西暦2015年1月某日、午後の14時半頃。
そこまで言うなら日付も言えば良いのではと思わなくも無いが、ともかく俺は死んだ。
……だったらお前誰だよという話だろうが、こっちが聞きたい。
確認。
趣味、と言うか一応の本職として実家でパティシエをやっているが、こう見えて大学時代は物理学部で物理を専攻していたバリバリの剣道4段で、ネット幽霊の囲碁神様に影響されて将棋を嗜む、他称霊感持ちのオカルト否定主義者(無いとは言っていない。存在を全否定)である。
いつも自己紹介ではこのくだりを、小学生からの来歴やらボコボコ並べていって“掴みどころの無いやつ”を演出する為に使って全てを曖昧にして、見る者全てにあやふやな印象を与えるのだが。
誰も居ない空間に向かって一人虚しい事をしている今、やはりパニックを起こす前兆なのやもしれぬ。
然もありなん。←(勢いで使ってるだけ)
道理で、視界も感覚も可笑しい訳だ……と、有り得ない
まぁまぁ落ち着いて、順番に処理していこう。
そもそもの問題として、お前は本当に死んだのか?と聞かれれば……確実に。と即答出来る。
死ぬ時というのは、只、気持ち良かった。
身体中の力という力が弛緩してゆき、『もう楽になっていいのだ』と、母的な何かに優しく抱きしめられている気分。
やり残したこともあったが、最期の時というのも存外に概ね満足出来たと思う。
結果的に残して逝くことになってしまった傍らの彼女には申し訳なく思うが、それでも彼女ならすぐにいい奴を捕まえられること受け合いだろう。
無神論者(いないとは言っていない、ry)であるので、地獄に行くのか天国に逝くのか見当も付かないが。
案外、何時ぞやのふざけた電車に乗せられた“地獄”とやらに再訪問、なんてのもあるのかもしれない。
だとしたらば、その時の借りを存分に返してやるのも悪くない。
些か騒々しくてスリリングさに過ぎるものの、けれども他の平々凡々な有象無象のそれより遥かに刺激的であろう。
そんな日々と、そこで関わった人々を想う。
決して良い事良い終わりばかりでは無かったが、それでも“初め”の肥溜めにも劣る時期からは、想像すらし得ない出来すぎた結末だ。
そうか、俺は――最期になって楽しかった、と思えてるのかもしれない。
然りと染みる、真意の答えを見つけたように思う俺は、そのままに安らかな微睡みへと溶け込んで行くのであった……。
――――てないい感じのモノローグが入っていたのに、平然と快適な朝の目覚めを迎えてしまって般若もビックリの所業である。
……いや、実際には現在進行形で快適とは言い難い状況下にいるわけなんだが。
「……験の結果は…………ェーズに移行して………………モルモットの処理は…………」
「……はい、残り…ストックは……いえ、レベル…に届く見込みは…………すみ…せん、そちらは依…不明で……」
一応、メンヘラな事態にも、自身のスルースキルにかかればいくらでも対応できる自信はある。
“適応力”に関しては右に出るものを左に追いやること幾千。幸か不幸か、伊達に苦労はしてきてないのだ。
では、何故か?
答えは自分の体にごちゃごちゃと装着させられている、いかにもな点滴みたいなのの管やら得体のしれない機械やら。
どう前向きに見積もっても、余りよろしい事態に繋がるとは思えない。
今まで色々酷い目に遭ってきているが、それらに引けをとらないと勘が告げる。
先ほどから途切れ途切れに聞こえてくる会話も相俟って、怪しさ 大 爆 発 である。
とにかく今は、些細な疑問は捨て置いて(後でそぉっと拾うかもよー)、現状脱出を図るしかあるまい。
「……士、準備が…いました…例のレベ……は、凍結…るそうで……」
「……ら一度…全てを片付け……此方にシフト…る可能性も……」
「……い、……はい、……はい、解りました……不要サン…ルは今夜…も第三解…研究…に……」
声が遠ざかっていくのを確認しつつ、思い切って自分の体に纏わり付くものを一気に剥がす。
ぐはっ……っと、全身の感覚器官を刻むような身も気もよだつ激痛が一瞬の内に体中を走り、意識を持ってかれそうになるのを、蹲りながらも気力で堪える。
流石にこのレベルのものはそう何度も経験したくは無いのだが、悲しいことに皆無というわけでもない。
逆に言えば、それらに並ぶ異常な状態に曝されているということは、いよいよ以ってヤバいの一言。
一刻も早く、速く、この得体の知れないショッカー製造所もどきから脱出すべく、体に鞭打って出口を探す。
どうやら薬漬けにもなっていたようで、ラリっているかのように平衡感覚が危ぶまれている。
当ても無いので、そこいらに乱雑しているわけの分からない装置を手当たり次第にいじりまくる。
すると突然、バチッときたかと思うと、疑問符を浮かべる間も無く部屋が真っ暗になるではないか。
よく分からないがヘマをやらかしたか?
