それはとある配信でのこと。
「それじゃ、今日の配信はここまで~おつまいや~」
コメント:おつまいやー!
コメント:おつまいやー
コメント:っよ!乙舞屋!
コメント:っよ!乙舞屋!!!
コメント:っよ!
コメント:おつまいやー!
コメント:っよ!
「……よし、配信終了っと」
慣れた手つきで配信終了の作業を終わらせてから立ち上がってひと伸び。
固まった体をほぐしながら配信中に飲んだ飲み物を片付けて洗面台で一度顔を洗う。
それから食べそびれたご飯の代わりに戸棚に入れておいたお菓子を手に取って部屋に戻る。
お菓子を摘まみながら読み切れてなかった先ほどの配信のコメントを読んだり、ウマッターでの視聴者達の反応を見るのだが、その中にちらほら気になる話題が出てきた。
「ん~……もう次ですかぁ」
次、というのは次にお披露目する歌動画のこと。
というのも今日の配信はその直前に発表した新しい歌動画の収録や動画作成時の話をするための配信だった。
今回あげた歌動画はウマチューブだけでなく他の動画サイトやウマトックでも話題になっていた歌だ。
茉莉自体も気合を入れて練習しており、また今回歌に合わせたミュージックビデオをなんと本家の動画も手掛けていた絵師さんと編集さんにお願いした自信作だった。
茉莉自身今までの中で一番の出来だと思っており、その反響たるや開始からまだ半日足らずで2万再生を超えていて、業界全体で見ればまだまだかもしれないが茉莉自身としては大満足の結果だった。
そんな中、ネット上ではすでに「次は何を歌うのか?」といった予想合戦が始まっており、視聴者同士であの曲が~とかこの曲は~などなど、盛んな意見が飛び交っている。
茉莉自身そんな話題が出てきてくれることは有難いことだし嬉しい悲鳴なのだが、いかんせん気が早すぎるというもの。
茉莉の苦笑いも詮無き事というものである。
「ん~……どうしよ……」
茉莉自身は歌うことは好きだし、気晴らしやストレス発散でカラオケに一人で5時間くらい籠ることもざらである。なんなら一時期はあまりに歌いたい衝動にかられた結果カラオケボックスを3件はしごして合計11時間歌い続けた*1こともある。
それにかつては競技ウマ娘を目指していたこともあり、ウィニングライブのための歌や発声の練習なんかもしていたためそれほど苦ではない。
事務所からも安定した再生数とチャンネル登録者数増加を見込めるから積極的にやっていくのも有りだと言われているため、こうして定期的に動画を出しているのだ。
「最近しっとり目が多いし……なにか元気な歌がいいかなぁ?」
歌動画自体はセカンドライフに所属する他のバーチャルウマチューバーも数多く出しており、業界全体のトップ層ともなれば1000万再生もごろごろとある。
そんな猛者達に比べれば自分の再生数なんて可愛いものだが、視聴者からの期待があるのならば答えたいと思うのがライバーの性というもの。
「えっと……明日はゲームの配信で……明後日は事務所のマネさんと打ち合わせ。そのあと来月やるコラボの打ち合わせがあるから……うん、日曜はフリーだね」
ウマホでスケジュールを確認すれば、日曜日は久しぶりに一日フリーとなっていた。
「よし、久しぶりにカラオケに行って次の歌動画のネタ考えよっと」
早速アプリに日曜日の予定を登録してからカラオケの機材を出しているメーカーのサイトに飛び、配信されている最新曲の一覧から歌えそうな曲を見繕うことにした。
そんなこんなで予定をこなして迎えた日曜日。ウマ耳を隠すための少し大きめのキャスケット帽をかぶり、少し窮屈になるけど尻尾を隠すためにゆったりサイズのパーカーとワイドレッグのパンツに押し込む。
玄関横の姿見で確認してから外に出れば天気は気持ちのいい日本晴れ。
早速一番近い駅前まで出てからまずはいつも通り朝食兼昼食で腹ごしらえ、何事もやっぱり腹が減ってはって奴ですね。
それから真っ直ぐカラオケボックスに行ってもよかったんだけど、あまりの天気の良さに気をよくした私はそのまま駅前をぶらりと散歩してから向かうことにした。
最近使う頻度の増えたリップクリームや喉のケアのためののど飴やハーブティーなんかを見て回りながらぶらぶらと歩いていたんだけど……なにやら、前方からどこかで見たような人が……。
「……トウカイテイオーさん?」
私の思わず漏れ出た声が聞こえたからなのか、あっちも私のことを見て驚いた顔をした後、嬉しそうに笑ってこっちに駆け寄ってきた。
「あ、茉莉ちゃんじゃん!」
そういって手を振ってこっちに来るのは皆様ご存じトウカイテイオーさん。
トゥインクルシリーズを数々の苦難を乗り越えて走り切り、現在はドリームトロフィリーグにて活躍するウマ娘。
そんな彼女がなぜ私にこんなに親し気に話しかけてくるのかと言えば……実は、私がトレセンを受験した際に次の番号が彼女だったのだ!
