!」
自分の問いかけに全力で首を横に振る遥さん。何がいいか全然分からなかったからとりあえずでココアを二つ買って来たんですよ。だから自分のもココア。ここで自分だけが別の飲み始めたらなんか不平等じゃん? そう感じるのは自分だけ? まあいいや。
……それで、ココア飲めないとか言われたらどうしようかなとか思ってたけどそんなことなさそうなので一安心……できねぇよ。遥さんが沈んでる理由が分かってないんだから。というわけだから少し切り込んでみようかな。余計なお世話だろうけども。
そう決めた自分は、自身の分のココアを一口
「あの後、何かありましたか?」
問いかけられた遥さんはこちらを
「……次のライブでスクールアイドルを辞めることだけはお姉ちゃんに伝えました」
「次のライブと言えば、今度の週末にある?」
「はい……」
力なく頷く遥さん。有言即実行にしちゃったのか。まるで、逃げ場をなくすかのよう……だよな。これ裏を返してみるとスクールアイドルへの未練があるとも取れないだろうか? 自分の考え過ぎ、かもしれないが……。
「あまりこんな事を聞くのは失礼なのかもしれませんが、遥さんはそれで本当に納得しているんですか?」
「もう決めたことです」
自分の問いに先日と同じ返答をする遥さん。決めたこと、ですか……普通に頷くのではなく、自分に言い聞かせる様に返答したのを見るに、スクールアイドルを続けたくはあるんじゃないかな。これもまた、自分の見立てが合っていれば、の話ではあるが。
「——お姉さんのために、ですか」
「はい」
自分の言葉に再度頷いて見せてくれる遥さん。先日の近江さんの時もそうだが、互いに互いのことを想っての行動であることがよく分かる。けど、その結果として行き違いになってしまっていると言うのもまた事実。だからこそ、気掛かりに思っているのかもしれない。
「遥さんはその、ご自身がお姉さんの負担になっている、と感じてるんですか?」
「はい。お姉ちゃん、ああは言っていましたけど……絶対に倒れちゃいそうで……だから、私がスクールアイドルを辞めればその負担も減ると考えてます」
「そうですか……」
遥さんの返答に俯きがちになりつつも納得した旨を答える。だけど、この答えもきっと本心ではない。これもなんとなくだが、そう感じた。
「遥さんの意見に納得した上で先日の桜坂さんと同じような事を聞きますが、二人がスクールアイドルを続けていくという道はないのですか?」
「どうして、そんなことばかり聞いてくるんですか……」
自身の問いかけが琴線に触れてしまったのか、俯き全身を震わせ始める遥さん。対する自分は、内心冷や汗を掻きながら彼女の次の言葉を待っていた。
「お姉ちゃんが、私にスクールアイドル諦めて欲しくないから、諭すように頼まれたんですか?」
「そういうわけでは」
「じゃあどうしてです!」
遥さんの問いかけに首を横に振ったところ、彼女の感情のダムが決壊したらしく怒りの感情を放つように絶叫した。一度決めていた覚悟が、揺らいでしまった結果だと推測してみる……そんなことしてる場合じゃなくてよ。
問いただされている自分はと言えば、遥さんに対してどう発言するか思考を回転させていた。……恐らくだが、しっかりとした理由を付け加えて話さなければ、今の彼女は納得してくれないだろう。
「遥さんの顔に、そう書いてあったから……です」
納得してもらうための理由を探す自身とは逆に、彼女へ向けて放たれた言葉は理由も何もない直感的なものであった。あまりにも根拠のない理由で返答しちゃったな……これは納得してもらえないよ。
「わ、私の顔に?」
「はい。本当は、スクールアイドルを続けたい、って」
戸惑いながら再び問いかけてくる遥さんの言葉に頷く。一度発してしまった以上引くこともできないので、押し通るしかないなと判断したが故です。一思いにやってくれ……。
「……そうです。本当は、スクールアイドルを続けたいんです」
「けれども、お姉さんに負担をかけたくはない、と言うことですよね」
意外にもお咎めなく会話が続いたことに内心で驚きつつも遥さんの言葉の補足を述べていく。あくまでも、自分の考察でしかないと言う旨を前置きをするように。
「はい。だからお姉ちゃんのために何かできないかなと思ってたんですけど……」
