こちら、以前投稿した第三話とは全く別物の展開となります。
改定前のを読んで下さった方々には申し訳ございませんが、どうかご容赦をば。
「うわー、ホントに一枚に二人分の名前載ってるんだね。こんな冒険者カード今まで見たことないよ。」
ギルド併設の酒場にて。
顔合わせも兼ねてお互いの冒険者カードを見せあって、三人テーブルを囲む。
「冒険者カードの情報って確か、その人の魂の情報を読み取って記載するものだったはず。てことはこの二人の魂は完全に同格ってこと?いやいやいくら瓜二つだからってそんな……」
クリスさんが、私たちのカードを覗き込んではぶつぶつと呟いています。やはり私たちのカードのことが気になるようで、それはもう興味津々といった様子。
「ああゴメンね、こっちの話。それにしても本当にそっくりだね。双子っていうより同一人物みたい。」
「当然です、私たち|は一心同体ですもの。」
喋る中途での『切り替え』を披露してみれば、やはりというか案の定、眼を丸くする彼女。
「あはは……ほんっと面白いよね、キミたち。」
呆れたようではありますが、嫌味や皮肉の籠っていない笑顔からしてお気に召されたご様子ですね。
「さて、それで早速出発と行きたいけど……。本音を言うならもう一人、別の職業の人が欲しいところかな。」
「あらどうして?」
「この三人では不足?」
私たちの疑問に、彼女は指を立てて説明してくれる。
「盗賊やアサシンって言うのは、基本的にはサポート寄りのスキル構成なんだよ。不意打ちとか先制攻撃に特化してる代わりに、正面に出て戦うにはちょっと不向きなんだ。」
成程。徒党を組むからには役割分担が必要で、それは職業ごとに違うということですか。
向こうでは殆どずっとふたりだけで戦っていたものですから、役割やら陣形やらは考えたこともありませんでした。
「あたしも何時もはダクネスっていう前衛職の人と組んでるんだけど、こんな日に限って居ないんだよね。ま、大方家の都合だろうけど……」
「む、私の話かクリス?」
突然会話に加わってきた声の主の方を振り向くと、一人の女性が立っていた。
背丈は高くしゃんとしており筋肉質。そして立派な鎧。正にお伽噺の騎士様のような、金髪を後ろで束ねた女性がそこに。
「あれ、ダクネス!?実家に帰ってたんじゃなかったの?」
「ああ、うむ……。そうなのだが、実は……。」
「ははぁ~?もしかしてまた見合い話断って抜け出して来たんでしょ?全く、毎回それじゃあ流石に親御さんだって心配するよ?」
「い、いやその、今回違くてだな、いや違わないが……」
クリスさんの言葉に、ダクネスと呼ばれた女性は慌てふためきながら言い訳をしようとしている。
噂をすれば影とは云いますが、どうやらこの人がクリスさんと組んでいるという方なのね。
「あの。クリス先輩、そちらの方が?」
「うん、あたしの仲間で友達のダクネス。まさか丁度来るとはね。」
「む、ああいかにも。私はダクネス、クルセイダーを生業としている者だ。あなたたちは?見ない顔だが」
ということで再びの自己紹介。
ダクネスさんのクルセイダーという職は、パーティーに於いて皆の盾となり味方を守る役目を担う上級職だそうな。彼女の騎士然とした立ち振舞いは、確かにそういった印象にぴったりです。
一方私たちの冒険者カードを見せましたら、やはり名前の欄に驚かれ、次には職業の欄でまた驚かれ。
「ふふ、これはクリスが目を付ける訳だ。こいつは有望そうな駆け出しに声を掛けては世話を焼くのが趣味みたいな奴だからな。」
「もう、人聞き悪いなぁ。困ってる後輩を放って置けないだけだよ。」
そう言って頬杖をつくクリスさん。
先程から後輩という言葉に拘るあたり、なにかそう言った関係に思い入れがあるのかしら?
