モブ男に奈桜ルート攻略させてみた   作:Sh1Gr3

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彼女たちとの日常⑥

 あっという間に夏休みが終わり、新学期がやって来た。

 今年の夏休みは、家でひたすらゴロゴロして、朝方までアニメとゲーム三昧で過ごした。あと、面倒な宿題を少々。

 

 まあ、去年とそう大差なかったかな。いやあ、それにしても実家は最高だった……。

 

 ──ああ、そうだ。一つだけ去年と明確に違うことがあった。

 

 それは、今隣を実に楽しげに歩いている人から、毎日のように鬼電がかかってきたことだ。

 あれはえぐかったなー……一日中電話した日もあったし。それに、宿題まで手伝わされたしな。

 

 といったごたごたもあり、今年の夏休みは去年より終わるのが早く感じたのだった。

 

 「あっ、これですよこれ!」

 

 隣を歩く高科さんが、お目当ての物を見つけたようで、それに駆け寄って行った。

 元気だなあ……こっちはまだ夏休みモードが抜けきってない上に、また学校を抜け出して遠出させられて、心も体もへとへとだってのに。

 

 「よかったぁ……わざわざ遠出した甲斐がありましたよ」

 

 手に取ったそれを見て、ほっと胸をなでおろす高科さん。

 意外に思った俺は、へとへとながらもそれについて訊いた。

 

 「料理なんてするんすか?」

 「いえ、これは友達の誕生日プレゼントなのですよ」

 

 なるほどね。まさかあの高科さんが?と思ったけど、案の定違ったようだ。

 だって、今日まで高科さんの口から料理の「り」の字も聞いたことなかったし。

 

 「……いまとても失礼なことを考えてませんでした?」

 

 俺の心の内を感じ取ったのか、高科さんがジト目を向けてくる。

 俺は目が合わないようにレジの方を見て、さっさと会計を済ませてくるよう促す。

 

 「ほら、空いてますよレジ」

 「おっと、では買ってくるので待っててください!」

 

 素直にレジへと走って行った。危ない危ない……。

 会計が終わるまで、俺は店の外で大人しく待機。高科さんはものの数秒で戻ってきた。

 

 「さて! あとはこれをコンビニで送れば、今日のミッションは完了ですよ!」

 「? 郵送するんすか?」

 「はい。コンビニで送りますので、ついて来てもらえますか?」

 「それは全然いいすけど……」

 

 そのまま二人で近くのコンビニに向かう。

 てっきり、同じ高校の友達にプレゼントするのかと思ってたのだが……郵送してまでプレゼントするなんて、高科さんらしいな。

 

 「さすがっすね」

 「なにがですか?」

 

 小首を傾げる高科さん。自覚がないのも彼女らしい。

 

 「郵送してまでプレゼントとか、自分やったことないんで」

 「ああ、そういう意味ですか。このプレゼントは同じ高校の友達に送るんですよ」

 

 えっ、そうなの……?

 

 「直接渡さないんすね」

 

 すると、高科さんは少し困ったように笑って言った。

 

 「どうも手渡しでは受け取ってもらえないので、その子には第三者から渡すようにしているんですよ」

 「……そうなんすか」

 

 珍しい。リアルに友達300人作れそうな高科さんが、手渡しできないなんて。

 

 「でもチェックは完璧です。いま欲しい物はこれに決まってますよ」

 

 自信満々のご様子。でも、俺の意識は既に、これを渡す相手が誰なのかという疑問に向いていた。

 わざわざ郵送なんて、面倒なことをしてまでプレゼントを渡したい人か……いったいどんな奴なんだろう。

 

 「……めんどくさい事をしてるのはわかっているんですよ」

 

 高科さんが、目をつぶって静かに言う。

 ……また俺の心の中を察したわけじゃないよな?

