ファイアーエムブレム 紺碧のコントレイルⅢ   作:宵星アキ

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フェレでのお仕事初日。気合入れてガンバロー!
……と思った矢先。どうやら、あの人に目をつけられたみたい。
誰か助けて~!!



初日から半殺し?!

 翌朝、飛び起きたシャニーは目をぱちくりさせていた。なにせ、シャワーも浴びないまま寝落ちてしまったから、何の準備もできていない。

 

 寝ぼけ眼に足が空回りしながら浴場へ駆けこみ、ドタバタしていたら陽が昇ってきてしまった。

 何とか身支度を終え、朝からへとへとになった身を廊下の窓にあずけて手を突いた。

 

 初日からやらかすところ。ふうっと安堵を吐き出していると、あくびや伸びをしながら仲間たちが部屋からふらふら出てくるのが見える。

 なんだか、ユルイ空気。気を取り直してロイのもとへ向かう。

 

 

「と言うわけだ。二人とも、よろしく頼むよ」

「ハッ!」

 

 任務開始時間より早めにロイと合流し、場内のレクチャーを受けて最後に訪れたのがフェレの騎士団だった。

 呼びつけた二人の騎士に、ロイが紹介してくれている。自身より年上の騎士に指示するロイの横顔が、凛々しくてつい見てしまう。

 

 フェレの騎士たちは興味津々らしい。正面に立つ赤と緑の騎士の後ろからのぞき込むように、彼らはちらちらしている。

 

「二人とも本当に頼りになるから、色々聞いてみると良いよ」

 

 戻ってきたロイは、そう言いながら親指を立ててきた。きっと、がんばれと言ってくれたに違いない。

 

「ありがとう、ロイ!」

 

 朝からあれもこれもしてもらってしまった。同じように指を立て、ロイに感謝を伝えた途端だ。

 

(──ッ。……やば……)

 

 ザクっと飛んできた視線に思わず背筋が凍りつく。おそるおそる振りむいたら、さっきの騎士二人がこっちを凄まじい形相で睨んでいた。

 

「ああ、僕がこう呼ぶように言っているんだ。彼女は僕の親友でもあるから気にしないでくれ」

 

 ロイが間に入ったら、すぐ槍のような目つきが元に戻る。

 やはり、皆がいるときは友達とはとても呼べない。バクバクする胸に手を置きながら思い知った。

 あれこそが普通の反応にほかならない。仕える立場、あまつさえ、よそ者の傭兵が呼び捨てにしたらどうなるかなんて。

 

 それでも、ロイとは約束しているし、去り際に彼は肩へポンと触れていった。気にするなとでも言いたいのだろうか。

 

(気にするよぉ……。さっそく殺されるかと思ったじゃん……。とくに、あの緑髪の人……)

 

 じっと緑の騎士の様子をうかがう。あの人の目つきは鋭く、とても強そうだ。

 じろじろ見ていたら視線がかち合った。ぎょっと槍が脳天から突き刺さったかのように動けなくなる。仲間まで自分を盾に後ろに退くから、血の気が退いて悪い汗がドバドバ出てきた。

 

「私は第二騎兵隊隊長ランスという者。貴女のことは、先の動乱から知っている。よろしく頼む」

 

 意外にも穏やかだった。詫言の発射準備をしていたら、スッと静かに手が差し出される。

 

 氷のように透き通って落ち着いた声。ジャギーの入った若緑髪の後ろから見下ろす目は、見透かすような厳しさの中にもどこか優しさがある。

 何より仕草や佇まいが凛としていて隙がない。騎士とは、きっとこのような人を言うのだろう。一目で、敵わない人だとシャニーは悟った。

 

 それでも、怒っていないと分かると、握手するシャニーの顔にはいつもの笑顔が戻ってきた。無言のままにランスはその顔をじっと見降ろしている。

 

「こちらこそよろしくね、ランスさん!」

 

 もっとガミガミ系かと思ったが、とても紳士的でカッコイイ人だった。自然に声のトーンも上がる。

 

「君には期待している。イリア騎士団の経験や戦闘術を、ロイ様や我々に教えて欲しい」

「え? あたしたちの?」

 

 いきなりで驚いた。自分たちは傭兵だ。ロイにずっと仕えてきた人が、昨日から入ってきた、いわば新人にそんなことを求めるとは。

 

