とあるモブ男子の奈桜ルート攻略   作:Sh1Gr3

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※少しでも吐き気を催したらそっ閉じ推奨です。

 無事2年生に進級しました。


2年生
彼女との日常④


 

 

 

 春休みを終えて、無事2年生を迎えた初めてのホームルームでのこと。

 その日は、なんの前触れもなく突然訪れた。

 

 「さて、君たちがこの学校に来て今日で1年になるわけだが、ここで重大な発表がある」

 

 唐突な先生の台詞で、教室内がざわつき始める。

 何事かと全員が疑問を覚えて、先生の言葉を待っていると、先生は予想以上にとんでもないことを言い出した。

 

 「今年から、この学校は……男女同じクラスになる」

 「えええーーーっ?!」

 

 全員が全員、目を丸くしていた。が、直ぐにそれも歓声に変わる。

 かく言う俺自身も、予想だにしていなかったので、かなりびっくりした。

 

 この学校は共学校を謳っているが、その実、校舎は完全に分けられており、男女間の交流はほとんどない。

 ある男子はその実態に絶望し、またある男子はそれを忘れたいかのごとく、部活動に熱中する。

 

 そんな野郎たちの、汗と泥にまみれた学園生活に、今日で終止符が打たれることになったのだ。

 そう思えば、この歓声も納得のものと言えるだろう。

 

 「どどど、どういうことでやんすか!」

 「おいおい、落ち着けよ荷田君」

 

 興奮する荷田君をたしなめるパワポケ君。

 先生はざわつくみんなに、さらに説明を加えた。

 

 「理事長、校長先生、われわれ教師での会議の末に決まったことだ。まことに残念だが……」

 

 そう言う先生の顔は、確かに残念そうだった。

 俺は首を捻る。何が残念なのかよく分からない。ただ共学校のあるべき姿に戻るだけで、これが普通で今までが異常だっただけなのに。

 

 どうせなら、ついでにこの無駄に厳しい校則を、もっと緩めてくれればいいものを。

 

 「残念どころか大歓迎でやんす!!ついに春が来たでやんすー!!」

 

 自身の感情を爆発させる荷田君。隣のパワポケ君は、少し引き気味で荷田君を見ている。

 周りを見ると、荷田君のように喜ぶ生徒が多数だった。

 

 「……2年生のクラスは外に張り出されているので、自分の教室に向かうように」

 

 と先生。

 その台詞をきっかけに、みんな一斉に席から立ち上がった。

 

 「うおおお!青春を謳歌するでやんすー!!」

 

 荷田君が真っ先に、教室から出て行った。みんなもそれに続いて、教室から出て行く。

 

 「やれやれ……荷田君は相変わらずだな」

 「まあ分からんでもないけど」

 

 呆れたように言うパワポケ君に、俺は言葉を返すと、二人で席から立ち上がった。

 そして、自分のクラスを確認しに向かう。

 

 (同じクラスか……)

 

 先生からそれを聞いた時、俺は頭の中に彼女──高科さんの影がちらついていた。

 この学校で唯一、関わりのある女子。行動力と好奇心を引っ提げて、男子校舎や寮に入り浸る、はた迷惑な自称新聞部。

 

 そんな彼女と、同じクラスになりたい。

 なんてことを、少なからず思ってしまう自分がいることに、ため息が零れ出た。

 

 なんでこんなことを思ってしまうのか、彼女の思うつぼのようで、なんとも複雑な思いだ。

 俺はこの思いを、心の奥深くへと追いやる。絶対に、彼女に悟られないようにしなければ。

 

 パワポケ君と二人で、クラス分けが書かれた紙を見る。

 

 「あ、神城君。同じクラスだよ」

 「おお、ほんとだ」

 

 パワポケ君の他にも、見知った名前が多くあった。その中には、荷田君も含まれている。

 どうやら、クラスの男子を半分にしただけみたいだ。

 

 そして、俺の目は紙の真ん中あたりで止まった。

 

 「あっ」 

 

 高科奈桜──彼女の名前が目に入った。

 他に同名の人もいないようだったので、彼女で間違いない。

 

 (まじかよ)

 

 まさか本当に同じクラスになるとは。だが、ほっとしている自分もいることは確かだった。

 というか、ナオってこう書くのか。初見じゃ絶対に読めないだろうな。

 

