とあるモブ男子の奈桜ルート攻略   作:Sh1Gr3

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※少しでも吐き気を催したらそっ閉じ推奨です。

 オリジナル話注意です。


彼女との日常②

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 部活開始を告げるチャイムが鳴り渡る。

 

 この高校は、基本的には運動部に属さなければならないという決まりがある。

 俺のような一度、部を辞めた人も例外ではなく、先生からは次の部を探すように日々催促されている。

 

 だがそんなことは今の俺には知ったことではない。

 当面はどの部に入るつもりもなく、最近は授業を終えると寮に戻って、ゴロゴロする生活が板につき始めていた。

 

 あれ以来、高科さんとは会っていない。

 正確には度々見かけはするが、声をかけることはしなかった。

 

 理由は特にない。こちらに用がないというのが、理由と言えば理由になる。

 もし向こうが俺に用があるなら、またそのうち話す機会もあるだろう程度に考えていた。

 

 そう、今の今までは。

 

 「……ん?」

 

 寮に入り、自室に向かっていたところ。

 窓の外にコソコソと動き回る人影が目に入った。

 

 まさかと思い、外に出て人影が見えた場所へと足を運ぶ。

 目的の場所へ着くと、やっぱり見間違いではなかった。その人影は寮の中へ続く扉や窓などを、ガチャガチャしていた。

 

 「ここも開いてないですねえ~」

 

 なんてことを言いながら、扉と窓をあちこち弄り回している。

 

 「正面から堂々と入ったら流石に見つかるから、どこか開いている窓でも探さないと」

 

 もう見つかってるわ、と心の中でツッコみを入れる。

 人影はなおも止まらず、

 

 「ここを乗り越えれば、きっとこの中には……」

 

 人影の目がキュピーンという音とともに、怪しく光った気がした。

 流石に聞き捨てならなかったので、仕方なく声をかけることにした。

 

 「何してんすか」

 

 声をかけられた人影──高科さんは、びくっと肩を震わせると、ぺこぺこと頭を下げ始めた。

 

 「あっ!ご、ごめんなさい!窓があったらどうしても入りたくなる病気なんです!」

 「何言ってんすか……」

 

 もはや言い訳ですらないそれを聞き流し、心底呆れ果てた目を向ける。

 高科さんはこちらに気が付くと、安堵の息を吐いて言った。

 

 「な~んだ、神城君か。突然声をかけられたから、とっさに嘘をついちゃったじゃないですか」

 「嘘のレベル低すぎないっすか?」

 「純粋無垢と言ってほしいですよ」

 「はあ……そうすか」

 

 これにはツッコまない。話が反れそうだからである。

 俺は周囲を見回し、誰もいないことを確認してから訊いた。

 

 「ばれたらやばいんじゃないすか?」

 「目の前に頼れる相棒がいるので、余裕ですよ」

 

 ニッコリと微笑んで言う高科さん。いつもなら華麗なスルーを決め込むところだが、ここは男子寮。見つかったら本当にまずい。

 彼女はそれを分かっているのだろうか。

 

 「いやあ~。今回は女子寮を代表して、あたしが男の園を調べようかと思いまして」

 「はあ」

 

 この様子だと、分かっていなさそうだ。

 つい先日、あんな目にあったばかりだというのに。もう忘れたのかこの人は。

 

 「男子寮といえば、女子にとっては……ヘル!そういうのって気になるじゃないですか」

 「地獄を調べに来たんすか」

 「その通りですよ」

 

 相変わらずの行動力モンスターである。

 というか、本当に女子たちは男子寮なんてものが気になっているのか。根本的にそこが疑わしい。

 

 「部活とかないんすか?」

 「やだな~。あたしは神城君と同じ新聞部ですよ」

 「……そうすか」

 

 まともに答える気がなさそうなので、俺はそれ以上話すことをやめた。

 そろそろ部活がない他の生徒らの行き来が、多くなる時間だ。

 

 俺は最後に一つだけ、貴重な情報を教えてあげることにした。

 

 「一階の窓はたぶんどこも開いてないすよ。一年が戸締り任されてるんで」

 「え~。そんなことは先に言って欲しいですよ」

 

 残念そうに呟く高科さん。無論、同情はしない。

 すると高科さんの俺を見る目が、唐突にキュピーンと光った。嫌な予感。

 