 

 「プレゼントを渡すのもただの自己満足です」

 「……」

 

 俺はニコッと笑って喋る高科さんを見て、プレゼントを渡す相手が誰なのかなんとなく察した。この顔をする時の高科さんは、あの人の話をする時と決まっているからだ。

 

 まったく、友達なんて白々しい。俺に隠す必要あるのかよ。

 

 「喜んでくれるといいすね。芳槻さん」

 「! な、なんで急にさらが出てくるんですか??」

 「……別に言いたくないならいいですけど」

 

 そう言って、俺は少しだけ歩くスピードを速める。

 

 「ああっ?! わかりましたからおいて行かないで~!!」

 

 慌てて追いかけてくる高科さん。

 そう、それでいい。どうせバレるんだから、全部話してしまえ。

 

 「もう、信吾君には敵いませんねえ。お察しの通り、これはさらへのプレゼントですよ」

 

 やっぱり。そういうことなら、手渡しできないのも納得できる。

 高科さんを前にした時の芳槻さん、すぐに不穏モードになっちゃうからな。

 

 「情けないと思いますよね。手渡しできないなんて」

 

 そう喋る高科さんは、今度は自嘲気味に笑っていた。

 

 「わかってるんですよ。でも、あたしは……」

 「別にいいじゃないすか」

 

 高科さんらしくない悲壮感を漂わせる姿に、俺はつい口を開いてしまった。

 

 「結局プレゼントなんて自己満だし。芳槻さんが喜ぶならそれでいいんじゃないすか」

 「信吾君……」

 「ただ、姉ならもう少しなんとかした方がいいっすね。いつまでもこれはちょっと」

 

 俺の台詞に、高科さんが目を丸くする。

 やべ、言い過ぎたかなと気にしていると、

 

 「あれ~? あたし、さらの姉だなんて一言も言った覚えないですよ?」

 

 すぐに元の調子で、逆に訊き返してきた。

 俺は呆れ気味に、その問いに答える。

 

 「言わなくてもバレバレっす」

 「あはは、やっぱバレちゃいましたか」

 

 そりゃあわかるだろ。あれだけ匂わせておいて。

 わからないのパワポケ君ぐらいじゃないか?

 

 「そうですね……いつか、ちゃんと手渡しできる日が来たらいいな」

 「……」

 

 気に入らないな、その祈るような目。

 いつも通り、ゴリ押しで乗り込んでいけばいいのに。

 

 「できるんすか? そんな調子で」

 

 挑発気味に訊いてやると、

 

 「あたし一人じゃ無理だったかもしれないですね~」

 

 なんて呑気な返事が返ってくる。続けて、

 

 「でも、今のあたしには信吾君という最強の相棒がいますからね! なんとでもなる気がしますよ!」

 

 そうきたか……でもお生憎様、俺よりもっと頼りになる人がいるんだよな。

 

 「俺なんかより、パワポケ君の方が頼りになりそうすけどね」

 「あ、確かに。パワポケ君はコミュ力の塊ですからねえ。信吾君と違って!」

 

 おい、一言余計だぞ。これだからコミュ力に全振り人間は……。

 俺はため息を吐きつつも、ふと気になったことがあり話題を変えた。

 

 「芳槻さんの誕生日っていつなんすか?」

 「10月18日ですよ。もう来月ですね~」

 

 それを聞いて、俺は少し驚いたと同時に黙考する。

 俺と誕生日が近いとかいうどうでもいいことは置いといて──芳槻さんが誕生日ということは、イコール高科さんも誕生日ということだ。

 

 そっか……相方として、さすがになんか買わないとなあ。ちょっと探ってみるか。

 

 「高科さんはなんか欲しい物とかないんすか?」

 「あたしですか? あたしは信吾君と毎日一緒にいるだけで満足ですよ!」

 「……そうですか」

 

 だめだ、訊いた俺がバカだった。

 となると……やべー、こういう時ってどうしたらいいんだ。経験がなさすぎて終わってるぞ。

 

 「あっ、コンビニが見えてきましたよ!」

 「……」

 「ほら、行きますよ!」

 「! そんなに走らなくてもコンビニは逃げないっすよ……」

 

 俺は高科さんに手を引かれて、コンビニへと走って向かう。

 しかし、頭の中はもう、来月の10月18日のことでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆彼女たちとの日常⑥ その2◆◆

 

 

 授業と授業の合間の休憩時間。

 トイレからの帰り道、廊下を歩いていると、

 

 「……」

 

 廊下の片隅から、黙ってこっちをジッと睨みつけてくる桜井さんの姿が目に入った──否、入ってしまった。

 まじかよ……てか、ここ二年生のフロアだぞ。なんでいるんだ……?