 「行こう、神城君」

 「……行くか」

 

 二人で新しい教室に向かう。

 着いた頃には、俺とパワポケ君以外の男子は、全員揃っているようだった。

 

 黒板に張り出された座席表を確認し、自分の席に座る。

 なんの因果か、高科さんの席も近いところにあった。

 

 (賑やかになりそうだな)

 

 不思議と笑みがこぼれた。

 これが高科さんが要因、というのが複雑だが。

 

 「で、今年も大河内先生のクラスか」

 「今年もあんたたちと同じクラスでやんすか?」

 

 前の席から、パワポケ君と荷田君の喋り声が聞こえてくる。

 俺と二人の席順は、1年生の時と変更がなかった。

 

 周りを見るに、どうも別のクラスになった男子連中の席が空席で、そこに女子が割り当てられたっぽい。

 俺は二人を見て言う。

 

 「いいじゃん。賑やかで」

 「というか、単純にクラスを半分にしただけだよな。全員、男子は知った顔じゃないか」

 

 パワポケ君が、周りに座る男子たちを見て言う。

 対して荷田君は、そんなの知ったこっちゃないと言わんばかりに、口を開いた。

 

 「しかし、今からここに!ここに女子が来るでやんすよ!女でやんす、女ぁー!」

 「痛いからやめろって!荷田君、少し落ち着けよ」

 

 隣に座るパワポケ君を、バシバシと叩きながら、興奮気味に喋る荷田君。

 俺はそれをやれやれと聞いていると、先生が教室に入ってきた。

 

 「おーい、今から女子生徒が教室に入るぞ」

 

 教室内が少しばかり、ざわつき始める。

 

 「ついに、ついに来るでやんす!」

 

 もっとも、主にざわついてるのは荷田君だが。

 そして間もなく、女子生徒たちが教室に入ってきた。

 

 一番最初に入ってきたのは、蒼い髪色をしたやたら長身の人。

 目けんだが、俺よりも高いのではなかろうか。

 

 「うわ、デカい!オイラよりも頭一つ分は背が高いでやんす!」

 

 荷田君が小声で感想を漏らす。パワポケ君も、彼女を見て目を点にしていた。

 そんな彼女は、黒板の前に立つと、こちらを見渡してから口を開いた。

 

 「あ……ど、どうも。大江(おおえ)です」

 

 なんというか、見た目のインパクトの割には、控えめな喋り方だなと感じた。

 人は見かけによらないの、典型的な一例である。

 

 「なんでやんすか、あの電柱女は」

 「……190近くあるな」

 

 大江さんを見て、パワポケ君と荷田君が言った。

 流石に電柱女は失礼だと思うが、やはり俺より背は高そうだ。

 

 大江さんが話し終えると、次の女子生徒が話し始めた。

 

 「神条(しんじょう) 紫杏(しあん)だ。男子諸君、よろしくな」

 

 先ほどの大江さんとは対照的に、堂々とした様相。口ぶり。

 それもそのはずで、彼女の服装は監督生のものだった。

 

 「……今度はやばそうな人でやんす」

 「あの白い服は監督生だな。成績優秀者だ」

 

 パワポケ君と荷田君が目を細める。こればかりは、二人と同じ感想だ。

 神条さんは、そのまま堂々とした態度を崩すことなく、自分の席に腰を下ろした。

 

 そして、三人目の女子生徒。

 その女子生徒はこちらをぱっと見渡し、ちょうど俺の座る席──正確には、俺の方を見て目を留めた。

 

 すっかり油断していた俺は、彼女と目が合ってしまった。

 心なしか、彼女の目が怪しく光った気がする。まるでロックオンされた気分だ。

 

 (うわっ)

 

 俺は瞬時に、彼女から目をそらした。まさか目が合うとは、最悪である。

 

 「あたしの名前は高科(たかしな) 奈桜(なお)です!何か面白い話やネタがあったら、教えてくださいですよっ!」

 

 はつらつとした明るい声で、高科さんが自己紹介する。

 最後の方の台詞を聞いて、相変わらずだなと思った。もっとも、彼女らしいといえば彼女らしいが。

 

 「今おいらの方を見て、笑ってなかったでやんす?もしかして一目惚れ──」

 「いや、荷田君じゃなくてもっと後ろを見てたような」

 