……いや、それがどうしたんだよって話でしょ?私もそう思う。
「私のこと、覚えてくれてたんですね」
「あったりまえでしょー?受験の時一つ隣だったんだから!」
「それで覚えているのも珍しいと思いますけど……?」
「えー?そうかなー?」
不思議そうにしているが、私と彼女の接点ってほんとその程度だと思うんだけどなぁ……なんで覚えてるんでしょうかね?
「トウカイテイオーさんは買い物ですか?」
「ううん、ぶらぶらお散歩中。茉莉ちゃんは?」
「私は……その~……」
「?」
「えっと、カラオケに……ちょっと、歌いに行こうかなって」
「……ほほぅ?」
なんでニヤニヤ笑ってらっしゃるので……?
なんだか嫌な予感がして話を切り上げてカラオケに行こうかと思ったけれど、それより先にトウカイテイオーさんに先手を打たれてしまった。
「いいねーカラオケ!ボクも一緒に行っていい?」
「え、一緒に……ですか?」
「うん!嫌だったー?」
「いえ、そんな……でも、トウカイテイオーさんに聴かせられるほどの物じゃ……」
いやいや本当に、レースだけじゃなくその後のウィニングライブも全力で応援するのがファンの務めならば、私がトウカイテイオーさんのライブを見たのも一度や二度ではないわけで。
あんな凄いライブとパフォーマンスを見せる人と一緒にカラオケに行くとかなにそれ拷問かな?
いやでもウマ娘レースを愛するファンであり、当然トウカイテイオーさんのファンでもある私としては一緒にカラオケに行けるなんてもう嬉しい恥ずかし通り越して今すぐ昇天グッバイMyウマ娘生次はちゃんと走れる娘に生まれたいね!って感じですが……あれ、それもある意味拷問なのでは?
「いーのいーの!ほら行こ!」
「あ、ちょ!?」
とっさの事態にフリーズしている間に気が付けばトウカイテイオーさんと手を繋いでカラオケボックスに連行された私は、リクエストされるがままに歌い続けたのでした……。
(この手、今日は洗わないようにしよう……)
Side:トウカイテイオー
その日、ボクはぶらぶらと商店街を当てもなく自由気ままに散歩していた。
トゥインクルシリーズから身を引き、強豪が集うドリームトロフィに参加してからというものの、比較的自由な時間が増えていた。
走りたいと思うレースに出る以外はそれまで所属していたチームへ顔を出し、後輩の練習風景を眺めたり併走などで練習を手伝ったりするくらい。
勿論、ボクは皆の夢や想いをその背に乗せる天下無敵のトウカイテイオーだからね、望まれたレースには絶対出るつもりだけど。
とはいえ以前と比べてレースのこと以外に使える時間が増えたし、これからのことも考えればそういう時間が大切なことも理解しているつもり。
それは、これからの競技シーンのことでもあるし、そこから引退した後のこともある。
「とまぁ……そんなモラトリアムは似合わないか」
自分らしくない思考に苦笑いを浮かべられる程度にはウマ娘として第一線で走りぬいてきたのかな?
なにはともあれ、今はのんびりお散歩を……なんて考えてたら、前から見知った顔が歩いてきたんだ。
あっちもボクに気が付いたのか、昔見た頃よりはちょっと大人びたけど今も変わらない綺麗な水色の瞳が真ん丸になってた。
「トウカイテイオーさん?」
「あ、茉莉ちゃんじゃん!」
相手は立華茉莉ちゃん、たぶんボクのウマ娘生の中でも5本指に入る印象深いウマ娘。
「私のこと、覚えてくれてたんですね」
「あったりまえでしょー?受験の時一つ隣だったんだから!」
「それで覚えているのも珍しいと思いますけど……?」
「えー?そうかなー?」
そう、茉莉ちゃんはボクが中央トレセンを受験するとき一つ隣の番号だった娘なんだよね。
それにしても……当時は推薦だって貰えたはずだったのに「この無敵のテイオー様が受験で落とされるはずなんてないもんね!」なんて考えて一般受験をしてたんだよね……今に思えば随分と無謀な事してたんだなぁ……。
でも、そのおかげで茉莉ちゃんと出会えたんだから、結果オーライだね!