「先日のお姉さんの台詞……ですよね」
首を縦に振ってくれる遥さん。先日遥さんが同好会見学に来た時の、近江さんの返答というか反応というか。無理をさせたくない遥さんの気持ちとは逆に、自身にさらに負荷をかけてでも妹のことを優先しようとした返し。
それは結果として、姉の身を案じる遥さんに自身の気持ちを汲み取ってもらえなかった、という体験を生じさせてしまいより一層遥さんの決意を後押しすることとなってしまった……と言ったところなんでしょうかね。
当人でない以上、これもまた憶測でしか話を進められないが、多分そうだと思う。恐らく、きっと。
自身の立てた推論が正しいはず、と自分に言い聞かせていると、対面の遥さんが次の言葉を吐き出し始める。
「お姉ちゃんのためにしてあげられることって何だろうって考えた時、私がスクールアイドルを辞めればいいって思ったんです。そうすれば、お姉ちゃんに負担が掛からないから、お姉ちゃん自身の夢を追いかけられる、って」
言い切ったところで目元を伏してしまう遥さん。その姿が、より一層彼女の内心を表に出して来るように感じられる。それが滲み出てしまうぐらい、遥さんも思い詰めていたのだろう。
「なるほど。それが遥さんの出した答えだった、と」
自分の投げかけに彼女は小さく首を縦に振ってくれた。肯定、してくれた……今の解釈であっていたみたいだ。この遥さんの出した答えは、近江さんの考え方を視野に入れていないもの、なんだよな。
「そっ、か……」
若干視線を落としながら呟く自分。何も知らない状態であれば、至極当然の想いなので同意するところなんだよね。けど、今聞いたものはあくまでも遥さんの中だけでの考えの集約であるってことと、知らない
しかし、近江さんの視点についても少しばかり触れておいた方がいい気がするんだよね……ここは
「その、仮定でお話して申し訳ないのですが、恐らくお姉さんにとっての遥さんは、守るべき対象なのではないかと思います」
「そう、なんですか?」
「自分もお姉さんの本心とかを聞いたわけではないから絶対、とは断言できませんが」
予防線を張りながら遥さんの言葉に応答していく自分。我ながら予防線の貼り方上手じゃない? ええい、図に乗るな御影。こういうこと思ってる時っていうのは慢心故のボロが出るんだから。経験則的に。
「どうしてそう思うんです?」
こちらからの投げかけに問いを返してくる遥さん。どうして……か。コレは本当に単純で経験があるから。近江さんと似たような思考をしていた時期があって、ね。
「自分も妹がいまして……やはり、守ってあげなきゃいけないと感じていた時期があります」
自身にあったことを振り返りながら理由付けていく。自分ごとですが、二つ下の妹がおりまして、まさしく近江さんと遥さんみたいなすれ違いを経験しております。と言ってもだいぶ前の出来事ですが。
「けど、いつまでも守られているだけではないことも理解しています。だからお姉さんの気持ちもよく分かるし、遥さんの気持ちも分かります」
すれ違いを経験した時のことを思い返しながら内心を露わにしていく。自分にとって妹は、守っていくべき存在だと思っていた。無意識的だが、弱い存在だと勝手に思い込んでいた。けど妹はいつの間にか成長していてその必要はないどころか、寧ろいじめられて色々とボロボロだったらしい自分を支えたいと思ってくれた。
その結果として、互いにすれ違いが生じて衝突したなんてことがあった。丁度、今のお二人のように。だからこそ気付けた。『下』はいつまでも『上』に守られているだけの存在ではない、と。
「そう、だったんですね」
「ええ。ですが、遥さんがそうすると言うのであれば、自分は止めません。遥さんの行く道を決めるのは他でもない遥さん自身ですから」
相槌を打ってくれた遥さんに対して、今度は自身の考えを述べていく。ここまで散々お節介で色々聞いたし言ってもきたけど、あくまでも決めるのは遥さん自身。だから、本当はこんなに踏み込むのは良くないと思ってるんだよね。
「御影さん……」
「ただ、先日似たようなことを述べたかと思いますが、自身の選択に悔いだけは残さないでください」
「……分かりました」