 希望に満ちた荷田君の台詞を即否定し、パワポケ君が後ろを振り返る。

 それに合わせて、俺も後ろを振り返った。彼女の視線の先にいたのが、万が一、億が一、自分だった場合をケアしての行動である。

 

 (油断した……)

 

 俺は高科さんの方を見ないようにして、次の女子生徒の自己紹介に耳を傾けた。

 

 「浜野(はまの) 朱里(あかり)です。それと、あたしは男が嫌いなので絶対に近寄らないでね」

 

 台詞の通り、こちらを見る浜野さんの目が鋭い。

 また個性的な人が来たなと思った。 

 

 「性格の悪そうな女でやんす。なんだか、おいらに春は永久に来ない気がしてきたでやんす……」

 

 荷田君がガックリと肩をおとす。

 そうしている間にも、次の女子生徒が自己紹介を始めた。

 

 「天月(あまつき) 五十鈴(いすず)

 

 それだけ言って、天月さんは自分の席に座った。

 なんとなく、神条さんと似た雰囲気を感じるが、口数は少なさそうな印象を受ける。

 

 「おお!この娘はレベル高いでやんすよ」

 

 先ほどまで地の底に沈んでいた、荷田君のテンションが急上昇し始めた。

 

 「イイでやんす!共学最高でやんす!」

 

 そう言って、またバシバシとパワポケ君を叩く荷田君。

 俺は二人のじゃれ合いを眺めながら、心の中でどの人も、高科さんとは対照的だなと感じていた。

 

 その後も、女子生徒たちの自己紹介が続き、全員終わったところでちょうどチャイムが鳴った。

 先生は全員の着席を視認してから、口を開いた。

 

 「いいか。男女同じクラスになったからといって、気を緩めるんじゃないぞ」

 

 最後に「特に男子!」と念を押して、先生は教室から出て行った。

 教室内に沈黙の時間が訪れる。しかしそれも、少し経つといつもの日常へと変わっていった。

 

 俺はちらちらと周囲に目をやる。

 流石に共学初日から、男女間の交流は見受けられない。

 

 若干、約一名を除いては。

 

 「まさか同じクラスになるとは。これも運命ですかねえ~」

 

 聞き慣れた呑気な声と同時に、傍に人の気配。

 声のする方に、パワポケ君と荷田君の目が移る。

 

 「さっきの新聞部ぽい子でやんす」

 「高科だっけ。運命とか言ってるけど、なんのことだ?」

 

 唐突な高科さんの台詞に、首をひねる二人。

 高科さんは、俺の机の近くまで来ると足を止めた。

 

 「これからはクラスメイトですね。改めまして、よろしくですよ!」

 「……うっす」

 

 笑顔でそう言う高科さんに、俺はそっぽを向いて返答する。

 なんとなく予感はしていたが、この教室の空気の中、堂々と接触してくるとは。相変わらずの行動力モンスターである。

 

 「ええっ?!ど、どういうことでやんす?!」

 「知り合いだったのか」

 

 そんな俺と高科さんのやり取りを見て、パワポケ君と荷田君が驚いたように声をあげた。

 当然といえば、当然の反応だ。彼らからしたら「いつの間に?」という感じだろう。

 

 高科さんが、二人の方を見て言う。

 

 「パワポケ君とニュダっちですね。野球部の」

 「あ、ああ。そうだけど」

 「()()でやんす!」

 

 高科さんの台詞に、二人がそれぞれ返答する。高科さんは続けて、

 

 「お二人も、今後ともよろしくですよ!」

 

 笑顔で二人に挨拶した。

 新聞部を自称するだけあって、流石にコミュ力もお化けである。

 

 「こちらこそ、よろしく」

 「よろしくでやんす」

 

 返礼するパワポケ君と荷田君。

 用は挨拶だけだったようで、それだけ言葉を交わすと、高科さんは自分の席に戻って行った。

 

 高科さんが去ると、前の二人の目がこちらに移る。

 

 「なかなか癖の強そうな子だったな」

 「いつの間に女子と知り合いになったでやんすか」

 

 会話した感想を喋るパワポケ君と、鋭い視線を飛ばしてくる荷田君。

 俺は弁明するように言った。

 

 「まあ、たまたま外でちょっと」

 

 言い訳にしては苦しいだろうが、こう言う他にない。

 正直に「男子校舎で密会していた」なんて、口が裂けても言えるわけないから。

 