 

 しかし、教室に戻るためにはここを通るしかない。別に遠回りして行けなくもないけど、急に引き返したら追いかけてきそうだしな……。

 

 俺は一呼吸入れてから歩き出した。そして、桜井さんが目の前に迫ったところで会釈する。

 

 「うっす」

 「……どうも」

 

 そう言って、桜井さんはペコリと頭を下げてくれた。少し怪しい間があったけども。

 でも、これは大成長じゃないか? てっきり、また成敗されることも覚悟してたのに。

 

 俺は桜井さんを刺激しないよう、静かに話しかける。

 

 「何してるんすか?」

 「……神城さんには関係ないです。あっち行ってください」

 

 しっしと手を払われてしまった。どうやら、まだ嫌われてるらしい。

 大人しく教室に戻ろうとすると、

 

 「あっ!」

 

 急に、桜井さんが声をあげた。桜井さんは、まっすぐ教室の方を見ている。

 俺も同じように教室の方へ目をやると、そこには教室から出てくるパワポケ君が見えた。

 

 「神城さん、あの人だれですか?」

 「えっ?」

 

 あの人……たぶん、パワポケ君のことだよな。他にあまり目立つ人もいないし。

 

 「パワポケ君すね。野球部の」

 「パワポケ……仲良いんですか?」

 「まあ、それなりっすね」

 「ふーん……」

 

 なんだ? パワポケ君がどうかしたのだろうか。

 

 「あの男が最近、さらちゃんにちょっかいかけてるみたいなんですよ」

 「ちょっかいすか……?」

 「そうです。なので、ここで張り込んでとっちめてやろうと思いまして」

 「はあ……」

 

 まじか。パワポケ君まで、桜井さんの成敗の犠牲になりかけているとは……。

 

 「本当は神城さんも、このいつきが月に代わって、おしおきしてやろうと思ってたんですけど」

 「えぇ……」

 

 勘弁してくれ。尻がいくつあっても足りないから。

 

 「でも神城さんには、この前助けてもらった恩があるので。今日のところは見逃してあげます」

 「あ、あざす」

 

 よかった。やっぱ恩ってのは返ってくるものなんだな。

 ──よし、それじゃあ今回も恩を売っておくとするか。

 

 「この階で暴れると危ないっすよ。高科さんも芳槻さんもいるんで」

 「うっ……た、確かに」

 「どこで見られてるかわからないすからね」

 「だ、だからって、どこの馬の骨ともわからない男にさらちゃんは任せられないし……」

 

 馬の骨は面白すぎる。パワポケ君って、この学校じゃ結構有名なはずなんだけどな。

 

 「とりあえず、張り込み続けてみたらいいんじゃないすか?」

 「うーん……そうします。私も命は惜しいので」

 「賢明っすね」

 

 ふぅー……なんとか丸く収められたかな。パワポケ君も守り、桜井さんも守る。まさに一石二鳥だ。

 ──そうだ。桜井さんなら教えてくれるかも。

 

 「ちょっと訊いてもいいすか?」

 「……なんですか。私まだ貴方のこと認めていないんですけど」

 

 目を細めてこっちを見てくる桜井さん。

 くっ、でも俺もここで引くわけにはいかない……!

 

 「その、10月18日なんすけど……二人の誕生日じゃないすか」

 「ほぅ……さすがに誕生日は知ってましたか」

 

 少しだけ、桜井さんの目から鋭さが消える。

 よし、このまま畳みかけるぞ!

