「わざとこちらを挑発しているんですね」ジョハンセンがため息交じりにつぶやいた。こういう丁々発止の場面は、彼には荷が重いようだ。
「そうね。今回のミッションメンバーにUNAPの関係者は一人もいない。適性検査をパスできなかったから当然なのだけど。今回の一件をネタにNAFに揺さぶりをかけ、HOと基地メンバーにUNAPメンバーを送り込む算段でしょう」
「しかしそれにしても露骨な…」
「あれだけ強い態度に出れば我々も動揺を隠せないと踏んでるのよ。実際、あなたは動揺しているようだし」チタウロは容赦ない。
「そうですね。お恥ずかしい」
「自覚さえしていれば、問題ない。当基地の統率権はあくまで私にある。ウィリアムスの判断待ちのところはあるけれども、そう簡単に思惑には乗らない」
後ろで黙って聞きながら、達也は覚悟を決めた。最早これ以上、メンバーに事実を隠し続けるわけにはいかない。ゆっくりと立ち上がり、チタウロに話しかける。
「キャプテン、お話しがあります。出来れば全員に聞いてほしい」
集まった12名全員の前で、達也は自らの経験と、その後のさまざまな「実験」について話した。ほぼ1時間を要した。全員の反応はまさに「半信半疑」だった。
最後に達也は、決定的な証拠を示した。
「これからダゴンに、自分が左手を挙げる動作イメージを送り、同時に実際に左手を挙げます。そうすると、こちらから見て右側の部位が上昇するはずです。何度かやっているので、殆どタイムラグはないと思います。モニターを見ていて下さい」
達也はイメージを想起しながら、左手を挙げた。ほぼ即座に、ダゴンの右方前部が持ち上がった。全員が息を呑むのがはっきりと感じられる。
「マジか…」哲夫がつぶやいた。ジョハンセンが尋ねてきた。
「じゃあ、カッサードとの話に出てきた脳波パターンは…」
「ダゴンと共有したイメージが、残っていたのだと思う」
「カッサードに事実を隠したと言うことですか?」
「現時点では推測に過ぎないし、こんな荒唐無稽な話が受け入れられるわけがない。あの場で話したら、地上に送還されて精神鑑定を受けさせられるのがオチだ。俺はあの瞬間ポッドではなくダゴンの視点にいた。だから主観的には全て事実だ」
「…ふふ。たしかにそうね」
チタウロは、心なしか嬉しそうだった。
「私は信じる。実は、ミスター・スドウが話している『ダゴン目線での海中映像』を、夢で見た記憶があるのよ。2回かそこらだと思うし、ただの夢と言われればそれまでの話だけど。他に同様の経験をしている人はいる?」
「はい」ガループがうなずいた。やはり。
「タツヤの行動を見ていてもしやと思い、彼に話そうかとも考えましたが、余りにも常識はずれな話なので、彼から説明があるのを待っていました」
長い沈黙の後、チタウロが再び口を開いた。
「本件をHOにどのように報告するかは、しばらく考えさせてほしい。おそらく“精神感応”が行われているのは事実だと思うが、客観的な証拠を示すのは、非常に難しいと思う」
達也をチラッと見てから、チタウロは締めくくった。
「当面、HOとの交信は私一人で行うわ。以上」