 「怪しいでやんす。神城君から青春の匂いがするでやんす」

 「どんな匂いだよ……」

 「学生たちのロマンでやんす。おいらも味わいたいでやんすー!」

 

 そう言って、俺のことをバシバシと叩いてくる荷田君。

 それを横から、パワポケ君が止めに入る。

 

 「落ち着けよ荷田君!まだ共学初日じゃないか」

 「はっ!そうだったでやんす……」

 「チャンスなんて、これからいくらでもあるよ」

 「うおおお!燃えてきたでやんすー!」

 

 パワポケ君の励ましによって、荷田君のやる気が上がった。

 やれやれと思っていると、不意に別方向から声がした。

 

 「ロマンか。いい言葉だな」

 

 声の方に目をやると、そこには神条さんが立っていた。

 荷田君の身体が、急速冷凍されたかのように固まる。

 

 「盛り上がるのは結構だが、くれぐれも羽目は外さないようにな」

 「聞いてたのか」

 「あの声量なら嫌でも聞こえるだろう」

 

 パワポケ君と神条さんが、言葉を交わす。

 俺は部外者を装うために、次の授業の準備に入る。

 

 「ふむ……やはりこの手の規則も必要か」

 「規則?なんの話だ?」

 「いや、こちらの話だ。忘れてくれ」

 

 首をひねるパワポケ君をよそに、神条さんはこの場を後にした。

 神条さんが去ったことで、荷田君の硬直が解かれる。

 

 「はぁ……おっかない女でやんす」

 「気を付けないと、監督生に目をつけられたら厄介だぞ」

 「やっぱりおいらに春は永久に来そうにないでやんす……」

 

 パワポケ君に釘を刺され、ガックリと肩をおとす荷田君。

 俺も他人事ではない。くれぐれも、目立つ行動は避けなければ。

 

 そう心の中で思いつつ、なんとなく高科さんの方に目をやる。

 が、俺は直ぐに見るのをやめた。高科さんも、同じようにこちらを見ていたからである。

 

 (タイミング悪……)

 

 そして、俺は思った。目をつけられて厄介なのは、なにも監督生だけじゃないってことを。

 いや、むしろそれ以上に厄介かもしれない。

 

 俺はそれを、ボソッと呟いた。

 

 「監督生よりも厄介かもな、あれは」

 「誰のこと?」

 

 俺の呟きに、首をひねるパワポケ君。

 そんなパワポケ君に、俺は首を振って言う。

 

 「いや、こっちの話」

 「ふーん……」

 

 意味深な俺の台詞が気になったのか、パワポケ君の目が細まる。

 しかし、俺がそれ以上、喋ることをやめると、パワポケ君は正面に向き直った。

 

 こうして、共学初日から波乱に満ちた学園生活が始まったのだった。

 

 

 

 「ふふふ、楽しいクラスになりそうですねえ~」

 

 あたしは、彼ら──神城君たちの方を見て、自然と笑みを浮かべた。

 男女共学になるなんて、最初聞いた時はビックリしたものの、次に考えていたのは、神城君と同じクラスになれるかどうかだった。

 

 そして同じクラスだと分かった時、あたしはすごく嬉しかった。これでわざわざ、男子校舎や寮に忍び込まなくても、いつでも話せるし会えるから。

 

 あとは妹も同じクラスだったら、言うことはなかったけれど、それは流石に求めすぎかな。

 神城君を紹介する機会は、そのうちセッティングしよう。

 

 なんてことを考えている間も、この()()()()は急速に進行を続けている。

 本当はもっと準備してから、計画を実行しようと思ったけど、たぶんそれまでもちそうにない。

 

 あたしは、ちらと神城君に目をやる。

 声をかけた感じ、いつもと変わりない様子だった。せっかく同じクラスになったのに、少しぐらい態度に出してくれても良いのでは?

