とあるモブ男子の奈桜ルート攻略   作:Sh1Gr3

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※少しでも吐き気を催したらそっ閉じ推奨です。


プロローグ
備忘録の中身


 

 

 

 六月。梅雨というのは、なんとも気が滅入る。

 

 雨の多いこの季節は、湿気が高くて髪の毛はぺたんこになるし、傘は必需品なので片手は常に塞がっているなど、文句の言葉は挙げれば挙げるだけきりがない。

 

 昔──まだ部活動などをやっていた頃は、練習が嫌で雨乞いなんてものもよくしたものだが、今となっては遠い過去の話。

 

 いや、そんなに遠くもないか。まだ大学生だしな、俺。

 

 それにしても、こんな天気の日に朝から講義だなんて最悪すぎる。しかも必修科目なので、休みに休めないときた。まったく、この運の悪さはもうどうしようもないんだろうな。

 

 遠い空より降り注ぐ、多量の雨粒に嫌気を覚えながら、待ち合わせ場所へと足を進める。

 

 時間には少しばかり余裕はあるが、彼女のことだ。もう待っているに違いない。そうは思いつつも、この雨のせいで足が早まることはないのだが。

 

 待ち合わせ場所へ到着すると、案の定、彼女の方が先に到着していた。

 彼女は俺に気付くや否や、こちらに駆け寄ってきた。

 

 「も~っ! 遅いですよ!」

 「いや、まだ時間あるやん」

 「関係ないですよ! 彼氏さんは彼女さんより先に、待ち合わせ場所に着いているべきですっ!」

 「なんでだよ……」

 

 それだと待ち合わせ時間の意味がないじゃん、という言葉はなんとか飲み込んだ。

 まったく、この強引な性格は高校の頃からちっとも変わっていない。

 

 「珍しいですね。言い返してこないなんて」

 

 目の前の彼女──高科 奈桜(タカシナ ナオ)は、不思議に思ったのか首を傾げた。

 

 「これは雹でも降りそうですね!」

 

 好き放題言ってくれるが、こちらは朝から外に出ないといけないことに加え、この空模様。

 テンションは地面を掘削して、マントルを通り超えて、ブラジルをも通過できるんじゃないかってレベルで低いのだ。いつものノリで付き合っていられるか。

 

 もっとも、これを口にはしない。口にしたら最後、色々と面倒なことになるからである。

 

 「行こう、もう」

 「無視ですか?!さすがのナオっちも傷つきますよ!」

 

 聞こえないふりをして、駅の改札口を通る。奈桜も観念したのか、続いて改札を通過した。

 

 「やれやれ。こんな可愛い彼女さんが横にいるのに、テンション低すぎますよ」

 「ああ」

 「むぅ……本当に拗ねますよ? ナオっちの心は硝子で出来てるんですからね!」

 「……身体は?」

 「剣で出来ている」

 「へー、やるやん」

 

 ふむ……どうやら前に勧めた某アニメは、しっかり予習済みのようだ。

 

 (こんな可愛い彼女さん……か)

 

 横では奈桜が「どうですか?ちゃんと予習してきましたよ!」と、変わらずどや顔のまま。

 そんな奈桜を見て、俺は「ふっ」と小さな笑みを浮かべた。

 

 「あ、やっと笑いましたね。それ、いただきです!」

 

 カシャリ──はっとして音の方向を見たが、時すでに遅し。

 奈桜のスマホで、俺の間抜けな顔面が撮られた後だった。

 

 「おい」

 「別にいいじゃないですか~。減るものじゃないですし」

 「減る」

 「なにが?」

 「やる気」

 「それなら問題ないですね。ナオっちの愛情パワーで即回復ですよ!」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら、奈桜は撮った写真を当然のように保存した。

 こうなっては、もうどうにもならない。油断した俺の落ち度である。

 

 俺はため息を吐きながら、いつものホームへと続くエスカレーターを登る。

 ふと、後ろで奈桜が言った。

 

 「そういえば、初めて会った日もこんな天気の日でしたねえ」

 「……そうだっけ」

 「えぇ、覚えてないんですか?ナオっちまたまた傷つきましたよ」 

 

 後ろは振り返らないが、ちくちくと背中に視線を感じる。

 まあ、ああは言ったが別に忘れたわけではない。いや、忘れられるわけもない。

 

 奈桜とのあれやこれやは、初めて会ったあの日から、今に至るまで俺の頭の中に備忘録として刻まれている。

 でもそれを口にはしない。口にしたら最後、かなり面倒なことになるからである。

 

 (確かに、こんな天気だったな)

 

 そう、あれは俺がまだ、親切高校の1年生だった頃の話──。

 

 

 

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