 「そうですよ。神城君が中から開けてくれれば……」

 「いや、流石に無理っす」

 

 即答した。嫌な予感的中。

 それを訊いて、高科さんはガックリと肩を落とした。

 

 「仕方がないですね。今回は諦めますよ」

 

 と高科さんは、珍しく白旗をあげた。

 これを珍しいと思ってしまうあたり、俺も相当毒されたなと感じる。

 

 俺はちらっと腕の時計を確認する。そろそろ頃合いか。

 

 「もう戻った方がいいすよ。先生来たら今度こそ終わりますよ、ほんとに」

 「そ、そうですね」

 

 そうは言いつつ、高科さんはその場から動こうとしない。

 こちらをじっと見据えて、無言で佇んでいる。

 

 「え、なんすか……?」

 

 なにか気に障るようなことを言ってしまったかとも思ったが、特に覚えがない。

 すると、高科さんはあからさまに目をそらしつつ。 

 

 「ほ、ほら。こうやって話すのも久々じゃないですか」

 「はあ……まあそうすね」

 

 とはいっても、一週間とかそこいら振りぐらいである。

 そもそも男子と女子が言葉を交わすなど、普通はあり得ないことなので、久々というのも変な話だ。

 

 高科さんが続けて言う。

 

 「なので、今日は何も聞きたいことはないのかと思いましてですね」

 

 唐突に質問権を付与された。前はギブ&テイクでもらったが、今回は無償らしい。

 しかし、特に聞きたいことも思い浮かばなかった。こんな所でなければ、もしかしたら考えられたかもしれないが。

 

 「いや、特にないすけど……」

 「そ、そうなの?」

 

 なにやら衝撃を受けたかのような声を発する高科さん。

 そういえば、以前デリカシーがどうのとか言われたことを思い出した。でも今は時間がないので、許してほしいところである。

 

 寮の正面入り口の方で、ガヤガヤと人の声が盛んになり始めた。

 そろそろ限界なので、俺は高科さんに帰るように促す。

 

 「帰りましょもう。見つかったら終わりっすよ」

 「……そうですね」

 

 心なしか、さっきよりも声から覇気がないように感じた。

 どうしたというのか。そんなに寮に入れないことが残念だったのだろうか。

 

 もしくは──。

 俺はそれ以上の思考を放棄した。そして言う。

 

 「じゃあ自分、先帰るっすね」

 「あっ!」

 「へ?なんすか?」

 

 まだ何かあるというのか。でも時間的に、これ以上話している余裕はない。

 高科さんもそれぐらい分かってるはずなのだが。

 

 「な、なんでもないですよ」

 

 目を明後日の方にそらしながら、高科さんが言う。

 

 「で、ではシーユーです!」

 「うっす」

 

 男子寮から走り去る高科さんを見送り、誰にも見つからなかったことに安堵の息を零した。

 俺は頭の中で、今日の高科さんとのやり取りを振り返る。

 

 久々というほど久々ではないが、話してみた感じだとあの屋上の一件は気にしてなさそうだった。

 

 (よかった……か)

 

 くだらない。俺は頭を振ってそれ以上考えることをやめた。

 まったく、こんなことを少しでも気にする自分に、心底嫌気がさす。

 

 だが、そんな心の内とは裏腹に、自室へと向かう足取りは妙に軽い気がした。

 

 

 

 

 

 ◆◆彼女との日常② その2◆◆

 

 

 「さっむ!」

 

 吐く息が白く見え始める季節。

 今日も今日とて、授業が終わったら即帰宅。部活に向かう人らを横目に、校舎を出て寮へと向かう。

 

 (頑張れ~)

 

 寮とは真逆の方向を歩く人らに、心の中でエールを送る。

 部活を辞めて早くもひと月あまり。未だ次に入る部は決まっていない。先生は形だけでもと、様々な部の入部届を持ってきてくれるが、今のところどの部にも入る気はない。

 

 まだ人気の少ない寮の正面玄関をくぐり、自室に直行する。

 さて、今日は何をしようか。漫画を見るか、アニメを見るか、寝るか。

 

 そんなことを考えながら、部屋の扉を開ける。

 ガチャリ。

 

