I AM INEVITABLE.   作:アジ・ダハーカ

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イキテル…イキテル…


3話

「これは…」

 

外に出たイオニスは目の前の光景に圧倒されていた。

 

無限に広がる星空、連なる山々、大地を照らす月、息を吸い込めば肺に流れ込んでくる空気。

 

かつて居た世界では、空は黒いスモッグに常に覆われ、街は有害物質を含む濃霧に包まれている。

 

そのため防毒マスク無しの外出はほぼ不可能。太陽を見ることはほとんどできず、それ故に植物は枯れ果て、同様に虫や鳥などの生物もほぼ見られない。

 

生命に溢れ、昼は太陽が射し、夜は月が照らす、それらの姿は画面の向こうで閲覧出来るだけ。

 

生まれた時には既にそのような環境であったイオニスとって、およそ現実味の無いもの。

 

圧倒的なまでの情報(リアル)

 

記録や知識でしか知らぬモノ。

 

とあるギルメンが熱く語っていた雄大な自然がそこにはあった。それとともに確信する。

 

ここは仮想現実ではなく、現実であり、自分の知る世界ではない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報に整理がついたため、イオニスは早速実験を開始する。

 

彼の種族は邪竜(イビル・ドラゴン)といい、背中には飛ぶための翼が備わっている。ユグドラシルでは、翼などの人間に存在しない部位はプログラムで動かされていた。

 

その上飛行するとなれば、そちらの操作に大部分を割かねばならず、剣で切り結ぶような空中戦はかなり難しいとされている。

 

では現実となったこの世界ではどうなのか?

 

当たり前だが、元人間であったイオニスは翼の使い方など知らない。

 

しかし、飛ぶための身体の動かし方は、12年間という圧倒的プレイ時間によって目をつぶってても行えるほどやり方を熟知している。

 

ユグドラシルがサービスを開始した初期の頃から最後の日まで、一度も種族変更をせずにプレイしてきたからだ。

 

だが、ゲームが現実となった以上、これまでのように身体を動かすことができるか分からないため、試す必要があったのだ。

 

最悪の場合、浮かび上がる練習からまたやり直さなければならないのだから。

 

四肢を踏み締めて地面を蹴り、同時に翼を思いっきり羽ばたかせる。

 

すると身体が完全に地面から離れ、空中に留まることに成功する。

 

「離陸、ホバリングは無事に出来る、と」

 

まるで以前からやり方を知っていたかのように、むしろユグドラシル時代よりもスムーズに、使いこなすことが出来た。

 

そして上に行こうと思えば、身体はまるでやり方を知っているかの如く、空を自在に舞うことができた。

 

そのまま速度を上げながら、どんどん上昇する。空を自在に舞える感動に浸りながら、ひたすらに上を目指す。

 

一体何メートル上昇しただろう。

 

イオニスは遙か上空にて月を見上げ、星々を眺め、そして世界を見下ろす。月光が大地を微かに見える程度に夜闇を晴らし、遠目には奥まで広がる森林が辛うじて視認できる。

 

なんと美しい世界だろうか。

 

今見ているこの景色だけは、あらゆる世界級(ワールド)アイテムにも勝ると確信できる。

 

「世界という名の宝、か。本物は、そのような陳腐な表現ではとても収まりきらないですよ、ブルー・プラネットさん」

 

可能ならこの光景を仲間と共に見たかったが、生憎と今は自分1人である。仲間のモモンガさんや他のフレンドも同じくこの世界に来ている可能性はあるが、伝言(メッセージ)は誰とも繋がらなかった。

 

道中で他の魔法や特殊技術(スキル)の使用も試しながら昇ってきたが、上昇中に周囲の温度がどんどん下がっていることや、風の強さが増していることが体感で分かったことから、この身体は相当に優秀なセンサーをお持ちらしい。

 

恐らくは竜の超感覚(ドラゴン・センス)のスキルによるものだろう。

 

元々は一定範囲内の敵の存在や視覚外から放たれた攻撃、向けられているヘイト値などを感知し、場合によっては警告を発するもので、種族レベルを上げるほど範囲は広くなり、性能が強化されていく特徴を持つ。

 

種族レベルは最大まで上げていることもあり、広い範囲をカバー出来るこのスキルは、100レベルのプレイヤーの集団やボス戦相手でも十分に使える優秀な代物だったが、今となっては生物はもちろん、周囲の温度や風向き、匂いなど、周囲の環境も含めたより詳細な情報を感知できるようになった。

 

不可視化や幻術、隠密行動などに対しては相手がいない為何ともならないが、そう都合のいい存在がいるとも限らない。

 

そもそも自分以外に知的生命体がいるのかすら分かっていない。小さな虫や小動物はセンサーに引っかかることから生き物がいることは確認しているが、それらは別の機会に試すとしよう。

 

また、これとは別に、竜の眼(ドラゴン・アイ)というパッシブスキルがあり、通常の視界の2~6倍までの距離を見通し、かつ闇視(ダーク・ヴィジョン)の効果によって、闇の中でも真昼のごとく見ることができる。

 

飛び立った場所を見れば、そこには地表面のすぐ近くを雲が通っているのが確認できることから、自分の目覚めた洞窟もこの目の前で連なっている山々に近い高さの位置に存在することが伺えた。

 

今日の所はこれで良いと判断したイオニスは、地面に降り、目覚めた洞窟の中で寝そべり、眠りについた。




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