 

 「それでなんすけど……二人が何を好きなのかとか、教えてもらえないかなーと……」

 「なんで私が教えなくちゃいけないんですか。さっきも言いましたけど、私はナオちゃんの彼氏として、まだ貴方のことは認めていないんですよ」

 「……そうですよね。すみません」

 

 手厳しいお言葉をいただいてしまった。さすがに調子に乗りすぎたか……。

 そう諦めていたら──。

 

 「ああ、もう! 今回だけ協力してあげますよ!」

 「えっ?」

 「神城さんには、二回助けてもらいましたからね。でも、これでチャラですよ」

 「あざっす! 助かります!」

 

 ナイス過去の俺! 

 やっぱ横のつながりってのは大切にしなきゃね。こういう時に助かるから。

 

 「まったく、ナオちゃんはこの人のどこを好きになったんだろ」

 

 呆れた様子でため息を零す桜井さん。

 それは、それだけは俺も未だに分からないんだよな……。

 

 

 

 

 

 ◆◆彼女たちとの日常⑥ その3◆◆

 

 

 その日、とある授業で小テストが返却された。

 

 「おお! 今回の小テストは結構、いい点だったぞ」

 

 前の席のパワポケ君から、実に満足げな声が聞こえてきた。どうやら、小テストの出来が良かったらしい。

 

 「おい! パワポケ!」

 「なんだよ。越後」

 「いま返してもらった小テスト、何点だった?」

 

 パワポケ君と同じ野球部の越後君。こちらも自信ありげなご様子である。

 このまま点数勝負に発展しそうな予感だ。

 

 「なんだか自信たっぷりの顔だな」

 

 目を細めるパワポケ君。が、すぐにその目がカッと見開かれた。

 

 「しかし! 今回は俺も自信があるぜ!」

 

 パワポケ君の台詞に、「やれやれだぜ」と首を振る越後君。

 

 「じゃあ、同時に点数を言い合おうぜ。負けたらジュースだからな」

 「ああ」

 

 両者の合意によって、勝負が成立した。

 パワポケ君が「せ~の!」と掛け声を出す。

 

 そして──。

 

 「「6点!!」」

 

 結果は同点。引き分けに終わった。

 

 「なかなかやるじゃないか! 越後! さすが俺のライバルだぜ」

 「お前こそ」

 

 互いを称え合う二人。

 そんな二人を見て、荷田君が呆れ顔でつっこむ。

 

 「これは50点満点でやんすよ。なんで二人とも、そんなに誇らしげでやんすか」

 

 中々に辛辣である。

 まあ、俺ももう少し頑張れとは思わなくもないけど。6点って二問しか正解してないってことだし。

 

 「二人とも、少しは神城君を見習うでやんす」

 「なんだよ神城。俺たちと勝負しようってのか?」

 

 越後君の目が俺へと移る。

 俺は思わず苦笑い。

 

 「いや、別に……」

 「やめとけ越後! 見ろ、神城君の答案を! さすがの俺たちでも分が悪すぎる!」

 

 パワポケ君の言葉を聞いて、越後君は俺の机の上の答案に目を向ける。

 すると、すぐに目を丸くして声を上げた。

 

 「げっ! 全部丸じゃねーかよ!!」

 「まあ……」

 

 ちゃんと予習も復習もやったからね。

 たとえやってなくても、6点はないと思うけど。

 

 「だから言ったでやんす。越後君と神城君とじゃ、月とスッポンでやんすよ」

 「くっそ~。おいパワポケ、このまま負けたままでいいのか!」

 「うん。神城君には俺たちが逆立ちしても絶対に勝てないよ」

 

 パワポケ君、急に冷静になったな……さっきまでのノリが嘘みたいだわ。

 と、そこへ──。

 

 「その通り! 越後っちが信吾君に勝とうだなんて、100億年早いですよ!」

 「誰だ!」

 

