<続きのおはなしとなりますので、まだの方は前編からご覧ください。>
冬の中山レース場、メインレースに位置付けられたWDTの決勝レースは満員の観客のもとで着々と準備が進められていた。
客は今か今かと出走の時を待ちながらも誰が1着でゴール板の前を駆け抜けるのかを予想しあっていた。
そんな熱気を受けながらターフに集ったウマ娘達もまた、出走までの時間を思い思いに過ごしている。
その中の一人、オグリキャップは今から始まるレースに向け芝の状態を確認しながら準備を進めているところだった。
「よぉオグリ!今日は大丈夫そうやな!」
「ん、タマか」
そんなオグリに話しかけたのはタマモクロス、彼女もまたこのレースに挑むウマ娘の一人である。
「いやぁ予選の時はどうなることかと思ったんやが……まぁ、さすがはオグリやな」
「あぁ、心配かけたが私はこの通り大丈夫だ、タマも調子は良さそうだな」
「あぁ、うちはこの日を待っとったからなぁ……久しぶりの全力勝負や!」
びしぃっ!と人差し指を突きつけて宣言するタマをみてオグリも嬉しそうにそのしっぽをゆらりと揺らして見せた。
「それは私もだタマ、この勝負……負けるわけにはいかないな」
「……へ、へへ……ええ気迫や、それでこそ挑みがいがあるってもんや!」
得意気に胸を張って笑ってみせるタマにオグリもまた嬉しそうに笑ってみせる、そんな二人のやり取りを間近で見ていた二人のウマ娘がいた。
「もう、そんなに盛り上がってるところ悪いんだけどこのレースの主役はボクとカイチョーなんだからね!」
気迫たっぷりに不適な笑みを浮かべる二人に割って入ってきたのはトウカイテイオーとそれにつれられてきたシンボリルドルフだった。
「なんや、おったんか」
「ずっといたよー!!モゥ!」
「いやぁ~ちっこいからわからんかったわ!」
「タマだって小さいじゃん!」
「なんやとぉ!!」
「タマよりもボクの方が大きいモンニ-!」
「ぬぐぐぐぐぅぅぅぅ!」
「まぁまぁ二人とも落ち着くんだ。それにしても、私もオグリ……君の走りに少しばかり心配だったんだが……それも杞人天憂、余計な心配だったかな?」
「そうか……すまなかったな。だがこうしてここに私は立っている、それはタマやトレーナー……そしてルドルフのおかげでもある」
「なに、私も君に期待していたのだ。把手共歩、お互いが最良の結果を目指し歩んだゆえのことさ」
「それでも、私がここまでこれたのはルドルフも居てくれたからだ……だが、今ここでありがとうは言わない」
「ふむ?」
「全ての感謝は今日の、このレースで……私の走りで見せることにする」
「っ!」
そう口にしてまっすぐルドルフを見つめる視線は見るものが見れば脚がすくみ腰が砕けるほどの力強さがこもっていた。
「私の全てでもって、皇帝シンボリルドルフ……君の全てに答え、そして上を行って見せよう」
「……く、くくく……あっはっはっはっは!そうか……それならば私も剛毅果断、己の全てをかけるとしよう……皇帝と謳われたこの身この走り、無礼るなよ?」
それ以上の言葉を交わすことなく不適な笑みを浮かべて対峙する二人のウマ娘、その空気は既に一触即発の雰囲気を漂わせていた。
「……なんや、この疎外感」
「ぶぅー!カイチョー!ボクとも勝負なんだからねー!」
会長に相手をしてもらえずに癇癪を起こすテイオーを横目にやれやれと肩をすくめるタマ、そんな4人の様子を遠目に眺めていたのはダイワスカーレットとメジロパーマー、ウイニングチケットの3人だった。
「はぁ~……なんていうか、レース前からなにしてんのかしら、あれ」
「あはは、やっぱすごいねー会長達は」
「うん、やる気に満ち溢れてるって感じするね!」
スタート直前もかくやといった様子で高まっているメンツを遠目に、ゆっくりとストレッチを終えた今はオグリ同様に芝の状態を確認しながらゆっくりとコースを巡っているところだった。
「パーマーとチケットは今日も調子は良さそうね」
「もっちろん!」
「まぁね。それはスカーレットもでしょ?」
「当たり前でしょ?今日もあたしが一番だってことを証明してみせるんだから」
「あたしだってそのつもり……だけど、今日はさすがにちょっときびしーかもね」
「あぁ……スズカがいるもんね」
チケットがチラリと視線を向けた先にはスペシャルウィークと楽しそうに会話を交わすサイレンススズカの姿。
その立ち姿は学園に居た頃とは比べ物になら無いくらいに引き締まっていた。