これで、気付かれるのは恐らく時間の問題だろう。
外が騒がしくなってきて、不調もあって自分でもらしく無い程に焦りまくっている時、先程とは変化している場所を視界上方の端に見つける。
そこは、動いている時は何だかよく分からなかったが、超高速回転していた換気扇らしきものが止まっていた。
必死になって、何とかよじ登って体を押し込み、追いつかれる前にとにかく狭い通路をひたすら這いずる。
光源がほぼ無い暗闇の中、もしかしたら行き詰まりになるかもしれないという恐怖や時折聞こえる壁の向こうの話し声。
一度考え始めれば堰を切る洪水だろう多大な不安を抱えながらの強行軍だ。
そんな、“取り留めの無いこと”を考えていると自分に思い込ませながらどれだけ進んだか定かでないが。
暗中での行動、体調の悪化、精神的負担、その他諸々により感覚が麻痺していた頃。
油断大敵一生の不覚、手を出した先には感覚が無い感じたわけで。
次の瞬間にはそのまま自重が引っ張られて急勾配へと身を投じる羽目になる。
途中で下り坂になっている場所に突っ込んでしまったらしく、継ぎ目の無い金属製の四方に障害物も無いのが災いして、頭からダイブしていく。
普段なら他にやりようも思い付いたかも分からないが、既に危機感や理性といった自我は朧気。
慎重論もけんもほろろに、せめても腕をクロスして頭部ガード体制に。
勢いよく明りのある所に向かってそのまま障害物(これも換気扇?)を突き破り、久しぶりに光源のある場所へ。
衝撃と多少の肉が削げる感覚の後、遅れてきた滑った際の摩擦による痛覚と共に、支えの無い本格的な落下の浮遊感。
起きてからコッチやけにクリアな思考力が、体感する加速度にこれ以上の速度増加は衝撃がとんでもないことになる、と至極有り難くもない結論を弾き出すが。
放り出されたそこは、二階くらいの高さだったようで地面に激突してそのまま……
「ッぐぁっっ!!」
とはならずに、幸運にも車が下にあってで何とかなったみたいだが。
それでも予想外のタイミングだったので接触時に完全には受身を取れず、内蔵やら骨やら何やらが悲鳴を上げていて体中もうボロっボロ。
落下の衝撃の反動で軽い我が身は冗談みたく跳ね、半身がフロントガラスの方に乗り出てそのまま頭からボンネットへとずり落ちて行く。
逆さまの視界に頬等を伝っていく液体の感覚。腕が熱持ちだらりと放り、腰を痛めたようで起き上がれない。
頭をやられたのか刻々と意識が薄れていく中、追い打ちをかけるように頭の割れるような超音波が響き、追手であろう白衣の影がこちらを覗き込んでくる。
あ、これは詰んだ、と。
そも
“死ぬまで諦めない縛り”を惰性で続けたはいいものの、意味も意義も見いだせず。
茹だつ頭でどうやら一人だということは認識したものの、何も対処できずに焦りで何も考えられないまま遂には意識を手放してしまうのであった……。
――――なんていう、ハードボイルド(茹で加減)な生まれ変わりデビューから早3年。
と言うか、生まれたんだかなんだかは定かでないけど。新たな環境での新生、と言うには違いない。
いきなり見知らぬ環境下に無力のまま放り込まれて知識も何も無かったが、不幸中の幸いなことに保護者となってくれた人のおかげで、若干の後遺症……多少呂律が回らない障害は残ったものの、どうにかやってこれている。
はい、ここで現状確認。
あの日、死に
あの経験から白衣が苦手になってしまう一悶着があったが、今は改善している。
俺が死に物狂いで逃げ出したあの施設は、やはりと言うべきか非人道的なことをしていたらしく、その後に摘発されて潰れたらしい。
さて、ここで山積みな疑問の中で特に問題なのは、今現在俺の外見の推定年齢10歳前後らしいことだが。