 

 まあ、期待するだけ無駄だろうけど。神城君だし。

 

 (なら、自覚させるしかないですよね~)

 

 あたしは心の中で決心する。

 いったい、どんな反応をするかな。意外と驚いてくれるか、困り顔を作るか、はたまた同じ気持ちでいてくれているか。

 

 残念ながら、最後が一番想像し辛いけど、できれば同じ気持ちでいてくれたらいいなあ……。

 

 

 

 

 

 ◆◆彼女との日常④ その2◆◆

 

 

 「どこだよこれ……」

 

 手に握られた地図を見て、俺は頭を掻いた。

 地図という割には、紙はノートを切ったものだし、肝心の案内図も「とりあえず森を進んで、この丸で囲った場所まで来い」といわんばかりの不親切さ。

 

 これを俺に渡すのなら、あらかじめ俺の方向音痴力を調査してから、渡してほしいなと思う。

 少なくとも、これで目的地まで辿り着けなくても、文句は一切受け付けない。

 

 俺は心の中で、これを書いた心当たりのある人物に、文句の言葉を並べた。

 放課後、いつの間にか机の中に入っていた謎の紙切れ。帰り際に気付いたそれには、森の中のとある場所への道順が示されていた。

 

 「もう少し奥か?」

 

 地図で指定された場所を目指して、森の中を進んで行く。

 しばらく歩いていると、やがて木々の生えていない、広く開けた場所に出た。

 

 どうやら、地図もこの場所を示しているようだ。

 

 「ここか……」

 

 俺は周囲を見回す。

 木々が生え茂り、同じような景色を見せつけられる森の中で、一風変わった空間。

 

 森の中にこんな場所があったのかと、驚きもさることながら、まずはここまで来れたことに安堵する。

 別に来れなくても、俺のせいではないので、気にする必要はないのだが。

 

 「ふふふ、よく来ましたね。待ちくたびれましたよ」

 

 辺りを散策していると、いきなり茂みの奥から声がした。

 聞き慣れたその声に、俺は「誰のせいだよ」と心の中でツッコみを入れる。

 

 「罠だと知らずに来るとは、なかなかの勇気があるようです」

 

 またよく分からない台詞を吐きながら、声の主が姿を現す。

 俺はその声の主──高科さんを見て、ため息混じりに呆れた目を向けた。

 

 「何言ってんすか……」

 「呼び出したら、一回ぐらい言ってみたいと思いませんか?男のロマンですよ」

 「はあ。そうすか」

 

 男のロマンという単語に首をひねりつつ、俺はまた周囲に目をやった。

 そして、この場所について尋ねる。

 

 「なんなんすかここ」

 

 本当はここに来させて何がしたいのか、率直に訊こうと思ったが、なんとなくやめた。

 それは、人目のつかないここでなら、少しでも長く彼女と話していられる──なんてらしくない思いが、心の奥にあったからかもしれない。

 

 俺の疑問に、高科さんは自慢げに答えてくれた。

 

 「この場所は偶然、見つけたの。綺麗でしょ、何にもなくて」

 「……そうっすね」

 

 確かに、ここには木も草もほとんど生えていない上に、人の気配も感じられない。

 まるでこの空間だけ、周りから切り取られた別世界のようだ。

 

 「あたしね。この場所が、この学校で一番大好きなんですよ」

 

 さっきまでの、おちゃらけた雰囲気から変わって、落ち着いた口調で喋る高科さん。

 俺は黙って、話を聞くことにした。

 

 「どこにだって、何にだって、大事な物が一つでもあれば、それを好きになることができるでしょ」

 

 そして、静かに微笑んでから、高科さんは続けて言った。

 

 「だから、この場所があるから、あたしはこの学校が好きなんですよ」

 「……」

 「大事な物を守るためなら、なんでもするつもり。自分が傷ついても、それが残るなら……」

 

 そう言う高科さんの表情からは、いつの間にか微笑みは消えており、どこか悲しそうな顔に変わっていた。

 

 そんな高科さんを、訝し気に見つめる俺。

 ふと、どうしてだか、いつぞやに聞いた彼女の妹の話が思い浮かんだ。

 

 あの時の高科さんも、こんな雰囲気だったような──。

 

 「あっ!ごめん!なんか話がズレちゃいましたね」

 「いや、別にそれはいいんすけど……」

 

 高科さんの雰囲気が、またいつもの調子に戻る。

 俺もそれ以上、なんの話だったのか考えるのをやめた。

 

 そして、手に握られた地図に目を移し、次の言葉を模索する。

 やっぱり、俺から訊くべきなのだろうか。どうしてここに呼び出したのかを。

 

 色々と想像はつくが、いまいち踏ん切りがつかない。

 いつも通り、喋ればいいだけなのに。

 

 なかなか次の言葉が見つからず、目を泳がせていると、高科さんが口を開いた。

 