「トウカイテイオーさんは買い物ですか?」
「ううん、ぶらぶらお散歩中。茉莉ちゃんは?」
「私は……その~……」
「?」
「えっと、カラオケに……ちょっと、歌いに行こうかなって」
「……ほほぅ?」
その返答を聞いて思わず顔がニヤニヤしちゃった。
なにせこんな偶然出会っただけでぎょーこーなのに、茉莉ちゃんの歌がまた聞けるかもしれないなんて……こんなチャンス、逃す手はないよねー?
「いいねーカラオケ!ボクも一緒に行っていい?」
「え、一緒に……ですか?」
「うん!嫌だったー?」
「いえ、そんな……でも、トウカイテイオーさんに聴かせられるほどの物じゃ……」
「いーのいーの!ほら行こ!」
「あ、ちょ!?」
何かと渋ってきそうな茉莉ちゃんの手をとってボクはこの商店街で行きつけのカラオケボックスに向かった。
このお店ならウマ娘用の部屋もあるし、機種も器材も豊富だし、提携メニューではちみー置いてるし!はちみー!はちみー!
「ほらほら、早く歌お!」
「うぅ……なんでこんな事に……」
早速デンモクを手に取って茉莉ちゃんに渡す。普段だったらボクかスカーレットが一番争いをするんだけど、今日は特別。
少しでもたくさん茉莉ちゃんの歌を聞きたいからね!
「えっと……それでは、お耳汚しかと思いますが……」
「いーのいーの!思いっきり歌ってよ!」
すでに歌うよりも聴くことがメインになってる気がするけど、まーいいか!
備え付けのモニターに映ったのは最近ウマトックで有名なアーティストの曲だった。
茉莉ちゃんはマイクを手に持ち、一度目を瞑ってから深呼吸して……それからすっと目を開いた。
その瞬間、ボクの体にレースでも中々感じられないくらいの衝撃が走り抜ける……それはまるで会長や名だたる先輩たちの領域を体験した時のよう。
「(そうそう……やっぱり、茉莉ちゃんはすごいなぁ!)」
その衝撃を未だ持て余しながらも茉莉ちゃんの歌に聴き入ってたボクは、あの日……受験で出会った頃の事を思い出していた。
トレセン学園の入学試験には3つの試験項目がある。
一つは学力試験、トレセン学園は学校でもあるから当然頭の良さは求められるし、地頭がよければレース展開を考える上で何かと助けにもなる。
次はもちろん試験レース、ウマ娘なんだからやっぱり走る力が無いと入学なんてできないからね。
そして最後にあるのが……試験ライブ。
会長が常々言っている「ウイニングライブをおろそかにする者は、学園の恥」という言葉にもある通り、ライブはレースと同じくらい大事で切っても切り離せない存在。
ただ頭がいいだけでも、早く走れるだけでもいけない。その三つがあって初めて一流のウマ娘になれる……だからこそそれを入学する前に見るみたい。
試験は願書提出後に受験票と一緒に与えられた課題曲を歌う内容で、その時は「Make Debut!」だったかな?
沢山のウマ娘達がそれぞれ持ち味を生かして歌っていて、もちろんボクも自信は満々だったけど、それでもこれは……!って思える娘が何人かいた。
そんな中、ボクは順番を待つ中でふと隣の娘の様子が気になった。
「(この娘……たしか、立華……茉莉ちゃん、だっけか?)」
偶然一つ隣の番号になったウマ娘。名前に関しては他のウマ娘は皆ウマソウルの名前を名乗っていたのに、彼女だけ親からもらった名前を名乗ってたから珍しくて覚えていたんだ。
筆記試験では最後までうんうんうなってたし、試験レースでは組み合わせが違ったおかげで見学できたけど、後ろから数えた方が早い順位だったかな?
