I AM INEVITABLE.   作:アジ・ダハーカ

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4話

夜が明け、目が覚めたイオニスが一番最初に取り掛かったことは、周囲の探索であった。

 

人間の頃であればとっくに起床し、手短に朝食を終えて出勤していたところだが、この身体はとある職業クラスを修めた際に獲得した耐性の1つに飲食不要がある。

 

故に食事は摂らなくても活動することが可能だ。

 

次の仕事のことを考えながら眠りにつき、早朝から夜遅くまで過酷な労働に追われる。そんな日常は既に過去のもの。

 

人間関係やノルマに悩まされる事が一切ないストレスフリー。とても心地が良い。

 

なによりここは異世界なのだ。心ゆくまで冒険したいと思うのは当然だろう。

 

とっくの昔に失われた自然が目の前にあるのだから。

 

(とりあえずは、遠目に見える雪山を目指してみよう)

 

イオニスは地面を蹴り、翼を広げ、飛び立つ。そのまま速度を上げていき、空の世界へと躍り出る。

 

当然だがこの世界に何が潜んでいて、何が脅威となるかまるで分からない状態で、身を守る備えもせず目立つ行動をすることは大変危険である。

 

ここから1歩出るだけでイオニスを片手間に殺害できるような存在が闊歩しているかもしれないのだから。

 

モモンガであれば周囲の探索も慎重に行うだろう。魔法やスキルを用いて眷属を召喚したり、NPCいれば彼らにやらせるだろう。

 

しかしここにNPCはいないし、召喚も出来ないことは無いが、眷属にやらせるのも気が乗らない。

 

彼からすれば、この美しい世界の状況を、誰かを通して把握するのは非常にもったいない。

 

この瞳で、直接見て回りたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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移動を開始して3日が経った。渓谷や滝壺など、目まぐるしく変わっていく地上の様子を目に焼き付けながら、道中で見かけたモンスターは調査も兼ねて倒しつつ、探索を続けている。

 

様々な実験をしたあの日は流れで眠りについたが、ユグドラシルでは(ドラゴン)という種族は基本的に麻痺と睡眠に完全耐性を持つ。

 

それでも眠りにつくことはできたことから、恐らく外的要因で眠りに落ちることは無いが、自発的に眠ることはでき、眠らずとも活動に支障は無い、といった方が正しいと言うべきか。

 

三日三晩、飛び続けることが出来たのはそのためだろう。

 

食う必要もなければ、眠る必要も無いとは、なんと便利なことだろうか。最早食事や睡眠といった生体活動は自分にとって娯楽でしかない。

 

また、発見したモンスターと実際に戦って判明したことだが、この世界のモンスターはとても弱い。

 

レベル換算で強い個体でも10に届くかと言ったところ。

 

話にならないほどに脆弱である。少しは手応えのあるものを期待したが、爪の一振で細切れにされ、噛みつきでバラバラの肉片になり、尾を叩きつければ地面の染みと化し、ブレスを浴びせれば灰も残らなかった。

 

戦いというにはあまりにも一方的過ぎてモンスターの方がとても哀れである。

 

また、会話のできそうな知的生命体とも遭遇していない。普通の動物からユグドラシルのモンスター、或いは初めて見るモンスターなど、この3日間で様々な生き物を見かけたが、その殆どがこちらを見るなり一斉に逃げ出し、或いは身を守るためかその場に蹲るなどしたが、稀に敵意剥き出しで立ち向かって来る者もいた。

 

前者2つは自分ドラゴンだし、ビビるのはまぁ普通では?と言える反応だが、レベル10前後ぐらいしかない程度の実力でありながら逃げずに立ち向かってくるモンスターがいるのには驚いた。

 

何かしらの逃げられない事情でもあったのだろうか。子持ちだったとか?まぁ考えてもしょうがない事だろう。

 

捕まえて意思疎通を試みたこともあったが、如何にこちらが出来るだけ優しく、丁寧な口調で話しかけても、相手の反応は上記と大して変わらず、それどころかより血相を変えて自分から逃れようと全力で抵抗するだけだった。

 

結果、人間が道端の蟻に話しかけるような、一方通行の構図が出来上がる。

 

あまりの手応えの無さに思わずため息が出てしまう。

 

そろそろ現れないものだろうか、会話のできる奴が。

 

道なりは遠い。

 

 

 

 

 

更に移動することしばらく。日数のカウントは途中で飽きてからやっていない。

 

草木は消え失せ、ゴツゴツとした岩場が続く殺風景な地形も通り過ぎ、辺り一面銀世界に包まれた降雪地帯に入った矢先、竜の超感覚(ドラゴン・センス)にこれまでとは違う気配が引っかかった。

 

数は1。今まで遭遇したモンスターと比べて強い気配を感じる。

 

(すわ知的生命体か!?次は話せる相手なんだろうな!?)

