千代に八千代に祝福を!   作:羽付きのリンクス

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クリス&エリス様の誕生日には間に合わなかったけど、年内中になんとか投稿。

すっごい今さらですが、作者は執筆初心者なので色々荒いのはご容赦。




四、ふたつの刃、あかいいと

 

 最初は、門番をしていた二匹だった。

 

 その二匹は、退屈で退屈で仕方がなかった。元よりゴブリンという種族は、総じて高慢、怠惰である。だからこそ、彼らは他の生き物を襲って奪うことでしか生きていけない。

 

 ただこの廃村が自分たちの縄張りな以上、外面だけでも見張りを立てる必要性があるわけで。だからこうして交代で、門の脇に突っ立っていた。

 

 

 

―――予兆は無かった。

 

 

 

 目の前の雑木林を眺めていても。

 

 近くを飛び去る小鳥の囀りに耳を澄ませても。

 

 飯の時間はまだだろうかと、鼻腔に広がる夕飯の香りに思いを馳せても。

 

 ひとつ、切欠があるとすれば。

 

 片割れが、大きな欠伸を零したこと位であろうか。大口開けて、天を仰いで伸びをした時には。

 

 

 

 二匹は既に、脳天から串刺しにされていた。

 

 

 

 断末魔は無く、血飛沫も無く。ただ一瞬、双つの影が飛びかかった、それだけだった。

 

 

 

 ◆ ◆

 

 

 

 群れが侵入者に気が付いたのは、それから更に数分後。周りの奴らがやけに静かだ、と一匹が違和感を覚える。

 

 さっきまでは同胞連中が瓦礫をひっくり返す音だったり、仲間同士騒ぎ立てる声だったり、そういったものが村のそこかしこから聞こえていたはずなのに。

 

 おかしいなと首を傾げるも、次の瞬間にはそんな疑問も忘れてしまう。ゴブリン程度の知能では、そもそも考える事自体が難しいのかもしれない。

 

 それはそうとリーダー格のあいつに略奪に出るのはまだかと催促しなければ。この住処は快適だが、やはり生きてる人間の住処を襲って奪う方が楽しい。

 

 そう思いつつ、群れの長が寝床にしているこの村で一番立派な建物に踏み入った。

 

 長は、部下に命令して作らせた、瓦礫を積み上げて組んだ玉座にもたれかかって座っていた。ずかずかと近づいても微動だにしない。どうせ眠りこけてるんだろう。そう思って遠慮無く蹴り起こそうと足を振り上げた瞬間。

 

 ごろん、と。

 

 まるで糸の切れた人形のように、その首が落ちた。そしてその数瞬後には、彼の身体も倒れ伏し、二度と起き上がることは無かった。

 

―――それは、堂々と長の家から歩み出てきた。

 

 闇から這い出でてきたかのような、全身真っ黒の二人の人間。何故か仲良く手を繋いで、一歩ずつ、ゆっくりと歩を進めてくる。

 

 二人とも、女。しかしそれぞれの手に握られた、血を滴らせた短刀の刃が、その正体を明らかにしている。

 

 ゴブリンたちは一斉に、各々の武器を手に女たちを取り囲んだ。

 

 何か知らんが獲物が勝手にやって来た。しかもあのふんぞり返って目障りな長を殺したようだ。これでこいつらを仕留めれば、自分が新たな群れのリーダーとして君臨できる。

 

 下卑た欲望に満ちた視線を向けられながらも、彼女たちは怯む様子は無い。

 

 いやむしろ、その鏡合わせのような瓜二つの顔で穏やかに微笑んでいる。そこには恐怖も、憎悪も感じない。それが却って不気味さを醸していた。

 

「永森家が四十四代目、永森八千代。」

「同じく、永森千代。」

 

 それらが、静かに口を開く。

 

「醜悪なる小鬼ども。恨みつらみは有りませぬが。」

「その首級、残らず我らが貰い受けます。」

 

 ゴブリンたちには、二人が何を言っているかは解らない。だが、『それ』がこの上ない宣戦布告の合図だということだけは理解できた。

 

「「いざ尋常に……」」

 

 眼の前から放たれる殺気が、一気に膨れ上がる。互いの緊張が高まり、臨界点を迎えようとした時だった。

 

 

 

―――ドゴオォォォン!!!

