地上は憂鬱を孕む   作:しろたく

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最終話となります。


15.地上は憂鬱を孕む

 結局、達也は一度地上に戻ることとなった。

 

 一連の出来事で心身を著しく消耗しているため、検査と療養を行うこと…が表向きの理由だったが、精神感応の仕組みを根掘り葉掘り探られるだろうことは明白だった。

 チタウロはドームでの療養と検査を行うことを強硬に主張したが、「海底下の抑圧された環境では十分な検査治療はできない」というHOの見解は至極正論で、最終的にはそれが通った。

 とは言え、今のところ彼らとの「交信」が出来るのが自分一人という事実もあり、余り手荒なことはされまいと言う予感が達也の中にあった。

 チタウロは必ず自分をまたドームに戻す、と約束し、哲夫はことのほか力を入れて「帰ってこい。待ってるぞ」と言った。

 社交辞令を割り引いて聞いても、悪い気はしない。

 

 浮上用バチスカーフ到着の3時間前、達也は久しぶりにアルファ波発信器を装着してダゴンとの交信に臨んだ。

 当面最後の交信になるかも知れない以上、出来るだけ鮮明なやりとりをしておきたかった。コトが発覚した後の脳波パターンは全て記録してある。精神感応の仕組みを解明するために、達也は最大限協力する決意だった。

 モニターをオンにし、リラックスした状態で、達也はイメージを始めた。バチスカーフがやってくる、自分がそれに乗り込む、浮上する、そしてまたバチスカーフに乗って降りてくる…

「暫く離れるが、必ずまたやってくる。待っていてくれ」

 イメージを想起しながら、達也はこうつぶやき続けていた。

 

 ダゴンの反応は驚くほど落ち着いていた。悲しみも、怒りも、当惑も何もない。いつもの安心を表す思念波がぼんやりと感じ取れるだけだ。

 やがて、達也は思念波が一つだけでないことに気づいた。ダゴンの後ろに「大人たち」の姿がはっきりと見えた。都合2~3体と言ったところか。ダゴンの直接の保護者なのかも知れない。

 彼らは一貫して「安心」を送ってきていた。達也はそれを、信頼の最上級の表現と受け取った。ダゴン単体だけではなく、ダゴンの眷属たちから信頼を得られたのだろうか。おそらく彼らは、自分とダゴンとの交信をずっと見守っていたのだろう。

 

 15分の交信を終え、達也はもう一度独りごちた。

 「必ず帰ってくる」。

 

 6時間の地上への旅。達也は一人考えていた。

 言葉の通じない知的生命体。形態も生態もおそらく生活様式も、人類のそれとは余りにもかけ離れている。

 そもそも深海5,000mを居住地とする彼らは、本来人類と交わるはずのない種だった。だが、人類は彼らの居場所に土足で踏み込んだ。

 パルプSFなら、ダゴン族と人間との全面戦争になるところだったろう。だが実際には、最初の邂逅から2ヶ月かそこらで、ある程度のコミュニケーションを図ることが出来た。

 お互いが余りにもかけ離れた存在のため、慎重になったことが功を奏したのだろう。

 

 取るものも取りあえず、相手に危険を知らせに行ったときのことを思いだしていた。あのときの衝動は、未だに理解できない。

 HOは「ダゴンに誘導されていた」というかも知れない。だが、達也は確信していた。一度でも深く交流した相手を助けたいと思うのは、当然のことだ。ダゴンも同じだった。

 互いにそのような感情・衝動があることを理解し、行動する限り、我々の関係は続いていくだろう。

 

 彼らとのコミュニケーションが今後どのように進められるのか、想像もつかない。人類側の「精神感応力」が何なのか、達也自身にさえ何も解っていない。不確かな精神感応に頼らない、言語や視覚的交信手段が開発されるだろうか。自分はその時が来るまで、生きていることが出来るだろうか。

 

 海上に近づき、明るさが増していた。今日は晴天だ。3ヶ月ぶりに抜けるような青空を拝むことが出来るだろう。ただ今となっては、地上は幾ばくかの憂鬱をはらむ場所となってしまった。

 

 達也は静かに目を閉じ、浮上の時を待った。

 

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