「今のスズカさんと走るのは一苦労しそうだよ」
「でしょうね……好きに走らせたらどうなるかわかったもんじゃないわね」
「でしょ?スカーレットだって会長やテイオーを相手にするのはかなり厳しいんじゃない?」
「それはそう、だけど……」
「だけど?」
「……今日はそれ以上に警戒する相手がいるわ」
「誰のこと?」
不思議がる2人に目配せしてからスカーレットが視線を向けた先、そこにいるのはややくたびれた白衣に身を包んだ一人のウマ娘。
「タキオンさんよ、何をしてくるかわからないって意味では今日のレースではタキオンさんが一番怖いわね」
「あぁ……確かに」
「トゥインクルシリーズの頃だって油断ならない相手だったけど、この場に立って改めて感じたわ……今日は本当に油断できないって」
「……まぁ、ね。でも……私は私の走りを貫くだけ。ヘリオスの分までね……それはスカーレットもでしょ?」
「なんの話よ?」
「だって、ウオッカの分まで走るんでしょ?」
「はぁ?!べっつに!?あいつなんてその……どーでもいいし!!」
「はいはい」
「うおおおぉぉぉぉぉ!負けた友のために走る!!友情だよおおおお!!」
「ああもうチケットうるさい!!」
「あだじも!!ふだり↑のだ↓め↑には↓じ↑る↓よぉぉぉおおおお!!」
「あーもううっさいうっさい!!本当になんもないんだからね!変な誤解しないでよね!!」
顔を真っ赤にしてずんずんと芝を踏みつけるように歩いていってしまうスカーレットを、ややあきれた顔のパーマーと号泣するチケットが追いかけていった。
一方その頃早々と準備を済ませたマチカネタンホイザは客席近くでアイネスフウジンともども応援に来てくれたヒトの相手をしていた。
「ふーねえ!今日は頑張って!」
「あたし達、いっぱい応援するのです!」
応援席の最前列で柵から身を乗り出しているのはアイネスとよく似た顔立ちの幼い二人のウマ娘。
「あはは、ありがとうなの!二人が応援してくれるならお姉ちゃん100人力なの!それより二人とも!ちゃんとネイチャちゃんの言うことをよく聞くんだよ?」
「はーい!」
「あはは、こっちは心配ないからアイネスもタンホイザもレースに集中しなって」
そういって双子の頭を撫でているのはナイスネイチャ、今日はタンホイザの応援に来ていたのだが途中で迷子になっていた双子を保護してそのまま保護者役として一緒に応援することにしたようだ。
「タンホイザも頑張って、ターボもかな~り悔しがってたからさ」
「あははーまかせたまへー!」
「そういえば、そのターボちゃんとイクノちゃんは?一緒に来てないの?」
そう言ってアイネスは不思議そうに客席を見渡すが、そこに二人の姿はなかった。
「それがねぇ~ターボったら予選でテイオーに負けたのがよっぽど悔しかったみたいでね……「ひみつのとっくんだー!!」って言って飛び出していっちゃってさ。そんでイクノは心配してターボの付き添い」
「へぇ~……それじゃ二人とも今は特訓中なんだね!あれ、でも食事とか大丈夫?」
「大丈夫、まとめて作ってタッパーにつめて大量に送り届けておいたから」
「そうなんだ!……ん?でもひみつのとっくんなんだよね?」
「ん?そうだけど?」
「ん?えっと~……うん、そうなんだ!」
「ところでどうなの?今日のレース」
「んぅ~、正直スズカさんが一番の強敵だねぇ。トゥインクル以上の走りで前を行かれちゃったらどこで仕掛けていいのかわからなくなりそう」
「あたしはがんばってついていくだけかな……でも他にも強敵揃いだからね!うぅ~!気合いが入るよ!」
「あたしも!今日のレースもがんばるよ~えい!えい!むん!」
気合いをいれる二人の姿に双子の妹たちも大喜び、それを見守るネイチャや周りのヒト達も自然と笑顔になりレース前とは思えないほどにほんわかほのぼの空間がそこには出来上がっていた。
一方その頃、負けないくらい和やかな空気で話しているのはサイレンススズカとスペシャルウィークの二人だった。
「スズカさん!今日のレースは本当に楽しみにしていました!」
「ふふ、私もよスペちゃん」
嬉しそうに尻尾をひゅんひゅんと振り回すスペの姿を見てスズカも嬉しそうにほほ笑む。
「スズカさんの海外でのレースも全部見てました!といっても地元の友達に録画してもらったものですけど~……」
「でも応援してくれていたんでしょ?ありがとねスペちゃん」
「えへへ~……でも今日のレースは負けませんからね!」