そんな娘だから、さぞ悲壮感漂う感じで次に歌うボクとしては困ったなぁなんて思ってたんだけど……。
「……~♪~~~♪」
その子は直前に歌っている娘の歌に合わせて鼻歌を歌っていたんだ。どう見ても悲壮感漂う感じではなかったし、まして緊張している様子もなかった。
「(相当自信あるのかな?それとも開き直っただけ?)」
なにはともあれ、ボクの前で試験会場がお通夜みたいにならないことだけは確実そうだからボクは一安心していたんだ。
でも、それは大きな勘違いだった……。
「受験番号405331、立華茉莉です!よろしくお願いします!」
順番が回ってきて、元気に挨拶してからステージに立った彼女は手に持ったマイクを胸に抱き、目を瞑って深呼吸していた。
そして、顔を上げてその瞳を開けた瞬間……ボクは今まで感じたことのない衝撃を体中に受けたんだ。
「(っこれ……なに!?)」
流れてくるメロディーはさっきと全く同じもので、耳に届く歌詞ももちろん同じもの。
それなのに、ボクにはその曲が全く違うものに感じたんだ。
そのうち視界は真っ白に染まっていて、ボクはまったく知らない場所に一人立っていた。
そこがどこなのかわからない、でもかすかに聞こえてくるなにかの音と声が、ボクにどうしようもない焦燥感を与えていた。
訳も分からず走り出して、でもその音と声は何処から聞こえてくるのかわからなくて、ともすればすぐ側から聞こえている気がして……。
気が付いたときには、茉莉ちゃんは歌い終わっていて綺麗なお辞儀をして舞台袖に下がって行くところだった。
あまりの衝撃に言葉が出なかったのはボクだけでは無かったみたいで、試験官(あとでそれが理事長とたづなさんだって知ったんだよね)も呆然と彼女を見送っていたし、順番を呼ぶ人もしばし次を呼ぶのに時間がかかったくらいだからね。
結局ボク自身もあの衝撃が忘れられなくて一通り上手くは歌えたけどそれだけで……ボクよりも後ろの順番の娘達なんてさらに委縮しちゃってぼろぼろだった。
試験が終わって帰る時に声をかけようと思ったんだけど、ボクが荷物を置いてある待機場所の教室に戻ったころにはもう茉莉ちゃんは居なくて……でも、まぁいいかって思ったんだよね。
だって、あんなに凄いパフォーマンスをボク達に魅せてくれる娘なんだもん、受からないわけがないよね!って……あの当時は思ってたんだけどね。
いざ入学してみたら茉莉ちゃんはまさかの不合格で「ワケワカンナイヨー!」ってなったのを覚えてるよ。
「(今も変わらない……ううん、あの頃よりももっと!)」
一曲歌い終えた茉莉ちゃんは恥ずかしそうにしていたけれど、むしろもっと自信を持つべきだとボクは思うんだけどなぁ……?
なにせこの走っても歌っても踊っても一流のトウカイテイオー様が認めているんだから……さ?
「(そういえば、最近ネイチャが教えてくれたバーチャル……ウマ娘?……なんだか茉莉ちゃんの歌に似てるなぁ?)」
...side:トウカイテイオー end
▶ ▶┃ ・ライブ
チャット∨
『今日は疲れてるからのんびり雑談するよ』
シルトマイヤー【セカンドライフ3期生】 メンバーになる チャンネル登録
チャンネル登録者数 7.3万人
「こんまいや~……セカンドライフ3期生のシルトマイヤーです」
コメント:っよ!紺舞屋!
コメント:っよ!
コメント:おい声どうしたよ?
コメント:マイヤーちゃん!ボイチェン切れてるよ!
コメント:まじかよ、今までの可愛いマイヤーちゃんボイスを返して……
コメント:ボイチェン使ってたんですね、失望しましたチャンネル登録解除します
「いやいや、ボイチェン使ってないから……んんっ!……今日はね、ちょっと喉の調子が悪いのです」
コメント:ボイチェン使ってないんですね、よかったですチャンネル登録しなおします
コメント:相変わらず手のひらくるっくるで芝
「いやぁ、今日はさ。久しぶりにカラオケに行ったんだけど……ちょっと頑張り過ぎちゃった、みたいな?」
コメント:まさか、友達と……?
コメント:おいおいマイヤーちゃんがそんなこと出来るわけないだろ?
コメント:セカライ1の人見知りクソ雑魚ナメクジ小動物やぞ?
「ちょっと言い過ぎでしょ!?残念でした~お友達とカラオケに行ってきたんですー!」
コメント:マイヤーちゃん、イマジナリーフレンドは本当の友達ではないのよ?
コメント:エア友達とカラオケって斬新だな
コメント:その場合二人分の料金払うの?
コメント:一人だけなのに二人分の料金払われるとか、カラオケ店員にはホラー体験過ぎんだろ
コメント:一人カラオケっていいよね……こう、自由で、救われた気がしてさ……
「君達ぃ……?まったく、本当に友達と行ってきたんだってば!まぁ……偶然出会って一緒に行ったんだけど……なぜかやたらリクエストばっかりされてほぼほぼ私しか歌ってなかったけどさぁ……」
コメント:マイヤーちゃんの生歌とか普通に羨ましい
コメント:俺たちでさえまだ聞いたことがないのにっ!!