 越後君が鋭い視線を向けた先、そこには高科さんが立っていた。

 なんか来たー……。

 

 「そんな点数じゃ、あたしにも勝てないですよ」

 「高科っ! じゃあ、お前は何点だったんだよ!」

 

 越後君の問いに、高科さんは目をキュピーンと光らせる。

 そして、手に持っていた答案用紙を、バサッと机の上に広げた。

 

 「な、なんだと! 25点だと……」

 

 おお、半分か。高科さんにしては頑張ったな。

 

 「やめとけ越後、今の高科には俺たちじゃ勝てない……!」

 「ふっふっふ。あたしは二人と違って、日に日に進化してますからねえ。パワポケ君も越後っちも、レベルの低い争いなんかしてたら見苦しいですよ」

 

 めっちゃ言うじゃん。ついこの前まで、二人と同レベルだったくせにな。

 

 「く、くそ~! 高科ってそんなに頭良かったのか~!」

 「なぜだろう、高科が頭良いのが解せない……」

 「悔しかったら勉強することですよ。まあ、二人じゃどんなに勉強しても、信吾君とあたしの最強コンビに勝てっこないですけどね~」

 

 おいやめろやめろ、煽るな。俺の学力なんていいとこ中の上なんだから。

 

 「おいパワポケ! ここまで言われて、悔しくないのか!」

 「いやあ、せめて高科だけだったらなあ。神城君には勝てる気がしないよ」

 

 ふむ……そういうことなら。

 

 「じゃあ、次のテストは俺、手貸さないわ」

 「えっ!!」

 

 よほど驚いたのか、高科さんが目を丸くして声を上げた。

 すると、チャンスだと言わんばかりに、パワポケ君と越後君が食いついてきた。

 

 「いいね、それ。それなら俺たちにも勝ち目あるな」

 「ああ! 次のテストで勝負だ、高科!」

 「その見下した顔を、ゆがませてやる!」

 

 二人とも急に強気になったな……俺がいないってだけで、ここまで変わるのか。

 さて、当の高科さんはというと。

 

 「むぅ……ここまで言われたら、さすがに引き下がれないですよ」

 

 おっ、なんかやる気だぞ。

 

 「分かりました。このナオっちが相手になりますよっ!」

 

 こうして、次のテストは三人で勝負することが決まった。

 みんな頑張ってくれ。俺は今回は傍観させてもらうわ。

 

 「いいでやんすか? あんたの彼女、ほうっておいて」

 「別にいいんじゃない。楽しそうだし」

 「負けちゃうかもしれないでやんすよ?」

 「まあ、そしたらドンマイだね」

 「かーっ、相変わらずドライでやんすねえ」

 

 そうかな。でも、勝負なんてそんなものじゃない?

 あとは──心のどこかで今の高科さんが、二人に負けるとは思ってないってのも、あるかもしれないな……。

 

 

 

 

 

 ◆◆彼女たちとの日常⑥ その4◆◆

 

 

 放課後。中庭にて。

 いつものように駄弁っていると、急に高科さんが真面目な顔で訊いてきた。

 

 「信吾君って、卒業したら大学に行くんですよね?」

 「まあ……たぶん行くんじゃないすかね」

 

 どうしたんだ急に。進路の話なんて高科さんらしくもない。

 すると、高科さんは唐突に閃いたような顔で言った。

 

 「なるほど……勉強はこの時のためにあったんですね」

 

 話の流れが見えない。勉強しすぎて悟りでも開いたのか?