「まあいいや。そう言うことでさ、ダクネスにも同行して貰おうと思うんだ。」
「うむ、構わないぞ。私としても、こういった形で新人に教えを説けるのは喜ばしいことだ。よろしく頼む。」
快活に笑いながら此方に手を差し伸べてくるダクネスさん。なんだかとんとん拍子に話が進んでしまいますが、私たちとしては願ったり叶ったりです。
世界は違えど中世騎士の闘いなぞ、見る機会は滅多にありませんからね。
「ええ、ダクネスさんも宜しくお願い致します。」
「ふふ、優しい先輩に恵まれて幸先がいいですね。」
微笑みながら握り返す。
やちよの右手とちよの左手で、包み込むように。
「っ……」
慣れない感覚故かダクネスさんは一瞬びくりとしましたが、すぐに平静を取り戻して握手に応じてくれました。
「ところで、肝心のクエスト内容は何なのだ?」
「ゴブリンの巣の駆除だよ、廃村に住み着いたんだってさ。」
「おお、それは腕が鳴るな!囲まれればひとたまりも無いからな、確かに私のように囮役が要るだろうな、うむ!」
やけに嬉しそうなダクネスさんと対照的に、クリスさんの表情が少しだけ曇ります。
「どうかされました?」
「ああいや、ダクネス大丈夫かなぁって。」
「「?」」
まあ確かに、囮役だなんて穏やかでない言い草です。
爛々と目を輝かせているのが分かりましたし、もしかしたらダクネスさん、戦闘狂のきらいが有るのかしら?
……何故かしら、尋常ではない嫌な予感がするような。殺し屋としての直感が、私の中の何かを激しく警戒しています。
ですがまあ、二人とも経験豊富なのは見て取れますし、多難な初陣にはならないでしょう。多分、きっと、恐らく。
◆ ◆
さて顔合わせも済みまして、ギルドを出て街を歩いている四人。なのですが、隣を歩くダクネスさんが私たちをじいっと見つめています。
「どうされましたかダクネスさん?」
「そんなに見つめられますと、なんだか照れてしまいますわ?」
「ああいやすまない、二人の服が気になってな。この国では見ない装いをしているものだから。」
私たちの服装は、着物に草履という出で立ち。
この街は見るからに西洋文化の色が濃いので、和装は相当珍しいか皆無でしょうね。
そう思うと、これのお手入れはどちらですれば良いのでしょう。一等お気に入りの柄な上、この世界での一張羅ですのに。
「その服ってさ、確か『キモノ』っていうんだよね?確かずっと遠くの『ニホン』って国の民族衣装だったはずだよ」
内心悩んでいましたら、クリスさんがそんなことをおっしゃいました。
「クリス先輩、ご存知なんですか?」
「うん、ちょっとね。というか一部の冒険者の間だと有名な話だよ。時折『ニホンジン』って名乗る人たちが来ては、みんな破竹の勢いで冒険者として大成してくって言う。あとそこから伝わった文化が、この国に取り入れられたりとかもあったらしいよ」
そういうことでしたか。
そのニホンジンとやらは恐らく、我々の世界から転生してきた先達の方々なのでしょう。となれば口伝で日本文化が流入してくるのも珍しくないと。
そういうことなら反物を扱うお店なんかも、探せば見つかるやもしれませんね。
「クリス、随分と詳しいな。……だがその服、綺麗ではあるが戦闘には向かないのでは無いか?丈が長くて動きにくそうだが。」
ダクネスさんが、戦闘者の観点からの意見を述べてきました。
「心配ご無用です。私たちはこれが慣れていますもの。」
「それにこの服、案外便利なんですよ?ほら。」
わざと大きく袖を振って見せれば、内からかちゃりと硬質な音が響く。お二人はそれだけで察して下さったようで、得心が行ったように頷いた。
「仕込み武器?成程な、そのやけにゆったりとした袖は得物を隠し持つためか。」
「へー、便利だねぇそれ。因みに何の武器仕込んでるの?」
「秘密です、わざわざ隠しているんですもの♪」
「中身は後のお楽しみ、ということで♪」
