漢字でイカは烏賊と書く。海賊とは一文字違い。わあそっくりさんだね。まあ漢字が似てても別に仲間ってわけではないから俺は捕獲され珍獣として売られるんだろうけど!
……イヤダー! シニタクナーイ! シニタクナーイ!
びったんびったん変な動きをするふにょふにょした人間(?)を空飛ぶカモメは見ていた。そしてそのままスルーした。絡まれたくなかったので。
――世は大海賊時代。ちょっと荒っぽい感じの野郎はだいたい海に出て海賊になり、無辜の民から略奪を行う。
警察的役割を果たす海軍も全員が全員いいヒトってわけでもない。権力者の中にはもちろん腐ったクズが紛れてる。国同士の戦争? 探したらすぐ出てきますよそんなもの。
はい? 海を舞台にした華々しい冒険譚? そこにないならないですね。たくさん陳列されているのは現実の延長線にある苦しみ。あと悲しい死。
……俺にとってこの大海賊時代で大事なことは複数ある。
一つ目、インクリングは水に弱い。どのぐらい弱いかというと、水に入ると溶ける。浸透圧の関係でこのカラダは水に負けちゃうのだ。
海に「オラッ入るぞ」なんてしたら「雑ー魚♡ 稚ー魚♡ チョーシよわよわ〜♡」と
そして俺は――これは本当に自慢ではないが――マヒマヒリゾート&スパで調子に乗ってウルトラハンコ押しまくってたら足場が移動してできたちっちゃい穴ぽこに落ちてデスするぐらいにはうっかりさんだ。ハンコに夢中になって前がよくわからないまま水場に突進したこともある。
ハンコの小回りがきかないのが悪いのかブンナゲ高級クイックボムとして使うのを俺が勿体ぶるのが悪いのか。……多分後者だろうなぁ。
つまり、船なんて乗ったら絶対落ちて「ウワワァー(突然の死)」する程度のウデマエである。甲板をインクべっしゃべしゃにして「わーいインクの中泳ぐのたーのし――あっ(突然の死)」を間違いなくやらかすだろう。
二つ目、肉体のインクリング化が種族的なモノか悪魔の実によるものか完璧な判断ができないこと。水に入ると溺れる前に溶けて死ぬ可能性あるのにどうやって調べればいいんだ。悪魔の実は結構何でもありだから「イカとはこういう生き物だ!」「くそォそうだったのか」展開が否定できない。古代種があるなら未来種もワンチャンあったりしません?
え? 全身水に浸からなくても能力者は水に濡れると力が出なくなるだろって? 許容できる量と勢いがわからないのにチャレンジはちょっと。風呂とシャワーはアウトに近い気がする。雨は……どうなんだ? わからない。アメフラシはちょっとの間なら浴びても平気だが、あれ降ってきてるのは水じゃなくてインクなので……。
三つ目。単純にインクリングがONE PIECE世界の戦闘力についていける気がしない。ガチで命の取り合いしてる中に中身日本人のイカが混ざってどうしろと。
……あれ? 考えれば考えるほど俺の命って儚い?