 

知的種族とのコンタクトはほぼ諦めていたが、今回こそは行ける気がする。

 

竜の直感がそう訴えている。そろそろ会話が出来るやつが現れてもいいんじゃないかと思っていたところだったのだ。

 

この際種族は問わない。会話が可能な知性があればいい。

 

とにかく情報が欲しい。でもその前に俺と言葉を交わして欲しい。

 

ドラゴンとは群れで生活をしない孤高の存在であり、基本的に他者と交流をすることは無い。

 

そんなフレーバーテキストが頭をよぎったが実際に自分が孤立するとなると話が変わってくる。

 

この身は既に人外のものとはいえ、精神まで完全に変貌したかと言うと、そういう訳でもない。

 

人間だった頃の価値観や習慣などは、残滓のような形で残っている部分もある。

 

実験の後眠りについた時もそうだ。この衝動も、かつて人間として生きていた頃の名残だろう。

 

逆に人間の頃であれば躊躇したであろう「殺し」に対する抵抗感は既に無い。

 

自分の手で下したこと、それによってミンチと化した死体を見ても何とも思わない。

 

必要とあらば容赦なく敵を害する。これはこの身体になってから初めて手に入れた価値観だ。

 

とはいえ、今この時は人間時代に培ったコミュニケーション能力が試される。

 

報告、連絡、相談を筆頭に他者との意思疎通、情報交換は、社会では必須のスキル。

 

あの荒廃した世界で生きていく上で培われた対人スキルは、この世界でもきっと役に立つはずだ。

 

この世界で初の現地人交流だ。ユグドラシルでは異形種に対する認識はとても厳しいものだったが、この世界ではその常識が違う可能性も大いにある。

 

第一印象は非常に大事だ。何事も先ずは挨拶からだ。

 

相手の目をしっかりと見て、相手より先に挨拶をすること。

 

明るい笑顔でハキハキと喋ることも忘れない。初対面で好印象を持たせるためのコツが全てここに詰まっている。

 

ここまでやれば相手側も元気に挨拶を返してくれることだろう。少なくとも悪印象を抱かれることは無いはずだ。

 

手土産を渡し、世辞を言い、その後こちらの要求を簡潔に伝える。場合によっては相手から何か要求されることもあるかもしれない。

 

その場合は無理のない範囲で応じる。鱗や爪などを求められたら流石に困るかもしれないが、1、2個あげるぐらいなら別になんともない。

 

場合によっては相手側が法外な要求をしてきたり、失礼な態度をとる可能性もあるが、私は広い心を持つ人間(ドラゴン)である。

 

思わずくしゃみをしてしまい、相手にブレスを浴びせてしまう可能性があるが、くしゃみは生理現象なので目を瞑って欲しい。

 

実力行使は最後の手段だ。交渉が決裂しない限り私からは決して手を出さない。

 

大きな期待と希望を胸に抱き、イオニスは現場に急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ヘジンマールは過去100年以上の時を過ごした中で、間違いなく過去一の速度で走っていた。

 

今すぐ住居に帰りたい一心でいっぱいだった。くそったれ、などと毒づくぐらいには外に出たことを後悔していた。

 

彼は迫りくる危険から必死に逃げながら、この状況を作り出すきっかけとなった父親を呪っていた。

 

約一時間ほど遡る。いつものように書物を読みふけっていたところ、どこから聞き付けてきたのか、あの自称偉大なる白き竜王ことお父上が部屋に乗り込んできたのだ。

 

そして驚きに呆ける自分をを冷たい目で見下ろすなり「碌な働きもせず、貴様は部屋に引きこもって何をしているのだ?ドラゴンともあろう者がその体たらく、この白き竜王の息子として実に示しがつかぬ」とか捲し立ててきたかと思えば「少しは狩りでもして身体を動かさんか」などと怒鳴りつけられ、更には獲物のひとつでも狩ってくるまで帰ってくることは許さんなどと言い出し、強引に外まで引き摺られ締め出されたのだ。

