あなたという花 作:ニジガク爆散同好会
私には、好きな人がいます。その好きな人には、好きな人がいます。ただ、それだけのこと。だけど、辛いものは辛いんです。
そう、私の好きな人……花奈センパイは、今日も歩夢センパイへの想いを私に語るんだ。
「はあ、どうしてこんな無謀な恋しちゃったんだろうな。だってほら、私の勝率ゼロパーセントだよ? いっそ面白いよね」
「全くもう、センパイはいっつもマイナス思考ですねぇ。ほら、目の前のかすみんを見習ってくださいよ! 今日もポジティブでかわいいですよっ」
「そうだね、かすみはかわいいよ。でも、私はかすみじゃないからかすみみたいにはなれないや。歩夢ちゃんには、高咲さんがいる。それでいーじゃん? ってなっちゃうんだよね」
センパイが歩夢センパイにしている無謀な恋。きっとそれは私もなのかもしれない。
だからこそ「かすみはかわいいよ」というセンパイの嘘偽りないその言葉が、嬉しくて、苦しくなる。
歩夢ちゃんはいつも思わせぶりなんだよ、って言ってるあなたも思わせぶりなことを言ってるの、気づかないんですか?
うん、きっと、気づかないんだろうな。だって、あなたの瞳に私は映っていないのだから。だからこそ私は、かすみんとして背中を押そうとする。
「そんなんで本当にいいんですか!? 歩夢センパイへの好きはそれぐらい、ってことですよ!」
「……歩夢ちゃんのことは好き。もちろん好きだけど。私は歩夢ちゃんと今の関係性を壊したくないんだよ。歩夢ちゃんに想いを伝えたいのは確か。でも、歩夢ちゃんに距離を取られるのが、一番辛いから」
「セン、パイ」
そう言ってはにかむあなたは、誰よりも綺麗で、だけど、苦しそうで。私がどうにかして幸せにしたかった。
「私じゃ、ダメなのかな?」ふと、よぎるそんな考え。でも、違うよ、花奈センパイは歩夢センパイが好きなんだから。
「私なら、笑わせられるのに」そんなわけない。花奈センパイを笑顔にできるのは、歩夢センパイ、ひとりだけ。
「かすみんじゃ、私じゃダメなんですか」
……気づけば私はそう言ってセンパイの唇を塞いでいた。センパイは、抵抗も受け入れることもせず、ただ私を見つめている。
どうしよう、私、私。何も言えないまま、私はセンパイから顔を離す。すると、センパイは真剣な顔で。
「ごめん」
ただ一言、そう言った。
私は何も言えないまま、センパイの方を見つめる。センパイは、それから何かを察したのか、私を諭すようにこう離す。
「……私の歩夢ちゃんへの恋が叶わないことはわかってる。自分でも、よく分かってるよ」
「きっと、かすみもそれを分かって私にキスしてくれたんだよね。私が無謀な恋をして傷つくぐらいなら私が、って思ってくれたんだよね」
「でもね。今ここでかすみの想いに応えたらさ、歩夢ちゃんを好きな私を裏切るような気がするんだ」
「だから、ごめん」
ねえ、あなたはなんでこんなにまっすぐ見つめてくるの。どうして、まっすぐなの。
叶わない恋をしてるのは、私だって同じなのに。私は優しさだけでセンパイにキスしたわけじゃないのに。
でも、それを口にできるほど“私”は強くなかった。
「なーんて、冗談ですよっ。びっくりしましたか? かすみんはみんなのアイドルですから、誰も好きじゃありませーんっ!」
「……そう」
私はそう言って、センパイに背を向ける。きっと今振り向いたら、ひどい泣き顔を見られてしまうから。
私は、ただ走る。誰にも見られないように、誰にも見つからないように。その時、思うんだ。
ああ、なんで私はあんなことしちゃったんだろうな。私もセンパイの気持ち、分かってたはずなのにな。
私は一途なセンパイが好きで、応援しようって、この気持ちを封じ込めておくって、決めてたのに。
「……歩夢ちゃんのことは好き。もちろん好きだけど。私は歩夢ちゃんと今の関係性を壊したくないんだよ。歩夢ちゃんに想いを伝えたいのは確か。でも、歩夢ちゃんに距離を取られるのが、一番辛いから」
今になって、センパイが口にした言葉がフラッシュバックする。ああ、そっか、それは、そう言うことだったんだ。
今の関係性を壊したくない。たしかに、あなたはそう言っていた。そうだよ、どうしてその言葉を聞いて私は止まれなかったのだろう。
お願いだから嫌わないで、センパイ。私はあなたに嫌われたら生きていけないよ。
己の身勝手さでセンパイを傷つけたくせに、そんな我儘な願いを口にしてしまう私はひどい女だ。センパイが今の私を見たら、なんと言うだろうか。
「かすみはかわいいよ」あなたは、もう二度とそう言ってくれなくなるのかな。あなたのその言葉が、私の生きる希望だったのに。
「好きです、センパイ……」
ねえ、センパイ。お願いだから、ぐちゃぐちゃな私を今すぐ抱きしめてよ。好きって言ってよ。そんな叶わない夢にいつまでも縋ってしまう私は、きっと弱いんだろうな。