 

 「以前のあたしは、勉強なんていらないと思っていたんですよ。やってもわからないので、時間の無駄だって」

 「はあ」

 「でも、勉強しないと大学に行けないじゃないですか」

 「ですね」

 「信吾君と離れ離れになっちゃうじゃないですか」

 「……そこですか」

 

 もっといい大学に入るためとか、いい企業に就職するためとかあるだろうに。

 

 「むっ……なんですかその反応は」

 「えっ」

 「まさか、ナオっちのことを置いてけぼりにするつもりですか?」

 「いや、別にそういうつもりはないすけど……」

 

 俺と同じ大学にこだわる必要ないと思うけどなあ。そういう理由で志望校決めるのも良くない気がするし。

 

 「あはは、冗談ですよ。ちょっと重たい彼女を演じてみました」

 「はあ……」

 

 なんだよ。本気なのか嘘なのか見分けがつかないわ。

 

 「でも、できれば大学も一緒がいいと思ってますよ。それは本当です」

 

 今度は本当らしい。まあ、まだ卒業まで一年以上あるけどね。

 

 「なので信吾君には、今後もナオっちの面倒を……あっ!」

 

 突然、高科さんが前方を見て声を上げた。

 その様子に首を傾げていると、

 

 「タエタエだ~」

 

 なるほど。どうやら、知り合いが通りかかったらしい。あの髪の長い女子のことか?

 疑問符を浮かべていると、高科さんが説明してくれた。

 

 「タエタエは一年生の時に、同じクラスだった子なんですよ。今は隣のクラスなんですが、二年生になってからは会わなくなりましたねぇ」

 

 へー、そうなんだ。さすが高科さん、顔が広いわ。

 

 「ちょっと行ってきてもいいですか?」

 「あ、はい。どうぞどうぞ」

 

 俺がそう言うと、高科さんはベンチから立ち上がり、走って声をかけに行った。

 うーん、久々に会う奴の声のかけ方じゃないんだよなあ。やっぱコミュ力バグってるわ、この人。

 

 「元気? タエタエ!」

 「ナオじゃない。久しぶりね」

 

 話しかけられたタエタエ?さんが、その場に立ち止まる。

 そこから、微かに二人の話し声が聞こえてくる。俺は高科さんが戻ってくるまで、座って待機。

 

 ボケーっとベンチに座りながら、ふと屋上に目をやった。

 今日も芳槻さんは、一人で屋上にいるのかな。この時間はパワポケ君も部活だし。

 

 そういえば、なんで芳槻さんはいつも屋上にいるんだろ。聞いたことなかったな。

 なんてことを考えていたら──。

 

 「助けてください! 信吾君!」

 

 突然、高科さんの悲鳴が聞こえてきた。

 何事かと思い、すぐに視線を声の方へ向ける。

 

 「次に会った時には、勉強のし過ぎで、人格が変わってるかもしれませんよ!」

 「はあ……」

 

 大袈裟すぎだろ……てか、最近普通に勉強してるじゃん。

 

 「さあ、行くわよ」

 「ちょ、ちょっと待ってください! 勉強なら信吾君に教えてもらいますから!」

 「? あそこにいる男子のこと?」

 「そうです! ナオっちには専属の家庭教師がついてるんですよ!」

 

 おーい、いつから俺は家庭教師になったんだー。しかも、二人ともこっち来てるし。

 仕方ないので、俺もベンチから腰を上げた。

 

 「タエタエ、こちら神城信吾君。あたしの家庭教師ですよ」

 「神城です」

 

 軽く頭を下げる。

 すると、タエタエさんは何か考え込むような顔をした。

 

 「神城……ああ、あなたが神城君なのね」

 「へ? タエタエ、信吾君のこと知ってるんですか?」

 「ええ、名前だけね。顔までは知らなかったから、ピンとこなかったけど」

 

 意外すぎる。俺みたいなモブが、なんでこんな明らか陽キャな人に知られてるんだ。

 

 「じーっ……」

 

 なんか高科さんから謎に見られてる件について。

 そんな見られても、何も出てこないぞ……。

 

 「私は、三橋妙子よ。ナオとは一年生の時に同じクラスだったの」

 「ど、どうも……」

 

 なるほど。タエコでタエタエってことね。

 

 「あ、あの。どうしてタエタエが信吾君のことを知ってたんですか?」

 

 おそるおそるといった様子で、高科さんが尋ねる。

 その問いに、三橋さんは淡々と答えた。

 

 「ああ、成績発表の掲示板で見たのよ」

 「掲示板? 一学期のですか?」

 「そ。あなた、この前の期末テストの成績よかったでしょ」

 

 三橋さんが俺を見て訊いてきた。

 確かに、期末テストの成績はそれなりだった気がする。

 

 「まあ、それなりには……」

 「学年で23位がそれなりだなんて、随分と志が高いのね」

 「い、いや、別にそういうわけじゃないですけど……」

 

 なんで順位まで覚えてるんだ……記憶力やばくない??