 「こちらズネーク。ついに寮の侵入に成功──」

 

 バタン。

 なにか良からぬものが見えたので、扉を閉めた。

 

 一応、部屋を間違えている可能性も考慮して部屋番号を確認する。

 

 「……合ってるじゃん」

 

 間違いなく自分の部屋であることを確認して、再度扉を開けた。

 

 「こちらズネーク。ついに寮の侵入に成功した」

 「……」

 

 目の前の人物を目の当たりにし、俺は唖然とした。

 いや、少なくとも次はという予感はあった。だがなぜ俺の部屋なのか。部屋なんて他にもたくさんあるじゃないか。どうしてピンポイントで狙い撃ちされないといけないのだ。

 

 眼前の傭兵ごっこに勤しむ人影──高科さんは、そんな俺の心中などつゆ知らず、一人芝居を続けていた。

 

 「これから部屋の探索を行う。どうぞ」

 

 高科さんは背後の俺に気付かないまま、傭兵ごっこを続けている。

 扉の開ける開閉音にも気付かないなんて、隠密術が聞いて呆れてしまう。

 

 「うむ、了解した。任務は必ず成功させる。男のロマンとやらを持って帰ってみせるさ」

 

 脳内で繰り広げている誰かさんとのやり取りを聞かされて、俺は大きなため息を零した。

 このままでは埒が明かない。仕方ないので、声をかけることにした。

 

 「何してるんすか……」

 「はっ!神城君!お早いお帰りですね!」

 

 俺の声を聞いて、高科さんはハッとしてこちらを向いた。

 

 「おかえりなさいですよ!」

 「はあ……どうも」

 

 おかえりなさいなんて、実家以外で言われたのは初めてかもしれない。

 なんとも複雑な気分にさせられる。

 

 「どうやら、ロマンを持ち帰る任務は失敗のようですね」

 

 と高科さん。

 失敗という割には、大して落ち込む様子も見せず、平然としている。

 

 俺は長く話す気はなかったが、なんとなく訊いてみた。

 

 「なんすかロマンて」

 

 その問いに、高科さんは笑みを浮かべて答えようとする。

 

 「そんなにアレな本ですよ。エッ──」

 「あー、いいすよ言わなくて」

 

 高科さんが最後まで言い切る前に、俺は口を挟んだ。

 彼女の言おうとしたことは分かったし、そもそもそんな物はこの部屋にはない。

 

 というか、高科さんがここにいるということは、俺がそんな本を持っていると思われていたのか。

 たまたま俺の部屋に来た可能性もなくはないが、そうだとしたら少し心外である。

 

 「はぁ……ばれても知らないすよ」

 「まあ、見つかったからには大人しく帰りますよ」

 

 珍しく聞き分けのいいことを言う高科さん。今日は雪でも降るのではなかろうか。

 いつもこれぐらい聞き分けが良ければ、俺もひやひやした時間を送らなくても済むのだが。

 

 「ズネークの本当の任務はすでに完了しましたからね」

 「え?」

 

 心の中で少しだけ褒めた矢先、唐突になにやら意味深なことを言い出した。

 なんだ、本当の任務って。まさか部屋を物色したのか。

 

 「なんすか、本当の任務って」

 「いくら相棒でも、任務の内容は明かせませんねえ~」

 

 ニヤニヤと楽しそうに喋る高科さん。どうやら話す気はないらしい。

 俺はため息を吐くと、回れ右をしてドアノブに手をかけた。

 

 「あまり長居しない方がいいすよ」

 「えっ?ど、どこか行っちゃうんですか?」

 

 高科さんの問いに、俺はドアノブに手をかけたまま答える。

 

 「いや、ちょっとそこまで」

 

 行先は言わない。特に決まってないからである。

 高科さんにいられては悠々とくつろげないので、いなくなるまで適当に時間を潰すつもりだった。

 

 「ではあたしも一緒に行ってあげますよ」

 「いいすよ別に。ばれたらやばいじゃないすか」

 

 俺は強い意志を込めて断った。まったく、何を言い出すかと思えば。

 この時間の寮だって、人数は少ないとはいえ無人なわけではない。

 

 そんな寮の中を女子と歩いている様を誰かに見られでもしたら、色々な意味で袋叩きにされて、俺の学園生活が終了してしまう。

 