「イリアの天馬騎士団……勇猛にして、たおやかな天空の花。その価値観や戦技は、きっとロイ様や騎士団にも大きな財産になる。私はそう確信している」

「もっちろんだよ! あたしもリキアを勉強しに来たんだ。いろいろ聞かせて欲しいな」

 

 もっと警戒されるかと思っていた。ロイの言っていたとおり、ランスはとても頼りになりそうな人に映った。そればかりか、こんな風に必要だと言ってもらえたら、朝から心も弾む。

 ついつい、手を挙げて応えたら、ランスはふっと口元に静かな笑みをつくった。

 

「そうか、なら私の書物を貸そう。全24巻読めば、いろいろ勉強となろう」

 

 ランスは厚意でそう言ってくれたのは分かる。けれど、全身の皮がわっと引きつったような感覚に陥った。

 

(げっ、べ、勉強ってそっちかー……!)

 

 村の学問所で使っていた教科書だって、一冊も読了したことはない。座学は大の苦手……それが24冊もあるとなると、頭上から雪の塊でも降ってきたような衝撃を受けてぐわんぐわんする。ランスに「必要だろう?」と目で聞かれてもなにも言えない。

 

「あ、あはは……嬉しいナー。今度お邪魔しよっかな」

 

 覚悟を決めて挑むしかないか。手を差し伸べてくれる人がいるなら、その手を掴まないわけにはいかない。

 それでも声のトーンを上げられず、ランスにも伝わったらしくふっと笑っている。

 もう少し、彼を知りたい。なにから聞こうか考えていたときだった。後ろから投槍が飛んできたかのような、豪胆な声が突っ込んできた。

 

「そんなことより君! 手合わせ願おうか! 天馬に乗れ!」

 

 今まで聞いたこともないような、腹に響く男性の力強い声。ランスとは対極にいそうな声質を追っていくと、馬上から飛んでくる覇気に串刺しにされた。

 

(あっ……ヤバーい予感しかしないんだけど……)

 

 馬に乗っているのは紅蓮の騎士。赤髪は重力に逆らう炎のようで、整えてあると言うより、伸びるに任せたものを適当に切り揃えた感じだ。

 彼と目が合ってしまうと、ずいっと意気揚々に槍を向けられた。すっとぼけて自分を指さしてみるものの、後ろで隠れていたミリアたちが背中を押してくるものだから目が飛び出しかける。

 

「さぁさぁ、何をしている! 傭兵だからと遠慮する必要はないぞ。勝つのは俺だがな!」

「えっー?! なんでまた?」

「君の実力はロイ様からうかがった。ロイ様をお守りできるほどか見せてもらおう!」

 

 馬上の騎士は穂先で天馬を指し、うずうずして仕方ない様子。その目は自信に満ちており、どう考えても血の気が多そうな人なのは間違いない。

 今にも突っ込んできそうで全身がビリビリくる。逃げ出したくても、後ろから仲間たちが押してくるではないか。

 

「シャニーのハイテンションの上をいく人がいるとは……」

「世界は広いッスね……」

 

 ルシャナやミリアの、背後からの唖然とした声は完全に他人事だ。やっぱり、ヒドい部下を持ってしまった。

 

「え! いやっ、ちょっと?! 私闘は良くないよ!」

「槍同士交えるのが、お互いを一番理解できるに決まっているだろう!」

 

 その闘志を向けられたシャニーはじたばたするばかり。もう赤の鎧に身を包んだ騎士は槍を構えていて、馬までも突撃の瞬間を待ちわびるように鼻息荒い。

 

「俺は第一騎兵隊隊長アレン! 行くぞ!!」

「人の話を聞いてよおお!」

 

 鎖が引きちぎれたように、ついに飛び出して土煙が噴きあがる。脱兎のごとくフル回転に逃げ出したシャニーは、天馬へ滑り込むと旋風を起こして一気に空へ飛びあがった。

 

「天馬騎士……おまけに希少な上級天馬騎士と戦える機会はめったに無いからな!!」

(こ、殺される……?!)

 

 興奮を隠さず燃えあがる闘志を眼下に、シャニーは朝から冷や汗が止まらなかった。

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