 

 「成績のいい男子なんて、そういないもの。だから目に留まったの」

 「そういうことでしたか。なんだか、ナオっちは安心しましたよ」

 

 なんの安心だよ……てか、名前までよく覚えられるな。頭良すぎだろ。

 

 「そっか。神城君がナオに勉強を教えてるのね」

 「まあ……成り行きで」

 「それなら、私も協力してあげるわ」

 「えっ」

 

 思わず顔を見合わせる俺と高科さん。こういう展開は珍しい。

 

 「私と神城君が協力すれば、今度のテストでは学年で50位以内には入れてあげられるでしょ」

 「ナニヲイッテイルンデスカ?」

 

 よほど衝撃的だったのか、高科さんは呆然としていた。発する言葉も片言だ。

 50位以内かー。今の高科さんには結構ハードル高いぞ。

 

 「そうだ。今日は時間があるから、私の部屋に今から行きましょう。今のナオがどれぐらい勉強できるのか、見てみたいわ」

 「い、いや、今日はこれから信吾君とネタ探しに行く約束が……」

 「ちょっとだけだから。神城君、ナオのこと少し借りてもいい?」

 

 三橋さんが俺を見て訊いてくる。

 高科さんもこっちを見る。ものすごく助けてほしそうな顔で。

 

 うーん、少しだけならいいと思うけどな。しかも、久々に会ったのなら積もる話もあるだろうし。

 なので、高科さんには申し訳ないけど。

 

 「別にいいですよ」

 「信吾君?!」

 「いいじゃないすか。少しだけなら」

 

 これも高科さんのためだ。今のうちに少しでも学力を伸ばしてもらわないとね。

 すると、三橋さんが小さく笑った。

 

 「決まりね」

 「決まってませんよ!」

 「さあ、行くわよ」

 「待ってください! まだ心の準備が!」

 「いらないわよそんなの」

 「いやいや、覚悟とか!」

 「はいはい、そんな大袈裟なものいらないから」

 

 高科さんの腕を掴んだまま、三橋さんが歩き出す。

 ズルズルと高科さんが引っ張られていく。

 

 「信吾くーん!」

 

 振り返って手を伸ばしてくる。まるで連行されている囚人みたいだった。

 俺は苦笑しながら、二人の姿が見えなくなるまで見送った。

 

 さて、俺も帰って勉強するかな。特にやることもないし。

 俺は鞄を持ち上げると、一人で寮へ戻ることにした。

 

 

 

 

 

 ◆◆彼女たちとの日常⑥ その5◆◆

 

 

 放課後。

 俺はパワポケ君と二人で廊下を歩いていた。

 

 「珍しいね。神城君が高科と一緒じゃないなんて」

 「そんないつも一緒にいるわけじゃないよ」

 「そうかな? だいたいいつも一緒にいる気がするけど」

 

 ……言われてみれば、いないことの方が少ないか。

 でも、今日は何も聞かされてないんだよな。たまにあるけど、どうせネタ探しの下調べってとこだろう。

 

 「そういえば神城君」

 「ん?」

 「最近、さらと話した?」

 「あー、話したよ」

 

 芳槻さんとは勉強のことで、たまに話すことがある。互いの苦手科目の相談相手って感じだ。

 

 「この前の英語のテストの時とか、わからないところ訊いてくれたかな」

 「そっか……よかった。俺、勉強は全然だからさ。神城君が相談相手になってくれてありがたいよ」

 「お互い様だけどね。俺も物理のこと訊くし」

 「いいじゃん。友達!って感じで」

 「まあ……そうだね」

 

