地上は憂鬱を孕む   作:しろたく

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12.疎外と衝突

 3時間後、当直に着くために部屋から出た達也の前を、ハレックが横切った。通り過ぎてからハレックは振り返り、少しためらってから話し始めた。

 「なんで黙ってたんだ?」

 かなり激しい口調だ。達也は少し面食らいながら答える。

 「さっき話したとおり、こんな荒唐無稽な話を信じてもらえないと思ったからだ。何からの確証がない限り、話すわけにはいかない」

 「ああそうか。そりゃ、ダゴンと話せるのはあんただけだからな」

 「どういうことだ?」

 「独占的な地位を守っておきたいのは、誰しも一緒ってことだよ。あんたがそんな奴だとは、考えたこともなかったけどな」

 

 達也は口を開こうとしたが、今日のハレックは全く話す隙を与えない。

 「あんたが黙っていたせいで、全部の計画が中座したままだ。何も進まない。地上の連中からも、妙な探りを入れられる。

 精神感応だかなんだか知らないが、いいか、任務はまだ何一つ成し遂げられてないんだぞ。あんたがブレーキになってるんだ。俺の研究はいつ再開される?メタンハイドレードの採掘計画再開はいつだ?そもそもどれくらい遅れてるんだ?全部不明だ。いい加減にしろよ!」

 

 「…すまん」達也はこれ以外に返す言葉がなかった。

 ハレックは暫く黙り込んだ。さすがに、自分が相当に理不尽なことを言っている事実には思い当たったようだ。

 お互い、それ以上言葉を交わすことなく、二人はその場を離れた。

 

 ハレックの言ったことを、他の隊員も大なり小なり感じているようだった。ダゴンと交信が出来る特異な存在、とされたのか、もしくは単なる得体の知れない存在となったのか。これだけ重要なことを黙っていたことへの非難感情は相当大きかったようだ。

 他の隊員と達也の会話量は、この日を境に目に見えて減っていった。

 それにつれて、達也はダゴンと接触をする意欲を明らかになくしていた。ダゴンからは相変わらず生き生きとしたイメージが送られてきていたが、達也の精神状態を何となく感知したのか、徐々に流入する思念波は減っていった。

 達也は基地に来て初めて、言いしれぬ孤独感を感じていた。何をするともなく、モニターでのダゴンを眺める時間が多くなっていた。

 

 うとうとしていた達也は、怒りの奔流にさらされて突如目覚めた。

 チタウロだ。チタウロが誰かと話している。強い怒りの感情が流れ込んでくる。それだけではない。話している内容が全部聞こえてくる。

 だがそんなはずはない。コントロールルームは、地上との交信中一切の情報を漏らさない仕組みとなっている。居住区にいる自分に、会話が聞こえるはずがない。ということは、精神感応作用の一種なのか?達也チタウロの「声」に耳を傾けた。

 

 「…今の話をもう一度繰り返して下さい。私にとって将来的に不利とならないように、プライベートレコーダーに記録を取ります。細大漏らさず、もう一度」

 相手はウィリアムスのようだ。少し間があった後、ウィリアムスの声が聞こえた。声質はかなり不鮮明だが、内容は解る。

 

 「解った。2年半前、アリューシャン・プロジェクトが発足して半年後に、本海域での生命体反応が確認された。もともとはグリーンチャイナの探索船が発見したものだが、すぐにNAF及びネオNASAにも情報が入ってきた。もちろん、UNAPもその件を承知していた。

 深海5,000m~8,000mの深海域全域に、多数の生命体反応および相当に活発かつ組織的な活動痕跡が見られた。

 生命体の正体を突き止めることを、UNAPは非常に強く求めて来た。だが、プロジェクト全体の目的を損なう可能性があることから、NAFはこれに反発した。

 多数の交渉を経て決定したのは、生命体との接触および、可能であればポッド操作を通じて捕獲・採取を行えるメンバーをアサインし、生命体を発見した際は可能な限り速やかに対応するということだった。

 但し、君を含め隊員には絶対秘密が前提条件とされた。余計な恐怖感を与えたくなかったし、プロジェクト自体の主要目的に必要な人材を割愛するわけにはいかなかったからだ。

 幸いにも、と言うべきか(ウィリアムスはかなりはっきりと沈黙した)、プロジェクト開始後1年半以上にわたって、生命体は全く姿を見せなかった」

 

 「セカンドドーム破損時に2名が地上勤務となったため、ミスター・スドウを急遽派遣したのは、上記の事情による。彼はウルティメイト・ポッド操作の第一人者だからな」

 「ところが生体ソナー射出失敗の一件で、その前提が崩れた」

 「そうだ。UNAPは人員の交代を強く求めている。だが、今君から聴いた話が本当だとしたら、それどころではない。UNAPはダゴンと直接コミュニケーションが出来る能力を持つ人物をどう思うだろう。

 ノドから手が出るほど欲しい人材だろうが、彼らの手に入らないことは自明だ。交代どころか、彼らはミスター・スドウの引き渡しを求めてくる可能性すらある」

 

 「で、隊長である私にどうしろと?既に本プロジェクトの執行権限は、私にはないように見受けますが。ミスター・スドウを捕縛して地上に戻し、UNAPに引き渡せと?」

 「…勘弁してくれたまえ、チタウロ。達也は我々にとってかけがえのない人材だ。この一件がある前から、明白だった事実だ。精神感応能力云々については、この際関係ない。達也を易々と彼らに引き渡すなど、あるわけがない」

 

 「嘘ばっかり」チタウロの声音はまさに氷点下だった。

 「結局、私たちは単なるコマじゃないですか。このミッションで、私に正しく伝えられていることはほんの一部だった。自分と隊員が命を懸けて行なっている行動すら、真の目的とはほど遠いものだった。

 何もかもが隠蔽されていたなんて聞かされて、冷静な判断など出来るわけがないし、ましてやあなた方を信じることなど全く出来ない」

 

 重い沈黙が続く。再びチタウロが口を開く。

 「今日はこれ以上話したくありません。タツヤは、私の部下です。あなたたちの好きにはさせません」。

 話はそこで終わった。ダゴンとの“交信”に比べ、何倍も精神的負担の大きい行為だった。人の話している内容がそのまま頭の中に流れ込んできてしまうなんて、冗談じゃない。ましてや、こんな内容だ。

 

 達也はこれ以上考える気力を失っていた。再び睡眠に入る直前、達也はチタウロが初めて自身をファースト・ネームで呼んでいたことに気づいた。

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