先ほどまでのでれでれとした表情から一転してキリッとした表情に変わるスペ、スズカもそれを見てほほ笑みながらも引き締まった顔になりしっぽをゆるりと揺らしてみせた。
「私はスズカさんがいつか帰ってくる日を待ち望んで今日までトレーニングをしてきました、地元に戻って一から自分を見つめ直しました。私がこれからも走るために、そしてスズカさん……いえ、サイレンススズカに勝つために」
「スペちゃん……」
「今あなたの前に居るのは日本一のウマ娘を目指して、皆の夢を背負って走った私じゃありません。とっても欲張りでわがままで……たった一人のウマ娘に勝ちたいってことしか考えていないウマ娘です」
そう言いきってみせたスペの顔は精悍さと不退転の覚悟を持った一人のウマ娘の顔をしていた。
「そう……嬉しいわ、私のためにそこまで覚悟してくれたなんて……なら私も、スペシャルウィークさん」
スペの言葉をかみ締めるように聞いていたスズカが顔を上げる。
もうそこにはふんわかほわほわしていた、ただ走ることだけを考えていた少女は居なかった。
「私も貴女と走りたかった……海外に出て沢山のレース場、経験したことのない展開、私を遥かに越える実力者達。そのどれもが私を満たし、先頭への渇望の糧となった……その最後、私の先頭の景色を彩る最後の1ピース……」
言葉として語り昂りを押さえてなお、口角が上がるのを止められない。
「スペシャルウィークさん……このレースは、きっと私の生涯の中でもっとも彩りに満ちた景色になる……だから、全力で勝負しましょう」
「……はい!」
互いに語る言葉をなくした二人が穏やかながらも覇気を纏っていた。
それをどこか妬けた様子で遠くから眺めていたのはセイウンスカイ、彼女は久しぶりの同期の帰還を祝おうと機会を伺っていたのだが……どうやらそれはレース後になりそうだった。
「やれやれ、スペちゃんはスズカさんにお熱ですか~……せっかく同期が顔を出したと言うのに少々妬けますなぁ……まぁ、その方がいろいろやりやすいか」
にししと笑うセイウンスカイだったが、その横ではあきれた様子のメジロマックイーンが居た。
「そうはおっしゃいますが、ああなってしまったお二人を相手にするのは骨がおれそうですわよ?」
「それはまぁ、そうだけどねぇ……まぁ、そこは振られた同士、一緒に考えよぉよ~?」
「なんなんですの、それ?」
マックイーンが心底嫌そうな顔をして一歩下がる。
「マックイーンちゃんだってテイオーに振られたんでしょ?」
「まったく……何を言うかと思えば。テイオーのあれは今に始まったことではございませんわ……それに、このレースは誰かに執着していて勝てるほど甘くはありませんわよ?」
「とはいえスズカさんとスペちゃんは言うに及ばず、会長さんもオグリさんもあの調子だし~他のメンバーもやる気十分、もぅ~セイちゃんやんなっちゃいますよぉー」
「そうですか……私としてはあなたの事も十分に警戒して挑むつもりですけれど?」
「およよ……いやいやセイちゃんは今日はいまいちかなぁ~って思うんですけどねー?」
「そういう時のあなたほど油断ならないものはありませんわよ……特に今年は走りの質がだいぶ変わったようですしね?」
「んーそうでもないとおもうんですけどねー?」
「まったく……なんにせよ今日のレースは強敵揃いです、油断なんてただの一度でも許されませんわ。あなたもその心づもりで居ることですわね?」
そう告げてから一人ゲート前へと歩いていくマックイーンの背中を静かに見送るスカイ。
「まぁ、私はセイウンスカイちゃんですからねぇ~……今も昔も変わらず適度にテキトーに……ただまぁ、待つだけ待ったのも事実ですからねー……今回ばかりは誰にも譲れないねぇ」
一瞬雲が日の光をさえぎり影がセイウンスカイをおおい隠す、その中にうっすら見えたのは狙った獲物を前に勝負の時を待ち焦がれる鋭い双眸だった。
かくしてウィンタードリームトロフィー決勝レースの幕が開ける、その目に微かに青き炎を宿すウマ娘と共に……。
to be next story...
次はまた配信枠の話に戻らせていただきます……さてさて、このレースはいったいどうなることやら。
ちなみにここで登場しているウマ娘さんのうち、☆3勢の大半はまだうちの学園にお迎えできておりません……なんでさ!?
おかしい……某英雄オタクよろしく毎度「すり抜けてくれるなよっ!?」ってお祈りしているというのに……。
さて、次の話は16日の00時の投稿となります。