 友達か。俺はそう思ってるけど、芳槻さんはどう思ってるんだろうな……。

 

 「そういえば、来週さらと街に行く約束してるんだ」

 「え、すご。デートじゃん」

 「そ、そういうつもりはないんだけど……やっぱデートなのかな?」

 「一般的にはそうなんじゃない?」

 「うーん、なんか急に緊張してきたな……」

 

 珍しい。あのパワポケ君が緊張だなんて。

 

 「そう固くならなくてもいいでしょ。いつも通りで」

 「そうかな?」

 「うん。約束さえ忘れなければ大丈夫だよ」

 「それは絶対に忘れないよ。さらの信頼を裏切るようなことは、したくないからね」

 「……」

 

 急に話が重たくなったな……。

 確か、前も言ってたっけ。友達に裏切られたらどうするか、か。

 

 「大丈夫でしょ、パワポケ君なら」

 「え?」

 「パワポケ君でダメなら、他の野郎全員ダメだよ」

 「それは言いすぎなんじゃ……ていうか、神城君がいるじゃん」

 「俺は友達以上にはなれないから」

 「えっ、それって――」

 

 そこまで言ったところで、パワポケ君の視線が廊下の外へ向いた。俺もつられて窓の外を見る。

 中庭。そこに高科さんと荷田君がいた。

 

 「あれ、荷田君と高科じゃない?」

 「だね」

 

 二人きりで何か話している。距離があるので、話し声までは聞こえない。

 珍しい組み合わせだな。同じクラスだけど、二人きりでいることは見たことない。

 

 「二人とも、何してるんだろ」

 「さあ……」

 「気にならないの? 高科と荷田君、二人きりだけど」

 「いや、べつに」

 

 パワポケ君が言いたいことはわかる。でも、高科さん相手にそんなの気にしてたらキリがない。

 なにせ、誰とでもすぐに友達になれるほど、コミュ力のある高科さんだ。野郎と二人で話す機会なんて、山ほどあるだろうからね。

 

 「へぇー。神城君って、高科のこと信頼してるんだね」

 「まあ……一応、付き合い長いからね」

 

 俺はもう一度、中庭を見る。

 すると、高科さんが鞄から何かを取り出した。それを荷田君へ渡す。

 

 「雑誌?」

 

 パワポケ君が首を傾げて呟く。俺にも何かの雑誌のように見える。

 荷田君は嬉しそうにそれを受け取ると、代わりに何かを差し出した。

 

 「写真かな」

 「っぽいね」

 

 高科さんが受け取って、一枚ずつ確認している。

 遠目からだけど、妙に嬉しそうだ。荷田君も貰った雑誌を眺めて満足そうにしている。

 

 そんな二人を、俺とパワポケ君は無言で眺めていた。

 そろそろ行こうと思った矢先、パワポケ君が納得したように言った。

 

 「確かに、あれはないな。あの顔はない」

 「何が?」

 「え、逢引とか?」

 

 さらっととんでもないことを言い出すパワポケ君。

 高科さんに限って、それはないかなあ。

 

 「声かける?」

 「いや、いいよ。俺に何も言わないってことは、俺がいたら都合悪いってことだし」

 「さすが、以心伝心って感じだね」

 「へー、以心伝心なんてよく知ってるね」

 「俺のことバカにしてない??」

 

 パワポケ君のツッコミに、俺は半笑いを浮かべる。

 そして、二人で並んで歩き出した。

 

 

 




(おまけ)
いつき「二年ぶりの更新ですね」
作者「んね。めっちゃ空いちゃった」
いつき「今更感ありますけど、急にどうしたんですか?」
作者「今年の甲子園見てたら、創作意欲が湧いてきた」
いつき「へー、甲子園様様ですね」
作者「このまま最後まで書けたらいいなあ」
いつき「そこは頑張ってくださいよ」
作者「頑張ります……」
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