 「なんで呼び出されたのか、不思議そうですね」

 「まあ……そうすね」

 

 そりゃそうだ。まだ用件も何も聞かされてないし。

 

 「えっとですね……ここに来てもらったのは、その……」

 

 突然、挙動不審になりだす高科さん。目も完全に、明後日の方を向いている。

 が、直ぐにまたこちらに視線が戻った。

 

 「ほら、一緒の校舎になったじゃないですか!」

 「はあ」

 「だから……これまでよりも、一緒にいれる時間が増えたでしょ!」

 「そ、そうすね」

 

 いきなり声を張る高科さんに、呆気にとられる俺。

 高科さんが続けて言う。

 

 「だ、だから、できたら一年生の時よりも、あたしと一緒にこの学校をいろいろ……」

 

 最後の方にいくにつれて、高科さんの声がどんどん小さくなっていく。

 その直後──なにやらじれったそうに、高科さんが声を張りあげた。

 

 「って、ああもう!」

 「えっ?」

 

 急に声を張り上げる高科さんに、何事かと目を丸くする。

 でも、本当はなんとなく察していた。高科さんがなんで俺を、ここに呼び出したのかを。

 

 というか、これで察せない奴なんていないだろう。少なくとも、俺はそこまで鈍感ではない。

 

 そして、その答えは直ぐに聞くことになった。

 

 「あたしは神城君が好きなんですよ!一緒にいて、楽しいんですよ!」

 

 声を張り上げたまま、高科さんが続ける。

 

 「あたしはバカで、周りに迷惑ばかりで、落ち着きがなくて、うるさい奴だけど、あたしと付き合ってください!」

 「……」

 

 なんとなく察してたとはいえ、あまりにも真っ直ぐな高科さんの言葉に、俺は面をくらってしまった。

 これまでの人生で、こんな絵に描いたような告白のされ方を、経験したことはない。

 

 まさか、こんな自分が誰かから告白される日が来るとは……。

 人生、何が起こるか分からないと痛感させられた瞬間だった。

 

 「な、何か言ってください」

 

 不安げに、俺のことを見つめてくる高科さん。

 普段の彼女からは、想像のつかない顔をしている。

 

 「こ、この沈黙が耐えられませんよ」

 

 えーっと……。

 とりあえず、何か言わなくてはと、頭の中で発する言葉を考える。

 

 そして、ぱっと思いついたことを口にした。

 

 「これ、ネタとかだったりします?」

 「なっ?!そ、そんなわけないじゃないですか!本心ですよ!」

 

 憤慨したように喋る高科さん。俺の問いかけは、あっさりと一刀両断された。

 さっきまでの不安そうな表情はどこへやら、心外だと言わんばかりに、目を細めて鋭い視線を飛ばしてくる。

 

 よし。これなら俺も、いつもの調子で話せそうだ。

 俺はまた、今度は真面目な声で訊いてみた。

 

 「いいんすか本当に。俺なんかで」

 「いいに決まってるじゃないですか。あたしは、今あたしの目の前にいる神城君が好きなんですよ!」

 

 即答された。しかも、いざ正面から言われると、かなり恥ずかしい内容で。

 ちらっと高科さんに視線を戻す。顔は赤く、肩で息をしていた。まあ、あんな台詞を吐いた後だ、無理もないだろう。

 

 (好きか……)

 

 俺は目をつぶり、自分の心の内を整理する。

 いつぞやから、高科さんと話していると、なんだかモヤモヤした気分になることがあった。

 

 その正体を、今確信した。というか、本当はもっと前から気付いていた。

 高科さんともっと話しがしたい、一緒のクラスになりたい──この思いを好きというのなら、たぶん俺はもっと前から彼女のことが好きだったのだろう。……たぶんね。

 

 「あ、あのう……」

 

 おそるおそる、俺の返答を待っている高科さん。

 俺は目を開けて、頭を掻きながら言った。

 

 「……俺なんかで良ければ」

 「えっ?」

 

 こちらの声が小さかったのか、訊き返されてしまった。

 こんな台詞はあまり口にしたくないので、できれば一回で聞き取って欲しいものだが。

 

 「いや、俺なんかでいいなら」

 

 もう一度、今度はさっきよりも大きい声で言った。

 眼前の高科さんは、目を丸くしていたが、やがて口を開いた。

 