真正直に自分でも訳も分からない現状を説明しても、余計にややこしくなるのは目に見えていたため、記憶喪失としておいた。これは、正解だったといえるだろう。
まず木山さん、今は春生先生と呼んでいるが……この名前から、まさかとは思いつつもあることを連想し、そしてそれは的中してしまっていたのだ。
学園都市、人口230万人の内8割が学生の街。
超能力・超科学、能力開発《カリキュラム》。
置き去り《チャイルドエラー》、学習装置《テスタメント》。
樹形図上の作者《ツリーダイアグラム》、
風紀委員《ジャッジメント》、警備員《アンチスキル》。
そして、木山春生先生。
これらの単語から自分が何処にいるのか、把握した。
理由はさっぱりだが、神を信じない俺は、天国でも地獄でもない空想の世界へと旅立ってしまったようなのだ。
しかも謎の若返り付き。どうかしてるぜ。
なかなかに愉快なことだが、こうなったのならまぁ、そういうことなのだろう。
確かに死ぬ間際にも『とある魔術の禁書目録』は読んでおり、全巻を持っている程度には愛読書であった。
新約は1~2巻がダレてたように感じて積み本してたものの、プライベートに時間がとれて読み進めると6巻で木原どばどば祭りに興奮したこの頃。
残念ながらそこから先は読む前に
そんなこんなで、もしも超能力があったなら……Xメンのマグニートの能力みたいのが欲しいなぁ!とか妄想したりして。
ネットなんかでよく指摘される細かい矛盾や設定の粗さは特に気にせずに、割と夢のある楽しみ方をしていた。
まぁ、言っちゃえばオカルトを科学や理屈で
それがなんの因果か、至るまでの過程はさっぱり不明だが。
神だのなんだの超常的なナニカ様のおかげさまで、
まぁ、そこまで興味無いので余り気にしていないが。
そんなこんなで前言の通り、なるようになるだろう流され主義な俺は、“今”への環境適応に勤める方針に。
そうと決まれば、初期状態は結構ハードなものだったがせっかくこんな世界に来れたのだからやっぱり超能力は欲しい。
憑依(?)以前のこの世界での記憶は断片的にだがあるのもあって、期待に胸を膨らませつつ、試しにとやってみた。
『ほう……十分に大したものだ。磁力操作《マグネトロンマスター》、か。レベルは2といったところだな』
できた。
それからすぐに才能が開花して、とんとん拍子にレベルが上がっていって、余裕のヨシフミさん風で超能力者《レベル5》に。
ふっはっはっはっはっは。
「嘘ですごめンなさいタン塩が好きです、はい」
「?どうした、急に?……それは焼肉に行きたいと言ってるのか?」
「あ、いやこっチの話」
「……そうか」
「そレよりも、こノ、PSK界面素粒子っていうノは?」
「あぁ、それは能力発現時の作用場へ微弱な……」
できたのは本当。
強度《レベル》は春生先生の見立て通りの異能力者《レベル2》の、磁力操作だ。
ここまでくると、このご都合主義な現状はナニカの作為的なものなのは確定的に明らかだが。
だからといって今のところ不都合もないので好き勝手過ごすことにする。
能力開発面では自分の理想がはっきりしている分、目標が定まっていて有利と言えるのだし。
能力の確認は身元の手がかりとするために意識を取り戻してから真っ先に行われたのだが、やはりと言うべきか置き去り《チャイルドエラー》と判明した。
「自我」を得た例の日以前の俺の扱いは、俺の知っている“原作”の世界をもってして尚酷いものであったようで。
苗字すら無い記号のような名前しかなかったらしい戸籍も無かった俺は、能力開発も込みで木山先生に面倒を見てもらうように頼み込んだ。
実験に関する知識も碌に与えられないモルモット扱いだったのか、と憤りながら(これは半分誤解だが)快く了承してもらって、無事に彼女の研究所に転がり込んだというわけだ。
