1話
西暦2138年現在、DMMO-RPGという言葉がある。
<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game> の略称であり、サイバー技術とナノテクノロジーの粋を集結した脳内ナノコンピューター網ニューロンナノインターフェースと専用コンソールとを連結。
そうすることで仮想世界で現実にいるかのごとく遊べる、体感型ゲームのことである。つまりはゲーム世界に実際に入り込んだごとく遊べるゲームのことだ。
数多開発されたそんなDMMO-RPGの中に、燦然と煌く一つのタイトルがある。
2126年に日本のメーカーが満を持して発売したゲームである。
700種類を超える種族、2000を超える職業クラス、6000を超える魔法の数々、自身のアバターやアイテム、住居等の外装、内包データの設定が可能、プレイヤーを待ち構えるのは、9つある世界からなる広大なマップ。
戦闘が主であった既存のDMMO-RPGと一線を画す、無限の楽しみを追求できるゲームとして、日本国内においてDMMO-RPGといえばユグドラシルを指すとまで言われる評価を受けていた。
しかし、それもひと昔の話である。
「サービス終了まで残り10分を切りましたね…」
「そうですね…」
見上げるほどに高く積み上げられた大量のユグドラシル金貨。数多の剣に盾、槍などの武器、鎧。
それらは全て神器級、伝説級であり、ユグドラシルのサービス終了を受けて格安で売りに出されていたものを全て買い取ったものである。
この空間はギルドメンバーに与えられた部屋の中でも特別製で、内装を弄り、空間を広げ、あらゆる財宝、マジックアイテムを周囲一体に集め、飾り付けることが出来る。
それが、ユグドラシルの極悪ギルドとして名高いアインズ・ウール・ゴウンの第一線で活躍したプレイヤー、イオニスの自室にして宝物庫である。
「それにしても、よくこんなに買い込みましたね?」
「最後だからこそですよ、モモンガさん。せっかく格安で売られてたのでコレクター心に火がついちゃいましてねー。それに僕の種族といったら、財宝に囲まれてなんぼですから」
「それもそうですね」
会話が途切れた事で沈黙が場を満たす。積もる話は幾らでもあるはずなのだが、こういう時にちょうど良い話が思いつかないのはよくあることである。
双方俯いて会話のネタを探す様子は、異形種であることもあって傍から見ればとてもシュールだが、当人たちからすれば非常に居心地が悪い。
もっとも、イオニスの種族は数ある異形種の中でも飛びぬけて巨体なため、俯くというよりは目線を下に向けている、といった方が正しいか。
「――ところで」沈黙を破ったのはモモンガだった。彼の目線に顔を合わせて、尋ねる。「この後、どうしますか?」
イオニスはしばらく思案した後「自分はここに残ろうと思います」と答えた。
「一緒に行きたい気持ちは山々なんですが、自分は財宝に囲まれたこの場所で最後の瞬間を迎えたいなと思いまして」
「そうですか……。私は玉座の間ですかね。あそこでサービス終了を待とうと思うんです」
一緒に残ったのに、最後は別々の場所なんておかしいですね、と互いに笑いをこぼす。先程までの重い雰囲気は既に無くなっていた。
モモンガが立ち上がり、笑顔のエモーションと共に別れの挨拶を交わす。
「それじゃあモモンガさん、お元気で。風の噂でユグドラシル2なんてのもありますし、また会いましょう」
「ええ。その時は、よろしくお願いします。お疲れ様でした」
「――モモンガさん」
扉を開けて立ち去ろうとするモモンガをふとした思いつきから呼び止める。
「はい?どうしました?」
「最後ですし、ギルド武器を持って行ってはどうですか?モモンガさんはギルド長ですし、終わりを迎える時ぐらいはモモンガさんの手にあった方がいいと思うんです」
モモンガは少し考えたのち、「⋯それもいいですね。それじゃ、持っていきますね。⋯では失礼します」そう口にして、今度こそ出ていった。
自分以外誰もいない部屋。今度こそ真の沈黙が舞い降りる。
「この世界も、栄華を極めた栄えあるナザリックも、もう終わりか…」
そう独りごちる。
「明日は何時起きだったっけ…後で確認しなきゃ」
サービス終了まで残り10秒を切った。
「(9、8、7、6、5、4、3、2、1…)」
脳内でカウントしながら━━━━
「⋯さようなら。アインズ・ウール・ゴウン。NPCの皆」
そう、呟いた。
そして、この世界は終わる━━━━
━━━はずだった。
ヘロヘロさんはカットされました。ただここからどうやって展開広げていこうか全く考えていないので不安ですね。