HOとの毎日のミーティングは、チタウロにとって巨大なストレスとなりつつあった。ウィリアムスは容赦なく事態の説明を求めてくる。
ポッド内での達也の脳波記録、身体記録、及び医療コンソールでの検査記録全てをHOに送っているが、彼は納得しない。
「何が起こったのか、まだタツヤは何も語らんのか」
「…覚えていないようです。脳波には明らかにブラックアウトの記録があります。貴方も見たでしょう。ブラックアウトの直前、強い恐怖心を覚えているのも確かです。ただ、本人が何も覚えていないと言っている以上は…」
「精神探査をかけたまえ」
「本気で言ってるんですか?直近の探査エラー記録、見たんですか。エラー率7%ですよ?隊員をそんなリスクにさらすわけにはいきません。貴方が地上で志願被験者相手にやってるお気楽な実験とは、訳が違うんです」
毎日同じような会話の繰り返しだった。精神探査を持ち出したのは今日が初めてだが、予想通りチタウロの反応は完全な拒否だった。ウィリアムスはため息をつき、話の方向性を変えることにした。
「君に概要を話すのは初めてだが、今般の記録を見たプロジェクト参加各国から、さまざまな要求が出ている。特にここに来て、UNAPが非常に強硬な姿勢に出てきている」
「アル=アシード=カッサードですか?」
「そうだ。彼の支持母体はサウジ=イスラム連合とオセアニア共和国だからな。メタンハイドレードの取り分引き直しに加え、ダゴンを捕獲しろとあからさまに主張するようになってきた。未知の貴重な生命資源を座して見過ごすのか、と言う態度だ」
「DNAハイブリッドのネタ、と言うわけですか」
「ダゴンが知的生命体である可能性が、それなりに取りざたされているからな。
UNAPは資源問題に加えバイオテクノロジー技術の分野で、各連邦国に優位性をアピールし続ける必要がある。最新のバイオプール実験が完全に失敗して、サウジとアルメニアが連合国協定離脱寸前まで行ったらしい。これは前に話したかな」
「初めて聞きました」
「NAFが本件の主導権を握っていることが、いい加減腹に据えかねるんだろう。さすがに明言はないが、隊員の多少の犠牲はやむを得ないという雰囲気だ。
まあ彼らからしたら、ドーム建設時に55名の犠牲を出しているからな」
「そんなことを言ったら、我々だって既に40名以上の犠牲を!」
「解っている。状況を理解してほしいだけだ。とにかく、何が起こったのかを説明して、時間を稼がないといけない局面なんだ。NAFのヘッドクォーター改選まであと2ヶ月だ。少なくともそれまでは」
「…時間稼ぎのために、ミスター・スドウと我々の命をリスクに晒し続けろと。解りました」
まさに氷のような口調だった。回線越しでも明らかにその雰囲気を感じ取ったHOは、軽く首を横に振った。
「詳細決定次第、追って連絡する。以上」