その際に性をもらい、名前もつけて貰った。
名前はまだ無い、というネタをやる前に一個潰されて無念だったり。
以来、“
それからの俺は、元々何かにのめり込む
彼女の本職の研究の方もやれることを手伝いながら、知識を付けていく。
前世(?)の経験から、どうあっても知識の偏りが避けれなくて不思議がられたりすることもあるが。
……そこは“そういう特殊な研究プランだった”とごり押しして納得してもらうこと度々。
初めは人生のロスタイムかのように斜に構えた部分もあったが、そんな達観は“今”ではまだ先の、中学二年になった時に患う類だと気づき悶絶することになったのは黒い歴史である。
春生先生は、こういう言い方は好きじゃないが“原作で読んだ通り”に、少し抜けたところがあるので時にはフォローに奔走することになるわけだが。
……第二の人生とも言える日々を、概ね有意義に過ごしていると断言する。
「――のために、全てを足しても斥力は足りないから、そこに何らかの反性質が付与されていることになる……というわけだ。何か質問はあるか?」
「いや……大丈夫、かな」
劇的にも摩訶不思議からの日常にも動じず。
「そうか。少し踏み込んだところまでになったが、私の専門ではないからここらが限界だな。その先にも興味があったら自分で調べるなり誰かに聞くなりしてくれ」
「うン、そうする。……と、もうこンな時間か。夕飯は何を食べたい?あンまり手の込んだものはできないケド」
唯只管に、前へと進む一所懸命の精神にて。
「そうだな……今日は外食に行かないか?」
「ン?あぁ、そうだね。偶にはそれもいいかもしレない」
「そうか。なら、すぐにでも行こうか」
心機一転に、精一杯生きる。
刹那主義とも言える性分なのはそう容易く変わりはしないが、それでも簡単に自分を放り出すような無謀なことは自制するくらいには、自分を気にかけてくれる人が出来たのだから、そう決めた。
そして、決めたからには徹底的にやるべきだ。この先、考えるべきことは沢山ある。
聞いてはいないが、おそらくほぼ確実にこの人も“原作”と同じように問題を抱えていている。
俺を引き取ったのもそれに起因していないとは思わない。
決して安全とは言い難いこの世界……それこそ小説の主人公でもない俺は、やれることも高が知れてるかもしれない。
――だが。
こうして出来た“自分の居場所”くらいは守れるだろう力が手に入る、冗談みたいな可能性を、俺は持っている。
……
ならば、是が非でも守り通してみせようではないかっ!
……などと、柄にも無いとは分かっていることを、
隠し事をしての出会いなので、厚かましいことだとも思うが、そこは
準備を済ませ、先に行く我が保護者である義姉殿は、飾り気も無く白衣のまま出かけるつもりらしい。
あれが研究の時に使われるものではない前掛け用みたいなものだというのを、俺は知っている。
きっと、今日の夕飯は焼肉なのだろう。
「どうした、行くぞ?
「今行く、春生姉さん」
私的な空間では
些か歳が離れているので、並んでいる姿はもしかしたら姉弟ではなく親子に見られるのだろうか?
本人に言えば怒る……?かもしれないことを考えつつ、プライベートモードになって気持ち高めなテンションの姉を追った。
ーーこうして過ごすことが、
どうも、始めまして。よろしくお願いします。
ルビ振りは区別が付くようにわざとやっているものなので、《》記号はわざとやってます。(重複)
今日の造語
オカルティクス
オカルティズムにおける、理不尽なこの現状を表す。特に意味のない、響き優先に由る。
……と思いきや、ggrところ先人はいた模様。聴いてみます。