地上は憂鬱を孕む   作:しろたく

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6.繋がり

 ポッドは即座に回収された。

 達也の悲鳴は、音声回線を通じてドーム内部に響き渡り、基地はセカンドドーム亀裂発生時以来の騒動となった。イェン・クーが直ちに牽引ケーブルの回収を開始し、レーザー担当のジョハンセンはチタウロに大声で尋ねた。

 「ダゴンを狙撃しますか?」

 「いえ、まだよ。ダゴンは何も行動を起こしていない。ポッドを回収し終わるまで、スタンバイ維持して。狙撃は最終手段」

 「了解」

 イェン・クーはポッドを浸水室に収容すると、タンクを窒素大気で満たし、外部ロックを解除して達也を引っ張り出した。まだ気を失っているが、命に別状はないようだ。

 もう一人の医師であるアリッサが医療ドームへ達也を緊急搬送した。一旦、生命維持コンソールに彼を格納した方がいいだろう。

 

 達也は、半分眠っているような意識の状態に置かれていた。

 あのとき見た光景…自分に向かってくるポッド…ダゴンの不在…その時感じた恐怖…

 半催眠状態で意識が解放された状況下で、いろいろなことが繋がってきた。

 間違いない。あれはダゴンが俺を見ていた光景だ。前から見ていた夢と、全く同じだった。あれはダゴンの視点だ。ダゴンが見ているものが、俺にも見えた。ひょっとしたら、ダゴンも俺が見ているものを同様に見ているのかも知れない。

 そして、ダゴンの感じた恐怖がはっきりとこちらに伝わった。あれは断じて俺の恐怖ではない。やつの恐怖が俺の心に潜り込んできた。もっと言うと、奴の精神と俺の精神は完全に同化していた。

 奴は、精神感応が出来るんだ。

 

 意識が完全に戻ったのは1時間後だった。4名が当直についていたが、皆駆けつけてきた。

 「大丈夫ですか?」ジョハンセンが最初に尋ねてきた。彼は全隊員中最も小柄で、年齢も若かった。基地防衛関連のエキスパートだ。繊細で内気な男だが、達也とは妙に打ち解けている仲だった。

 「ああ。心配かけた」

 「メディカルチェックは一通り行いました。身体面の異常は特になし。脳波や心理障害の検査結果はまだですが」

 「そうか」

 「チタウロ隊長がさっきまでHOに報告を行っていたようです。内容は解らないですが、出てきたときの隊長の顔が半端なくおっかなかったんで、まあ大体想像はつきます。達也さんに変な影響がなければいいですが」

 「…任務に失敗したのは事実だ」

 「何があったんです?無理に話していただかなくてもいいですが」

 達也は数秒、考え込んだ。

 「自分でもよく解らないんだ。脳波系のチェックを待とうと思う」

 「解りました。まだしばらく安静ですから、動いちゃだめですよ」

 

 一人になった達也は、サメの補食シーンを思い出していた。

 おそらくあのサメは、ダゴンの精神感応による操作を受けて、何の抵抗もなしに下降していったのだろう。あるいは、目の前に何もないかのような錯覚映像を見せられていたか。

 人間の脳にあれだけ鮮明な映像を送る能力があるのだから、サメなど造作もないだろう。普通に考えれば、まともに敵対してどうにかなる相手とはとうてい思えない。

 

 しかし、達也はある仮説を得ていた。

 あの恐怖心だ。あれはダゴンのものだった。自分が普段感じるのとは全く違う、もっと生々しい感触の恐怖心だった。

 奴もこちらを恐れている。ひょっとして、お互いの恐怖を取り除くことが出来れば、進展があるかも知れない。奴は人間と同じような恐怖を感じる。すなわち似たような精神構造を持っていると言うことだ。ならば、何らかの意思疎通が図れるのではないか?

 既にこう考えていること自体、ダゴンの精神感応に取り込まれているのかも知れない。奴の術中にいるのかも知れない。それでも達也は、ダゴンとコミュニケーションを取れるかも知れないという期待を持ち始めていた。

 とりあえず誰にも言わず、行動を開始することにした。自分以外に同じような精神感応を受けているメンバーがいれば別だが、今のところ俺と奴だけの交信だ。

 危険であることは重々解っていたが、ダゴンと”繋がり”を持った達也には、曰く言いがたい衝動が生まれていた。

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