 

 

 

 凄まじい轟音と共に、村の入り口の方角から砂煙が上がった。全員の意識がそちらに向く。

 

 ゴブリンたちは勿論のこと、二人の人間でさえ、さっきまでの凄まじい圧を散らして何が起こったのか確かめようと皆一様に動き出した。

 

 その時一陣の風が吹き抜けて、辺りの空気を一変させる。煙の奥から、猪の如く飛び出してきたのは。

 

「うおおぉぉぉ!!私を狙えぇぇぇ!!!」

「待ったダクネスー!!ちょっとタンマぁあああ!」

 

 その端正な顔を喜色に染めた女騎士と、その後ろを涙目で追う盗賊だった。

 

 

 

 ◆ ◆

 

 

 

 戦場において思考を止めるということは、そのまま死に直結すると言っていいでしょう。何故ならば、戦いという場は絶えず流れる水のように刻々と変化し、また吹き荒ぶ嵐のように何がどう転んでも可笑しくはないのです。

 

 故に戦においては心頭滅却、明鏡止水の境地を保つべしと教わりました。……なのですが。

 

 今現在、私たちの心中は非常に乱れています。

 

「《デコイ》!!さあ、もっとだ!もっともっと来い!どれだけのゴブリンに囲まれようとも!どれだけ囲んで棒で殴られていたぶられて辱しめられようとも!!騎士たる私は絶対に屈しにゃいっ!!!」

 

 それはもう嬉々としてゴブリンの群れに飛び込んでいく騎士様のせいです。

 

 私たちは村の中を駆け抜けながら見張りや孤立しているゴブリンを始末し、頭領であろう個体も仕留め。いよいよ詰めの大立ち回りをと意気込んだ矢先のこれ。

 

 私たちを囲んでいたゴブリンたちも一匹残らず彼女の元へと群がって、てんやわんやの大騒ぎ。

 

「《バインド》!!《スティール》!!《ワイヤートラップ》!!うわあああーーー!!!ダクネスのバカーーー!!!」

 

 泣き叫びながらも必死の形相で群がるゴブリンを仕留めていくクリスさん。わあ、お手てが光ったり縄がひとりでに動いたり。あれがスキルという物でしょうか。異世界の技術はすごいですね。

 

 ………………さて、現実逃避はここまでにしましょう。

 

 期せずして、残った小鬼が一塊に集まっています。ここは一気呵成に畳み掛けると致しましょうか。

 

 一度そうと決めた途端、自らの内でかちりと思考が切り替わる。瞬間、心が凪いだ水面のように静まり返り、私たちの心身は殺しの機構と化す。

 

 手は固く繋いだまま、音もなく駆け出す。

 

 走りにくい着物姿ではありますが、我が家に伝わる独自の歩法を以てすれば造作もない。小鬼どもはダクネスさんに掛かりきり。こちらには見向きもしない。であれば。

 

「「ふっ!」」

 

 短く息を吐き、地を這うように低い姿勢で疾駆する。狙うは最も群れの『厚い』箇所。そこを突き崩せば後は容易い。

 

 首級、一閃。

 

「グゲッ」

 

 『右手』が放った太刀筋は、手近なゴブリンの頸動脈を寸分違わず断つ。次いで『左手』が身を翻し、返す刀でもう一匹の喉笛を切りつける。

 

 崩れ落ちる同胞の姿に、ようやくゴブリンたちが動揺を見せるが、その隙を逃す私たちではない。遠心力を乗せたまま、独楽の様にぐるりと廻る。

 

「ゲギャッ!?」「ギィアッ!」

 

 二人分の遠心力を利用した、双刀による全方位攻撃。ゴブリンたちの首が宙を舞い血飛沫が舞う。私たちは止まらない。斬って、突いて、薙いで、払う。

 

 ふたつの体。ひとつの心。無二の技。

 

 此れから繰り出される途切れること無き連撃こそが、私たちの戦い方。そんな中、運良く間隙を縫って飛び込んでくる者が一匹。故に手札の『もう一枚』を切る。

 

 棍棒の振り下ろしに合わせ、繋いでいた手を離せばあら不思議、間に挟まれ通り過ぎた彼奴の首が飛んでいく。

 

 そこに掛かるは血濡れの吊り橋。互いを繋ぐ、か細い鋼の糸。女神さまに工面して頂いた特典のひとつである鋼の糸です。

 

 ……特典はひとりひとつだけ?ええ、存じておりますとも。私たちが望んだモノ、それは『生前愛用していたお仕事道具一式』。其れをこの着物のあちこちに縫い付けられた隠し(ポケット)に忍ばせているのです。

 

「えっ、えっ!?二人とも今の何それ!」

 

 クリスさんが器用にも、ゴブリンを捌きながら声をかけてきました。此方としてはその、縄がひとりでに敵に絡み付いて行く現象の方が興味深いのですが。いえ其れよりも、まず問い質さなければならぬ事がひとつ。

 

「あの、クリス先輩。ダクネスさんの『アレ』は一体?」

 

 見やればこの惨状を生み出した本人は、未だゴブリンに囲まれ我武者羅に剣を振るっています。

 

「フフフ……ハハハッ!!もっとだ!!この程度では満足出来んぞ!んふぅっ!」

 