 「え、あの……それはあたしと、付き合ってもいいってことですか?」

 「ああ、まあ……はい」

 

 なんともしまらない返答だなと、我ながら呆れてしまう。

 それを聞いた高科さんは、相変わらず目を丸くしていたが、直ぐに俯いてしまった。

 

 何も言えず黙っていると、程なくして高科さんの顔がこちらを向く。

 少ししか見てないが、その顔は満面の笑みを浮かべていた。

 

 「やったあああああああ!神城君の彼女さんになりましたよ!」

 

 直後、高科さんの足がその場から離れる。

 何事かと理解した瞬間、高科さんは俺に突撃していた。

 

 「うわっ!」

 

 まったく身構えていなかったせいで、危うく転倒しそうになる。

 ギリギリで耐えたものの、腰から下半身がガクガクと震えている。情けないことに、高科さんに支えられてなんとか立っている形だ。

 

 「危ないっすよ……」

 「いやあ、喜びの感情が抑えきれなくて」

 

 照れくさそうに笑う高科さん。

 

 「てっきり、断られるかと思ってたんですよ。ほら、神城君てデリカシーがないじゃないですか」

 「はあ」

 「だから、普通に当たって砕ける気でいたんですけどね~」

 

 そう言って、高科さんは呑気に笑った。実に余計なお世話である。

 ふと、高科さんの俺を抱きしめる力が強くなる。

 

 「でも、よかったですよ。本当に……」

 

 そのまま少しの間、俺はその場にじっと立っていることとなった。

 そういえば、前にも屋上でこんなことがあったっけ。あの時は高科さんに嫌な思いをさせていないか、そちらの方に気を取られていたが、もうその心配も無用なのだろう。

 

 経験がないのでいまいちよく分からないが、この心の変化も付き合うということの一環なんだろうな。

 俺は高科さんを見下ろす。高科さんも、いつの間にかこちらを見上げていた。

 

 (わっ……!)

 

 反射的にのけ反る。そのせいで、腰に追加ダメージを負った。

 

 「照れてるんですね。嬉しいですよ」

 

 いたずらな笑みを浮かべる高科さん。

 俺は心の中で、いつか仕返ししてやると固く誓った。

 

 やがて、高科さんが俺から離れた。

 大きく息を吐きつつ、先ほどダメージを負った腰をさすっていると、

 

 「二人で楽しい思い出作っていこうね」

 

 ニッコリと笑いながら、高科さんが言った。

 

 「これからは二人だから、楽しい思い出が2倍ですよ!」

 「……うっす」

 

 俺は高科さんにバレないぐらい、小さな笑みを浮かべて頷いた。

 だって、高科さんとなら嫌でも作れそうな気がするから。なんなら向こうから寄ってきそうだし。

 

 そこまで考えたところで、ふとあることが頭をよぎった。

 

 「そういえば、自治会のやつあるじゃないすか」

 「あー、恋愛禁止令ですね」

 

 思い出したかのように、高科さんが答える。

 そう、俺が言いたかったのはこれだ。

 

 恋愛禁止令──自治会によって発令された、新しいルール。男女が二人きりでいたりすると、場合によっては、罰則の対象となる。ペラが没収されたり、無償奉仕活動をさせられたり。

 

 呆れるほどくだらないルールだが、自治会に目をつけられるのは避けたかった。

 もっとも、こういう関係になってしまった以上は、ある程度は避けられないのだが、少なくとも人目のつくところでは、おとなしくしていた方がいいだろう。

 

 まあ、限りなく無理だとは思うけど。高科さんだし。

 半ば諦めていると、意外な答えが返ってきた。

 

 「神城君の言いたいことは分かりますよ。まあ、できるだけ善処します」

 「まじすか」

 

 急に物分かりのいいことを言う高科さんに、驚く俺。

 が、直ぐにその感心も吹き飛ぶことになる。

 

 「うん……たぶんね」

 

 そう言って、キュピーンと怪しく目を光らせる高科さん。

 それを見た俺は、やっぱりなと察した。でもそれも、高科さんだからの一言で片付いてしまう。

 

 (まあいっか……)

 

 俺は頭の中から、自治会関連の思考を消し飛ばす。

 目の前で、ニコニコ楽しそうに微笑む彼女を見ていると、不思議とどうとでもなる気がした。

 

 

 




鈍感主人公とかないです。
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