あなたという花 作:ニジガク爆散同好会
私があなたに出会ったのは、とある春の日のこと。いつものように中庭に咲いたガーベラを眺めていたら、春風のようにあなたはやってきた。
私も好きなんだ、ガーベラ。そう言って花が咲いたように微笑みかけてくれたのを、今でも覚えている。
その時だろう、私の心に上原歩夢という一輪の花が咲いたのは。
……それからというもの、私と歩夢ちゃんはよく話すようになった。最近見頃を迎える花の話とか、はたまた美味しいスイーツの話とか、スクールアイドルの話とか。
お世辞にも私はあまり人と話すのが得意じゃなかったから、きっとうまく話せていなかったのだろう。でも、あなたは、歩夢ちゃんはそんな私の話に、一生懸命耳を傾けてくれるから。
それがとても嬉しくて、私はたくさん彼女と話した。すると、彼女も嬉しそうに私の話を聞いてくれた。それがあまりにも嬉しくて、歩夢ちゃんと話すことだけを楽しみに学校に通ってた日もあったなあ。
だからかな? 最近、ガーベラがもっと好きになった。元から好きな花だったけど、前よりもっと好きになった。きっとそれは、歩夢ちゃんみたいなお花だからかな、なんて思っちゃったりして。
私の心という庭に咲いた、歩夢ちゃんというかわいい花。この想いを大切に大切に育てていければいいな、そう思っていた。
『彼女』の存在を知るまでは。
「歩夢、そろそろ行くよ?」
「あ、侑ちゃん! それじゃあ、そろそろ行くね。今日もたくさんお話してくれてありがとう、花奈ちゃん」
「うん、それじゃあね、歩夢ちゃん」
彼女の名は高咲侑さん。歩夢ちゃんの幼馴染。そう、幼馴染。
どうやら歩夢ちゃんと高咲さんはすごく仲がいいみたいでいつも一緒にいる。私と話していても、高咲さんが来るなりすぐ切り上げて高咲さんのところに行っちゃうんだ。
歩夢ちゃんが高咲さんの元に行ってしまう。そう考えると、胸が苦しくて。でも、それを歩夢ちゃんに悟られるわけにはいかなかった。歩夢ちゃんには、知らないで欲しかった。
「侑ちゃんはね、笑いのツボが赤ちゃんみたいだから。この前もね……」
いつからかな、歩夢ちゃんは侑ちゃん、という言葉を私の前でよく使うようになった。歩夢ちゃんが高咲さんを呼ぶたび、私の胸はチクリと傷む。
少しでも気を抜けば「私と話してるのに、なんで侑ちゃんの話をするの?」なんて見当違いな言葉が喉から出てしまいそうだった。
しまいには、私とあなたを、歩夢ちゃんを繋いでくれたガーベラさえも、侑ちゃんのものになっていた。
「ガーベラはね、侑ちゃんとの思い出が詰まった花なんだ。だから、すごく好きなの」
そっか、それも、侑ちゃんか。もう、胸の痛みも感じなくなるほど苦しかったことを覚えている。
あのね、私、気づいちゃったんだ。元から、あなたは私の心なんかには咲いていなかった。あなたは、高咲侑という少女のためだけにある花だったんだと。
その日から、ガーベラが嫌いになった。ガーベラを見たら、“侑ちゃん”と笑い合う歩夢ちゃんの姿を思い浮かべてしまうから。
どうして私じゃないんだろう。私にとってのガーベラは、あなたなのに。そんな言葉を奥にしまいながら、私はガーベラを視界から消した。
「花奈ちゃん、様子がおかしいよ?」
「私は大丈夫だよ、歩夢ちゃん。だからその、気にしないで」
こんな私にも、あなたは優しかった。その優しさが痛かった。苦しかった。私なんかに優しくするぐらいなら、その優しさを侑ちゃんに割けばいいのに。
無理しないで、私で良ければ話聞くよ、なんて優しさを与えてくれる彼女は、側から見れば天使のような存在なのだろう。
でも、悪魔である私はその優しさが痛みのように感じられた。歩夢ちゃんを好きでいながら、歩夢ちゃんの幸せを願えない、そんな悪魔だから。
「私に優しくしないでよ!」
だからこそ、私はこんな風に声を荒げてしまう。違うの、こんな顔をさせたいわけじゃないの。私は、歩夢ちゃんの笑った顔が世界で一番好きなの。
歩夢ちゃんの優しいところが好きなの。歩夢ちゃんの素朴なところが好きなの。歩夢ちゃんの温かい声が好きなの。歩夢ちゃんのお人形さんみたいな顔が好きなの。歩夢ちゃんの綺麗な髪が好きなの。そう、全部全部、好きなの。
……私は今更気づくんだ。それが、恋心だったことに。そう気づいた瞬間、様々な感情が雪崩のように崩れていく。
今もなお、そんな私に向かって歩夢ちゃんは優しく微笑む。
やめて、そんな目で私を見つめないで。その笑顔は、私の心を苦しめるだけ。あなたの優しさは、薬じゃなくて毒なんだよ。私を蝕む優しい毒。
ねえ、歩夢ちゃん。お願いだから、その笑顔を私だけに見せてよ。侑ちゃんじゃない、私だけに。
でも、きっとその夢は叶わないのだろう。だって、歩夢ちゃんにとって侑ちゃんは──
「歩夢ちゃん、好きだよ」
だからこそ、私はかすみの前で想いを吐露するんだ。それがかすみの恋心に傷をつけていることにも気づかないまま。