 そんな俺の意志が伝わったのか、高科さんは小さな声で言った。

 

 「そうですか……それは残念なお知らせですね」

 「……」

 

 おかしい。前に会った時から、高科さんは時折しおらしさを見せるようになった。

 普段の彼女からは想像もできないのだが、今の彼女がまさにそれだ。

 

 まさかな、と思いつつそれを振り払うようにしてドアノブを回す。

 

 「あまり散らかさないでくださいよ」

 「あっ……」

 

 バタン。扉が閉まる。

 部屋を出たはいいものの、行先はまだ決まっていない。

 

 とりあえず購買にでも行こうか。購買のある方へ進路を変える。

 だが、その足取りは異様に重い。理由は分かっていた。

 

 (少し冷たかったか……?)

 

 部屋を出る前、高科さんの様子はいつもと違っていた。

 それに気付かないふりをして、部屋を出たのだ。それがどうも心残りだった。

 

 まったく、人の心というのは実に面倒である。

 

 (なんもないだろ。別に)

 

 寮を出て寒空の下、購買へと向かう。

 その道中、足取りはずっと重いままだった。

 

 

 神城君が去った後も、あたしはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

 「はぁ……うまくいかないですよ」

 

 この呟きが何を意味するものなのか、自分でもまだハッキリとした答えは出せていない。

 でも、それでも一つだけ分かっていることがある。

 

 彼──神城君とは一緒に話していて楽しい。もっと話しがしたい。

 これを世間一般では、恋というのだろうか。まさか、そんなことを考える日が来るなんて、思ってもみなかった。

 

 「本当の任務、教えてあげましょうか」

 

 誰もいない室内を見渡し、少し戸惑いつつもあたしは口を開く。

 

 「貴方と会うこと……それがあたしの本当の任務ですよ」

 

 その内容を聞いた者は、もちろん自分以外にはいない。

 あたしは真の任務の達成を脳内大佐に報告し、誰にも見つからないようにして男子寮を後にした。

 

 

 

 

 

 ◆◆彼女との日常② その3◆◆

 

 

 年末。寮生活を送る生徒らが、ぼちぼち帰省の準備をし始める時期。

 放課後、いつものように屋上の掃除を終えた俺は、寒空の下ベンチに腰を下ろしていた。

 

 「はぁ……」

 

 雲一つない空を見て、ため息を零す。

 俺は頭の中で、先ほどの生活指導の先生との会話を思い返していた。

 

 特に何かやらかしたわけではない。呼び出された時は、高科さんとのあれやこれやが露見したのかとヒヤヒヤしたが、実際に話してみたらそれも杞憂だった。

 

 成績に関しても、部活を辞めたおかげで平均以上は確保できている。そちらも心配ない。

 では何故、呼び出されたのか。

 

 それは──。

 

 「大きなため息ですねえ~。爺くさいですよ」

 

 誰もいないはずの屋上に、自分以外の声が耳に入った。

 空からゆっくりと、声のする方に目を移す。

 

 「何か悩み事ですか?仕方ないですねえ~。このナオっちが相棒の相談に乗ってあげますよ」

 

 目の前の人物──高科さんは、胸を張ってそう言い放った。

 俺はそれを見て、呆れた気分で言い返す。

 

 「また来たんすか……」

 「下から神城君が見えたので」

 

 前に屋上で会った時と、同じことを言う高科さん。

 確かに掃除中、ちらちらと男子校舎を徘徊する、怪しい人影を探していたのは事実だが。

 

 「隣、座ってもいいですか?」

 

 前と同じように訊かれる。俺は少し渋るようにして言った。

 

 「また先生来たらやばいっすよ」

 「大丈夫ですよ。今日は来ませんから」

 

 俺の不安をよそに、高科さんは自信あり気に言い切った。

 これも彼女の情報収集の結果だろうか。話が長くなりそうなので、「なんで分かるのか」とは訊かない。

 

 ただ、こうなった彼女は梃子でも動かないということを、常日頃から思い知らされている。

 俺は観念して端の方に移動する。それを見て、高科さんは「どうも」と腰を下ろした。

 

 「それで、何か悩み事ですか?」

 