何かを決めたように頷いてくれる遥さん。再三言っているが、どうするかは遥さん自身の問題。ここから先は、見守ることしかできない。どんな結果になろうとも……とは言えそれは第三者からの接触という意味合いで。当人同士——近江さんと遥さんとであれば、結果を変えることはまだできるはず。だからこそ、まだ自分にはやること……いや、出来ることがある。そちらに意識をシフトしなくては……と思ったけど、もう一点言わなきゃいけない事があった。とっても大事な、ね。
「遥さん」
「はい?」
「今日不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ありません」
目の前の彼女に向かって頭を下げる。卓上に額を着ける勢いで。普通に失礼を働いた自覚はありましてよ? そのまま腹切って首切って東京湾に沈められても文句言えないレベルの失礼をね。
「いえそんな。私の方も、強く当たってしまってごめんなさい。今日、話を聞いてもらえて少しスッキリしました」
こちらからの謝罪に対して逆に謝罪を返したかと思えば、小さく笑って見せてくれた遥さん。うーん、これは紛うことなき東雲のエースの顔。ファンが多い理由がよく分かるね……あれ、なんだか背筋に寒気が走った……いや、気のせいか。
「それなら良かったです……そろそろお暇しようかな」
「そうですね。私も帰らないと。ココアご馳走様でした」
いつの間にか空になっていたカップを手にしながらお礼を言ってくれる遥さん。これは正真正銘の天使。いや、めっちゃいい子。これはね、魅了されちゃう人多いと思うよ。うん。まあ自分は上原さん推しなので、はい。推し変する予定は墓に入るまでは無いっすね。
……話が逸れた。お互いに帰るってことになったので席立たないとだね。
「いえいえ。遅くなってしまいましたし、良ければご自宅の近くまでお送りしましょうか?」
「そ、そんな悪いですよ……」
自分の提案を聞き、申し訳なさそうに首を横に振る遥さん。冷静になってみろ、よく分からん異性から家まで送りましょうかは気持ち悪さMaxなのよ。誰だ今『ソウル・エナジー・MAX』って言ったの。場のモンスター二体を生贄に捧げて攻撃力
「というか、私の家知ってるんですか?」
不思議そうに問うてくる遥さん。あ、いけない。近江さんの時と同じ感覚で提案投げちゃった。そうだよね。普通自分の家を知ってるなんて思わないよね。感覚が麻痺しちゃっててやらかしたよ。出頭して来ますね。
「あ、えーっと、大体の位置は……何度かお姉さんを送って行ったことがあるので……」
遥さんの問いに対して、歯切れ悪く返答していく。恐ろしい程の罪悪感に襲われております。何やってるんですか御影さん! ほら、腹を切るんですよ!
脳内で某宇宙の帝王からの指示を受けている手前、遥さんが返答してくださる。
「そ、そうなんですね。でも、流石に悪いですよ。お気持ちだけで頂いておきます」
「分かりました」
「では、失礼します」
こちらに一礼してくれた遥さんは、夕暮れに沈む街へと消えていく。そんな彼女を見送った後、ふとあることを思い出して携帯を取り出した。
ええっとトークアプリの中の……このルームの上の方に、発信ボタンが……あったあった。
発信を押してから数コール後、『ブツッ』という音に遅れて電話口に声が届く。
『もしもし?』
「あ、もしもし近江さんですか?」
『そうだよ〜。珍しいね、玲君から電話くれるなんて。もしかして彼方ちゃんへのラブコール?』
「そんなんじゃないですよ……」
連絡したのは近江さん。自分から連絡するのはマジで珍しい。そもそも電話する友達もいないからね。それと近江さんは何を言っているのだろうか。彼女の言っていることは時々よく分からないよ……。
『えー、残念。——ところで、さっき遥ちゃんと一緒に居たりした?』
思慮に耽ていたところに、突如として飛んできた普段よりもトーンの低い彼女の声で背筋をなぞられた気分になる。え、怖いんだけど……。ホラー映画顔負けの声だったよ今の?
「一人でしたけど……なんで、です?」
『うーん、なんとなく?』
「えぇ……」
近江さんの返答を聞き困惑する自分。さっきのは確証がある故の声色だったと思ったんだけど、本人曰くなんとなくって……なんなの、近江さんはニュータイプなの?