暗殺者ですもの。わざわざ手の内をひけらかすのは無粋極まりないでしょう?それにわざわざ、あの青い女神さまから『取り寄せて』貰ったのです。
大切に扱わないと罰が当たってしまうやも……なんて。
◆ ◆
さて、街の外れへとやってきた私たち。
目的の廃村の、入り口近くの茂みより見やれば。見張り気取りでありましょうか、二体の異形が立っているのが分かりました。
汚れくすんだ緑色の肌。人の子程の背丈でありながら、手足や顔の各部が酷く歪んだその姿は正しく『物の怪』。
見た目からして、最早人とは相容れない存在なのでしょう。
「よし、先陣は任せておけ。二人は初のクエストだからな、安全を確認しながらゆっくり後に続いていいからないや是非ともそうしてくれ」
「ちょ、ちょっと待ったダクネス、ストップ」
待ちきれないとばかりに、いの一番に剣を抜こうとするダクネスさんを、クリスさんが抑えます。
「なんだクリス、止めてくれるな。私はこれからパーティーの盾、女騎士としての務めを果たさねばならん。」
そう言い切った彼女の眼は、実に真剣そのもので。使命に燃えた瞳と言うのでしょうか。
「いやダクネスの言うソレってさ……えっと。あぁ、そうだ。まずは駆け出しの二人にも経験積ませないと不味いでしょ?あたしらは後ろで控えててさ、危なくなったら助けに入る感じで行こうよ。ね?」
「むぅ……まぁ、それもそうか。仕方がない。とても惜しいが」
そう言って、ダクネスさんは渋々と引き下がりました。
本当に残念そうにしている辺り、どうあっても先頭に立ちたかったようです。
「ああしかし二人とも、助けが欲しい時は直ぐに呼ぶのだぞ。私が直ぐ様駆けつけるからな!使い捨てる位の気概で盾にしてくれていいからな!」
「え、ええ……」
「まあ……その時はお願いしますね?」
鼻息荒く、意気揚々と言い切るダクネスさん。予想異常に血気盛んで、流石の私たちも気圧されてしまいます。
それを横目に、クリスさんが苦笑いを浮かべていました。
「ごめんね。あの子、普段は真面目なんだけど戦闘になるとちょっとね……んん、それはそうと。」
クリスさんは表情を引き締めると、私の耳元で囁きました。
「一応確認しておくけど、キミたち二人って戦えるよね?」
「「はい、問題ありません。」」
戦いの心得は有るのか。その問いに、迷い無く即答する。
「そっか、やっぱりね……。じゃあ取り敢えず自由に戦ってみてよ。でも無理しないでね、サポートできるように見てるから」
それに私たちはこくりと静かに首肯した。
それではお仕事の時間ですね。
物の怪退治と言いますと、かの頼光四天王のようでなんだか浮き足立ってしまいそう。
ですけどあくまで冷静に、冷徹に、冷酷に。それが一流の仕事人だと、お師匠様も仰っていましたし。
「……では行きましょうか、ちよ。私が『右』。」
「私が『左』。何時ものようにね、やちよ。」
自分たちの顔の次に慣れ親しんだ、銀光を放つ刃が二つ、露になる。
私たちが女神さまに望んだ特典。それは『前世のお仕事道具』。
私たちと同じように、瓜二つの短刀の銘は『鏡月』。
一尺半の刃渡りに、鍔無し、木目の鞘と柄。
皆伝の際にお師匠様より賜った、もうひとつの自らの半身。
それを片手に構え、そしてもう片方の手は
「すう…………」
静かに、息を吸う。
ほんの僅か、知覚出来ないほど僅かに残る互いの『ずれ』を、正真正銘狂いなく同調させる。
「はあ…………」
静かに、息を吐く。
呼吸が揃う。鼓動が揃う。魂が揃う。
そうして『私』は、完全な一体となる。
後ろに控えるクリスさんとダクネスさんが、息を飲むのが判りました。
ふふ、お二人が安心できますように、見せつけて差し上げなければなりませんね。
『私』は殺し屋。世に淀みを刃で以て祓い、血で以て清める者。
「それではいざ……参ります。」
そして『私』は音もなく、茂みから飛び出した。