コメント:っく!もう今日の上限まで投げてしまった……
コメント:上限ニキは自重してもろて
コメント:この人さっき夕の木ラジオで5万投げてたニキじゃねーか……
「こらこら!スパチャは嬉しいけどそういう使い方しないの!上限ニキさんは特に自重しなさい!生歌に関しては……まぁ、いつか機会があれば……?」
コメント:あれは登録者数上位のライバーが優先だからなぁ
コメント:#もっと伸びろシルトマイヤー
「あはは……まぁ、いつかは他の先輩や同期の皆と一緒に出たいかな?」
リコリス:ステージで待ってるぞ!
夕日飛鳥<夕の木ラジオ>:一緒に出ようね!
コメント:リコリスパイセン!
コメント:ゲテモノ先輩きとるやないかい
コメント:先輩と同期もよう見とる
リコリス:(*ФωФ)ニ゙ィー ゲテモノじゃないぞ
コメント:ヒェッ
「あ、リコリス先輩!飛鳥ちゃんもいらっしゃーい。そうだねぇ……みんなでライブとか絶対楽しいだろうなぁ。今日一緒にカラオケに行った友達もすごく喜んでくれてたし」
コメント:学校の友達?
「ん~学校ってわけではないんだけど……その娘とは昔トレセン学園を受験した時に知り合った娘なんだ」
コメント:でもトレセン学園は入学する年齢が結構ばらけてるはず
コメント:年下?
「あ~……多分同年代かなぁ?」
コメント:さすがにトゥインクルシリーズ現役ってことは無いだろ?
コメント:てことは引退してるかドリームトロフィってことか
コメント:ドリームトロフィ行ってるならかなり強いウマ娘ってことになるが?
コメント:あそこは上澄みのさらに一滴が集う魔境
「うん、その友達は今もドリームトロフィで走ってるよ……思えば受験を受けた頃から他の娘達とは違ってたなぁ」
受験会場で出会ったのは今と比べるとまだ体はしっかり出来上がっていなかった頃のトウカイテイオーさんだった。
それでも他のウマ娘達と比べても抜きんでた存在感だったし、番号が一つ違いということもあって試験会場で隣にいた私とは月と鼈と例えても月どころか鼈にさえ失礼、もはやウマ娘とアオミドロほどの差があった気がする。
実際筆記試験を受けた時なんて私は最後まで問題を解くのに必死だったのに、隣で受けてたトウカイテイオーさんは何一つ迷う雰囲気を感じなかったんだから、その差は歴然だったんだろう。
その後の試験レースでは周りの重圧に負けて結果13人中11位。
受かると思ってなかった私も流石に落ち込んで、試験会場になってる芝レース場の観客席に向かうと、丁度トウカイテイオーさんの試験レースが開始されるところだった。
スタートしてゲートが開くと一斉に飛び出して来るウマ娘の中で、トウカイテイオーさんは絶好の先行位置をキープしながら終始落ち着いて走っていた。
そして最後のカーブで一気に順位を上げて結果は2位に4バ身差をつけての圧勝。
その走りがあまりに綺麗で眩しくて……「あぁ……こういう娘がここで活躍してくんだなぁ」って思ったら、なんだか腑に落ちちゃってさ。
結果そこで吹っ切れた私は最後の試験ライブには「せめて記念受験だと思って悔いなく思いっきりやっちゃおう」って挑めたんだよなぁ。
まぁ歌い終わっても全然反応がなかったから……きっとダメダメだったんだろうけど。
私にとっては今に繋がる一つになっているいい思い出だね。
「どういうわけかその娘は受験の時に出会っただけの私を覚えててさ……ほんと、なんでだろ?」
コメント:この娘また言ってる……
コメント:俺知ってる、こういうのが「また俺何かしちゃいました?」ってやつだ!
コメント:はいはいまた俺また俺
「……どういうこと?」
絶妙に自己評価が低いシルトマイヤー改め茉莉ちゃんでした。
ちなみにトウカイテイオーは茉莉がバーチャルウマ娘シルトマイヤーだとはまだ知りません。
ルドルフをもってして「ウイニングライブをおろそかにする者は、学園の恥」とまで言わせるほどこの世界ではレースと同じくらいウイニングライブにも重点が置かれています。
ならば、地方はともかくとして中央トレセンでなら入試項目に「ライブ技能」があってもいいんじゃないか?と思い、この小説の世界では採用しています。
もちろん加点内容としてはやはり走る力のほうが大きいでしょうけどね。