「因みになんですけど、仮に遥さんと一緒にいたと言った場合は……?」
『その時は今度、彼方ちゃんとゆっくり
「ヒェッ……」
含みのある近江さんの返答に再度身震いする。声のトーンはいつも通りだったんだけど、『お話』のところだけアクセントが強くなったよ今? あれ、これ、さっき遥さんと話していた時に感じた寒気の正体は近江さんからの
『という冗談は置いておいて〜、彼方ちゃんに何か用?』
「ああ、はい、聞きたいことがありまして」
『聞きたいこと?』
いつもの調子に戻ったらしい近江さんからの軌道修正を貰い、当初の目的を問うていく。そう、聞きたいことがあってお電話したのですよ。用事がなかったら連絡しない主義者なので。ドライって言われたら、まあそうかもと。
「近江さん、当日のステージ演出とかって決まってますよ……ね?」
確認などの念押しを兼ねて訊いてみる自分。これ、決まってないって言われたらヤバい。自分を犠牲にすればなんとかなるけど、普通に事案。頼む、決まっていると言ってくれ……。
『決まって、ないね……』
「あ……スゥー……」
最悪の想定を引いてしまった自分は、わざとらしく息を吸いながら一人そっと頭を抱える。決まってなかった。恐らく楽曲の完成待ちだったのだろうけども……マジか。しゃーなし、ですわね。
「……明日の午後改めて伺いますね」
『あ、うん?』
通話を切った自分は進行方向を再び自宅方面からお台場方面へと向け直す。今日帰りがなかなかに遅くなるのが確定しちまったよちくせう。
しかしながら気がついてしまったのは自分なので……やるっきゃないよなぁ。
大きく溜息を吐き俯く自分であったが、顔を上げ歩みを進めていく。いざ、ヴィーナスフォートへ——
翌日、普段よりも全然早い時間のバスに乗り込んだ自分は、横持ちしたスマホの画面と睨めっこしていた。一見すれば移動時間に動画を見ている人に見える、はず。実際に動画を見ているのですが。
「あれ、御影君? おはよう」
「ヒュンッ……あ、おはようございますゥ……」
声を掛けられて顔を上げたら何故か推しとその想い人がいました。あれ、まだ夢の中? じゃあ醒めろって強く念じて……醒めないねぇ。つまり現実ですねこれ。あ、スゥー……なんで推しと同じバスに乗っているんだろう自分。普段は上原さんと同じバスに乗るってことはあり得ない筈なのだが……出て来た時に普段より早いからって違う系統のバスに乗ったのが運の尽きだったかもしれない。
普段の自分が乗っているのは『05-2』という系統なのだが、今日は家を早く出て来た関係で『16』という系統に乗ったのだ。で、この今乗っている『16』系統なのだが、冷静に考えると自分のバイト先の目の前を通っていくバスだったんですよね。つまるところ、高咲さんと上原さんの家の一番近くを走っている路線バスなんですよ。原因を作ったのは紛れも無く自分のようだったな。どうやら間抜けは見つかったようだぜ。
「バスで会うの珍しいね?」
「ええと、普段は、違うバス乗ってて、今日は偶々このバスで……」
「そっか。ところで、何してるの?」
「あ、えと、ヴィーナスフォートで行われた過去のライブの映像を観ていました」
動画を再生していた画面へと視線を戻しながら答えていく。人から話しかけられているのにこの対応するのはすごく失礼だとは思ってるんだけど、読み込みと整理のための時間が惜しすぎて……上原さん、高咲さん申し訳ありません。あとで自刃しますのでお許しください……。
「ヴィーナスフォートでの?」
「はい。照明の動きとか確認できたらな、と思いまして」
自身の一つ後ろの席に座しながら問うてきた高咲さんへ応答する。推しとその想い人に背後取られましたね。You lose……なんで負けたのか、明日までに考えて来てください。そうすれば、何かが見えてくるかもしれません。ほな……じゃなくて。なんで背後に座ったのさ。色々気が気じゃなくなっちゃいますよちょっと。そもそも一番後ろの席に座していないお前が悪いと言われたらその通りなのですが。
「照明の動き?」
「当日の
不思議そうに問うてきた上原さんへ返答していく。昨日近江さんに電話した際に、ステージの演出が決まっていないということを言われたのでヴィーナスフォートのステージを実際に見てきました。はい。これが昨日、遥さんと別れてからのお話です。で、昨晩から今朝に掛けて過去のライブやイベントの映像を通して実際にステージの照明などが動いている様子を確認していた次第、でした。
