閉じた目の奥、光を感じる。
波の音が、聞こえる。
ゆっくりと、意識が浮上する。
視界は殆どを床が占めている。殆ど、ということはつまりそれ以外もある。視界の右側、手を伸ばせば届くぐらいの距離に超ハイクオリティな銃火器……によく似た水鉄砲があった。いや、正確には水鉄砲でもなくインク鉄砲、というべきだろうか。
寝転がるのをやめて立ち上がる。……なんだかカラダが変な気がする。寝過ぎたのだろうか、もしくは寝違えたか。そんな不調を吹っ飛ばすようなスペシャルなものがそこにあった。
ヒーローシューター。Splatoonシリーズ恒例のヒーローモードにて苦楽を共にするブキだ。
それにしても、背負われたインクタンクに繋がっている部分まで再現とは中々にお金がかかった物だろうに。誰かさんからのプレゼントかな? 持った重みと手への馴染み具合といい、まるで俺のために拵えられたような気さえしてくる。
わーいおとなのなりきりおもちゃだたーのしー。何の気なしに引き金を引いた。ドパパパパ、とそこそこ重めの音と共に
「は?」
寝ぼけていた脳が一気に覚醒した。地面にはしっかりとインクが残っている。出来上がったインク溜まりの端っこを足先で突っつく。ちょっとだけ糸を引くもすぐに雫になって落ちる。そこそこの量があるにもかかわらず、インクは地面に広がった部分以上に広がることはなかった。インクの上を歩く。ぱちゃぱちゃと音はするものの、インクの粘性で足をとられることはなかった。
俺は、この性質を知っている。現実ではなくゲームのシステムとして。頭痛がしてきそうだった。頭に手をやると、毛髪ではないふにょふにょとした太めのナニかが頭から生えているのが分かった。
恐る恐る口の中へと指を入れる。歯は、ヒトのそれではなかった。もしやこれは。そんな馬鹿な。……そういえば、自分の声もおかしかった。音が明らかに高かった。まるで、ゲームでよく聞いたあの声を日本語発音にしたらこうなるのかも、そんな感じの。
時間が過ぎれば太陽の向きも変わる。より強い光が差し込んでくる。インクの反射で、なんとなくだが自分のシルエットがわかった。人間のそれに似ているが明らかに違う。震える手に握られた、ヒーローシューターに反射する姿を見る。
そこには、
「…………は?」
この髪型、顔、間違いなくSplatoon3で作成したマイ・イカ。ほっぺをつねる。……痛い。夢じゃ、ない。
ヒーローモードの
カンタンに纏めると、俺はインクリングになってしまったらしい。
「どうして」
もしや隠しヤカン攻略を諦めた天罰だったりするのだろうか。だとすれば神様とやらは随分やり込みプレイに厳しい存在のようだ。滅びろマト系。滅びろ全てのホンニャラをナンタラしよう系。特に根絶されろ! マト!! 俺はコジャケと旅に出……違うそうじゃない。
深呼吸深呼吸。心拍が落ち着くまでに何分かかったのかは数えていない。現実であり得てはならないことが起きてしまった、というパニックのせいで体内時計はもうめちゃくちゃになっていた。
自分が置かれた状況をより正確に把握するべく探索を開始。その途中、イカらしくイカ形態になってインクの中で泳ぐこともできた。できてしまった。……速度は普通に歩くよりも圧倒的に速いので便利だが、元が人間であるという意識が邪魔をしてあまり使うことはなかった。
――俺が目を覚ました建物内を一周ぐるっと回ってみた結果。ここはどうやら試射場と住居を足して2で割ったような建物らしい。風呂台所ベッドルーム完備。あと俺の今のインクの色と違うインク(つまり当たるとダメージを受けるインク)を発射できるダミイカもしっかりあった。……どこからインクを供給しているんだ? 謎は深まるばかりである。
誰が用意したのかもわからない復活ポイントもあった。取り敢えずヨシ。ただやられた時にちゃんと戻ってこれるのか分からないので基本作戦はいのちだいじに。
「ここをキャンプ地とする、なーんてな」
現実はキャンプ地なんて人がいろいろ用意してくれるやさしさの塊ではなく実質無人島生活でサバイバル要求してきているのだが。笑うしかねえ。
今回の フェスのお題は...
てんてけてけてけー...
ぽん!
……うーん、実際に似た状況に置かれるとヒマつぶし以外のふたつが欲しいな。まずは水と食糧を揃えることが先決だが、そこには安全が確保された建物から出る危険が伴う。
外へ出るドアを開け、ぽいっ、とキューバンボムを外に放り投げ爆発まで待つ。何の反応もない。なんちゃってクリアリングを済ませた後はインクに潜伏しつつゆっくりと移動、ヒーローシューター発射して移動範囲を広げてまた潜伏。
インクの中からわかるのは、外は木漏れ日と木々のざわめきがたくさんある自然豊かな土地ってコト。生き物の気配はよく分からない。ここにいないから、といってもどこからともなくやってきたインクを撒き散らす謎生物やタコ軍団シャケ軍団がやってくる可能性は否定できない。……あー、センサーが欲しい。
いやそれにしてもインクリングって何食べて生きてるんだろ。フードチケットでいろいろムシャムシャしてるし普通のご飯は食べれるって認識でいいのか? 取り敢えず木からもぎもぎしたりんごっぽい果実をムシャムシャしておく。
「んま」
ドパドパ発射音何度も出してもここへ寄ってくる存在はナシ。インクへの潜伏は多分必要ないだろうとヒト形態のまま歩く。――片手にヒーローシューター、もう片手の指についた果汁ぺろぺろ歩行インクリングという危機感あるのかないのかよくわからない存在がてぽてぽ行く。
――森を抜ければ、そこは海だった。青い空青い海白い砂浜、そしてオオモノシャケやオカシラシャケなんて目じゃないレベルの海産系モンスターが海からにょっきり頭を出す。
「は!?」
ナニアレ!? 山が動いて!!? ヒーローシューターを構えてしまったが射程外だ、落ち着け俺。胸に手を当て目を閉じて深呼吸。
「あ? なんだコレ」
落ち着いたことで視界が広がる。足元にあったカピカピした紙を拾い上げる。
……でっどおああらいぶ。桁の大きい数字。英語で書かれた、名前。おっきい写真。これはもしや、手配書というものでは?
そして、単位と思われるものだが……『B』だった。
つまりここは。イカの世界ではなく。
「………………大海賊時代……」
この後めちゃくちゃヘルプ!連打した。
続くかは未定。