「ゔあああぁぁぁやだぁぁぁぁ」
ごろごろびちびち煽りイカ。海水を浴びない安全な距離を保ってイカ高速小刻みジャンプ。イカ形態への忌避感は浜で死にました。死がすぐ隣にいる世界なので。
よいせ、と体のあちこちについた砂を払いながら立ち上がる。インクを撒きつつ取り敢えず島を一周チャレンジ、やるかぁ……。キューバンボムの投げる角度と飛距離を体に染み込ませて生存確率を高めなければ。
ひそひそ、ざわざわと話が聞こえる。
――知らないイキモノがやってきて、ナワバリを広げている。
――武器を持ってうろついている。
ニンゲンに似ているけど違う。ニンゲンはあんなに沢山体液を撒き散らしたら死んでしまうもの。でも、あのイキモノは命の危機なんて微塵も感じさせずに自分の体を撒き散らしてナワバリに変えてしまっている。
途中、自分たちの出す念波と似た救難信号のようなものを突然何度も何度も出していたが、罠だろう。騙されないぞ、煮て焼いて食うつもりなんだ。
静かだった島に爆発音が響く。あんな大きな音を出す怖いものが当たったら殻は簡単に壊れてしまう。逃げようにも自分の動く速度ではすぐに追いつかれてしまうだろう。
……背の低い木の影に隠れてぷるぷると震える。島をぐるっと囲うようにナワバリを広げるイキモノがどこか遠くに行ってくれるようにと願う。
「インク残量が常に見えるゲームシステムってめちゃ便利だったんだなー、リアルになると感覚でしかわからないし」
来ないでくれ。気づかないでくれ。そんな思いと比例するように、がさがさと枝の揺れる音と足音が近付いてくる。
「うわ何だこれかたつむり? デッカ」
見つかってしまった。
――耳がとんがっている。指の先は丸じゃなくて四角い。噂に聞く魚人というものだろうか。ヒトの何倍もの力を持つという、あの。
自分はこのまま殻を割られてむしゃむしゃと中身を食べてしまうに違いない。……でっかいかたつむりこと野生の電伝虫は死んだ目になった。
「……あー、これが電伝虫か!」
今自分が触れ合っている電伝虫がそんなことを考えているなど知らないイキモノ、すべすべー、でかーい、マンメンミーと殻を撫でくりまわす。
「連絡、連絡なぁ……外の情報仕入れたいんだけど野生の電伝虫じゃムリだろうな」
上から、はああ、とため息をつく音が聞こえる。
己の存在がこのイキモノを不快にさせてしまった。もう今世は終わりのようだ。出来る限り苦しみを感じないように逝かせてもらえるよう懇願の顔をしようとして、
「……まてよ? 手配書が落ちてたんだからもうちょっと探せば地図とか新聞もあったりするんじゃね? おカネも漂着ワンチャンあるんじゃ?」
……イキモノは大きめの独り言以外特に何もせず、去っていった。
「あっ……ダメだ欠けてら」
お目目しょんぼりインクリングが見つけたいのはほんのちょっぴりの小銭。ニュース・クーが来てくれればそれで新聞が買える。まず来るかどうかが運任せに近い? それを言ったらおしまいだ。
……いや待て、下手に外の世界と繋がりができたら俺のことも知られるのでは。珍しいイキモノ大好きなビッグ・マムの魔の手が伸びてきてしまう……? それはとても困る。
外と関係を持たなくてもなんとかできそうなモノ……。うーん、なんか俺が目を覚ましたところスーパーハイテク建築物っぽいし家探しをしたら地図とか見つかりそうな気がする。この島についての情報が揃ってそうなのは海岸線よりも建物なのは明白。外の探索は後回しにしたとしても誰も文句は言わない。まず俺しかいないし。
インクを撒きながらうろちょろしてたから帰る時はイカでスイスイッと道のりを辿れるのは楽ちん。でも今回はイカ生に慣れるためにもスーパージャンプを試してみるかとカラダ全体にぐぐっと力を溜め――る中、どんなものも見逃さない俺の目が嘘です飛んできたボムよく見逃してます。そんな俺の目がきらっと金色に光る何かを捉えた。
「まさかカネか!?」
イカ状態を解除し、急いでヒトの足で光源へ駆け寄る。きらきらちかちか光ってる。間違いなく何かある! 興奮のまま両手で地面を掘って、掘って、掘り当てた。
「な……えぇ……?」
ぷよぷよしてそうで硬い卵。漢字の金みたいな形をした命が生きている卵。サーモンランでノルマとして設定されている卵。研修で潮の満ち引きとかヒカリバエのことも試す場を寄越せよクマサンあの野郎。
――どこからどう見ても、金イクラ。
イカの世界由来の存在が俺だけじゃなかったのを喜ぶべきか、オオモノシャケがいる可能性も出てきたのを絶望するべきか。へっぽこイカ一匹がヒーローシューターだけでオオモノをどうにか出来るわけないだろ助けてください。違うブキってどこにあるのぉ……?
イカはヘルプ!を出した。一方その頃野生の電伝虫達はまたあのイキモノが助けを求める真似で騙そうとしているなと念波を飛ばして警戒を強めていたのだった。