「ステージ作り……」
「確認なんだけど、御影君ってこう言うのをやるのは初めてだよね?」
自分の投げた言葉を繰り返すように呟く高咲さん。すると、その傍らの上原さんがこちらへ問いを投げかけて来た。初めてかって? 全くもって初めてでございますよこちとら。
「初めてですね。だからノウハウもなければ何をしていいかもよく分かってない状態です」
問われた事に正直に答えていく。そう、分からないなりに出来ることをしようと思った結果がこれ。最終的にどうするかを当人に任せるため、下準備だけは終えようという魂胆です。
「そっか……ステージ作りってところまで気にかけてなかったかも」
「案外見落としがちになるんですよねこういう細かいところって。それで、本番が近づいて来て慌てるなんてこともあり得たり……」
自身の過去の経験を思い返しながら答えていく。どの場面でそんなことになったかと言われたら、テストの前とかですね……ああ、思い出したくもない。
脳裏を過った自身の過去の事柄を記憶の端に追いやっていると、上原さんが徐に言葉を発する。
「テスト前とかだとそういうこと結構あるよね」
「ああ、経験があられましたか……」
「うん。でも侑ちゃんの方がそういう経験多いんじゃない?」
「ま、まあ、ね……」
唐突な上原さんからのキラーパスが高咲さんを襲う。南無三……よくよく元凶を洗ってみると自分のせいなのでは? 全てが済んだらハラキリにて謝罪しなくては……。
とかなんとか考えていたら、少し気まずそうな表情をしていた高咲さんが新たな話題を飛ばしてくる。
「そ、それはそれとして……御影君のは後どれくらいで終わりそう?」
「え、あー。今日の休み時間全部返上すれば放課後までには終わるかと」
「早くない?」
こちらの答えに、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしながら投げてくる高咲さん。驚かれてしまいましたね。それはそうか。普通そんな速度で終わらんからねぇ。普通とか当たり前ってなんだろう……。
というか、終わる終わらないじゃなくて、こちとら終わらせないといけないわけなので、うん。はい。
「休み時間返上だから、ご飯食べなければの話、ですけども」
「えっと……お昼は食べて?」
「善処します……」
上原さんの言葉に最大限努力をする旨を返す。頑張ってみます。頑張ってはみますけど、多分お昼は食べれないと思ってます。何故かと言えば、役不足が事をやってるから。
……なんて具合に登校したのが今から半日程前の話。その後、なんとか休み時間等を縫ってステージについて纏めることができた。因みに昼休みは上原さんと高咲さんに捕まって、お昼ご飯食べに教室から学食へと連れ出されて無事に食べることになりました。いやはや、二人で自分のことを連れ出してくるとは微塵も思いませんでしたよ……ええ。あ、勿論やらかしなので腹を切ってお詫びする予定でおります……そして時は今。なんやかんやで無事に迎えた放課後。部室棟に赴いた自分は、スクールアイドル同好会の扉をノックしてから返答を待つことなく扉を開けていた。
「近江さん」
「お、玲君?」
扉を開ける時に少し勢いをつけ過ぎてしまったなと思いつつ近江さんの前に躍り出た自分は、一冊のノートを彼女へと差し出す。昨日から本日にかけての自分が集めた情報を綴った物だ。
「これ、ヴィーナスフォートのステージの機器の詳細です」
「ステージの?」
「必要になるかと思って纏めて来ました……大まかにですけど」
差し出したノートを受け取ってくれた近江さんは、ノートと自分とを交互に見ながら首を傾げてくる。不思議がるよね、そうだよね。自分も同じ反応しますもん。うん。
「なんでまた?」
「昨日、ステージの構成が出来上がってないって仰ってたので……なんというかその、参考になればな、と……」
自身が思っていたことをなんとか言語化し述べていく。朝の時点で高咲さんと上原さんにお話ししたけど、やれる事がないかと考えた結果なんだよね。
「これを全部玲さんが?」
「うん。今日の休み時間とかを使って纏めてたよ」
近江さんの後ろからノートを覗き込んでいた優木さんが発した言葉に、上原さんが答えてくれる。あら、台詞取られちゃった……じゃなくて、バラされちゃった。伝えるつもりなかったんだけどなぁ。まあ推しの口からお伝え頂くという御光栄な事をしてもらったので、オッケーです!