 高科さんが最初の質問を口にする。心なしか、目つきが部室や寮に侵入した時の、ろくでもないものの様に見えるのは気のせいだろうか。

 

 そんな大した話でもないので、彼女の期待を裏切る結果になることは目に見えていたが、逆に話してやるかという気になった。

 

 俺はワクワクの眼差しを向ける彼女を横目に、さらっと一言で済ませる。

 

 「別に、ただどの部に入ろうか迷ってただけっす」

 「ふむふむ……えっ?それだけ?」

 

 悩みの正体を聞かされた高科さんは、その正体に呆気からんとしていた。

 彼女の疑問に頷いて、

 

 「それだけですけど」

 

 文句は受け付けないという意思を込めて言った。

 俺からしてみれば、これも立派な悩みの一つなのだ。ギリギリまではぶらかしてきたものの、生活指導の先生に呼び出されては、真剣に考えざるを得ない。

 

 とはいえ、未だに入りたい部などなく、このぐうたら生活が終焉を迎えると思うと、かなり深刻な悩みであった。もっとも、好奇心と行動力の化身である高科さんには、俺のこの気持ちなど分からないだろうが。

 

 高科さんを見ると、案の定ガックリと肩を落としていた。

 

 「な~んだ。期待して損しちゃいましたよ」

 「はあ」

 

 どんな回答を望んでいたのか知ったこっちゃないが、その期待を裏切れたのなら良しとしよう。

 高科さんが落胆の声色で言う。

 

 「せっかく次の記事を【悩める男子!男子校舎の色恋事情!】っていうのにしようと思ったのに」

 「何言ってんすか……」

 

 俺は若干、軽蔑の目を高科さんに向ける。そんなもの記事にされてたまるか。

 

 「いやあ~。いま女子寮では、いわゆる恋バナというのが流行りなのですよ」

 

 俺の冷ややか視線に気付く様子もなく、高科さんは喋り続ける。

 

 「それで、男子校舎の色恋事情を調査すべく、ナオっちが立ち上がったというわけです」

 「はあ……」

 

 この高校の女子たちは相変わらずだなと思った。それを調べる高科さんも大概だが。

 とはいえ、色恋事情なんて聞いたことがない。表向きは共学だが、男子と女子で校舎が分かれており、普段話す機会もないのだ。こんな状態では、恋もへったくれもない。

 

 それはおそらく、他の男子生徒も思っていることだろう。

 女子と関われないことを嘆きぼやく奴もいれば、それを忘れるかのように部活に執心する奴もいる。中には俺のように興味を持たない奴もいるかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、こちらの心中を見透かすかのように、高科さんの目がキュピーンと光った。

 

 「いやいや、相手は何も女子だけとは限らないですよ?」

 「……」

 

 何やら不穏な流れ。またろくでもないことを言おうとしているなと察した。

 それは見事に的中し、高科さんはそれをペラペラと喋り出した。

 

 「封鎖された男子校舎、そこに集う男子生徒たち。こんな状況が続けば、男子同士で特別な感情が芽生えることもあると思うのですよ」

 「……そうすね」

 

 心底どうでも良かったので、適当に相槌を打つことに徹する。

 

 「てっきり神城君も、それで悩んでいるかと思ったのですが」

 「ああ、ないっすね」

 

 即答した。なんてことを言いやがるのだ、この自称新聞部は。

 俺はあまりこの手の話題に興味はないが、野郎を好きになる趣味はない。そこは断言しておく。

 

 すると、高科さんはいたずらな笑みを浮かべて言った。

 

 「神城君にその手の趣味はない、と。少し安心しましたよ」

 「はあ。そうすか」

 

 当初、俺の悩みを聞くという話が、気が付けばとんでもなく脱線していた。 

 いつまで続くんだこの話題、と思っていたところ。

 

 高科さんは、今までの様子とは一変して、神妙な面持ちで口を開いた。

 

 「ところで、神城君は、その……彼女さんとかっているんですか?」

 「えっ?」

 

 突然の斜め上を行く問いかけに、一瞬面を食らってしまう。

 何を思っての質問なのか、様々な思考が張り巡らされるが、俺は事実を答えた。

 

 「いや、いないすけど……」

 「そ、そうですか。そうなんだ……よかったですよ」

 