 棍棒や手斧で打たれる度に彼女の体がビクンと跳ね上がる。その表情は上気し緩み、なんと言いましょうか、非常に幸せそうで。

 

 ……ああ、ええ。あれを直視してしまえば、私たちとて察します。

 

「あー……うん。ダクネスはね、昔からああなんだよね困った事に……」

 

 遠い目をしながら、それでも襲い来るゴブリンたちを一匹ずつ確実に仕留めていくクリスさん。

 

「取り敢えず、終わったらダクネスは説教だね」

 

 ぼそりと呟く彼女に、私たちも内心で激しく同意したのでした。

 

 

 

 ◆ ◆

 

 

 

「まあ、つまるところダクネスさんは」

「痛めつけられたり辱しめられたりするのが大好きな」

「「被虐趣味だと」」

 

 残敵を全て掃討し終え、今は廃村の入り口で一息ついた(ところ)です。クリスさんにしっぽりと絞られ(名誉のためにも詳細は伏せますが)正座しているダクネスさんを見やりながら、私たちはそう結論付けました。

 

「…………。」

 

 もじもじと、恥ずかしそうに俯いているダクネスさん。

 

 事の顛末を聞き及んでみれば。彼女は普段より敵に痛めつけられたいがために、わざと無謀な突撃をする程の()()()()であり、今回もまた我慢が効かずについゴブリンの群れに突貫してしまった、とのことで。

 

「「お馬鹿では?」」

「ぐはっ!!」

 

 あらいけない。思わず口をついて下品な言葉が出てしまいました。あぁ、でも当の本人は気持ち良さそうな顔で悶えてますね。もういいです。

 

「まあ、ダクネスのその、趣味というか……そういうのにはあたしも口出ししないけどさ。見てる方は毎回ヒヤヒヤさせられるんだよねぇ……」

 

 クリスさんも呆れ顔で、溜息をついています。ご友人の彼女からしてこの反応なのですから、きっと本当に治りようの無い性癖なのですね。

 

「う、うむ。その、心配をかけさせてすまなかったな。だがしかし、こればかりは私としてもどうしようもないのだ。ゴブリンといえば若い女性を拐っては慰み物にすると言うだろう?やはり女騎士としてはそんな絶好のシチュエーションを逃すわけにはいかない訳であって……な?」

 

 いやそんな同意を求めるような視線を向けられましても。というよりそれよりも。

 

「あの、そんなことよりも本当に大丈夫なんですよねダクネスさん」

「あんなに囲まれてぶたれていたのに、お怪我はないんですか?」

 

 そう、ダクネスさんはゴブリンどもに殴られ斬られ、着ていた鎧が襤褸切れに成り果てるほどの有り様だったのですが……。

 

「あー……ダクネスはスキルポイント全部防御力に注ぎ込んでるからねぇ。下手したらそこらの鎧よりも頑丈だよ?」

「へえ……え、素肌が?」

「うん、素肌が」

 

 なんとまあ。

 

 ステータスとやらの恩恵でしょうが、本当に如何様な原理なのやら。異世界の神秘に感嘆するやら戸惑うやらですが……そうですね、捉えようによってはこれはある種幸運だったやも知れません。

 

 魔物。スキル。ステータス。

 

 元の世界とはまるで異なる法則を目に出来たのは、これから戦ってゆく上で重要な経験となりましょう。

 

 彼を知り、己を知ればと申しますが。世界を渡った私たちにとって、この世はまだまだ未知の連続。だからこそ、よく視てよく学ばねばなりますまい。情報とは、最も鋭い武器なれば……とは言え。

 

(ところ)でダクネスさん。そんなにお肌が頑丈なのなら、どうしてわざわざそんなにご立派な鎧を?」

「ふ、決まっているだろう。少しづつ鎧を剥がされ、あられもない姿にされていくのが良いのではないか!」

 

 ……流石に彼女の此れについては、深く知ろうとしてはならない気が致します。

 

 






・双子の特典···二人が望んだ特典は日本で殺し屋として活動していた際に使っていた武器などの仕事道具。本来貰える特典は一種類だけだが、『道具一式というひとつのモノ』ということでアクアを言いくる……説得して用意して貰った。今は二人の着物の様々な箇所に巧妙に隠し潜ませている。

・特典その一、『鏡月』···二振りで一つの銘を持つ小刀。初仕事の折、二人が師匠からプレゼントされたもの。見た目としては、いわゆるドスそのまんま。

・特典その二、『鋼糸』···二人の袖口を繋ぐように張られた太さ1mmにすら届かない極細のワイヤー。名前に鋼とあるが正確には特殊な繊維を編んで造られたもので、少なくともアクセルの技術力では再現不可。チートという意味でなら最も相応しいかもしれない。断面が平べったくなっており、角度を調節することで拘束、切断両方に使える。

その他の道具たちについてはその都度出番が来た時に。
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