「そうなの?」
「ええ、はい、まあ……」
こちらを見つめたまま問うてくる近江さんに、歯切れ悪く返答し視線を逸らす。後ろめたいことでは無いのだけれども、恥ずかしさ故に視線を逸らしました。失礼千万。謝罪
「随分とやる気みたいじゃない?」
「たまたまですよ……」
「けど、そこまでやってくるって御影君すごいね〜」
朝香さんの言葉にタジタジになりつつ反応していくと、今度はエマ先輩からお褒めの言葉をいただきました。あらあらまあまあ。なんか褒められちゃったぞ〜? 嬉しいので素直に受け取っておきましょう。
「ありがとう……ございます……」
謝意の言葉を述べ、視線を右往左往させる自分。どこもまともに見れない。ままならない、ね。こう言う時陰の者だと辛いよ……でもまあ、なるべくしてなってしまった感はあるからもうどうしようもないよな、って。悲しい。
「そっか。ありがとう玲君」
「いえ、とんでもない」
近江さんから感謝の言葉をもらい、首を横に振る。大したことはしていないので、全力で食い下がっていく所存です。何回でも言うけど自分は最低限必要であろうと思ったことをお節介混じりにやっただけなので、大したことはしていないんですよ……多分。
「じゃあ玲君、ステージ演出の相談にも乗ってー」
「ひでぶ?!」
自身の中で行いに着いて振り返っていたら
「な、なんでそうなるんですか」
「だって〜、今この場で一番ステージの構造について詳しいのは玲君だから」
「それは……」
彼女の返答に言葉を詰まらせてしまう。ぐう正論過ぎて反論の余地が無い。近江さん、説き伏せるの上手くないですか? 自分が説き伏せられ過ぎる説はありますけども。そこ差し引いても痛い所を突くのが上手いと思う。こりゃ白旗振るしかないな。
「分かり……ました」
「ありがと〜」
自分の返答を聞き、頬を綻ばせる近江さん。そんな目に見えて明るくなることある? その要素何処にあった今? 誰か理由の所在を知っていたら教えて欲しい。
「私たちもサポートします!」
「よーし、頑張ろー!」
『おー!』
「ふぇぇ……」
優木さん、高咲さんの言葉の後に、一同が意を決したかのように声を揃える。その傍らで戸惑いの鳴き声を上げたのは勿論自分。やることになってしまった以上、ガンバラナイトとですよ。レベル4、攻撃力0、守備力1800の戦士族って感じで。ゼロゼロックもセットで発動しなきゃ。
こうして自分……否、自分達は近江さんのステージ構成の組み立てに取り掛かっていくのだった——
準備に追われ目まぐるしい日々を過ごしているうちにライブ当日になってしまった。
準備は念入りに行ってきたから大丈夫、うん……ライブに関しては。あとは、あの二人次第。
神妙な面持ちのまま、ステージから少し離れた位置の壁面に背を預け様子を伺う。やれる事はやった。そのつもりだ。
「近江さん……」
自身に事をやり遂げたと言い聞かせる最中、徐に彼女の名を溢す。遥さんとの関係を正すために、ここまでやってきたことを『見守る』だけでなく、『携わってきた』者としても、どうか上手く行ってほしい。そう強く願ったが故、なのかもしれない。実際のところ無意識だったから、確証はないけどね……と、噂をしていたら件の方がステージに現れた。ライブ衣装に身を包んだ近江さんが。
「……始まった」
辺りが暗転し、音楽が鳴り始める。近江さんが歌う曲のタイトルは『Butterfly』。その名に沿うように、ステージ上で行われる彼女のパフォーマンスはとても軽やかで、さながら蝶が舞うようだ。
「凄い……」
初めて見る、よく知る人物のスクールアイドルとしての一面。その姿に、パフォーマンスに、自分は圧倒され魅入っていた。普段お目に掛かることの絶対に無いステージ上の彼女に。
そうして魅了されている間に、彼女のパフォーマンスは終了していた。あっという間ではあったけど、とても凄いものを見せてもらえたと思う。同時に、久しく感じていなかったスクールアイドルの持つ『凄味』を垣間見れた気がする。かつて自身が目にした、ラブライブに出場していた方々が発していたのと近しい物を。
「スクールアイドルは、伊達じゃない……か」
ふと脳裏を過った言葉を呟きながら、ステージに留めたままであった視線を外していく。かつて聞いた言葉だが、誰から聞いたのかは思い出せない。けど、間違いじゃなかったって、今日の近江さんが改めて証明してくれた気がする。自分は、そんな凄い物の一部に携わってしまったようで……本当に良かったのか?