 最後の方は何を言ったか聞き取れなかったが、俺の目にはなんとなく、彼女が安心したかのように映った。

 なんなんだと首を捻っていると、高科さんがまたいつもの調子に戻って言う。

 

 「まあ、神城君はデリカシーが欠如していますからね。これじゃ彼女さんもできないですよ」

 

 あははと笑う高科さん。実に余計なお世話である。

 俺は少し反撃してやろうと、同じことを訊いた。

 

 「そういう高科さんはいるんすか?」

 「あたしですか?いるわけないですよ」

 

 即答される。俺は拍子抜けした。

 もっと躊躇うか、はぐらかされるかと思ったのだが。

 

 「安心しました?」

 「いや、別に……」

 「図星をつかれて照れてるんですね。カワイイですよ」

 

 ニヤニヤ顔で言われ、俺は目を背けた。

 反撃しようと思って訊いたのに、全然堪えていない様子。むしろこちらがカウンターをくらってしまった。

 

 高科さんがベンチから立ち上がる。

 

 「さてと。神城君の照れた顔も拝めたことですし、ナオっちは退散しますよ」

 

 満足気な表情を浮かべる高科さん。俺はため息を零し続いて腰を上げた。

 

 「これで年内の新聞部の活動は終了ですね。また来年もよろしくですよ」

 

 こちらを向いて高科さんが言った。俺も少しだけ迷いつつ、

 

 「まあ……こちらこそ」

 

 最低限それっぽい言葉を返した。二人で並んで屋上の扉へと歩いて行く。

 途中、高科さんが「そういえば」と尋ねてきた。

 

 「神城君も帰省するんですか?」

 「まあ一応。家の方がやれること多いんで」

 「いいですねえ~。あたしも、年末年始は家族で海外旅行する予定ですよ」

 「え、まじっすか」

 

 唐突な海外旅行という単語に愕然とする。

 もしかして、高科さんてお金持ちのお家柄なのだろうか。

 

 「神城君のご予定は?」

 「特にないっすね」

 

 前を向いたまま素っ気なく答える。

 本当は家でゴロゴロしながらアニメを見たり、ゲームしたりで過ごす予定だが、海外旅行を口にした高科さんにそれを言う気はない。

 

 高科さんは「神城君らしいですね」と笑っていたが、俺は馬鹿にされた気分になったので無視した。

 屋上の扉に手をかける。慎重に扉を開けて、下の階の気配を探る。

 

 (誰もいないか)

 

 人の気配がないことを確認し、俺は胸をなでおろした。

 この前のように、誰かが上がってきたら事だ。あんな体験は二度とごめんである。

 

 「神城君」

 

 ホッと一息吐いていると、不意に後ろから名前を呼ばれた。

 振り返ると、高科さんが一枚の紙きれを渡してきた。

 

 「これ、あたしの連絡先です」

 「はあ」

 「暇でしょうから、神城君に海外の絶景スポットを送ってあげますよ」

 

 ニッと笑う高科さん。

 俺は「別にいらないよ」と心の中で思いつつも、その紙切れを受け取った。

 

 「それでは神城君。よい年末年始を」

 

 そう言って、高科さんは軽快に階段を駆け下りて行った。

 屋上からまた人気がなくなる。俺は受け取った紙切れに目をやった。

 

 見ると電話番号とアドレスが記されている。それなりにきれいな字で。

 

 「はぁ……帰ろ」

 

 俺は紙切れを折ってズボンのポケットにしまった。

 女子からの連絡先なんて、この学校で持っているのは俺だけではなかろうか。

 

 誰もいなくなった屋上を後にし、寮へと向かう。

 その道中、頭の中では先ほどの高科さんとの会話が渦を巻いていた。

 

 分からない。でもなんだかモヤモヤする。

 なんのためにあんなことを訊いてきたのか、あの安心した様はなんだったのか。そんなことを考えてしまう。

 

 (いや、ないだろ)

 

 俺は頭の中の渦巻くそれらを、かき消すかのように頭を振った。

 いくら考えたところで、そんなの高科さん本人にしか分からないのだ。思考するだけ無駄というもの。

 

 「……きもいな、俺」

 

 しばらくの間、俺は自己嫌悪に葛藤する羽目になったのだった。

 

 

 

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