憑依イカと大海原と   作:ウボァー

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憑依イカと急転

 男はある海賊団に所属していた。だが、真の所属は海軍であった。

 極秘の潜入捜査中、隠れ家を海軍本部へとリークした回数は両手の指を使っても数え切れない。強奪殺人お構いなしと悪名轟く実の兄が船長をする海賊団でご法度の裏切り行為。……バレたなら、自分の命は無い。

 

 だが今日はそんなハードな仕事ではなく、ちょっと遠くの島で軽い買い物をしに来ただけである。

 そう時間も掛けず何事も無く終え(途中何回も転んだがその程度のドジは慣れているので男の中でノーカウントとなっている)、帰りの船に乗って出航。……あれ、なんだか進んでる方角がおかしいぞ? と気付き筆談で問う。

 

「あァ? 兄さん、ココに行きたいのかい。それ隣の船だわ」

 

 乗る船を間違えた。

 いつものようにドジったのである。

 

 しまった! と慌ててこっちの都合で帰るのが遅くなる申し訳ない、と連絡を取ろうと懐を漁り……あるはずのものがなかった。

 

(…………あ、やべェ)

 

 財布を出す時に邪魔だからと電伝虫を取り出して、横に置いて、支払いが終わって、品物を受け取って帰って。

 

 そう、電伝虫をまた懐に戻すのを忘れていた。

 ドジが積み重なった。

 

「おい! なんだァこの風と波は!」

 

「分かりません! こんな規模の嵐が来るなんて――ぎゃあ!?」

 

 ドボン、と質量のあるものが落ちる音。

 

「落ちたぞ! 小舟で救助が無理ならせめて誰か浮くものを持ってこい、早く!」

 

「無理だ! もうこの荒れ具合じゃ助から――」

 

 あれよあれよと船が嵐に巻き込まれ、船員達の必死の努力も虚しく、沈没。

 ……これは流石にドジではなく不運であろう。

 

 悪魔の実の能力者はどう足掻いても泳げない。大波に揺られ、その衝撃で海に投げ出された時には死を覚悟したが、天は彼を見放さなかった。

 偶然ものっっそい浮く木片がいい感じに服の隙間に入り込んで彼を助け、そして――。

 

 

 

「いやホントごめんなさい」

 

 漂着した海岸、自分を黄色まみれにしたヘンな魚人が目の前で土下座をしていた。

 インクは犬のように体を振るったらすぐに落ちた。海水でぐちゃぐちゃになったピエロメイクもついでに手で拭って落とし、すっぴんになったドンキホーテ・ロシナンテがそこにいた。

 

「いや、ドジってすっ転んだ先に偶然あったペンキ缶へ頭を突っ込んだ時に比べりゃ遥かにマシだから気にしなくていい。……にしても、女一人でココに?」

 

 今の持ち物は湿気ったタバコとライター、海水が入り込んだピストル、銃弾、びしょ濡れの衣服。買った物品は皆流されてしまった。

 どこをどう探しても電伝虫は無い。外部へ助けを乞う手段が無い。つまり、頼れるのは今土下座をしているこの魚人しかいない。機嫌を損ねぬよう気にしていないアピールをする。

 

 それとついでに。なんとなく女性かな、だとしたら人気のない島で一人で暮らすのは危ないのでは? と海兵として気になったから聞いただけ、だったのだが。

 

「いやキャラメイク時に性別って明記されてないから〜? 見た目のタイプを選んだだけだから決して性転換したってわけじゃないんでそこのところよろしく願いします」

 

「は、はぁ……?」

 

 意味のよくわからない言葉を早口で捲し立てられた。多分触れられたくない話題だったのだろう、と反省。

 

「……キャラクリで明確に性別提示されてないから俺の性別はイカ……性別はイカ……」

 

 土下座をやめどこか遠くを見つめながらぶつぶつ呟く魚人を改めて観察する。

 耳はとんがっていて、目の周りを縁取るような黒が目立つ。ぷよぷよした髪はオシャレに整えられている。イカと連呼しているならイカの魚人なのだろう。

 

 魚人の腕力は人間の10倍ある、はずだが目の前の彼女、いや彼? ……イカ魚人は体が細い。顔つきも幼く見える。銃で武装しているのはそこが関係しているのかもしれない。

 

 ――とまで考えて、とてつもないドジをやらかしていたと気付き口を押さえる。

 

(喋れない設定だったのに喋っちまった! この事をコイツ経由でドンキホーテ海賊団に知られたら……!)

 

 どうして嘘をついていたのかと詰められるのは必須。もしドフラミンゴと連絡が取れた時に余計な事を言ってしまわないよう口裏を合わせる必要がある。

 吐いた言葉は戻せないがこれからを取り繕うことはできる。にこやかに穏やかに。協力してくれるよういい印象を与えておかなければ。

 

「もし間違えていたらとても申し訳ないのですけどもナギナギの実を食べたドンキホーテ・ロシナンテ様でお間違いありませんでしょうか」

 

「…………っ! だったらどうした?」

 

 初対面の相手が何故そこまで知っているんだ。海兵らしからぬ、武力で聞き出すの選択肢が頭をもたげかける。

 

「トラファルガー・ローという少年についてお尋ねしたいのですが」

 

「いやァ、聞いたことない名前だな」

 

 相手の話に乗って油断を誘いつつ、決定的な隙を見せた瞬間に行動に出るぞと決意を固め――。

 