 

この身は100年以上生きたドラゴンとはいえ、ブクブクと肥え太ったこの身体で戦闘などとても自信が無い。

 

むしろ苦手を通り越して弱いとさえ思う。

 

父達のいう、あるべきドラゴンの在り方というものにどうしても馴染めず、いつものようにドワーフの書物を読み漁り、様々な知識を得ていた所を邪魔された上、挙句狩りを成功させるまで帰宅禁止ときた。

 

筋金入りのインドア(ニート)であるヘジンマールにとっては、この暴挙に対して断固として抗議したいところだったが、先程述べたように戦闘面は苦手を通り越して最早弱点の域。

 

父親は勿論、歳下の弟や妹にすら負けるかもしれないのだ。

 

恐らく可能だが、空も満足に飛べるのか分からない。唯一ドラゴンブレスだけは年相応の威力を誇るが、ここは寒冷地帯である以上、冷気に耐性を持つモンスターは多い。

 

そんな自己分析を行っていたところ━━━━

 

ぞわり

 

ヘジンマールは全身の鱗が逆立ったような感覚を覚えた。

 

恐ろしい()()()が来ている。

 

自分の鈍った本能でさえも警鐘を鳴らすような何かがこちらに向かっているのを感じ取る。

 

そちらに目を向ければ、黒い何かが物凄い速度でこちらに迫ってくるのが見えた。

 

ドラゴンとしての鋭い視力も他と比べて劣っているせいか、あれがなんなのかまではまだはっきりと判別出来ない。

 

あれはほんとに生き物だろうか?いや、翼や尻尾が辛うじて見えたことから生き物なのだろう。

 

(いやいや!そんなことはどうでもいい。アレがなんなのか気になるかといえば気になるけど、とにかく逃げないと!)

 

劣っているとはいえドラゴンの眼をもってしても追い切れない速さで飛んで来るものがこちらに害を与えない訳が無い。

 

しかし、

 

(無理だ!逃げようにも間に合わない!)

 

黒い点にしか見えていなかったソレは、こちらが逃げる姿勢を見せた途端、より速度をあげてこちらに向かってきた。

 

(ひぇええ!!ぶつかるぅ!!)

 

そしてそのまま一切減速することなく、半ば墜落するような形で地面に衝突した。

 

大きな轟音と風圧、そして全身を殴られたかのような衝撃がヘジンマールを襲った。

 

文字通り山そのものが揺れたようだった。

 

地面ごと身体が吹き飛ばされ、宙を舞う。衝撃を和らげるため、体を丸めて受け身の姿勢をとる。

 

大きく叩き付けられ、全身を激痛が襲うが、身体を覆う鱗と脂肪のおかげでダメージはそこまで受けていない。それでもめちゃくちゃ痛いけど。

 

やがて砂煙や石片が晴れ、目線をそちらに向けると━━━━

 

 

 

 

 

父親よりも遥かに大きな、見たことも無い黒いドラゴンがこちらを睨み付けていた。

 

 

 

(はい到着~。さあ、オハナシしよう。まずは挨拶からだ)

 

今度こそ絶対に逃がさないように、飛ぶというよりは落ちると言えるようなかなり乱暴な方法で着地したが、四肢も頑丈に出来ているためか、痺れひとつ無い。

 

見つけたのは霜の竜(フロスト・ドラゴン)だろう。

 

寒冷地帯のフィールドで見かけるモンスターで、冷気のブレスを吐き、冷気に完全耐性を持ち、火に弱い特性を持つドラゴンである。

 

着地時の衝撃に巻き込んで怪我をさせてしまったかもしれないが、その時は治療すれば良い。

 

死んでしまったのなら、蘇らせれば良い。

 

また、全体的に細い見た目をしているはずの霜の竜(フロスト・ドラゴン)にしては些か太っているような気がしたが、そんなことはどうでもいい。

 

会話が可能な相手であることが重要なのだ。

 

そして、イオニスはこの地で目覚めてから今に至るまでに思い浮かんだ無数の疑問を消化するべく、意気揚々と話しかけようとして、

 

「こんにちh」

「ひぇええええええええええええ!!!!!」

 

全力で逃走された。




フォントとか特殊タグ初めて使ってみたけど面白いねこれ
更新次も間空く可能性が高いです
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