何となく不安になりつつも、少し舞台袖の方へ回ってみる。すると、近江さんと遥さんが手を取り合って弾んでいるのが見えた。あの感じだと、どうやら一件落着みたいですね。
「めでたしめでたし……かな」
お二人を一瞥して踵を返していく。何やら無事に解決したみたいだし、部外者な自分はこの辺で消えますか。とりあえずどっか遊びにでも行こうかな——ご機嫌な蝶になって、ね。
「あ、玲くーん!」
歩み始めた直後、後方からこちらを呼ぶ声が飛んでくる。どうも近江さんに見つかったようだ。おかしいな、存在感は消していたはずなのに。
そんなことを考えながら、足を止め振り返っていくと、近江さんがこちらへと駆け寄ってきた。
「ライブ、大成功でしたね」
「うん。これも全部、玲君が手伝ってくれたお陰だよ〜」
「そんなことないです。近江さんが、頑張ったからですよ」
首を横に振りながら返答する。自分がやったことは精々お膳立てであり、真に成功したのは間違いなく近江さんが全力で取り組んだから。だからこの成功は自分ではなく、頑張った彼女自身によるものだと、自分は思う。故に自分は食い下がった。
「今は、そう言うことにしておくね」
「そうしてください。では、自分はこの辺で」
一つ頷いて見せた自分は、短い挨拶を渡してから、踵を返し再び歩き出す。御影玲は、クールに去るぜ。もうすでにクールじゃないって言われたらぐうの音も出ませんけど。さて今度こそ、どこ行こうかな。
「ところで、遥ちゃんから聞いたんだけど」
「は、い——」
行き先を考えている最中、不意に投げられた近江さんからの言葉に思わず足を止めて振り向き——後悔した。
理由としては、振り向いた先にあった近江さんの笑顔が怖かったから。何が怖いかと言えば、目が笑っていない。顔は笑っているのに目だけ笑ってない。多分、ダメな奴。この後何か大目玉なことになりそう。自分の経験と勘がそう警鐘を鳴らしている。
「この前さぁ、遥ちゃんと二人でお茶したって、本当?」
問いかけられた瞬間、先日の近江さんとの電話の内容が頭の中で蘇る。——因みになんですけど、仮に遥さんと一緒にいたと言った場合は……?
——その時は今度、彼方ちゃんとゆっくり
「ヒュギッ……」
恐怖の疼きが一気に襲いかかってきた自分は、情けない声をあげてしまう。や、やめて、殺さないで……。自分悪いスライムじゃないですから……あと、妹さんを誑かす悪い虫さんとかでも無いですから……だから見逃して欲しいのですけども、無理だろうな。かくなる上は……!
「
呟きながらその場を離れようとそろりそろりと歩みを進める自分だったが、左肩を力強く抑えられる。あれ、逃げられない? もしかして『くろいまなざし』された? 今? どうしよう。オーケーゴーグル、この場から助かる方法を教えて。あ、無い? そっか……。
「一旦、
「それは
近江さんの言葉に思わず突っ込みを入れていく。それは、
「とりあえず、遥ちゃん達のステージ観てからね〜」
「あの、出来れば帰りたいのですが……」
「観ようね」
帰りたいと述べたら近江さんに凄まれました。やると言ったらやる『凄味ッ』があるんだけど今日のこの人。あれかな、遥さんと仲直りできてデバフだったのがバフに変化したのかな。わかんないけど……現状言えることとしては、近江さんに従うしか無さそうってことですかね。
「……はい」
力なく頷いた自分は、近江さんの傍らで東雲学院の皆さんのパフォーマンスを拝見するのだった。その後、近江さんに引き摺られて行って、こってりと絞られました。残当っちゃ残当。ちゃんちゃん。
それから、この次の日辺りから少しの間、手伝いの反動故か体調が悪くなったのはここだけの話——