「ドジとか服とかこの反応間違いなくご本人様なんだろうけどまだローと出会ってない時期確定したところで俺の頭じゃなんにも活かせねえ〜〜!! あ〜〜もうやだ〜〜!」

 

 ……半泣きのままびちびち暴れるその姿を見たせいですっかり毒気が抜かれてしまった。こっちが悪いみたいじゃないか。いや実際悪いこと(突然のグーパン等)しようかと考えてたしあと少しで実行しかけてたんだが。

 

「魚人じゃなくて動物(ゾオン)系の悪魔の実の能力者か?」

 

「それがわかったら苦労しないんだよ〜!」

 

 ぴいぴいンミンミ泣きながら、特に頼まれたわけではないがイカは語り始めた。

 

 

 ――目が覚めたら一人この島、手にはこのブキひとつ。何故もどうしても分からぬままスーパーハイテク建物から得た知識でなんかいい感じに過ごしたかったけど現実は非情。来たぞ危険地帯ど真ん中。たすけて。

 イマイチ当てにならない記憶を頼りに、顔とちょっとの経歴を一方的に知ってる人がいたから何か役立つこととか助けになったりしないかなと一縷の望みをかけたがあえなく撃沈。イマココ。

 

 

 ……途中意味不明であったが、とにかく放置してはいけないヒトということは確定した。

 試しに「じゃあ他にどんなこと知ってるんだ?」と質問したら自分がドンキホーテファミリーのコラソンであり実は海軍の人間ということもバッチリ知ってたから余計に目が離せなくなった。

 

「てかここサモラン島かよ!?」

 

「有名なんすか」

 

「ああ……近くを通りがかった海軍の軍艦がシャケに襲われて、って事例が複数回起きてる。サモラン島周辺は危険海域として指定されているから商船や漁船はまず来ない。救助は絶望的だな」

 

「ンミィ」

 

 イカ、涙目。

 

「野良の電伝虫を使って海軍本部に連絡を取って、んで迎えの船が出せるかどうかの打診も無理だろうな。一人の海兵のためだけに全滅するかもわからない軍艦は出せねえ」

 

「じゃあ実兄のドフラミンゴに連絡したら」

 

 ロシナンテ、イカを見る。

 

「……状況が悪化しそうだなァ……」

 

「それはその……困った否定できない」

 

 イカ、コラソン、攻撃した。

 バレたら、ファミリー、おこ。

 イカ、死んじゃう。

 

「クソっ、無いのか? ここから脱出する方法……!」

 

 無辜の人々を守るためにもなんとか帰らなければならないが、方法が思いつかない。六式の中には空を蹴り飛ぶものがあるが、隣の島がどこにあるのか分からない。体力が尽きれば空から海へドボン、ジ・エンド。

 

 

 ――この島でできることはサバイバルとサーモンランのみ。一生をシャケしばきに費やすのか? 絶対にやだ。頭の中でエンドレスループするカガヤクンデス・マーチ。

 

 バイト、テッキュウてめえこのやろう、バイト、船、バイト、ヘリ、タワーをゆるすな、バイト。

 

「あ」

 

 ふと気付く。

 

「……船、ワンチャンあるかもしれない」

 

 Splatoon2のサーモンランでイカ達は船を使って勤務場所近くまで移動していたじゃないか! 思い立ったらすぐ行動。イカ、スーパージャンプで目覚めた建物まで一直線。

 

「おいどこ行くつもりであだっ!」

 

 足を木の根に引っかけ転びつつも、イカの軌跡を追うように木々の影を縫って走るロシナンテ。途中、イカが撒いたインクを思いっきり踏んづけ勢いのまま綺麗な一回転を見せるというドジ(?)があったものの、この島でそれを見ていたのは野生の電伝虫だけだった。

 

 

 

「……うーわおマジであった、イクラ漁船」

 

 ドアを勢いよくすぱーん、と開きココジャナイコッチデモナーイココトイレジャーンと虱潰しに。シャッターを上げた先にその漁船はあった。

 どことなく危なそうな気配(密漁感)が漂うサーモンランの漁船。船の動かし方よくわかんないけど取り敢えずエンジンキーを回したら反応あるだろうと試してみた……が、うんともすんとも言わない。

 

「燃料空だべやー」

 

「いや船もコグマサンAIが担当してんのかーい」

 

「出航には金イクランニュスッパ個集めんじゃい」

 

「一番大事なところがバグってる!!?」

 

 取り敢えず俺が掘り出して見つけた金イクラ1個では起動しなかった、しかわからん。とにかくシャケをしばくしか選択肢がないのか俺には。

 つまりシャケに殺されるかドフラミンゴに殺されるかのチキチキデスゲームレースが始まるんですか!? やだー!!

 

 ――ビー!! ビー!!

 

「んのわっ!? なぁ何何!?」

 

 俺が心の中で叫ぶと同時にけたたましく鳴り響いた警報が心拍数を早める。建物全体を揺らすような、緊急事態を知らせ心をざわつかせる音。

 ……とても、嫌な予感がした。

 

『接近するシャケを確認。接近するシャケを確認。危険度不明。イクラコンテナ設置完了。参加者、インクリング1名。ザザッ……認証……12000年前のデータ参照……ピー……合致……()()()()1名。合計2名』

 

「――は?」

 

『繰り返す。参加者、インクリング1名。ニンゲン1名。合計2名。至急、受付にてブキとスペシャルパウチを受け取りに来てください』

 

 

 

『1時間後、サーモンラン(シャケの遡上)が始まります』




――何事にも終わりは訪れるものだ。
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